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閉ざされた街
19 深夜の襲撃
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ざらつくような嫌な気配を感じると、ダレスは寝台から飛び起きた。
昼間戦った異形の怪物達、あれらは個としては大した力は持っていない。だが、ダレスの本能は屋敷の外から伝わる〝魔性〟気配に戦慄を覚える。それは、かなり〝密度〟となっていたからだ。
清潔なシーツと羽根布団による快適な眠りへの要求を断ち切って、彼はランプの微かな灯かりの中、緩めていた鎖帷子のベルトを急いで締め直し、腰に愛用の〝長剣〟を帯びる。
戦士としての正装が整ったところで、ダレスが仮眠を摂っていた寝室の扉が外から叩かれる。それは音量こそ抑えられていたが、激しい焦燥感が備わっていた。
「敵か?!」
「ああ、そうだよ!! 良かった、起きていたんだね! これまで見たことない数がこっちに向って来ているんだ!!」
扉を開けた先にはエイラが立っており、ダレスの問い掛けに青い顔で答える。気の強い彼女だが、今は心底怯えているようだった。
それでも既に彼が起きていたことで多少は安心したのだろう。引き攣った笑顔を浮かべた。
「アルディア達には報せたか?!」
「うん、クリエルとローラが報せに行っているよ!」
「わかった! 俺も直ぐに行く!」
クリエルとローラはエイラの妹分にあたる娼婦達の名前だ。彼女達によって仲間への伝達が済んでいることを確認したダレスは、防衛線となる一階に向かうべくエイラに告げた。
次の指針を定め、温かい食事を得たダレス達は明日の探索に備えて交代で仮眠を摂ることにしていた。何しろ〝白百合亭〟は娼館だけに寝室は余っている。ダレスはその一つを借りていたのである。そして、その束の間の休息は突如として終りを迎えたのだった。
「あ、あたしも下で・・・戦うよ!! ここはあたし達の居場所だからね!」
口はおせじにも良いとは言えないが、エイラは責任感が強い女性なのだろう。恐怖に抗いながら決意を口にする。
「いや、大丈夫だ! 一階は俺達に任せてくれ。エイラ、あんたはこのまま二階か屋根裏に避難してノード達を励ましてやってくれ!」
すれ違い様にダレスはエイラの肩に手を掛けて動揺する彼女を落ち着かせる。気持ちは立派だが、戦闘訓練を受けていない彼女が参戦しても無駄な犠牲が増えるだけである。
「あ、ありがとう! あたし・・・最初、あんたのことを疑って悪かったよ! もし、店が・・・街が元に戻ったら、あたしがいくらでもタダであんたの相手をして上げるよ! だから・・・」
「ふふふ、それを聞いたら死ねないな!」
エイラ達、高級娼婦はその美貌と身体が唯一の商売道具であり、誇りでもある。それを無料で提供しようというのだから彼女の言葉は本心からだと思われた。
これからの起る戦い、更に魔族本体との対決はダレスといえど必ず勝てる保証はない。だが、彼は一人の男としてエイラの想いに笑顔で応えた。
「うん、期待しておくれよ!」
「そうしよう!」
そのやり取りを最後にダレスはエイラを残して階段を駆け降りる。下にはアルディアとミシャが待っているのだ。
「状況は?!」
階段前の広間で臨戦態勢を整えていた仲間を見掛けるとダレスは現在の状況を問い掛ける。
「皆さんには全員、二階より上に避難して頂きました!」
「外は化け物で一杯だよ! ダレス! あんたの指示でバリケードを補強したけど、敵が多すぎるよ! もう永くは持たないと思う。どこから入ってくるかわからないし、二階に繋がるここで食い止めるしかないだろう! それと用心棒の男も避難させたよ! この戦いに耐えられないだろうからね!」
アルディアとミシャがそれぞれ報告を行う。彼女達二人は既に仮眠を終えていて、一階の広間で待機していたのである。
「上出来だ! 中に侵入してきた敵を俺達がここで食い止める!」
二人の手際を労うと、ダレスも自身の〝長剣〟を抜いて戦いに備える。
