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閉ざされた街
4 アルディアの使命
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「実は・・・ハミルの街が二日前より音信不通となりました。これは現在・・・王国西方の事変もあり、機密となっています。そして国軍を動かせない王国の代わりに我々ユラント教団が主体となり、この事態の原因究明と解決が図れることになりました。そして・・・こちらも内密の要件なのですが、ハミルの街は、ランゼル王国を興した始祖である英雄王がこの地方を支配していた魔族を打倒した際にその魂を封印した場所でもあるのです。その土地の上にユラント神の神殿を建立し、街で暮らす人々の信仰心で魔族を封じ込めていました。王家の避暑地とされたのも清涼な気候のためでだけでなく、始祖の血を引く王家の者がユラント神に信仰を捧げることで封印をより強固にするためだったのです。そして、我々ユラント教団は・・・」
「魔族?! つまり、ハミルで封じ込めていたその魔族が復活した可能性があるというわけだな?!」
慎重かつ段階的に説明するアルディアの先回りをするようにダレスは結論を口にした。ある程度は推測の範囲ではあったが、魔族の存在は彼にとっても寝耳に水だった。
魔族はかつて起きた〝太古の大戦〟で人間からは邪神と呼ばれる神々に与した霊的高位の存在である。彼らの多くはその〝太古の大戦〟でユラント神を始めとする光の神々によって地上から完全に追い払われたが、下位の存在は地上に残り、大戦後も魔王を僭称して人間を始めとする光側の種族と戦いを繰り広げていた。
ランゼル王国はそんな魔族が支配する土地を切り開いて生まれた国だったのである。もっとも、この手の話は国の創世伝説には良くある話で、〝太古の大戦〟そのものが神話的になった現在では魔族の存在は神々の敬虔な信徒や神秘に携わる魔術師等の一部の人間以外には半ば忘れ去られ、伝説やおとぎ話の悪役となっていた。
「そう、その通りです! ダレスさんにはその事実を調べる手伝いと、それが事実であるなら復活した魔族を倒す、または再封印する協力をして頂きたいのです。ユラント神はあなたならそれが可能であると私に啓示してくれました!」
「魔族の復活か・・・」
ダレスはことの重大さを確認するように呟く。彼にとって魔族は伝説や架空の存在ではない。この世界のどこかに潜んでいる確かな人類の敵である。〝太古の大戦〟において邪神陣営で主力を担っていたのが彼ら魔族なのだ。その出現は国家規模の災厄と言えるだろう。
そんな相手に、場末の酒場で管を巻いている自分を信じ、全ての希望を委ねようとしているのだから、アルディアのユラントへの信仰心はまさに本物に違いなかった。
「敵は魔族か・・・とんでもない敵だ。生きて帰れる保証はないな・・・」
その青く美しい瞳を見つめながらダレスは彼女に問い掛ける。
アルディアの信仰心は疑うべくもない。だが、盲目的の神に仕える行為はダレスにとっては忌むべき行為である。それは神々の奴隷に成り果てることで満足を得ようとする、自身の意志で生きる事を放棄した人間の堕落であると彼は信じている。
「ええ、もちろんです。ですが、ハミルの街を救うには私達が解決するしかありません。どうかお力をお貸し下さい!」
「神への信仰のためにか? こんな傭兵一人に何が出来ると思う? 不安ではないのか?」
「・・・確かに神のお告げを受けた時は・・・如何(いか)に神に選ばれた勇者でも、一人の人間に頼るだけで今回の事件を・・・魔族の復活を阻止出来るのか不安がありました。ですが、先程あなたの姿を見つけた時・・・このお方と協力すればこの困難を乗り切れるという自信が湧き上がりました! 私は未熟者ですが、あなたの気配・・・徳とでも言いましょうか・・・それに教皇様にも匹敵するほどの力を感じたのです!」
「そうは言っても、俺は神に仕えていないし、これからもその予定はない。だから、あんたのように神の命に従って俺が魔族との矢面に立つ義務はない。そんな俺に戦えと言うのか?」
