ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第一話

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 クラスで担当している視聴覚室の掃除を終えると、弘樹はクラスメートと別れて別棟一階にある図書室に向かう。一週間後に控えたレポート発表の資料を借りるためだ。
 このレポートは二学期の始まりに二年生全員に出された課題で、それぞれが興味ある分野を選んでクラスで発表するという形式になっていた。選択肢の幅も多く、単純な優劣として評価出来ない課題だが、学校側としては学生にこれからの進路を今一度考える機会としていると思われた。
 そして将来の進路に対して明確なビジョンを持っていない弘樹は、中間試験が終わったこの頃になるまでレポートを手付かずであったのだ。

 一応は進学を希望している彼だが、学部についてはまだ決めかねていた。化学や物理等の理科系の成績は悪くない弘樹であるが、数学は得意とは言えない。そちらの方面に進むには数学は避けては通れぬ学問なので理系に進む決心はまだ出来ていなかった。
 かといって文系となると、こちらもはっきりとした興味がある分野が思いつかない。こういった事情があり弘樹はレポートの作成を後伸ばしにしていたのだが、それも期限が一週間迫り、ようやく重い腰を上げたというわけだった。進学を目指している割には悠長なことだが、このレポート作成がなければ開始がもっと遅れていただろう。
 レポートだけでなく将来の展望を考えるにしてもやや遅いスタートを切った弘樹ではあったが、今日の図書室で心に〝ピン〟と来た分野をこれからの目標する覚悟は決めていた。動くまでは遅くとも一度動き出せば目的に向かって万進する。それが彼のモットーだった。
 その決意を胸に弘樹は図書室の中を分野に拘らず見て周る。タイトルだけでなく本の装丁でも気に入ったら手に取り、最終的に目標を決めるつもりだった。
 そんな弘樹の身に異変が起ったのは、彼が民族学の扱った棚から本を引き抜こうとした時だ。タイトルは思い出せないが、黒の背表紙に金字で書かれた装丁に惹かれたことは覚えている。その後、眩暈を感じたヒロキは暗闇に引き摺りこまれるように意識を失ったのだった。

「なんだと!君は本当に魔法を全く使えんのか!」
「そうだよ!もう何回も説明しているだろう。俺は図書室で本を探していた単なる高校生で、君を助けられそうにないんだ。だから早く元の世界に戻してくれよ!」
 イサリアと名乗った少女の美しい顔付きに半ば見惚れつつも、弘樹は彼女に起こされる前の記憶を再び思い出して必死に訴える。
 例え相手が正体不明の美少女であったとしても、自分の立場とこれまでの動向を正しく理解してもらわなくてはならないと思われたからだ。そして記憶の反芻はパニックに陥りそうな今の状況を現実であると裏付ける支えとなった。
 思いがけない出会いをした彼らだったが、二人はお互いの立場を把握するために、部屋の片隅に置かれた丸テーブルで向かい合いながら話し合っている。
 弘樹が目を覚ました場所はヨーロッパの城を思わせるような石造りの部屋で、イサリアの説明によるとこの部屋は優秀な士官候補生のみに与えられる寄宿寮の個室ということだった。
 個室とされてはいるが、ヒロキの常識からするとかなり広く彼の実家のリビングとダイニングを合わせたよりも更に広い。畳で言えば三十畳くらいはありそうだった。
 そして部屋の中央の床には直系二メートルほどの幾何学模様と未知の文字で奇妙な図形が描かれていた。その周囲には黒曜石を思わせる拳大の石が幾つも置かれているが、これが何であるかは弘樹にはわからない。だが、図形に関してはある程度の推測が可能だ。
 おそらくは魔法陣と呼ばれる代物だろう。その魔法陣を描くためにテーブルセットが壁際に片付けられており、弘樹は少女に誘われてそこに腰を降ろしたのだ。また、先程までは開いた窓から差し込む満月の明かりだけを頼りにしていたが、今では台座に乗せられた水晶の玉から原理不明の光が溢れて部屋を照らしていた。

「そんな・・・私の召喚魔法は、数多の多元世界の中からもっとも相応しい存在を選びだしたはず・・・それが初歩の魔法も使えない無能者を呼び寄せたなんて・・・失敗だったのか!」
「・・・ちょっと待ってくれ!そっちが勝手に呼び寄せておいて、そんな言い方はないだろう!そもそも俺の世界には魔法なんてモノは存在しないんだ!だから俺個人の問題ではないんだって!」
「うむ・・・君の世界ではカガクとかいう魔法を伴合わない錬金術に近い技や理が発達しているのであったな。しかし、全く魔法を使わずに錬金術が作用するとは思えないのだが・・・」
 ヒロキはイサリアと名乗った少女の言葉に過敏に反応する。彼は自分でも平凡な高校生に過ぎないと自覚してはいたが、これまで試験で平均点を大きく下回る点数は取ったことはない。無能扱いされるのは心外だった。当のイサリアも言い過ぎたと判断したのか、話題を先程説明された日本の技術や文化に切り替えた。
「いや、全部本当だよ!これもその科学で作られた道具なんだ!」
 証拠とばかりに、弘樹はブレザーの内ポケットからスマートフォンを取り出してイサリアに見せつける。既に通話とネットへの接続は試みているが、圏外であることを確認しただけだった。
「な!・・・これは凄い!絵が動いている!それに、本当に魔力を感じぬな・・・これは君が作ったのか?!」
「いや、これは俺の世界で売られている携帯電話と呼ばれる道具の一種で、離れた場所でも知り合いと会話が出来て、更に情報を絵や文章として送ったり受け取ったりすることが出来るんだ。使うには電気が必要だから定期的に充電する必要があるんだけどね」
 データとして保存していたアニメーション動画を見せながら、弘樹はイサリアにスマートフォンについて説明をする。
「なるほど・・・君の世界では魔法と魔力の代わりにカガクとデンキとやらを源にした文明を築いているのだな。魔法を使えぬと聞かされて驚いたが、根底の理から異なる世界では仕方ないのかもしれない・・・」
「納得してくれたようだね」

 スマートフォンの機能を披露したことでイサリアは弘樹の説明を信じたようだった。また、これまでの彼女との会話から彼自身もこの世界に対して理解を深めていた。
 にわかに信じられないことだが、どうやら自分はイサリア・アーヒエン・リゼートと名乗る少女の召喚魔法とやらによってこちらの世界、彼女が〝アデムス〟と定義している魔法が当たり前のように存在し文明として発達している世界に連れて来られたようだった。
 それもイサリアが語るには学校の昇格試験に一緒に参加してくれる相手が見つからなかったので、異世界から呼び寄せようとしたという、なんとも気軽な理由からだった。
 イサリアが学ぶ帝立魔導士官学院という学校の規定では、基準を満たせば他の魔法学校の生徒でも試験参加を認められているらしい。それを拡大解釈して彼女は異世界の魔法学校の学生を召喚魔法で呼び寄せようと試みたのだが、なぜか魔法とは縁遠いと思われる地球の高校生であった自分が選ばれてしまったらしい。
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