ミシャの言うとおり、既に一階のあちこちから扉やバリケードを破壊しようとする嫌な音が響き始めている。下手に水際で食い止めようとすると、他の場所から侵入した怪物達が階段を伝わって二階に押し寄せる恐れがある。階段前の広場で待ち構えるのが最善と思われた。
「俺とアルディアが前衛を務める。ミシャは後ろから援護と敵の動向を教えてくれ! それからアルディア、奴らには〝ホーリーライト〟が極めて有効だ。メイスでの接近戦よりも魔法での攻撃を重視して欲しい!」
「わかりました! 任せて下さい。ふふふ・・・」
ダレスの指示にアルディアは頷くが、返事の後半はこれから切って落とされる死闘への興奮、または期待からか馬が嘶(いなな)くような笑い声を上げる。
「アルディア・・・いや、頼むぞ!」
そんなアルディアを不安に思ったダレスは釘を刺そうとするが、途中で考えを変える。下手に諭すより、彼女の力を信じて思う存分に戦わせる方が有効かもしれないと判断したのだ。
もっとも、戦況を踏まえて自分がアルディアの手綱をしっかりと握る必要があるだろう。何しろこれから起きる戦いに逃げ場はないのである。
『(偉大なるユラント神よ! あなたの光で魔を払いたまえ!)』
バリケードが破壊されるまで、それほどの時間は掛からなかった。それでもミシャ達がバリケードを強化したおかげで生存者の避難と待ち構える準備が出来たのだから、ダレスの判断は正解だったと言えるだろう。
そして、アルディアは期待どおりに広間に現れた異形の怪物達の群に向けて〝ホーリーライト〟を放った。人の身にはただ眩しいだけの光だが、聖なる力を込められた閃光は、敵の異様に白い肌を焼き焦がした。
「てい!」
怯んだ敵に向けてダレスは斬撃を繰り出し、その首を見事に切り落とす。もちろん一体を屠ったことに満足せず、彼は返す刀で二体目の頭を脳天から真二つに斬り割いた。
「きりゃあぁぁぁ!!」
ダレスが三体目の獲物を取り掛かろうとしたところで、奇声が響き渡りアルディアが前線への参戦を果たす。現在のところ広場に侵入して来た敵は五体だが、その奥には列をつくるように新手が控えており獲物に困ることはない。
「とう!」
ダレスは長期戦を覚悟すると、アルディアとは対象的に最小限の掛け声で三体目に斬り掛かった。
昼間戦った異形の怪物達、あれらは個としては大した力は持っていない。だが、ダレスの本能は屋敷の外から伝わる〝魔性〟気配に戦慄を覚える。それは、かなり〝密度〟となっていたからだ。
清潔なシーツと羽根布団による快適な眠りへの要求を断ち切って、彼はランプの微かな灯かりの中、緩めていた鎖帷子のベルトを急いで締め直し、腰に愛用の〝長剣〟を帯びる。
戦士としての正装が整ったところで、ダレスが仮眠を摂っていた寝室の扉が外から叩かれる。それは音量こそ抑えられていたが、激しい焦燥感が備わっていた。
「敵か?!」
「ああ、そうだよ!! 良かった、起きていたんだね! これまで見たことない数がこっちに向って来ているんだ!!」
扉を開けた先にはエイラが立っており、ダレスの問い掛けに青い顔で答える。気の強い彼女だが、今は心底怯えているようだった。
それでも既に彼が起きていたことで多少は安心したのだろう。引き攣った笑顔を浮かべた。
「アルディア達には報せたか?!」
「うん、クリエルとローラが報せに行っているよ!」
「わかった! 俺も直ぐに行く!」
クリエルとローラはエイラの妹分にあたる娼婦達の名前だ。彼女達によって仲間への伝達が済んでいることを確認したダレスは、防衛線となる一階に向かうべくエイラに告げた。
次の指針を定め、温かい食事を得たダレス達は明日の探索に備えて交代で仮眠を摂ることにしていた。何しろ〝白百合亭〟は娼館だけに寝室は余っている。ダレスはその一つを借りていたのである。そして、その束の間の休息は突如として終りを迎えたのだった。
「あ、あたしも下で・・・戦うよ!! ここはあたし達の居場所だからね!」
口はおせじにも良いとは言えないが、エイラは責任感が強い女性なのだろう。恐怖に抗いながら決意を口にする。
「いや、大丈夫だ! 一階は俺達に任せてくれ。エイラ、あんたはこのまま二階か屋根裏に避難してノード達を励ましてやってくれ!」
