38 / 42
消えた靴と学園の謎
その38
しおりを挟む
隙を突いたようなレイの暴露によって生活指導室内に一瞬の沈黙が流れ、誰もが彼女と及川を見比べて出方を窺う。ユウジもその中の一人でレイの更なる説明を待った。彼からすれば本田の方がより犯人に近いと疑っていたからだ。
「私が?! 麻峰さん、あなたは何を言っているの?! 高遠君の不正行為を誤魔化すために私に責任を転換しようとしているのではなくて?!」
先に口を開いたのは名指しされた及川だ。その姿はこれまでの温厚な彼女からは想像出来ないほど荒ぶっており、目を剥いて反論する。
「もちろん、そんなことはありません。明確な根拠があります。そのための安中さんです。彼女は月曜の早朝、学園のマラソンコースを散歩していたそうです。当然、テニスコート近くの雑木林も通っています。その時のことは彼女から説明して貰いましょう。では、お願いするよ」
「か、勝手に話を進めないで! あなたが連れて来た証人なのだから、あなたに都合の良い話をするに決まっています! 聞く意味はありません!」
「いや、月曜日の早朝に外壁間近のマラソンコースを歩いていたのなら、それだけでも聞く価値はある! 聞かせてくれ!」
淡々と話を進めるレイとは対照的に、及川は興奮しながら証人の信用性を問題にするが、それを本田は押し止めて安中に発言を促した。
「そう、話してちょうだい!」
「・・・は、はい」
更に隣に座る横山が、及川の視線を受けて動揺する安中の肩に手を添えて、元気付けることでその口を開かせた。
「ここ少し前、私は左の膝を怪我して・・・正確には成長期に激しい運動をしたことで軟骨が肥大して痛みを感じていたのですが、そのために部活を休んでいたんです。・・・でも最近は痛みも取れて来たので部活を再開しようとして・・・それでまずは軽い運動で体力を戻そうと、月曜日から朝に散歩をしようと思い立ったんです」
安中の証言が怪我の話から始まったことで話が長くなりそうだと感じたユウジだったが、散歩の理由と判明したことで安堵する。さりげなく回りの反応を窺うが、及川以外は全員が同じ気持ちだったようで、どこかすっきりした顔立ちになっていた。誰しもレイが及川を犯人と断定した根拠を少しでも早く知りたいのである。
「それで、早起きして散歩に行こうとしたんですが、部活を休んでいたこともあって、練習用の運度靴を学校に置き忘れていたんです。でも、その時、私の中では散歩をする気が満々だったので、雨もそこまで降ってなかったので革靴で行くことにしたんです。ゆっくり歩けば大丈夫だろうって!」
本題に入ると思われた安中だが、妙にディティールに拘って散歩に至った詳しい心理描写を語りだす。おそらくは今のような証言を求められる事態に慣れておらず、より詳しい方が丁寧だと思っているだろう。
そんな彼女の真摯な気持ちと、もしかしたら重大な情報が出て来るかもしれないという思いで、ユウジ達は忍耐強く続きを待った。
「寮から真っ直ぐマラソンコースに出て、それから体育館裏まで二十分くらい歩くつもりでした。それで、膝の調子を見ながら歩いていると、テニスコートの裏あたりで私以外にマラソンコースを使っている人に気付きました。その時は普通に誰かがジョギングしているのだと思って、特に気にもしませんでした。運動部の人なら自主的に朝練する人は珍しくないですから。ただ先程、麻峰先輩から詳しい日時と場所を特定されてその時の状況を聞かれたので、改めて思えば私から逃げるような素振りを見せていたかな・・・と」
「その人物の顔は目撃したのかね? それと正確な時間は?」
やっと安中が目的の情報を披露したことで本田がより詳しい質問を与える。
「顔は見ていません。雨だからパーカーのフードで頭を覆っていましたし、直ぐに走り去ってしまいましたから。でも・・・ややふくよかな体格と小柄な身長からして、女子生徒か女の人だったと思います。時刻は6時前後くらいかと」
安中は及川を見ないようにして答えるが、その行為そのものが謎の人物が及川であると疑っている証拠でもあった。
「顔を確実に目撃しているわけではないのか・・・それにしてもかなり早い時間に散歩をしたのだな」
「はい、膝が治ってきて嬉しかったので・・・」
「その後、散歩を終えて寮に戻って、いつものように登校し、気付いたら靴がなくなっていたというわけか?」
「そうです。昼休みに友達と外に出ようとしたら無くなっていました」
「わかった。ありがとう」
安中の長い説明を本田はそれで区切ると今度はレイに視線を送る。
「確かに彼女の証言に出て来る謎の人物は・・・及川先生に似ていると言える。だがこれだけでは、及川先生を犯人だと断定する証拠にはならない。似たような体格の者は学園内に何十人もいると思われる」
「ええ、それはごもっともです。しかし、安中さんの証言で現場、おそらくは受け渡しを行った直後を生徒に目撃されたと思い込んだ犯人が存在したのは間違いないと思います。もし、先生方の誰かが犯人だったとして、生徒に目撃されたらどうしますか? どの程度まで目撃されたのかについては、犯人には不明です!」
