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その21
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「邪魔するぞ!!」
サージは二尋ほどの高さと横幅を備えた城門を前にして、ぞんざいに来訪を告げた。門は内側から堅く閉じられ、番人の姿は見えなかったが、彼は細かい所で律儀なのだ。もっとも、最低限の礼儀はここまでで、サージは〝錬体術〟で強化した自身の拳を激しく城門に叩きつける。
雷鳴のような爆音が闇夜に響き渡り、門を成していた木片が周囲に散らかる。人の胴ほどもある閂単語は無残にも叩き折れ、門の一部は明後日の方向に吹き飛んでいた。城門はサージによってその意義を失くしたのだった。
「ジェダ、どこにいる。探すのは面倒だ。さっさと俺と勝負しろ!!」
自らの手で破壊した門を潜りサージは城内へと侵入する。挑発と言うよりは本心からの希望を大声で告げるが、出て来たのは幾人かのレッサーバンパイアだけである。
「まあ、何にでも段取りはあるしな・・・」
当たり前だと言わんばかりに自答を口にして、サージは襲い来る彼らを順番に斬り伏せて城内へ侵入を開始する。黒幕がいきなり現れては苦労はしないし、なにより面白くもない。いよいよ待ちに待ったバンパイアとの対決である。彼は命を賭けた戦いに身を投じる喜びを噛みしめていた。
ミリア救出に際してサージ達は二手に分かれることを選択した。城を強襲し、ミリア捜索と打倒ジェダを担当するサージと、コンサーラ領からの脱出方法を確保するローザ姉妹とである。
本来ならば、敵地で戦力を分散するのは得策ではない。だが、ローザ達は既にサージの実力を見せつけられている。この規格外の男に付き従っても足手纏いになるだけである。彼の力を発揮させるには単独行動が最良と思われた。
それに町に潜んでいた眷属の多くは既にサージが無力化している。ローザ達は予定通り、ジェダ討伐後のバックアップに専念したのである。シュテム王国の貴族であるジェダを倒した後は、速やかに現場から立ち去る必要があるからだ。
「どっちだったけな・・・」
こうして単独で城内に足を踏み入れたサージだが、要所に飾られたタペストリーや毛足の長いカーペット等、貴族様式に彩られた廊下を進みながら困ったような独り言を呟く。ローザ姉妹の活躍によって城内の構造はある程度把握しているつもりだったが、実際に移動するとなると、平面と立体のギャップによって位置が掴み難いのだ。
「シャッアァァ!!」
「ああ、そっちか!」
だが、突如奇声を上げて現れたレッサーバンパイアを剣で斬り棄てるとサージは納得する。敵が襲って来たということは、そちらの方向に重要な何かがあると意味していたからだ。
「ここか・・・」
散発的に襲い掛かって来る敵を何体か片付けた後に、サージは精巧な細工が施された両開きの扉を見つける。それは貴族趣味で覆われた城内でも別格の芸術品だった。素材は黒檀で作られており、金と銀の装飾を使って神々による世界創世の様子が描かれている。この扉の奥こそが目指す礼拝堂に違いなかった。
「よっと!!」
美術的価値だけでも相当と思われた扉だったが、サージは気にすることなく蹴り開ける。神を信仰する気の無い彼からすれば、少々洒落た板でしかない。
それに彼の優れた五感は扉の先に待ち構える多数の気配を感知していた。扉を開けた次の瞬間には、蜂の巣を突いたように大量の敵が襲って来る可能性が高い。悠長に手で開けるわけにはいかない。
「「「・・・ひぃ!」」」」
だが、サージを出迎えたのは長く伸びた犬歯を見せつけて押し寄せるレッサーバンパイアの群ではなく、怯える者達の悲鳴だった。そして扉の先は間違いなく礼拝堂であり、高い天井が特徴的で壁には様々な宗教画が飾られていた。
バンパイアの拠点ということもあり邪神を祀っていると想定していたが、どうやら特定の一柱を祀っている礼拝堂ではないようで、祭壇の奥には一般的には光の神々と呼ばれ神の立像が並び立っている。その祭壇の前には悲鳴の主達が集まって身を寄せ合っていた。
「あれ? 人間だったか・・・」
直接視認したことでサージは彼らの正体を改めて看破する。男も何人かいるが、その多くは女であり、武装はしていない。彼らは城で雇われている使用人だと思われた。ジェダは表向きには有能な貴族を装っている。配下の全てを眷属にしてしまっては領地の経営は成り立たない。日中に動ける人間の部下や協力者がいるのは当然のことだった。