すれ違い様にダレスはエイラの肩に手を掛けて動揺する彼女を落ち着かせる。気持ちは立派だが、戦闘訓練を受けていない彼女が参戦しても無駄な犠牲が増えるだけである。
「あ、ありがとう! あたし・・・最初、あんたのことを疑って悪かったよ! もし、店が・・・街が元に戻ったら、あたしがいくらでもタダであんたの相手をして上げるよ! だから・・・」
「ふふふ、それを聞いたら死ねないな!」
エイラ達、高級娼婦はその美貌と身体が唯一の商売道具であり、誇りでもある。それを無料で提供しようというのだから彼女の言葉は本心からだと思われた。
これからの起る戦い、更に魔族本体との対決はダレスといえど必ず勝てる保証はない。だが、彼は一人の男としてエイラの想いに笑顔で応えた。
「うん、期待しておくれよ!」
「そうしよう!」
そのやり取りを最後にダレスはエイラを残して階段を駆け降りる。下にはアルディアとミシャが待っているのだ。
「状況は?!」
階段前の広間で臨戦態勢を整えていた仲間を見掛けるとダレスは現在の状況を問い掛ける。
「皆さんには全員、二階より上に避難して頂きました!」
「外は化け物で一杯だよ! ダレス! あんたの指示でバリケードを補強したけど、敵が多すぎるよ! もう永くは持たないと思う。どこから入ってくるかわからないし、二階に繋がるここで食い止めるしかないだろう! それと用心棒の男も避難させたよ! この戦いに耐えられないだろうからね!」
アルディアとミシャがそれぞれ報告を行う。彼女達二人は既に仮眠を終えていて、一階の広間で待機していたのである。
「上出来だ! 中に侵入してきた敵を俺達がここで食い止める!」
二人の手際を労うと、ダレスも自身の〝長剣〟を抜いて戦いに備える。
ミシャの言うとおり、既に一階のあちこちから扉やバリケードを破壊しようとする嫌な音が響き始めている。下手に水際で食い止めようとすると、他の場所から侵入した怪物達が階段を伝わって二階に押し寄せる恐れがある。階段前の広場で待ち構えるのが最善と思われた。
「俺とアルディアが前衛を務める。ミシャは後ろから援護と敵の動向を教えてくれ! それからアルディア、奴らには〝ホーリーライト〟が極めて有効だ。メイスでの接近戦よりも魔法での攻撃を重視して欲しい!」
「わかりました! 任せて下さい。ふふふ・・・」
ダレスの指示にアルディアは頷くが、返事の後半はこれから切って落とされる死闘への興奮、または期待からか馬が嘶(いなな)くような笑い声を上げる。
「アルディア・・・いや、頼むぞ!」
そんなアルディアを不安に思ったダレスは釘を刺そうとするが、途中で考えを変える。下手に諭すより、彼女の力を信じて思う存分に戦わせる方が有効かもしれないと判断したのだ。
もっとも、戦況を踏まえて自分がアルディアの手綱をしっかりと握る必要があるだろう。何しろこれから起きる戦いに逃げ場はないのである。
『(偉大なるユラント神よ! あなたの光で魔を払いたまえ!)』
バリケードが破壊されるまで、それほどの時間は掛からなかった。それでもミシャ達がバリケードを強化したおかげで生存者の避難と待ち構える準備が出来たのだから、ダレスの判断は正解だったと言えるだろう。
そして、アルディアは期待どおりに広間に現れた異形の怪物達の群に向けて〝ホーリーライト〟を放った。人の身にはただ眩しいだけの光だが、聖なる力を込められた閃光は、敵の異様に白い肌を焼き焦がした。
「てい!」
怯んだ敵に向けてダレスは斬撃を繰り出し、その首を見事に切り落とす。もちろん一体を屠ったことに満足せず、彼は返す刀で二体目の頭を脳天から真二つに斬り割いた。
「きりゃあぁぁぁ!!」
ダレスが三体目の獲物を取り掛かろうとしたところで、奇声が響き渡りアルディアが前線への参戦を果たす。現在のところ広場に侵入して来た敵は五体だが、その奥には列をつくるように新手が控えており獲物に困ることはない。
「とう!」
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