一度は承諾を示したダレスではあるが、敵が魔族とあれば話はまた別である。死地に向う以上、神の奴隷と心中する気はない。アルディアの真意を改めて問い掛けた。
「・・・もちろん、理不尽な願いだとは私も感じています。ですが、あなたには力があるはずです! ハミルの街は大勢の人々が暮らしており、助けを求めているのです!・・・私生児として生まれた私は幸いにして教団に拾われて、神の御声を聞けるだけの信仰心を得るまで成長しました。これは・・・これまで私が生きて来られたのは王国で暮らす名も知らない人々の教団への寄進や支えがあったからです。その事実に目を背けて生きることは出来ません。・・・仮に神に仕える身になかったとしても、私は思いやる人々が生きるこの国、ハミルの人々を救いたいと願ったはずです。そして私は神を通じてあなたの存在を知りました。・・・教皇様は老齢で満足に歩くことも出来ません。頼れるのはダレスさん、あなただけなのです! どうかハミルの街とランゼル王国、いえ人類のためにそのお力をお貸し下さい!」
アルディアもダレスの意図を理解したのだろう。これまでにない情熱を持って説得と懇願を口にする。
「・・・わかった。確かに魔族が復活したとあってはこの国、この地方に安寧はない。そうなれば、俺も麦酒を飲みながら寛ぐ場所を失うことになる。俺がどれほどの力になれるかは保証出来ないが、力を貸そう」
結局、ダレスはアルディアの真摯な言葉を受け止めた。彼女の原動力が神への忠誠心だけなら断るつもりでいたが、街と国への義理と人情を出されては助力を拒む理由はない、そういったしがらみに縛られる行為こそが人間的であるからだ。
それに彼女の言葉どおり、魔族の復活をこのまま傍観してしまえば、この国は衰退しやがては滅びることになるだろう。そうなれば、この〝酔いどれ狼亭〟の麦酒も飲めなくなる。この店のやや辛味の強い麦酒を気に入った彼としては、それは残念なことだった。
「あ、ありがとうございます!」
ダレスの動機がどうであれ、その返事にアルディアは感謝の言葉とともに手を合わせて神への祈りを捧げる
「では、早速行動に移ろう。もっと詳しい話はハミルに向いながら聞こう!」
「ええ! お願いします!」
ダレスとしてはユラント神から難題を押し付けられた格好ではあるが、腹を決めた以上は全力で取り組むのが彼の信条である。時間を無駄にするつもりはなかった。
アルディアもその考えでいたらしく、彼の申し出を受けると快活な返事とともに素早く席を立ち上がるのだった。
「魔族?! つまり、ハミルで封じ込めていたその魔族が復活した可能性があるというわけだな?!」
慎重かつ段階的に説明するアルディアの先回りをするようにダレスは結論を口にした。ある程度は推測の範囲ではあったが、魔族の存在は彼にとっても寝耳に水だった。
魔族はかつて起きた〝太古の大戦〟で人間からは邪神と呼ばれる神々に与した霊的高位の存在である。彼らの多くはその〝太古の大戦〟でユラント神を始めとする光の神々によって地上から完全に追い払われたが、下位の存在は地上に残り、大戦後も魔王を僭称して人間を始めとする光側の種族と戦いを繰り広げていた。
ランゼル王国はそんな魔族が支配する土地を切り開いて生まれた国だったのである。もっとも、この手の話は国の創世伝説には良くある話で、〝太古の大戦〟そのものが神話的になった現在では魔族の存在は神々の敬虔な信徒や神秘に携わる魔術師等の一部の人間以外には半ば忘れ去られ、伝説やおとぎ話の悪役となっていた。
「そう、その通りです! ダレスさんにはその事実を調べる手伝いと、それが事実であるなら復活した魔族を倒す、または再封印する協力をして頂きたいのです。ユラント神はあなたならそれが可能であると私に啓示してくれました!」
「魔族の復活か・・・」
ダレスはことの重大さを確認するように呟く。彼にとって魔族は伝説や架空の存在ではない。この世界のどこかに潜んでいる確かな人類の敵である。〝太古の大戦〟において邪神陣営で主力を担っていたのが彼ら魔族なのだ。その出現は国家規模の災厄と言えるだろう。
