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閉ざされた街
25 王家の離宮
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街の中心地に聳(そび)える離宮は王族の避暑地であると同時に、街を王家に代わって統治する代官と様々な役人達が務める職場でもあった。
また街を護る衛兵とともに近隣地域の治安を図る常備軍の本部も離宮の敷地内に存在していた。ハミルだけでなくこの地方の拠点、それが王家の離宮だった。
そのため離宮の規模は大きく周囲は城壁に加え堀にも覆われており、内部は大きく分けて三つの建造物から構成されていた。
「あれが、おそらく王族の居住区となっていた建物だろう。怪物達の足跡の多くはあれに続いている」
その離宮内に、堀に掛かる跳ね橋を越えて内部に侵入したミシャがダレスに告げる。
彼女が示したのは三つの中では比較的小型で青い屋根が印象的な宮殿である。小さいと言っても四階建てほどの高さで外観は最も手が加えられており、王族の住まいに相応しい建物といえる。厳密にはこれが離宮と呼ばれる施設だろう。
残る二つの内、二本の塔を持つ無骨な建物が兵舎で、特徴らしい特徴のない箱型の建造物が代官と役人が務める行政官舎と思われた。
「・・・結局、離宮に辿り着いたか。怪物達の多くはここに隠れていると見るべきだな。そして、そいつらの親玉も・・・」
アルディアを攫った怪物達の痕跡を追ってダレス達はこの場所までやって来たわけだが、奇(く)しくも昨夜の襲撃の前に捜索を予定した地に辿り着いたのだ。
「そうなるね・・・・」
ダレスの返答にミシャも緊張を隠さずに答える。今までは順調といえたが、この先は敵の拠点に入り込もうとしているのである。昨夜の比ではない数の敵を相手にする危険があった。
「ここから先は俺に任せてミシャ、お前は〝白百合亭〟に戻れ! お前の忍びの技は優秀だが、乱戦には向いていない。お前を死なせてしまったらアルディアに会わせる顔がないからな!」
無駄とは思いつつもダレスはミシャに離脱を命ずる。アルディアが連れ去れた場所を特定したことで彼女は充分に役立ってくれたといえる。ダレスとしては決戦となれば一人の方が、都合が良いのである。
「・・・ふふ、まさかダレス、あんたに心配されるとはね・・・気持ちはありがたいけど、アルディア様の安否を他人に任せるくらいなら、あたしは死んだ方がましだよ!」
苦笑を浮かべつつも、譲(ゆず)る気がないのはミシャの毅然とした顔付きで明らかだ。その眼差しにダレスは神々の計画と人間の自由意志について再び疑問を浮かび上がらせる。このミシャの決意と想いもユラント神の思惑の内に含まれているのかという疑問だ。
ダレスはミシャの琥珀のような黄色味を帯びた瞳を見つめながら〝その答え〟を得ようとするが、わかるはずもなかった。ただ、彼女のアルディアを想う真摯な姿は純粋に美しいと感じた。
「・・・そうか。なら、もう何も言わない。だが、ここから先は俺が先頭を進む。だから、背後は任せたぞ!」
それ故にダレスはミシャの意志を尊重させた。
「ああ、わかったよ! いや・・・ありがとう・・・」
ミシャもダレスから何かを感じ取ったのだろう。これまでのどこか斜めに構えた態度から、心を曝け出した無垢な笑みで応えるのだった。
また街を護る衛兵とともに近隣地域の治安を図る常備軍の本部も離宮の敷地内に存在していた。ハミルだけでなくこの地方の拠点、それが王家の離宮だった。
そのため離宮の規模は大きく周囲は城壁に加え堀にも覆われており、内部は大きく分けて三つの建造物から構成されていた。
「あれが、おそらく王族の居住区となっていた建物だろう。怪物達の足跡の多くはあれに続いている」
その離宮内に、堀に掛かる跳ね橋を越えて内部に侵入したミシャがダレスに告げる。
彼女が示したのは三つの中では比較的小型で青い屋根が印象的な宮殿である。小さいと言っても四階建てほどの高さで外観は最も手が加えられており、王族の住まいに相応しい建物といえる。厳密にはこれが離宮と呼ばれる施設だろう。
残る二つの内、二本の塔を持つ無骨な建物が兵舎で、特徴らしい特徴のない箱型の建造物が代官と役人が務める行政官舎と思われた。
「・・・結局、離宮に辿り着いたか。怪物達の多くはここに隠れていると見るべきだな。そして、そいつらの親玉も・・・」
アルディアを攫った怪物達の痕跡を追ってダレス達はこの場所までやって来たわけだが、奇(く)しくも昨夜の襲撃の前に捜索を予定した地に辿り着いたのだ。
「そうなるね・・・・」
ダレスの返答にミシャも緊張を隠さずに答える。今までは順調といえたが、この先は敵の拠点に入り込もうとしているのである。昨夜の比ではない数の敵を相手にする危険があった。
「ここから先は俺に任せてミシャ、お前は〝白百合亭〟に戻れ! お前の忍びの技は優秀だが、乱戦には向いていない。お前を死なせてしまったらアルディアに会わせる顔がないからな!」
無駄とは思いつつもダレスはミシャに離脱を命ずる。アルディアが連れ去れた場所を特定したことで彼女は充分に役立ってくれたといえる。ダレスとしては決戦となれば一人の方が、都合が良いのである。
「・・・ふふ、まさかダレス、あんたに心配されるとはね・・・気持ちはありがたいけど、アルディア様の安否を他人に任せるくらいなら、あたしは死んだ方がましだよ!」
苦笑を浮かべつつも、譲(ゆず)る気がないのはミシャの毅然とした顔付きで明らかだ。その眼差しにダレスは神々の計画と人間の自由意志について再び疑問を浮かび上がらせる。このミシャの決意と想いもユラント神の思惑の内に含まれているのかという疑問だ。
ダレスはミシャの琥珀のような黄色味を帯びた瞳を見つめながら〝その答え〟を得ようとするが、わかるはずもなかった。ただ、彼女のアルディアを想う真摯な姿は純粋に美しいと感じた。
「・・・そうか。なら、もう何も言わない。だが、ここから先は俺が先頭を進む。だから、背後は任せたぞ!」
それ故にダレスはミシャの意志を尊重させた。
「ああ、わかったよ! いや・・・ありがとう・・・」
ミシャもダレスから何かを感じ取ったのだろう。これまでのどこか斜めに構えた態度から、心を曝け出した無垢な笑みで応えるのだった。
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