本田から不完全さを指摘されたレイだが、それを認めつつも彼女はこの場にいる者全てに訴え掛けた。
「私が?! 麻峰さん、あなたは何を言っているの?! 高遠君の不正行為を誤魔化すために私に責任を転換しようとしているのではなくて?!」
先に口を開いたのは名指しされた及川だ。その姿はこれまでの温厚な彼女からは想像出来ないほど荒ぶっており、目を剥いて反論する。
「もちろん、そんなことはありません。明確な根拠があります。そのための安中さんです。彼女は月曜の早朝、学園のマラソンコースを散歩していたそうです。当然、テニスコート近くの雑木林も通っています。その時のことは彼女から説明して貰いましょう。では、お願いするよ」
「か、勝手に話を進めないで! あなたが連れて来た証人なのだから、あなたに都合の良い話をするに決まっています! 聞く意味はありません!」
「いや、月曜日の早朝に外壁間近のマラソンコースを歩いていたのなら、それだけでも聞く価値はある! 聞かせてくれ!」
淡々と話を進めるレイとは対照的に、及川は興奮しながら証人の信用性を問題にするが、それを本田は押し止めて安中に発言を促した。
「そう、話してちょうだい!」
「・・・は、はい」
更に隣に座る横山が、及川の視線を受けて動揺する安中の肩に手を添えて、元気付けることでその口を開かせた。
「ここ少し前、私は左の膝を怪我して・・・正確には成長期に激しい運動をしたことで軟骨が肥大して痛みを感じていたのですが、そのために部活を休んでいたんです。・・・でも最近は痛みも取れて来たので部活を再開しようとして・・・それでまずは軽い運動で体力を戻そうと、月曜日から朝に散歩をしようと思い立ったんです」
安中の証言が怪我の話から始まったことで話が長くなりそうだと感じたユウジだったが、散歩の理由と判明したことで安堵する。さりげなく回りの反応を窺うが、及川以外は全員が同じ気持ちだったようで、どこかすっきりした顔立ちになっていた。誰しもレイが及川を犯人と断定した根拠を少しでも早く知りたいのである。
「それで、早起きして散歩に行こうとしたんですが、部活を休んでいたこともあって、練習用の運度靴を学校に置き忘れていたんです。でも、その時、私の中では散歩をする気が満々だったので、雨もそこまで降ってなかったので革靴で行くことにしたんです。ゆっくり歩けば大丈夫だろうって!」
本題に入ると思われた安中だが、妙にディティールに拘って散歩に至った詳しい心理描写を語りだす。おそらくは今のような証言を求められる事態に慣れておらず、より詳しい方が丁寧だと思っているだろう。
そんな彼女の真摯な気持ちと、もしかしたら重大な情報が出て来るかもしれないという思いで、ユウジ達は忍耐強く続きを待った。
「寮から真っ直ぐマラソンコースに出て、それから体育館裏まで二十分くらい歩くつもりでした。それで、膝の調子を見ながら歩いていると、テニスコートの裏あたりで私以外にマラソンコースを使っている人に気付きました。その時は普通に誰かがジョギングしているのだと思って、特に気にもしませんでした。運動部の人なら自主的に朝練する人は珍しくないですから。ただ先程、麻峰先輩から詳しい日時と場所を特定されてその時の状況を聞かれたので、改めて思えば私から逃げるような素振りを見せていたかな・・・と」
「その人物の顔は目撃したのかね? それと正確な時間は?」
やっと安中が目的の情報を披露したことで本田がより詳しい質問を与える。
「顔は見ていません。雨だからパーカーのフードで頭を覆っていましたし、直ぐに走り去ってしまいましたから。でも・・・ややふくよかな体格と小柄な身長からして、女子生徒か女の人だったと思います。時刻は6時前後くらいかと」
安中は及川を見ないようにして答えるが、その行為そのものが謎の人物が及川であると疑っている証拠でもあった。
「顔を確実に目撃しているわけではないのか・・・それにしてもかなり早い時間に散歩をしたのだな」
「はい、膝が治ってきて嬉しかったので・・・」
「その後、散歩を終えて寮に戻って、いつものように登校し、気付いたら靴がなくなっていたというわけか?」
「そうです。昼休みに友達と外に出ようとしたら無くなっていました」
「わかった。ありがとう」
安中の長い説明を本田はそれで区切ると今度はレイに視線を送る。
「確かに彼女の証言に出て来る謎の人物は・・・及川先生に似ていると言える。だがこれだけでは、及川先生を犯人だと断定する証拠にはならない。似たような体格の者は学園内に何十人もいると思われる」
「ええ、それはごもっともです。しかし、安中さんの証言で現場、おそらくは受け渡しを行った直後を生徒に目撃されたと思い込んだ犯人が存在したのは間違いないと思います。もし、先生方の誰かが犯人だったとして、生徒に目撃されたらどうしますか? どの程度まで目撃されたのかについては、犯人には不明です!」
本田から不完全さを指摘されたレイだが、それを認めつつも彼女はこの場にいる者全てに訴え掛けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる