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3 知らない天井 2

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 「知らない天井でござる。」



 「...いやそれ俺が先に言ったから、なんだよござるって。」



 水晶を粉々にして王様が激怒してしまい、六畳くらいの牢屋に放り込まれた先には、俺より前に放り込まれた変態勇者が横たわっていた。



 「ぬおっ!何奴?...ってジンちゃんでござるか。」



 「え?なんで俺の事知ってんの?オッサン何処かであったっけ?」



 「オッサンって同い年でござるよ。」



 「えっ......」


 どっかで見たことあるような気がしてたんがけど、ジンちゃんってかなり懐かしいあだ名を呼んでたから同級生かな、どうみても一回り以上年上のメタボな中年に見えるんだけど。

 しかしこんなパン一男など記憶にないんだけど...ん?



 「......もしかして征ちゃん?」



 「正解でござる。」



 「ええぇぇー久しぶり~って中学卒業以来だから10年ぶりくらいか~って色々変わりすぎて突っ込むとこ満載なんだけど。」



 「ジンちゃんはあまり変わらないから始めから気付いておったでごわす、お寺継がなかったんでござるな。」



 この変態パン一勇者は白椿 征四郎という名前で、俺と幼稚園から中学校まで一緒だった所謂幼馴染みというやつだ。

 征ちゃんとは結構遊んだりしてて仲良かったんだけど、家が超お金持ちで教育熱心な家庭だった事もあり遠くの私立の進学校に行ってしまってそこから疎遠になってしまった。

 親同士の伝で高校進学早々に不登校になってしまって、そこからずっと引き込もってしまったらしいという話は聞いたことあるんだが、まさか色白で華奢で虫も殺せないような優しい性格で笑顔が眩しかった美少年が、あぶらぎっしゅで体重百キロはありそうな巨漢で、パンツ一枚で学校に忍び込む変態になってしまうとは。


 10年、人を腐らせるには十分な長さだ、と誰かが言ってような気がするがほんとだな。

 腐ってはいないと思うけど。



 「まず、色々聞きたい事あるんだけど、その語尾ござるかごわすか普通にしゃべるか統一しような、気になって話が入ってこねーよ。」



 「失礼、ついつい興奮して故郷のの言葉が。」



 いや、幼稚園の時から俺と一緒の関東でしょうが。



 「......怒るぞ。」



 「......ござるでお願いします。」



 普通にしゃべれよ!中学生までは学校一の美少年だったのに。



 「う、うん、わかったけど、とりあえず一番聞きたいことは征ちゃん2年3組の教室にいたんだよね、学校関係者じゃないのになんで?」



 「それを語るには涙なしでは語れぬでござる、少々長くなってしまうが聞いてくだされ。」



 「いや、30秒くらいに簡潔に話して。」



 「えぇぇ~、わわかったでござる。

 拙者恥ずかしい話なのだが高校ずっと最近まで引き込もっていたんだけど、両親がついに我慢の限界がきて働かないなら勘当するって言われたでござるよ。

 それで渋々車の免許を取ってハローワークに通って受付のおねぇさんとお喋りする毎日を送っていたでござる。


 昨日もいつもどおりの就職活動しようとしてたんだけど、親戚の叔母さんから姪が終業式でその後親戚一同で集まるから姪を迎えに行けと言われて学校まで行ったんでござる。

 しばらく駐車場で待ってたんだけど、もしかして迎えに来てるの知らないんじゃないかと思ったんだけど向こうの連絡先も知らないから直接教室に迎えに行ったんでござるよ。


 そして教室のドアを開けたら上から水の入ったバケツが落ちてきたでござるよ、それでビショビショになってしまったけど教室には誰もいなかったので、水を搾ろうと思って服を脱いだときにゾロゾロと皆が帰ってきたので、慌てて掃除ロッカーの中に隠れたでござるよ。


そしたら床が光だして今に至るでござるな。」



 「じゃあ犯罪を犯そうと思って忍び込んだんじゃないんだな。」



 「当たり前でござる!拙者勇者でござるよ!勇者はそんなことしないでござる!」



 まぁ昔っから考えなしで行動する奴ではあったけど、昔は美少年だったから大抵許されてたけど、今の征ちゃんのナリじゃ完全にアウトだからな。



 「勇者でもパンツ一枚で掃除ロッカーの中にはいってたら犯罪だから。

 それにただの勇者じゃないだろ変態の勇者だぞ、いいのかそれで。」



 「ふふっダークヒーローっぽくて全然OKでござるよ、それに何やら強そうなスキルもあるでござるし。」



 ダークヒーローではないと思うぞ。



 「スキルとかって確認できたりするのか?俺ジョブが出てきたときにちょっと力込めたらあのクソ水晶木っ端微塵になっちゃったんだよね。」



 「ププッそれでここに放り込まれた訳でござるか、ジンちゃんは昔っからそそっかしいところがあったでござるからな。

 フォローする拙者も大変だったでござるよ。」



 昔の美少年の征ちゃんに言われたら腹もたたないんだけど、こうも感情を逆撫でる笑いかたができるようになるとは、月日が経つのはこわいな。

 一応俺も征ちゃんが何らかの処分されそうなのをフォローしといたんだぞ、今となってはそれが有効なのかはわからないから言わないけど...



 「自分のステータスを見るのは簡単でござるよ。『ステータス』と呟いて見るだけで何やら液晶みたいなものが浮かび上がるでござるよ。

 ちなみに拙者のスキルは戦闘形態トランスフォームでござるよ。」



 「へ~ホントにヒーローみたいだな、それ何?変身できるの?ちょっとやって見せてよ。」



 「ふふっそう慌てなさんな、拙者もも初めてだから緊張するでござるよ。

 気を付けるでござるよ、飛び火しても知らん是よ。」


 「トランスフォーーーム!!!」




 「え!いきなり!それ座りながらできんの?ってなんで土佐弁?」



 大声で唱え終えた征ちゃんのぼってっとした座り姿が、段々発光しだして目も開けてられないくらい眩しく輝きだした。






 徐々に光が収束していく。





 「......」





 「ふぅ~どうでござるか?」





 「............」





 パンツ一枚の征ちゃんの座っていた所には、恍惚とした表情を浮かべた虎柄のパンツと虎柄のスポーツブラと虎耳のカチューシャした征ちゃんがそこにはあった。




 「なんだこれ!」

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