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川上真

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飽きられた神

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古びた神社の片隅で、一柱の神が腕を組んでうなだれていた。

かつてこの場所は、人々の祈りで溢れていた。
「家族が元気でありますように」「作物が実りますように」――そんな声が絶え間なく響き、手を合わせる人々の姿は尽きなかった。

だが、今は違う。

雑草が生い茂り、雨漏りする社殿には誰も訪れない。鈴の音が鳴ることもないまま、年月だけが過ぎていった。

「便利さばかりを求める人間には、もはや祈りなど必要ないのか…」

神は古いスマートフォンを取り出した。実は最近、人間界で起きていることを学ぶために密かに購入したのだ。

画面には、何百万人もの人間たちが笑い、語り、感動を共有している世界が広がっている。

「わしもここで姿を現せば、再び信仰を集められるかもしれぬ」

神はアカウントを作り、活動を始めた。動画ではご利益をコミカルに紹介し、昔話のような語りを披露した。

それが思いのほか話題を呼び、「推せる神様！」と一時的に注目を集めた。

だが、世間の興味は短命だ。数週間も経たぬうちに反応は薄れ、「いいね」やコメントも減っていった。

「人間とは、飽きやすいものよ…」

神は画面を眺めながら、ふとある女性インフルエンサーの投稿に目を奪われた。

彼女は何気ない日常を語るだけで、何万人もの「いいね」を集める。彼女の笑顔、言葉、仕草――どれもが神にとって眩しく映った。

神はいつしか彼女の投稿を心待ちにするようになった。

通知が届けばすぐに開き、彼女の新しい投稿に祈るような気持ちで「いいね」を押した。

「どうか、この輝きを失わないでくれ」

ある日、彼女が動画でこう語った。
「これが最後の投稿です。たくさんの応援、本当にありがとうございました」

神はスマートフォンを見つめたまま動けなくなった。画面が消えてもなお、手の中のデバイスを祈るように握りしめていた。

それから神社には誰も訪れなくなった。境内で神はただひとり、スマートフォンを静かに見つめ続ける。

画面にはもう何も表示されていない。だが、神は今もなお祈り続けている。

「どうか、彼女が幸せでありますように…」

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