そんな相手に、場末の酒場で管を巻いている自分を信じ、全ての希望を委ねようとしているのだから、アルディアのユラントへの信仰心はまさに本物に違いなかった。
「敵は魔族か・・・とんでもない敵だ。生きて帰れる保証はないな・・・」
その青く美しい瞳を見つめながらダレスは彼女に問い掛ける。
アルディアの信仰心は疑うべくもない。だが、盲目的の神に仕える行為はダレスにとっては忌むべき行為である。それは神々の奴隷に成り果てることで満足を得ようとする、自身の意志で生きる事を放棄した人間の堕落であると彼は信じている。
「ええ、もちろんです。ですが、ハミルの街を救うには私達が解決するしかありません。どうかお力をお貸し下さい!」
「神への信仰のためにか? こんな傭兵一人に何が出来ると思う? 不安ではないのか?」
「・・・確かに神のお告げを受けた時は・・・如何(いか)に神に選ばれた勇者でも、一人の人間に頼るだけで今回の事件を・・・魔族の復活を阻止出来るのか不安がありました。ですが、先程あなたの姿を見つけた時・・・このお方と協力すればこの困難を乗り切れるという自信が湧き上がりました! 私は未熟者ですが、あなたの気配・・・徳とでも言いましょうか・・・それに教皇様にも匹敵するほどの力を感じたのです!」
「そうは言っても、俺は神に仕えていないし、これからもその予定はない。だから、あんたのように神の命に従って俺が魔族との矢面に立つ義務はない。そんな俺に戦えと言うのか?」
一度は承諾を示したダレスではあるが、敵が魔族とあれば話はまた別である。死地に向う以上、神の奴隷と心中する気はない。アルディアの真意を改めて問い掛けた。
「・・・もちろん、理不尽な願いだとは私も感じています。ですが、あなたには力があるはずです! ハミルの街は大勢の人々が暮らしており、助けを求めているのです!・・・私生児として生まれた私は幸いにして教団に拾われて、神の御声を聞けるだけの信仰心を得るまで成長しました。これは・・・これまで私が生きて来られたのは王国で暮らす名も知らない人々の教団への寄進や支えがあったからです。その事実に目を背けて生きることは出来ません。・・・仮に神に仕える身になかったとしても、私は思いやる人々が生きるこの国、ハミルの人々を救いたいと願ったはずです。そして私は神を通じてあなたの存在を知りました。・・・教皇様は老齢で満足に歩くことも出来ません。頼れるのはダレスさん、あなただけなのです! どうかハミルの街とランゼル王国、いえ人類のためにそのお力をお貸し下さい!」
アルディアもダレスの意図を理解したのだろう。これまでにない情熱を持って説得と懇願を口にする。
「・・・わかった。確かに魔族が復活したとあってはこの国、この地方に安寧はない。そうなれば、俺も麦酒を飲みながら寛ぐ場所を失うことになる。俺がどれほどの力になれるかは保証出来ないが、力を貸そう」
結局、ダレスはアルディアの真摯な言葉を受け止めた。彼女の原動力が神への忠誠心だけなら断るつもりでいたが、街と国への義理と人情を出されては助力を拒む理由はない、そういったしがらみに縛られる行為こそが人間的であるからだ。
それに彼女の言葉どおり、魔族の復活をこのまま傍観してしまえば、この国は衰退しやがては滅びることになるだろう。そうなれば、この〝酔いどれ狼亭〟の麦酒も飲めなくなる。この店のやや辛味の強い麦酒を気に入った彼としては、それは残念なことだった。
「あ、ありがとうございます!」
ダレスの動機がどうであれ、その返事にアルディアは感謝の言葉とともに手を合わせて神への祈りを捧げる
「では、早速行動に移ろう。もっと詳しい話はハミルに向いながら聞こう!」
「ええ! お願いします!」
ダレスとしてはユラント神から難題を押し付けられた格好ではあるが、腹を決めた以上は全力で取り組むのが彼の信条である。時間を無駄にするつもりはなかった。
アルディアもその考えでいたらしく、彼の申し出を受けると快活な返事とともに素早く席を立ち上がるのだった。
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