1 / 3
異世界食堂、開店!
料理人、転生する。
しおりを挟む
「三番テーブルのお客様、オーダー入りました!」
「一番テーブルのお客様、お帰りです!」
今日もたくさんの美食家たちが舌鼓をうつ、高級料理屋。
創業100年を迎えるこの店は中々趣のある建物で、テレビの取材が後を絶えない。
そのため中々予約も取れず、味は確かなのに庶民には手の届かないお店と化している。
一度名前を話せばお金持ちの印象を与える店なので、たまに付き合いたてのカップルがやってくることもある。
見栄を張って大破産していく者も年間何人居るか…
そんな店で、料理人園田舞桜は働いていた。
高級料理店?さぞかし時給の高い仕事なんだろうなと思った方。
これが正しい世間の反応だろう。
しかしこの店は、常に最高のクオリティを提供するために休みが少ない。
それに賃金はピンからキリだ。
料理長ともなればお金は非常に高い。
ただ、一般の料理人の賃金は全くと行っていいほど高価という言葉には程遠い。
それに料理スキルはあっても、それを活かせるタイミングなんてほとんど無い。
だって、言われた通りの配合をして作業をするだけだから。
折角親の反対を押し切って調理学校へ通ったのに、これでは全く意味をなさない。
こんなのロボットでもできる、と舞桜はため息をついた。
「あーあ…高級ホテルとかで創作料理とかを楽しめたら良いのになぁ…」
実際調理学校所属の時の成績は上から数えたほうが早いほど優秀だった。
それに、高級ホテルからも指名がかかったのだ。
でも、「創立100年って良いじゃん」と思ってここにしてしまった。
思ったよりハードで、目の回る忙しさだ。
いつも帰路についた頃には、へとへとになっている。
今日も舞桜は、よろよろと家に帰る。
玄関のドアを開けると、そこには大きな魔法陣があった。
きっと疲れて幻覚を見ているのだと、舞桜は扉を開け直した。
ただしそこにあるのはやはり魔法陣だった。
信じられない光景に、舞桜は目を疑った。
あまりにも非現実的すぎる。
「は、はぁ?」
アパートの共用廊下に声が響く。
もういい、何でも良いから帰りたいと思った舞桜は、魔法陣の方へと歩いていった。
その瞬間、地面が開いたような感覚がして、舞桜は空から落ちている事に気がついた。
え、嘘。
頭が真っ白になりながらも、地面との距離は近づく。
ぶつかる…!目をつぶった時、体がぼーん!と跳ねた。
いやトランポリンか!と突っ込みたくなるが、突っ込んでいる場合でもない。
その謎トランポリン効果で怪我をせずに地面にたどり着けたものの、ここはどこか分からない。
周りにいる人も、聞こえる言語もオール日本語。
書いてる言語も、何なら通貨まで。
それに街の景色も日本の何処かのようだ。
なら帰る方法あるかも、と希望を持ってスマホを開いたが、そこにあるのは圏外の文字。
「…見間違いだよね」と舞桜はスマホを再起動する。
1回、2回。スマホは何回開いても再起動しても圏外だった。
「何でなのよおおおおお!!!」
叫びとも嘆きともとれる虚しい声が、通路に響いた。
ただ、何故か使えたのはキュイッターとミンスタだった。
キュイッターは誰かの心をきゅんとさせるような文章や日常を投稿できるSNS、
ミンスタは「みんながスター」が正式名称で、写真や動画を投稿できる。
よりによって何故これだけが使えるのか…
取り敢えず、私は目の前の建物に入ることにした。
建物に入れば人はいるだろう。
そう考えて入った建物は、廃墟も同然の廃れた食堂だった。
中に人は居ない。
やっべ、不法侵入じゃんと舞桜はドアを閉めて外へ出た。
すると、そこには管理人らしき男性が立っていた。
「す、すみません!これは…えと…」
「キミ、この建物に興味があるのかね」
「い、いやぁ…」
「じゃあ、タダであげるよ」
「え、ええ?!」
突然の出来事により、舞桜の思考は3秒ほど停止した。
「じゃあ、これ鍵だから。じゃあな」
そう言って管理人らしき男性は居なくなった。
もはや何が何だか分からない。
というか廃墟の管理を押し付けられただけでは…?
…うーん…
もしかしてコレって異世界転生なのか?
体がやっと感じとり始める。
とりあえず廃墟の中を探索する。
なるほど。前の管理人が管理を他人に押し付けたくなる理由も分かる気がする。
もう窓ガラスは割れっぱなしだし、ドアもぎしぎし鳴って開く度に耳障りだ。
家電は大体揃ってるし、電気もついた。薄暗かったけど…
この様子からだと、つい最近まで誰かが住んでいたというのが妥当だろうけど…
何も怖い事件とか起こってなければ良いんだけどね。
部屋を探索していると、地図を見つけた。
「な、なんだこりゃあ…」
そこに、見知った日本の姿はなかった。「ニッポン」と書かれた島があったのだ。
形的には日本列島がそのまま逆さまになった形だ。
や、やっぱり…
自分は大掛かりな転生はしてない。勇者にもなってない。
ただし、パラレルワールドニッポンに転生してしまったことに間違いはなかった。
「そう言えば…私、異世界転生したらやりたいことあったんだよね!」
ラノベを読むことが趣味だった舞桜は、とある呪文を唱える。
「スキル確認!」
そう叫べば、隣に自分のスキルが四角く表示される。
お決まりの展開だ。
この世界でも案の定それは実在していた。
パネルには、
「料理人:レベル10
所持金:\10000000」
と表示されていた。
「い、1千万?私そんなに持ってるわけ?」
意外と初期費用優遇されてるな、と思いつつ、リノベーション費用を考えたら妥当かと妙に納得した。
でも、一千万なんて
一体このお店のどこに…
そう思った時、目の前に金庫があることに気がついた。
いや、ご都合主義すぎな!もっと異世界らしくあれよ!
心のなかで叫びつつも、使わない手はない。
人間、逆境に立たされると意外と開き直れてくるもので、
舞桜はこの場所で食堂を始めることにした。
だって絶対この状況、絶対飯テロものが始まる展開じゃん!
それに元の世界で発揮できなかった分、ここでは思いっっっ切り料理を楽しんでやるんだから!
こうして、舞桜の異世界飯テロ生活は幕を開けたのであった。
「一番テーブルのお客様、お帰りです!」
今日もたくさんの美食家たちが舌鼓をうつ、高級料理屋。
創業100年を迎えるこの店は中々趣のある建物で、テレビの取材が後を絶えない。
そのため中々予約も取れず、味は確かなのに庶民には手の届かないお店と化している。
一度名前を話せばお金持ちの印象を与える店なので、たまに付き合いたてのカップルがやってくることもある。
見栄を張って大破産していく者も年間何人居るか…
そんな店で、料理人園田舞桜は働いていた。
高級料理店?さぞかし時給の高い仕事なんだろうなと思った方。
これが正しい世間の反応だろう。
しかしこの店は、常に最高のクオリティを提供するために休みが少ない。
それに賃金はピンからキリだ。
料理長ともなればお金は非常に高い。
ただ、一般の料理人の賃金は全くと行っていいほど高価という言葉には程遠い。
それに料理スキルはあっても、それを活かせるタイミングなんてほとんど無い。
だって、言われた通りの配合をして作業をするだけだから。
折角親の反対を押し切って調理学校へ通ったのに、これでは全く意味をなさない。
こんなのロボットでもできる、と舞桜はため息をついた。
「あーあ…高級ホテルとかで創作料理とかを楽しめたら良いのになぁ…」
実際調理学校所属の時の成績は上から数えたほうが早いほど優秀だった。
それに、高級ホテルからも指名がかかったのだ。
でも、「創立100年って良いじゃん」と思ってここにしてしまった。
思ったよりハードで、目の回る忙しさだ。
いつも帰路についた頃には、へとへとになっている。
今日も舞桜は、よろよろと家に帰る。
玄関のドアを開けると、そこには大きな魔法陣があった。
きっと疲れて幻覚を見ているのだと、舞桜は扉を開け直した。
ただしそこにあるのはやはり魔法陣だった。
信じられない光景に、舞桜は目を疑った。
あまりにも非現実的すぎる。
「は、はぁ?」
アパートの共用廊下に声が響く。
もういい、何でも良いから帰りたいと思った舞桜は、魔法陣の方へと歩いていった。
