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その22

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「ジェダはどこだ? それと金髪の美女が攫われてきたはずだ、そっちの居場所も教えろ!」
 サージは怯える使用人達に近付きながら自分の要求を突き付ける。
「「「・・・」」」
「さっさと答えろ! 半分ほど殺して生き残った奴から聞いても良いのだぞ!!」
 怯えて積極的な反応を示さない使用人達にサージは脅迫で促した。もちろん〝はったり〟だが、何割かは本気である。人間だとしてもジェダの配下ある以上、敵側であることは間違いない。サージは敵ならば女子供でも容赦するつもりはなかった。

「ち、地下の本殿にい、いらっしゃいま・・・す!!」
「うむ。やはり地下か・・・では、金髪の女についても何か知っているか?」
 ようやく使用人の中から返事があり、更にサージは自身の問いに答えた若い女にミリアの安否を尋ねる。
「女性かどうかまではわかりませんが・・・ヘリオ様達が金髪の人物を担いで連れていくのは見ました・・・」
「・・・まあ、あの体格では顔か声を確かめんと女とはわからんな・・・で、ヘリオとは誰だ?」
 ミリアの身長を思い出したサージは苦笑を浮かべながら、新たに出た単語について問い質す。
「ヘリオ様は伯爵様の側近で執事長を務める・・・」
「や、やめろ!! それ以上、伯爵様を裏切るようなことは口にするな! 贄にされてしまうぞ!」
 それまでも、ざわついていた使用人達だったが年配の男が大声を上げてサージと女のやり取りを妨害する。ジェダの配下である彼らからすれば、サージの質問に答えることは明確な背徳行為となるからだ。
「うるさい、黙れ! ジェダのことはもう気にする必要はないぞ! 何しろ奴は今夜中に俺が仕留めてやるのだからな!」
「は、伯爵様を! あ、あなたは盗賊ではないのですか?!」
 男を黙らすために一喝したサージだったが、返答役となっていた女が逆に彼に問い掛ける。サージは知る由もなかったが、彼女達は城が賊に襲撃されたと聞かされて礼拝堂に退避していたのである。
「盗賊だと?! 俺をそんな輩と一緒にするな。俺は単にバンパイアを倒しに来ただけだ! ああ、それとミリアの救出もあったか・・・」
 盗賊に間違えられたサージは心外とばかりに、改めて自分の目的を告げる。敵の命は無慈悲かつ貪欲に狙う彼だったが、物を盗んだことは一度もないし、これからもそのような行為するつもりは一切ないのだ。
「ミ、ミリア様?!」
「やはり、先程の方はミリア様だったのか!!」
 ミリアの名前を出したことで使用人の何人かが、心底驚いたように声を上げる。
「なんだ? ミリアのことを知っているのか?」
 ジェダとの因縁についてはミリアも認めていたが、敵側の使用人までがミリアの存在を知っているのは想定外だ。その理由を知ろうとサージは彼らに向けて追及する。
「それまでだ! お前達の裏切りは、もはや許容し難い!! 許されんぞ!!」
 しかし、先程から口止めを周囲の強要していた年配の男がサージの言葉をかき消すように大声を張り上げる。恫喝された使用人達は短い悲鳴を漏らしながら、慌ててその男から距離を取る。
 裏切りを指摘された負い目もあったのかもしれないが、男の身体はまるで限界まで水を注いだ水袋のように膨れつつあったからだ。

「紛れていたか!」
 もはや人間とは言えぬ姿となった存在をサージは電光石火の早業で斬り伏せる。思えば礼拝堂に入る前に感じていた気配の正体はこの化け物だったに違いない。使用人達の中に潜み、その正体を隠蔽していたのである。
「しかもお前は・・・眷属ですらないな!」
「そうだ! 伯爵様には昼間でも自由に動ける忠実な配下が必要とされていたからのう。ヘルオ様から我がその役目を負っていたのだ! ふはは!」
 一度はサージに左肩から腰に掛けて分断された男だったが、二つに分かれた身体を何事もなかったかのように一つへ統合すると、嘲笑を上げながら答える。
 もっとも、その姿は既に人型ではなく黒い粘液状の物体と化している。正面の中央部に口と思われる大きな器官があり、そこから声が発せられていた。唇だけでなく歯や舌までが忠実に再現されており、気の弱い者ならそれを見ただけで卒倒しかねない醜い姿だ。
「なるほど、昼間の城内はお前が人間に化けて使用人達を見張っていたというわけか?!」
「そうだ、察しが良いな。いずれにしても我の身体には剣なぞ効かぬ! 裏切り者ども取りこんでくれるわ!!」
 その醜い姿にも怯まずサージは敵の役割を看破するが、黒い不定形の物体は上部から四本の触手を突き出して、それぞれを鞭のようにしならせる。遠心力で加速させ、サージだけではなく礼拝堂にいる者全てを薙ぎ払おうとしているのだ。
「うるせえ! 化物がなめた口を聞くな!!」
 ラージは敵の意図を素早く見抜くと臆することなく間合いを詰め、斬撃を四度煌めかす。その全てが正確に触手を断ち斬っていた。
「斬撃は効かぬと言ったはずだが・・・」
 攻撃を止められた黒い物体だったが呆れたように告げると、新たな触手を生えさせる。今度は二本増やして合計六本でサージを打ちのめす、あるいは締め付けようとミミズのような触手を振るう。更にその言葉通り、切り落とされた触手は、まるでその部分だけでも自我があるとばかりに本体に吸い寄せられて再合体を果たしていた。
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