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異世界食堂、開店!

〜銀の麦のラーメン〜

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「えーっと…まずはこの店内をリノベーションしなきゃだよね。あー、異世界だから魔法とかでちゃちゃっと終わらせたいな…スキル確認!魔法スキル確認!」

するとパネルにはお決まりの、火属性、水属性などの魔法が出てきた。また、建築魔法なんてのもあった。
良いじゃん良いじゃんと思った矢先、パネルには警告の文字が。

[資格者以外の魔法の使用は法律により禁止されています。違反者には罰金最大1000万円または懲役5年以上が科せられます。本当に使用しますか?]

なるほど…こういう所は完全に日本のパラレルワールドだ。
いや、コピペ間違えた日本だろ。
絶対元の世界でも「魔法」なんてものが現れたら政府は即規制しそうだ。
とりあえず…
危なかった。何も知らずに使っていたら所持金ゼロで私の異世界ライフは終わりを告げる所だった。
異世界転生して今刑務所に居ます。イェイ☆…なんて笑えない。

そうか。きっとこの世界には魔法を使うために資格が必要なんだ。
元の世界でいう危険物取扱者、登録販売者みたいな感じで。
だから調理師免許のあった私は料理人の役職を持ってた訳か。

手作業でやるしかない、という訳だろう。
さて、この世界にてネットというものに接続できないのはかなり困った問題である。
早く何とかしてパソコンを買いたい。
ネット通販で取り寄せられたらなぁ、と思う。

ダメ元でキュイッターから行けないかと開いてみると、そこにはこんな広告があった。

「どんな材料でも、どんなものでも、私達がまとめて配送!ササゾンにお任せ!」と。

ササゾン、か。私も元の世界に居た時はお世話になった世界的通販サイトだ。
流石にな、絶対アクセスできないよな…
さっきから元いた世界のサイトは軒並み接続が切れてしまう。
でも、ダメ元で開く。
なんと、そこには配送地域に現在地が追加されましたの文字が。

え、ササゾンが?は?
もうこの世界、どんな所が厳しくてどんな所が甘いのかが分からない。
でも、私へのおすすめには、最新調理家電があった。
それに、電子書籍のキャンデルの履歴は最近読んだラノベで一杯だった。

ダメ元で建築資材のうちの一つを買う。
家の外に出てみると、建築資材が置かれていた。
スキル確認で所持金を確認してみると、確かに金額が減っていた。

工具と資材を購入してリノベーションを進めていく。
これでも小さい頃は友達と秘密基地を作って遊んだし、実家のリフォームDIYも手伝ったのだ。
その結果、とりあえず人に見せられる程には綺麗になった。

まあ、所持金は400万円になったけど。安く済んだと思う。
やはり最安値を確認し世界各地から取り寄せてくれる、ササゾンは優秀だ。

壁にラックを取り付けたり、家電を交換したり。
まぁまぁ色々してたら夜になっていた。
まだまだ殺風景な景色。
だけれどこだわり抜いて綺麗にするのは楽しい。
自室はとりあえず趣味の部屋にした。
料理本を取り寄せ、ラノベを買い、とにかく趣味で埋めまくった。

「はあ…お腹すいたな…」

とりあえず、どこかに食事をしに行こう。
私は一旦街へ出ることにした。
いくつか小さな屋台が出ている。

とにかく安く済ませたくて、目についたラーメン屋さんに入った。
入った瞬間の香りで分かる。絶対にここ美味しいお店じゃん。
じっくり煮込まれた鶏出汁の香りと、それに丁度良くブレンドされた魚介のスープの香り。

「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお呼びください」

そう言って店員さんはメニューを差し出す。
もっぱら最近はスーパーの半額のお惣菜がメインだったから、余計にお腹が空く。
ただ、そのラーメンは妙な色をしていた。麺が蕎麦のような色なのだ。
名前は…銀の小麦のラーメン、か。
そういえばここは異世界だ。ササゾンも使えてキュイッターもミンスタも使えるけど異世界だ。
だから食材も異世界ならではのものがある。
ということだろう。

メニューには、『花の森公園原産の銀の麦をふんだんに使用したラーメンです』と書かれていた。

「すみません、銀の小麦の醤油ラーメンお願いします」

普段の私なら、ニンニクマシマシもやしマウンテンでとか言うけれど、あくまでも今日は麺が主役だろう。
私も異世界特有の食材で食堂をやりたいな…

それにしても…何だか店内を見ると、ここは本当に異世界なのかと疑ってしまう。
スマホを見てラーメンを待つサラリーマンに、子連れの家族。

何だか、中途半端な世界の歪みに置いてけぼりにされたみたいだ。

そんな事を考えていたら、目の前にラーメンが来た。

「お待たせいたしました。銀の小麦の醤油ラーメンです」

確かに、目の前に現れた麺の色は銀色だった。
そう。蕎麦のような色だけどもそれは違う。
唯一無二の銀色の輝きを、それは持っていた。

「いただきます」

柔らかく、コシのある麺が、私の身体を迎え入れた。
なんだろう。今までにありそうでなかった組み合わせだ。
それに、出汁は鶏ガラと魚いう訳でも無い。
何だか豚骨のようなコッテリ感と塩のようなあっさり感が混在している。
それでいて味はしつこくなく、何なら体にすっと入っていく。
一体どんな食材を使ったらこんなに美味しいものが作れるんだろうか。
元いた世界とでは、美味しいもののベクトルがまるで違う。

高級料理店で働いていたから、高級食材がどのようなものかというのは十分分かっていたつもりだったのに…

なんて美味しいんだろう。この世界の料理は。
本当にこの世界で私は、最強の料理人になれる…?
いやいや、弱気になっちゃ駄目だ。私はこの世界で絶対にトップを目指すんだから!

心のなかで強い決心をして私はレジへ向かった。
お会計は620円。私はお会計を終えて店を出る。

明日は朝から市場調査をしに市場へ出かけるつもりだ。
だから、今日は早く寝なきゃ…
こうしてやっと、私の長い長い一日は終わったのだった。
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