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その55

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 それまで微睡まどろみという深い泥の底に沈んでいたミリアの意識が覚醒を始めた。それと同時に身体中を襲う激痛に苛まれる。痛まない箇所を探す方が難しいが、彼女はそれを振り切って瞼を開く。何としても目の前に繰り広げられていた決着の行く末を知る必要があるからだ。
「起きたか?」
「サージ!! ジェダは?!!」
 見開いた瞳に映ったのは圧倒的な力に翻弄される祠内の石壁ではなく、既に役割を成していない破壊された城門である。その先には白み始めた東の空が見えており、まもなく夜が明ける頃だと思われた。
 自分達二人の身が無事であり、現時点で城を去ろうとしていることから、答えは聞くまでもなく分かっていたがミリアは敢えて、間近に浮かぶサージの顔へと問い掛ける。彼から直接答えを得るまではどうしても信じられなかったからだ。
「もちろん倒したぞ。一応、報告しておくが、最後にはお前のことを気に掛けていた」
「そ・・・そうですか・・・本当にやったのですね・・・」
 淡々と告げるサージの返答に、ミリアは彼を抱き締めながら自然と涙を溢れさせる。それがを宿願を叶えた嬉し涙なのか、唯一の肉親である弟を失った悲しさなのかは彼女自身にもわからなかった。

「ところで、さっさとズラからないとな! さすがに少々やり過ぎたかもしれん!」
 感情を露わにするミリアに対してサージはその身を翻しながら彼女に背後を見せつける。そこには基部が完全に崩落したことで見事なまでに瓦解したかつてのコンサール城の姿があった。
「ふふ、コンサール家は断絶しました。もはや・・・必要のないものです」
 あまりに無残な光景に、ミリアは涙を拭いながら苦笑を浮かべる。生まれ育った城ではあるが、彼女にとってはジェダを倒して過去に決別を着けた象徴に思えたからだ。まさにサージらしい結末と言えた。それに生存者達はローザ達によって予め避難させている。憂いを思い起こさせることなどは何一つなかった。
「わかった。ではローザ達と合流しよう」
 ミリアの同意を得たことでサージは再び前を向いて歩き出す。
「ああ! 待って下さい、サージ! 自分で歩けます!」
 この時になってミリアは初めて自分がサージの腕に抱きかかえられていたことを知覚する。
「そうか・・・こっちの斧はどうする?」
 痛みに耐えて地面に降りたミリアにサージは右手で持っていた〝スマッシャー〟を示す。
「ああ! 回収してくれていたのですね・・・そっちはお願いしても良いかな?」
 サージへの照れと〝スレイヤー・ギルド〟の〝マイスター〟である誇りから自分で歩くと意地を張ったミリアだが、流石に今の状態で〝スマッシャー〟を担ぐ気力は無く、素直にお願いをする。
「お前がどうするかは知らんが、俺としてはジェダを倒して終りじゃないからな、念のために拾っておいた。・・・では、ローザ達と合流するまでは俺が預かろう」
「ええ・・・私もジェダを倒して終りではありません!!」
 早速とばかりに歩き出すサージの背中に、ミリアは自分も〝混沌の僕〟と戦い続ける決意を再確認する。コンサール家のミリアとしての決着は終えたが、この世界にはまだまだ〝混沌の僕〟達が潜んでいる。サージには及ばないとしても、自分の力を遊ばせるわけにはいかない。
「・・・ありがとう・・・サージ・・・」
 最後にミリアは戦友であるサージに向って小さく呟くと、彼に続いて新たな戦いに向って歩き出すのだった。
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