サージは二尋ほどの高さと横幅を備えた城門を前にして、ぞんざいに来訪を告げた。門は内側から堅く閉じられ、番人の姿は見えなかったが、彼は細かい所で律儀なのだ。もっとも、最低限の礼儀はここまでで、サージは〝錬体術〟で強化した自身の拳を激しく城門に叩きつける。
雷鳴のような爆音が闇夜に響き渡り、門を成していた木片が周囲に散らかる。人の胴ほどもある閂単語は無残にも叩き折れ、門の一部は明後日の方向に吹き飛んでいた。城門はサージによってその意義を失くしたのだった。
「ジェダ、どこにいる。探すのは面倒だ。さっさと俺と勝負しろ!!」
自らの手で破壊した門を潜りサージは城内へと侵入する。挑発と言うよりは本心からの希望を大声で告げるが、出て来たのは幾人かのレッサーバンパイアだけである。
「まあ、何にでも段取りはあるしな・・・」
当たり前だと言わんばかりに自答を口にして、サージは襲い来る彼らを順番に斬り伏せて城内へ侵入を開始する。黒幕がいきなり現れては苦労はしないし、なにより面白くもない。いよいよ待ちに待ったバンパイアとの対決である。彼は命を賭けた戦いに身を投じる喜びを噛みしめていた。
ミリア救出に際してサージ達は二手に分かれることを選択した。城を強襲し、ミリア捜索と打倒ジェダを担当するサージと、コンサーラ領からの脱出方法を確保するローザ姉妹とである。
本来ならば、敵地で戦力を分散するのは得策ではない。だが、ローザ達は既にサージの実力を見せつけられている。この規格外の男に付き従っても足手纏いになるだけである。彼の力を発揮させるには単独行動が最良と思われた。
それに町に潜んでいた眷属の多くは既にサージが無力化している。ローザ達は予定通り、ジェダ討伐後のバックアップに専念したのである。シュテム王国の貴族であるジェダを倒した後は、速やかに現場から立ち去る必要があるからだ。
「どっちだったけな・・・」
こうして単独で城内に足を踏み入れたサージだが、要所に飾られたタペストリーや毛足の長いカーペット等、貴族様式に彩られた廊下を進みながら困ったような独り言を呟く。ローザ姉妹の活躍によって城内の構造はある程度把握しているつもりだったが、実際に移動するとなると、平面と立体のギャップによって位置が掴み難いのだ。
「シャッアァァ!!」
「ああ、そっちか!」
だが、突如奇声を上げて現れたレッサーバンパイアを剣で斬り棄てるとサージは納得する。敵が襲って来たということは、そちらの方向に重要な何かがあると意味していたからだ。
「ここか・・・」
散発的に襲い掛かって来る敵を何体か片付けた後に、サージは精巧な細工が施された両開きの扉を見つける。それは貴族趣味で覆われた城内でも別格の芸術品だった。素材は黒檀で作られており、金と銀の装飾を使って神々による世界創世の様子が描かれている。この扉の奥こそが目指す礼拝堂に違いなかった。
「よっと!!」
美術的価値だけでも相当と思われた扉だったが、サージは気にすることなく蹴り開ける。神を信仰する気の無い彼からすれば、少々洒落た板でしかない。
それに彼の優れた五感は扉の先に待ち構える多数の気配を感知していた。扉を開けた次の瞬間には、蜂の巣を突いたように大量の敵が襲って来る可能性が高い。悠長に手で開けるわけにはいかない。
「「「・・・ひぃ!」」」」
だが、サージを出迎えたのは長く伸びた犬歯を見せつけて押し寄せるレッサーバンパイアの群ではなく、怯える者達の悲鳴だった。そして扉の先は間違いなく礼拝堂であり、高い天井が特徴的で壁には様々な宗教画が飾られていた。
バンパイアの拠点ということもあり邪神を祀っていると想定していたが、どうやら特定の一柱を祀っている礼拝堂ではないようで、祭壇の奥には一般的には光の神々と呼ばれ神の立像が並び立っている。その祭壇の前には悲鳴の主達が集まって身を寄せ合っていた。
「あれ? 人間だったか・・・」
直接視認したことでサージは彼らの正体を改めて看破する。男も何人かいるが、その多くは女であり、武装はしていない。彼らは城で雇われている使用人だと思われた。ジェダは表向きには有能な貴族を装っている。配下の全てを眷属にしてしまっては領地の経営は成り立たない。日中に動ける人間の部下や協力者がいるのは当然のことだった。
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