ハードボイルドJK

月暈シボ

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消えた靴と学園の謎

その13

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 寮の一階は食堂の他にも四つの共有スペースが用意されている。杜ノ宮学園の寮システムは異なる学年での交流を促進させる意図が含まれていたが、寮一棟につき240名程の生徒が暮らすのである。さすがにこれだけの人数が集まれば性質や性格は千差万別となるだろう。そのため、四つの共有スペースは設備や利用方法によって四種類に分けられていた。

 まずは大型ディスプレイが置かれたシアター室。先程の女子達が向かった先である。部屋そのものに利用制限はなく誰でも入れるが、ディスプレイの使用権は時間ごとに前週の日曜日に希望者からの抽選で定められる。そのため団結しやすい女子側に軍配が上がることが多かった。割り当てが決まれば、寮からの連絡事項を使って時間割を知ることが出来るので、人気の映画等には立ち見が出ることもあった。
 二つ目は図書室、自習室とも呼ばれる部屋で長テーブルと簡単な椅子が多数置かれ、壁沿いも本棚で埋められている。別名のとおりこの部屋は会話を楽しむのでなく、親しい者と一緒に勉強をするため、あるいは本を読むための部屋だった。本棚に置かれている本は全て、OB、OGを含む寮生徒達の寄付、正確には不要になった本や漫画である。そのため、過去の人気作や話題となった書籍なら大抵は揃っていた。
 そして三つ目と四つ目が歓談室だった。内部には多数のソファーや椅子、テーブルが用意されており、飲食もこの部屋ならば認められている。自由度の高い部屋に設定されているため、生徒の間では学年の差を気にすることなく会話等を楽しむ囲みが出来る。
 かつては、第一歓談室は男子がメイン、第二歓談室は女子がメインに使用するといった棲み分けがあったようだが、今ではそのルールは陳腐化している。シアター室が実質的に女子の縄張りになっている現状では、第一歓談室だけでは男子側のキャパシティが物理的に足りないのである。そのため第二歓談室も男子に解放された経緯があった。女子としてはエレベーターホールにも簡単なベンチが幾つか用意されているので、男子に聞かれたくない話は四、五階のそちらを利用することで折り合いがついたのだった。

「おお、やった!」
 生徒手帳を兼ねた携帯端末に映し出されたゲーム画面に向ってユウジは歓喜の声を上げる。たった今、ドラゴンをモチーフにした敵を仲間のプレイヤーと協力して倒したのである。実写と見間違うほどのゲーム画像は臨場感に溢れており、なおかつこのタイプの敵は彼にとっては初討伐に当たる。興奮するのも無理はなかった。
「お! こっちは黒龍の鉤爪が出た!」
「僕も出ましたよ!」
「こっちも出た!」
 ユウジの声に応えて長野は報告を行い、その隣に座る生徒達も同意を示す。夕食を済ませたユウジ達は第一歓談室に移動すると、近くにいた中等部の男子生徒を誘って最近流行りのゲームに興じていた。
 彼らが楽しむゲームは異世界の冒険者となってモンスターを討伐しながら、資金や武器や防具を揃えてより強い敵に挑むスタイルとなっている。そのため、倒した敵から様々なアイテムを入手するのだが、その選定は完全にランダムで欲しいアイテムを必ず入手できるとは限らない。ユウジを除く長野達はレアアイテムを揃って入手したようだ。
「・・・鉤爪は出なかったけど鱗の方は三枚出た」
「鱗は五枚集めると、鎧を作れますから三枚なら良い方ですよ!」
 一人だけ同じアイテムが出なかったユウジを後輩の一人が慰める。彼はこのゲームをやり込んでおり、攻略法を熟知しているようだ。
「よし、高遠のためにもう一戦やるか!」
「・・・あ、すいません。僕達はそろそろ部屋に戻って寝る準備をしないと・・・」
 長野が再戦の音頭を取るが、中等部の生徒の一人が申し訳なさそうに告げる。時刻は既に午後九時を過ぎていた。

 寮では、門限は午後九時半、消灯時間は十時と定められており、十時には共有スペースは管理スタッフの確認の後に閉鎖され照明も落とされる。個室に戻ってからの就寝時間はそれぞれの裁量に任されているが、風呂やシャワーは騒音問題もあり、十時までに済ませるのがマナーとなっている。このような事情から九時を回った辺りで生徒達の多くは自室に戻って就寝や明日の準備に備えるのだ。
「そっか。じゃ、また今度やろうぜ!」
 誘いを断られた長野だが、相手が年下の中学生ということもあり大人しく承諾する。
「俺も部屋に戻るよ、また明日な! おやすみ!」
「なんだ、ユウジもか。まあ、今日は色々あったみたいだしな。ああ、羨ましい・・・ふう・・・おやすみ」
 後輩を見送ったユウジも頃合いと見て長野に就寝の挨拶を告げるが、レイとのことを思い出したのだろう、彼は溜息をつきながらおざなりな返事を告げる。下手に刺激すると夕食の騒ぎをぶり返しそうなので、ユウジもそれ以上は何も言わず黙って席を離れる。どうせ、明日には長野の機嫌は元に戻っているはずなのだ。
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