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閉ざされた街
11 閉ざされた街
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ダレス達が侵入した西門は王国の首都カレードに至る街道に繋がっており、ハミルの表玄関とも言える場所だ。
そのため、城門前の広場は衛兵の詰所といった公的な施設はもちろんのこと、本来ならば街を訪れた人々を目当てにした露天商や屋台が軒を連ねていて活気で賑わっているはずだった。
だが、今は人の姿はなく、辺りを包む静寂と無残に散らばった様々な商品が、街に起きた異変が突然だったことをダレス達に推測させるのみだ。
かつて門を護っていた衛兵達や近くで商いしていた人々がどこに消えたかは、全く窺い知れない。それでも結界によって街の外に逃げることが不可能となった以上、大きな混乱が起きたことだけが予想出来た。
「思っていたよりも静かだ・・・」
周辺の状況を探りながらもダレスは率直な事実を口にする。
アルディアの説明からすると、ハミルが魔族の復活によって孤立してから既に六日が経過している。その間、魔族が街内で暴虐の限りを尽くしている可能性もあったのだが、予想に反して街に残る被害は少ないように思えたのだ。
「ええ、人の気配はしませんが、逆に街への被害は少ないようです。もっとも、この区域だけ被害が少ないだけかもしれませんが・・・」
ダレスの呟きにアルディアが反応する。後半は外れて欲しい推測だったのだろう、最後は濁すようにして口を閉ざした。
「アルディア様・・・建造物の被害は少ないですが・・・至る所に争った痕跡が残っています。この黒い染みは間違いなく血痕です・・・」
ダレス達よりやや先行して、より内部を調べていたミシャが申し訳なさそうにアルディアの考えを否定する。
ハミルの街中は門の外とは違い、石畳が整然と敷かれていて足跡等の痕跡を見て取ることが難しいが、忍びの技に熟知した彼女の眼には真実が映っているに違いない。
「これは・・・襲っているのは複数か?」
ミシャの報告を受けてダレスもそちらに移動し、石畳に残された僅かな痕跡を調べる。
「そう。襲われた者達の動きからして、敵が一体ってことはないと思う。複数の・・・最低でも五体ほどの〝何か〟が背後や側面から、ここに留まっていた・・・おそらく門を目指して集まっていた群衆に、そっちの脇道から出て来て襲い掛かったのだと思う・・・」
「五体以上・・・」
「うん。はっきりわかるのは五体分の痕跡だけど、もっといたかもしれない」
ダレスも傭兵を生業としており、ある程度の忍びの技を身に付けていたが、ミシャのそれは彼が見抜けなかった細かい点まで、この場所で起きた事実を明確に指摘する。
「どうやら、ハミルに封印されていた魔族は何らかの手段で自身の手勢を生み出せるようだな・・・」
ミシャが痕跡から読み取った事実にから、ダレスは結論を口にする。人間が怪物と呼ぶ存在の中には、襲った者の血を吸うことで眷属にする吸血鬼や、男を魅了し意のままに支配する女妖魔のような、短期間でその勢力を増やすモノが存在する。
魔族は神に近い存在故に、肉体的にも魔法的にも人間を遙かに上回る能力を持つ。個体差もあるはずで、今回のような特殊能力を持っていても不思議でなかった。
「そのようなことが・・・」
「魔族! 魔族ですって?!」
アルディアの驚きをかき消すようにクロットが大声を上げた。同行を認められたものの、詳しい説明をされていなかった彼にとっては、寝耳に水のような単語だったのだろう。
「・・・ああ。これまでは教えることが出来なかったが、ハミルの中に入った以上はもう隠す意味がないからな、はっきり言おう。俺達はハミルに封印されていて、そして目覚めた魔族をどうにかするためにこの街に来た」
