転生、その後。

LABBIT

文字の大きさ
上 下
3 / 4

しがない商人

しおりを挟む
「なあ、死んだってどういう事だよ」

 ショウは、転生したと語ったハルに問いかけた。
すると、ハルは状況をわかっていないショウに問い返した。

「お前は、死ぬ前の記憶がないのか?」

 ショウはそのハルの言葉を聞いても、思い出せないのか、それとも心当たりがないのか、長い間、呻いているだけだった。それに対して、カノはショウとは全く別の、恐怖のような感情を表情で表していて、体は小刻みに震えていた。それを尻目に見ながら、

「だけど、今はそんなことよりもこの世界で生きることの方が重要だ」

とハルは話を逸らした。

「その事だけど、あそこに小さく城が見えるの」

 ついさっきまで見ていた方向へカノは指をさした。ハルもその方向に目を向けたが、確かに距離感は掴めないが遠くに城が見えた。

 ハルは少し考えるような仕草をする。

「じゃあ、あそこまで歩くぞ」

「あそこまでかっ!?いくらなんでも遠すぎるだろ!」

「じゃあ他に、この世界を知る方法があるのか?」

 ショウは少し、考えるような仕草をする。

「うぅ...わかったよ」

 城まで歩く距離を考え、嫌そうにしながらもショウは同意した。カノはただ、ハルに向かって首を縦に振るだけだった。



 あれからどれほど経ったのだろうか。まだ城は近くに見えない。

「きゅ...休憩...させてくれ!」

 一番最初に心が折れたのはショウだった。しかし、ハルもカノも息が上がっており、限界に近かったので休憩をする事となった。
 ショウは地面に寝転がり、ハルは地に腰を下ろして先のことを考えてぶつぶつと呟いていた。カノは汚れるのが嫌なのか、立ちながら無言で考え事をしていた。

「行くか」

 その言葉を聞いたショウは溜息を吐きながら立ち上がると、城とは真逆の、来た道を目を細くして見つめていた。その姿を不思議に思ったハルは後ろにいるショウへ駆け寄り、様子を伺う。一緒にカノも歩み寄る。するとショウがゆっくりと口を開いた。

「おい...あれ、車じゃねえか?」

 辺りが、空気の流動も止まったかのように静まりかえった。

「ぷっ...くくくく」

 抑えきれなかったのか、我慢できなかったカノが笑った。

「何言ってんだお前。ここが地球じゃないことくらいは、お前だってわかってるだろ。ここが地球じゃないなら、車なんてないに決まっている」

 ハルも呆れていた。

「でも!あれ!遠くにあるのがこっちに向かって来てるぞ!」

 ショウは必死になって抗議している。

「俺には見えないけどな」

「私も」

 このままではまた歩く羽目になると感じとったショウはある提案を導き出した。

「それが乗り物で、移動手段になるものだったら、乗せてもらえるかもしれないぞ?」

 また城へ向かって歩こうとしていたハルとカノだったが、その提案を耳にすると、肩をピクッと動かした。二人で何やら相談をして決断をしたようだった。二人はショウに向かって無言で頷く。

 そして、その乗り物を待つことになった。



 は馬車であった。皮で作られたような薄い服を着た男が二人、荷台の前の二頭の馬に一人ずつ乗っていた。奥の荷台には、薄らと人影が見える。それをハルは一暼する。すると、何かを思いついたように拳を掌にポンっと乗せた。

「今から、あの馬車の中の奴と交渉してくる。お前らはここで待ってろ」

 一人で悠然と馬車に向かって歩いていくハルの姿を二人は寂しげに、傍観者として見守ることしか出来なかった。



 ハルは馬車に悠然と、淡々とした歩調で歩いた。馬車との距離はどんどんと小さくなっていく。

 そして遂に、目の前に立つ、一人の少年に気付いた馬車が止まった。馬車を操縦している男が二人、一人は洒落た服装をしている、顔立ちが良く、大人しそうな風貌の男、あと一人はシンプルな服装の強面の体つきの良い男だった。大人しそうな男がハルに話しかける。

「坊や、こんな所で何をしているんだい?都市カーロに用事があるのかな?なら、この道を真っ直ぐに進めば着けるよ」

「奥の男を出せ」

 布で荷台の中は隠されているが、少し痩せている男が隙間から見える。目的をはっきりと捉えたハルは、横暴な態度で奥の男を呼んだ。

「それは出来ない。私たちはあの方に仕えている。いくら子供だからといっても、あの方に被害を加えるというのなら、全力で阻止させてもらう。」

 ハルの態度を受け、不穏な気配を感じ取った強面の男が攻撃的な視線を向けながら言い放つ。
 男の腰には、剣が収められており、その柄に手をかざしていた。明らかに攻撃的な態度をとった強面の男を大人しそうな男が慌てて制止しているが、その光景をハルは無表情で見つめていた。

「なんじゃ?騒がしいのぅ」

 すると、荷台に乗っていた老人が奥から出てきた。特に贅沢に着飾っているわけでもない風貌や格好で、ハルが想像していた様子とは違ったが、ハルは平然と話し続ける。

「お前は商人か?」

「お前とはなんだ!あいつ...!イルエ様の事をお前と...!」

 大人しそうな男に抑えられている強面の男が、憎むような目でハルを睨む。しかし、ハルには全く効果がなかった。従者にイルエと呼ばれた老人はハルのことを値踏みするようにじっと見つめている。

「ああ、名前はイルエ・ラングナート。しがない商人だ。それで、儂に何の用じゃ?童子よ」

 老人の細い目が少しだけ開いた。ハルはその、貫くような鋭い眼光を受けながら、呼びかけに応えた。

「じゃあ、交渉をしよう」



そして、少年と商人の交渉が始まるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...