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エピローグ

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 サージとミリアの二人が夜明けに向かって立ち去る様を見届ける赤い双眸があった。
 その正体はサージがジェダの〝墓所〟の在り処と引き換えに見逃した銀髪の女バンパイア、イリスである。その腕には気を失っている、正確に回復のために活動を休止している相棒のエリンダが抱かれている。
 サージに敗北した彼女は〝墓所〟に迫るミリアや城から逃げ出す人間達を妨害することなく、その趨勢を見守っていた。もし彼女がサージとの約束を破って参戦を果たしていたら、ミリアによる〝墓所〟の破壊は遅れ、囚われていた子供達の多くも戦いの余波に巻き込まれてその命を落としていただろう。イリスがサージの口約束を守ったのは一種の幸運とも思われた。
 いや、それは実は幸運ではなかった。本来、眷属は親にあたるバンパイアの命に背くが出来ない。果てしない激痛が身体中を焼くからである。もしイリスが通常の眷属だったなら、ジェダに不利となる発言や証言は痛みに耐えかねて口が裂けても出なかったはずだ。それが可能だったのは、イリスが真に忠誠を尽くしている主人が別に存在したからである。

「我が神よ・・・〝レゼルス神〟よ・・・私は御身のため・・・愛する者のため・・・これからも御身に立ち塞がるであろう・・・敵を見届けました・・・」
 サージ達の姿が見えなくなったところでイリスは、自らが崇める真の主人の名を口にする。彼女はジェダによって〝混沌の僕〟と転生していたが、それとは別に〝レゼルス神〟の声を直接聞けるほどの〝寵愛〟を授かっていたのである。いわば彼女はジェダに対する〝邪神〟からのお目付け役であったのだ。
 イリスにはサージの正体とその規格外の実力を持つ理由を推し量ることは出来なかったが、彼の存在は自分の〝眼〟を通して〝レゼルス神〟に届けられたはずである。
 役割を終えたイリス自分達も太陽から逃れるためにエリンダを連れて撤退を開始する。今は勝てなくても、いずれ大いなる神はサージに対して何かしらの対策を取るだろう。それがいつの日に成るかは神の御心しだいではあるが、そう遠くない未来だと思われた。
 今回はジェダに勝利したサージとミリア達だが、彼らが立ち向かう〝混沌〟は極めて狡猾で執念深い敵だった。



 あとがき
 これで一旦サージの物語は完結です。彼が絶対的な力を持った理由やミリアとの関係、更なる〝混沌〟との戦い等、プロットのストックはまだまだあるので、万が一人気が出たら書くかもしれません。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。
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