その瞬間、地面が開いたような感覚がして、舞桜は空から落ちている事に気がついた。
え、嘘。
頭が真っ白になりながらも、地面との距離は近づく。
ぶつかる…!目をつぶった時、体がぼーん!と跳ねた。
いやトランポリンか!と突っ込みたくなるが、突っ込んでいる場合でもない。
その謎トランポリン効果で怪我をせずに地面にたどり着けたものの、ここはどこか分からない。
周りにいる人も、聞こえる言語もオール日本語。
書いてる言語も、何なら通貨まで。
それに街の景色も日本の何処かのようだ。
なら帰る方法あるかも、と希望を持ってスマホを開いたが、そこにあるのは圏外の文字。
「…見間違いだよね」と舞桜はスマホを再起動する。
1回、2回。スマホは何回開いても再起動しても圏外だった。
「何でなのよおおおおお!!!」
叫びとも嘆きともとれる虚しい声が、通路に響いた。
ただ、何故か使えたのはキュイッターとミンスタだった。
キュイッターは誰かの心をきゅんとさせるような文章や日常を投稿できるSNS、
ミンスタは「みんながスター」が正式名称で、写真や動画を投稿できる。
よりによって何故これだけが使えるのか…
取り敢えず、私は目の前の建物に入ることにした。
建物に入れば人はいるだろう。
そう考えて入った建物は、廃墟も同然の廃れた食堂だった。
中に人は居ない。
やっべ、不法侵入じゃんと舞桜はドアを閉めて外へ出た。
すると、そこには管理人らしき男性が立っていた。
「す、すみません!これは…えと…」
「キミ、この建物に興味があるのかね」
「い、いやぁ…」
「じゃあ、タダであげるよ」
「え、ええ?!」
突然の出来事により、舞桜の思考は3秒ほど停止した。
「じゃあ、これ鍵だから。じゃあな」
そう言って管理人らしき男性は居なくなった。
もはや何が何だか分からない。
というか廃墟の管理を押し付けられただけでは…?
…うーん…
もしかしてコレって異世界転生なのか?
体がやっと感じとり始める。
とりあえず廃墟の中を探索する。
なるほど。前の管理人が管理を他人に押し付けたくなる理由も分かる気がする。
もう窓ガラスは割れっぱなしだし、ドアもぎしぎし鳴って開く度に耳障りだ。
家電は大体揃ってるし、電気もついた。薄暗かったけど…
この様子からだと、つい最近まで誰かが住んでいたというのが妥当だろうけど…
何も怖い事件とか起こってなければ良いんだけどね。
部屋を探索していると、地図を見つけた。
「な、なんだこりゃあ…」
そこに、見知った日本の姿はなかった。「ニッポン」と書かれた島があったのだ。
形的には日本列島がそのまま逆さまになった形だ。
や、やっぱり…
自分は大掛かりな転生はしてない。勇者にもなってない。
ただし、パラレルワールドニッポンに転生してしまったことに間違いはなかった。
「そう言えば…私、異世界転生したらやりたいことあったんだよね!」
ラノベを読むことが趣味だった舞桜は、とある呪文を唱える。
「スキル確認!」
そう叫べば、隣に自分のスキルが四角く表示される。
お決まりの展開だ。
この世界でも案の定それは実在していた。
パネルには、
「料理人:レベル10
所持金:\10000000」
と表示されていた。
「い、1千万?私そんなに持ってるわけ?」
意外と初期費用優遇されてるな、と思いつつ、リノベーション費用を考えたら妥当かと妙に納得した。
でも、一千万なんて
一体このお店のどこに…
そう思った時、目の前に金庫があることに気がついた。
いや、ご都合主義すぎな!もっと異世界らしくあれよ!
心のなかで叫びつつも、使わない手はない。
人間、逆境に立たされると意外と開き直れてくるもので、
舞桜はこの場所で食堂を始めることにした。
だって絶対この状況、絶対飯テロものが始まる展開じゃん!
それに元の世界で発揮できなかった分、ここでは思いっっっ切り料理を楽しんでやるんだから!
こうして、舞桜の異世界飯テロ生活は幕を開けたのであった。
10
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる