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しがない商人
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「なあ、死んだってどういう事だよ」
ショウは、転生したと語ったハルに問いかけた。
すると、ハルは状況をわかっていないショウに問い返した。
「お前は、死ぬ前の記憶がないのか?」
ショウはそのハルの言葉を聞いても、思い出せないのか、それとも心当たりがないのか、長い間、呻いているだけだった。それに対して、カノはショウとは全く別の、恐怖のような感情を表情で表していて、体は小刻みに震えていた。それを尻目に見ながら、
「だけど、今はそんなことよりもこの世界で生きることの方が重要だ」
とハルは話を逸らした。
「その事だけど、あそこに小さく城が見えるの」
ついさっきまで見ていた方向へカノは指をさした。ハルもその方向に目を向けたが、確かに距離感は掴めないが遠くに城が見えた。
ハルは少し考えるような仕草をする。
「じゃあ、あそこまで歩くぞ」
「あそこまでかっ!?いくらなんでも遠すぎるだろ!」
「じゃあ他に、この世界を知る方法があるのか?」
ショウは少し、考えるような仕草をする。
「うぅ...わかったよ」
城まで歩く距離を考え、嫌そうにしながらもショウは同意した。カノはただ、ハルに向かって首を縦に振るだけだった。
あれからどれほど経ったのだろうか。まだ城は近くに見えない。
「きゅ...休憩...させてくれ!」
一番最初に心が折れたのはショウだった。しかし、ハルもカノも息が上がっており、限界に近かったので休憩をする事となった。
ショウは地面に寝転がり、ハルは地に腰を下ろして先のことを考えてぶつぶつと呟いていた。カノは汚れるのが嫌なのか、立ちながら無言で考え事をしていた。
「行くか」
その言葉を聞いたショウは溜息を吐きながら立ち上がると、城とは真逆の、来た道を目を細くして見つめていた。その姿を不思議に思ったハルは後ろにいるショウへ駆け寄り、様子を伺う。一緒にカノも歩み寄る。するとショウがゆっくりと口を開いた。
「おい...あれ、車じゃねえか?」
辺りが、空気の流動も止まったかのように静まりかえった。
「ぷっ...くくくく」
抑えきれなかったのか、我慢できなかったカノが笑った。
「何言ってんだお前。ここが地球じゃないことくらいは、お前だってわかってるだろ。ここが地球じゃないなら、車なんてないに決まっている」
ハルも呆れていた。
「でも!あれ!遠くにあるのがこっちに向かって来てるぞ!」
ショウは必死になって抗議している。
「俺には見えないけどな」
「私も」
このままではまた歩く羽目になると感じとったショウはある提案を導き出した。
「それが乗り物で、移動手段になるものだったら、乗せてもらえるかもしれないぞ?」
また城へ向かって歩こうとしていたハルとカノだったが、その提案を耳にすると、肩をピクッと動かした。二人で何やら相談をして決断をしたようだった。二人はショウに向かって無言で頷く。
そして、その乗り物を待つことになった。
それは馬車であった。皮で作られたような薄い服を着た男が二人、荷台の前の二頭の馬に一人ずつ乗っていた。奥の荷台には、薄らと人影が見える。それをハルは一暼する。すると、何かを思いついたように拳を掌にポンっと乗せた。
「今から、あの馬車の中の奴と交渉してくる。お前らはここで待ってろ」
一人で悠然と馬車に向かって歩いていくハルの姿を二人は寂しげに、傍観者として見守ることしか出来なかった。
ハルは馬車に悠然と、淡々とした歩調で歩いた。馬車との距離はどんどんと小さくなっていく。
そして遂に、目の前に立つ、一人の少年に気付いた馬車が止まった。馬車を操縦している男が二人、一人は洒落た服装をしている、顔立ちが良く、大人しそうな風貌の男、あと一人はシンプルな服装の強面の体つきの良い男だった。大人しそうな男がハルに話しかける。
「坊や、こんな所で何をしているんだい?都市カーロに用事があるのかな?なら、この道を真っ直ぐに進めば着けるよ」
「奥の男を出せ」
布で荷台の中は隠されているが、少し痩せている男が隙間から見える。目的をはっきりと捉えたハルは、横暴な態度で奥の男を呼んだ。
「それは出来ない。私たちはあの方に仕えている。いくら子供だからといっても、あの方に被害を加えるというのなら、全力で阻止させてもらう。」
ハルの態度を受け、不穏な気配を感じ取った強面の男が攻撃的な視線を向けながら言い放つ。
男の腰には、剣が収められており、その柄に手をかざしていた。明らかに攻撃的な態度をとった強面の男を大人しそうな男が慌てて制止しているが、その光景をハルは無表情で見つめていた。
「なんじゃ?騒がしいのぅ」
すると、荷台に乗っていた老人が奥から出てきた。特に贅沢に着飾っているわけでもない風貌や格好で、ハルが想像していた様子とは違ったが、ハルは平然と話し続ける。
「お前は商人か?」
「お前とはなんだ!あいつ...!イルエ様の事をお前と...!」
大人しそうな男に抑えられている強面の男が、憎むような目でハルを睨む。しかし、ハルには全く効果がなかった。従者にイルエと呼ばれた老人はハルのことを値踏みするようにじっと見つめている。
「ああ、名前はイルエ・ラングナート。しがない商人だ。それで、儂に何の用じゃ?童子よ」
老人の細い目が少しだけ開いた。ハルはその、貫くような鋭い眼光を受けながら、呼びかけに応えた。
「じゃあ、交渉をしよう」
そして、少年と商人の交渉が始まるのであった。
ショウは、転生したと語ったハルに問いかけた。
すると、ハルは状況をわかっていないショウに問い返した。
「お前は、死ぬ前の記憶がないのか?」
ショウはそのハルの言葉を聞いても、思い出せないのか、それとも心当たりがないのか、長い間、呻いているだけだった。それに対して、カノはショウとは全く別の、恐怖のような感情を表情で表していて、体は小刻みに震えていた。それを尻目に見ながら、
「だけど、今はそんなことよりもこの世界で生きることの方が重要だ」
とハルは話を逸らした。
「その事だけど、あそこに小さく城が見えるの」
ついさっきまで見ていた方向へカノは指をさした。ハルもその方向に目を向けたが、確かに距離感は掴めないが遠くに城が見えた。
ハルは少し考えるような仕草をする。
「じゃあ、あそこまで歩くぞ」
「あそこまでかっ!?いくらなんでも遠すぎるだろ!」
「じゃあ他に、この世界を知る方法があるのか?」
ショウは少し、考えるような仕草をする。
「うぅ...わかったよ」
城まで歩く距離を考え、嫌そうにしながらもショウは同意した。カノはただ、ハルに向かって首を縦に振るだけだった。
あれからどれほど経ったのだろうか。まだ城は近くに見えない。
「きゅ...休憩...させてくれ!」
一番最初に心が折れたのはショウだった。しかし、ハルもカノも息が上がっており、限界に近かったので休憩をする事となった。
ショウは地面に寝転がり、ハルは地に腰を下ろして先のことを考えてぶつぶつと呟いていた。カノは汚れるのが嫌なのか、立ちながら無言で考え事をしていた。
「行くか」
その言葉を聞いたショウは溜息を吐きながら立ち上がると、城とは真逆の、来た道を目を細くして見つめていた。その姿を不思議に思ったハルは後ろにいるショウへ駆け寄り、様子を伺う。一緒にカノも歩み寄る。するとショウがゆっくりと口を開いた。
「おい...あれ、車じゃねえか?」
辺りが、空気の流動も止まったかのように静まりかえった。
「ぷっ...くくくく」
抑えきれなかったのか、我慢できなかったカノが笑った。
「何言ってんだお前。ここが地球じゃないことくらいは、お前だってわかってるだろ。ここが地球じゃないなら、車なんてないに決まっている」
ハルも呆れていた。
「でも!あれ!遠くにあるのがこっちに向かって来てるぞ!」
ショウは必死になって抗議している。
「俺には見えないけどな」
「私も」
このままではまた歩く羽目になると感じとったショウはある提案を導き出した。
「それが乗り物で、移動手段になるものだったら、乗せてもらえるかもしれないぞ?」
また城へ向かって歩こうとしていたハルとカノだったが、その提案を耳にすると、肩をピクッと動かした。二人で何やら相談をして決断をしたようだった。二人はショウに向かって無言で頷く。
そして、その乗り物を待つことになった。
それは馬車であった。皮で作られたような薄い服を着た男が二人、荷台の前の二頭の馬に一人ずつ乗っていた。奥の荷台には、薄らと人影が見える。それをハルは一暼する。すると、何かを思いついたように拳を掌にポンっと乗せた。
「今から、あの馬車の中の奴と交渉してくる。お前らはここで待ってろ」
一人で悠然と馬車に向かって歩いていくハルの姿を二人は寂しげに、傍観者として見守ることしか出来なかった。
ハルは馬車に悠然と、淡々とした歩調で歩いた。馬車との距離はどんどんと小さくなっていく。
そして遂に、目の前に立つ、一人の少年に気付いた馬車が止まった。馬車を操縦している男が二人、一人は洒落た服装をしている、顔立ちが良く、大人しそうな風貌の男、あと一人はシンプルな服装の強面の体つきの良い男だった。大人しそうな男がハルに話しかける。
「坊や、こんな所で何をしているんだい?都市カーロに用事があるのかな?なら、この道を真っ直ぐに進めば着けるよ」
「奥の男を出せ」
布で荷台の中は隠されているが、少し痩せている男が隙間から見える。目的をはっきりと捉えたハルは、横暴な態度で奥の男を呼んだ。
「それは出来ない。私たちはあの方に仕えている。いくら子供だからといっても、あの方に被害を加えるというのなら、全力で阻止させてもらう。」
ハルの態度を受け、不穏な気配を感じ取った強面の男が攻撃的な視線を向けながら言い放つ。
男の腰には、剣が収められており、その柄に手をかざしていた。明らかに攻撃的な態度をとった強面の男を大人しそうな男が慌てて制止しているが、その光景をハルは無表情で見つめていた。
「なんじゃ?騒がしいのぅ」
すると、荷台に乗っていた老人が奥から出てきた。特に贅沢に着飾っているわけでもない風貌や格好で、ハルが想像していた様子とは違ったが、ハルは平然と話し続ける。
「お前は商人か?」
「お前とはなんだ!あいつ...!イルエ様の事をお前と...!」
大人しそうな男に抑えられている強面の男が、憎むような目でハルを睨む。しかし、ハルには全く効果がなかった。従者にイルエと呼ばれた老人はハルのことを値踏みするようにじっと見つめている。
「ああ、名前はイルエ・ラングナート。しがない商人だ。それで、儂に何の用じゃ?童子よ」
老人の細い目が少しだけ開いた。ハルはその、貫くような鋭い眼光を受けながら、呼びかけに応えた。
「じゃあ、交渉をしよう」
そして、少年と商人の交渉が始まるのであった。
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