「この街に魔族が封印されていた! そ、そんな・・・では、あの光の壁は魔族を逃がさないようにするための・・・処置だったわけですか?!」
「そういうことだ」
「は、ハミルの街には多くの人が暮らしているのですよ! 魔族・・・が本当にいるなんて・・・今まで信じていませんでしたが・・・そんなとんでもない化物と・・・一緒に閉じ込めるなんて・・・ひ、酷(ひど)いじゃありませんか!!」
実状を知ったクロットは、まるでダレスがこの街を魔族への生贄にしたかのように糾弾する。
「酷いと思うから、こうして助けに来ている! それにハミルの街に魔族を封じ込めたのは、この国の創設者とユラント教団だ! 俺は神々の喧嘩の後始末を仕方なしに・・・本当に仕方なしに片付けてやろうとしているだけだ! 感謝しろとは言わんが、文句を言うのは筋違いだぞ!」
「そ、そんな・・・」
ダレスのキレ気味の反論を受け、クロットは怯えたように小柄な背をさらに小さくする。
「あ、あなたはどう責任を取るつもりですか?! ユラント教団の司祭様なのでしょう?!」
「も、もちろん・・・教団として事態を重く見ております・・・そのために・・・」
「やめろ! 彼女を責めるな! 魔族の封印はこの国が建国から国家的事業として成されていたことだ。その計画にユラント教団が関わっていたのは事実だが、それは彼女が生れる遙か前の出来事だ。それでも彼女は教団を代表して、今回の魔族の復活を阻止しよう尽力している。・・・そんな彼女を誰が非難出来る?!」
追及の矛先をユラント教団の一員であるアルディアに変えようとしたクロットだったが、ダレスはそれを封じ、逆に訴える。彼としてもクロットの憤りは理解出来るのだが、それをアルディアにぶつけたところで意味はない。
「そ、それは・・・た、確かに・・・」
「そうだ! そして、今はつまらんことで言い争っている余裕はないはずだ!」
「ダレス!! こっちに何かが集まって来る!!」
まだ完全には納得していないようではあったが、クロットはダレスの言葉を聞き入れる。だが、それと同時にミシャが警告を発した。
そのため、城門前の広場は衛兵の詰所といった公的な施設はもちろんのこと、本来ならば街を訪れた人々を目当てにした露天商や屋台が軒を連ねていて活気で賑わっているはずだった。
だが、今は人の姿はなく、辺りを包む静寂と無残に散らばった様々な商品が、街に起きた異変が突然だったことをダレス達に推測させるのみだ。
かつて門を護っていた衛兵達や近くで商いしていた人々がどこに消えたかは、全く窺い知れない。それでも結界によって街の外に逃げることが不可能となった以上、大きな混乱が起きたことだけが予想出来た。
「思っていたよりも静かだ・・・」
周辺の状況を探りながらもダレスは率直な事実を口にする。
アルディアの説明からすると、ハミルが魔族の復活によって孤立してから既に六日が経過している。その間、魔族が街内で暴虐の限りを尽くしている可能性もあったのだが、予想に反して街に残る被害は少ないように思えたのだ。
「ええ、人の気配はしませんが、逆に街への被害は少ないようです。もっとも、この区域だけ被害が少ないだけかもしれませんが・・・」
ダレスの呟きにアルディアが反応する。後半は外れて欲しい推測だったのだろう、最後は濁すようにして口を閉ざした。
「アルディア様・・・建造物の被害は少ないですが・・・至る所に争った痕跡が残っています。この黒い染みは間違いなく血痕です・・・」
ダレス達よりやや先行して、より内部を調べていたミシャが申し訳なさそうにアルディアの考えを否定する。
ハミルの街中は門の外とは違い、石畳が整然と敷かれていて足跡等の痕跡を見て取ることが難しいが、忍びの技に熟知した彼女の眼には真実が映っているに違いない。
「これは・・・襲っているのは複数か?」
ミシャの報告を受けてダレスもそちらに移動し、石畳に残された僅かな痕跡を調べる。
「そう。襲われた者達の動きからして、敵が一体ってことはないと思う。複数の・・・最低でも五体ほどの〝何か〟が背後や側面から、ここに留まっていた・・・おそらく門を目指して集まっていた群衆に、そっちの脇道から出て来て襲い掛かったのだと思う・・・」
「五体以上・・・」
「うん。はっきりわかるのは五体分の痕跡だけど、もっといたかもしれない」
ダレスも傭兵を生業としており、ある程度の忍びの技を身に付けていたが、ミシャのそれは彼が見抜けなかった細かい点まで、この場所で起きた事実を明確に指摘する。
「どうやら、ハミルに封印されていた魔族は何らかの手段で自身の手勢を生み出せるようだな・・・」
ミシャが痕跡から読み取った事実にから、ダレスは結論を口にする。人間が怪物と呼ぶ存在の中には、襲った者の血を吸うことで眷属にする吸血鬼や、男を魅了し意のままに支配する女妖魔のような、短期間でその勢力を増やすモノが存在する。
魔族は神に近い存在故に、肉体的にも魔法的にも人間を遙かに上回る能力を持つ。個体差もあるはずで、今回のような特殊能力を持っていても不思議でなかった。
「そのようなことが・・・」
「魔族! 魔族ですって?!」
アルディアの驚きをかき消すようにクロットが大声を上げた。同行を認められたものの、詳しい説明をされていなかった彼にとっては、寝耳に水のような単語だったのだろう。
「・・・ああ。これまでは教えることが出来なかったが、ハミルの中に入った以上はもう隠す意味がないからな、はっきり言おう。俺達はハミルに封印されていて、そして目覚めた魔族をどうにかするためにこの街に来た」
「この街に魔族が封印されていた! そ、そんな・・・では、あの光の壁は魔族を逃がさないようにするための・・・処置だったわけですか?!」
「そういうことだ」
「は、ハミルの街には多くの人が暮らしているのですよ! 魔族・・・が本当にいるなんて・・・今まで信じていませんでしたが・・・そんなとんでもない化物と・・・一緒に閉じ込めるなんて・・・ひ、酷(ひど)いじゃありませんか!!」
実状を知ったクロットは、まるでダレスがこの街を魔族への生贄にしたかのように糾弾する。
「酷いと思うから、こうして助けに来ている! それにハミルの街に魔族を封じ込めたのは、この国の創設者とユラント教団だ! 俺は神々の喧嘩の後始末を仕方なしに・・・本当に仕方なしに片付けてやろうとしているだけだ! 感謝しろとは言わんが、文句を言うのは筋違いだぞ!」
「そ、そんな・・・」
ダレスのキレ気味の反論を受け、クロットは怯えたように小柄な背をさらに小さくする。
「あ、あなたはどう責任を取るつもりですか?! ユラント教団の司祭様なのでしょう?!」
「も、もちろん・・・教団として事態を重く見ております・・・そのために・・・」
「やめろ! 彼女を責めるな! 魔族の封印はこの国が建国から国家的事業として成されていたことだ。その計画にユラント教団が関わっていたのは事実だが、それは彼女が生れる遙か前の出来事だ。それでも彼女は教団を代表して、今回の魔族の復活を阻止しよう尽力している。・・・そんな彼女を誰が非難出来る?!」
追及の矛先をユラント教団の一員であるアルディアに変えようとしたクロットだったが、ダレスはそれを封じ、逆に訴える。彼としてもクロットの憤りは理解出来るのだが、それをアルディアにぶつけたところで意味はない。
「そ、それは・・・た、確かに・・・」
「そうだ! そして、今はつまらんことで言い争っている余裕はないはずだ!」
「ダレス!! こっちに何かが集まって来る!!」
まだ完全には納得していないようではあったが、クロットはダレスの言葉を聞き入れる。だが、それと同時にミシャが警告を発した。
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