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異世界食堂、開店!

料理人、転生する。

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「三番テーブルのお客様、オーダー入りました!」

「一番テーブルのお客様、お帰りです!」

今日もたくさんの美食家たちが舌鼓をうつ、高級料理屋。
創業100年を迎えるこの店は中々趣のある建物で、テレビの取材が後を絶えない。
そのため中々予約も取れず、味は確かなのに庶民には手の届かないお店と化している。
一度名前を話せばお金持ちの印象を与える店なので、たまに付き合いたてのカップルがやってくることもある。
見栄を張って大破産していく者も年間何人居るか…

そんな店で、料理人園田舞桜そのだまおは働いていた。
高級料理店?さぞかし時給の高い仕事なんだろうなと思った方。
これが正しい世間の反応だろう。
しかしこの店は、常に最高のクオリティを提供するために休みが少ない。
それに賃金はピンからキリだ。
料理長ともなればお金は非常に高い。
ただ、一般の料理人の賃金は全くと行っていいほど高価という言葉には程遠い。
それに料理スキルはあっても、それを活かせるタイミングなんてほとんど無い。
だって、言われた通りの配合をして作業をするだけだから。

折角親の反対を押し切って調理学校へ通ったのに、これでは全く意味をなさない。
こんなのロボットでもできる、と舞桜はため息をついた。

「あーあ…高級ホテルとかで創作料理とかを楽しめたら良いのになぁ…」

実際調理学校所属の時の成績は上から数えたほうが早いほど優秀だった。
それに、高級ホテルからも指名がかかったのだ。
でも、「創立100年って良いじゃん」と思ってここにしてしまった。
思ったよりハードで、目の回る忙しさだ。

いつも帰路についた頃には、へとへとになっている。
今日も舞桜は、よろよろと家に帰る。

玄関のドアを開けると、そこには大きな魔法陣があった。
きっと疲れて幻覚を見ているのだと、舞桜は扉を開け直した。
ただしそこにあるのはやはり魔法陣だった。
信じられない光景に、舞桜は目を疑った。
あまりにも非現実的すぎる。

「は、はぁ?」

アパートの共用廊下に声が響く。
もういい、何でも良いから帰りたいと思った舞桜は、魔法陣の方へと歩いていった。

その瞬間、地面が開いたような感覚がして、舞桜は空から落ちている事に気がついた。
え、嘘。
頭が真っ白になりながらも、地面との距離は近づく。
ぶつかる…!目をつぶった時、体がぼーん!と跳ねた。
いやトランポリンか!と突っ込みたくなるが、突っ込んでいる場合でもない。
その謎トランポリン効果で怪我をせずに地面にたどり着けたものの、ここはどこか分からない。

周りにいる人も、聞こえる言語もオール日本語。
書いてる言語も、何なら通貨まで。
それに街の景色も日本の何処かのようだ。
なら帰る方法あるかも、と希望を持ってスマホを開いたが、そこにあるのは圏外の文字。

「…見間違いだよね」と舞桜はスマホを再起動する。
1回、2回。スマホは何回開いても再起動しても圏外だった。

「何でなのよおおおおお!!!」

叫びとも嘆きともとれる虚しい声が、通路に響いた。

ただ、何故か使えたのはキュイッターとミンスタだった。
キュイッターは誰かの心をきゅんとさせるような文章や日常を投稿できるSNS、
ミンスタは「みんながスター」が正式名称で、写真や動画を投稿できる。

よりによって何故これだけが使えるのか…

取り敢えず、私は目の前の建物に入ることにした。
建物に入れば人はいるだろう。
そう考えて入った建物は、廃墟も同然の廃れた食堂だった。
中に人は居ない。
やっべ、不法侵入じゃんと舞桜はドアを閉めて外へ出た。
すると、そこには管理人らしき男性が立っていた。

「す、すみません!これは…えと…」

「キミ、この建物に興味があるのかね」

「い、いやぁ…」

「じゃあ、タダであげるよ」

「え、ええ?!」

突然の出来事により、舞桜の思考は3秒ほど停止した。

「じゃあ、これ鍵だから。じゃあな」

そう言って管理人らしき男性は居なくなった。

もはや何が何だか分からない。
というか廃墟の管理を押し付けられただけでは…?
…うーん…
もしかしてコレって異世界転生なのか?
体がやっと感じとり始める。

とりあえず廃墟の中を探索する。
なるほど。前の管理人が管理を他人に押し付けたくなる理由も分かる気がする。

もう窓ガラスは割れっぱなしだし、ドアもぎしぎし鳴って開く度に耳障りだ。
家電は大体揃ってるし、電気もついた。薄暗かったけど…
この様子からだと、つい最近まで誰かが住んでいたというのが妥当だろうけど…
何も怖い事件とか起こってなければ良いんだけどね。

部屋を探索していると、地図を見つけた。

「な、なんだこりゃあ…」

そこに、見知った日本の姿はなかった。「ニッポン」と書かれた島があったのだ。
形的には日本列島がそのまま逆さまになった形だ。

や、やっぱり…
自分は大掛かりな転生はしてない。勇者にもなってない。
ただし、パラレルワールドニッポンに転生してしまったことに間違いはなかった。

「そう言えば…私、異世界転生したらやりたいことあったんだよね!」

ラノベを読むことが趣味だった舞桜は、とある呪文を唱える。


「スキル確認!」

そう叫べば、隣に自分のスキルが四角く表示される。
お決まりの展開だ。
この世界でも案の定それは実在していた。

パネルには、

「料理人:レベル10
 所持金:\10000000」

と表示されていた。

「い、1千万?私そんなに持ってるわけ?」

意外と初期費用優遇されてるな、と思いつつ、リノベーション費用を考えたら妥当かと妙に納得した。
でも、一千万なんて
一体このお店のどこに…
そう思った時、目の前に金庫があることに気がついた。
いや、ご都合主義すぎな!もっと異世界らしくあれよ!
心のなかで叫びつつも、使わない手はない。

人間、逆境に立たされると意外と開き直れてくるもので、
舞桜はこの場所で食堂を始めることにした。

だって絶対この状況、絶対飯テロものが始まる展開じゃん!
それに元の世界で発揮できなかった分、ここでは思いっっっ切り料理を楽しんでやるんだから!

こうして、舞桜の異世界飯テロ生活は幕を開けたのであった。
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