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「チェックアウトしたい」
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「チェックアウトしたい」
瞼に痛みを感じながら、僕は受付にいたスタッフに言った。
「まだご宿泊できますが」
「もう帰ります」
「かしこまりました。お代は全て頂いておりますが、他の方よりいただいていますので、後日、ご自宅まで送らせていただきます」
「結構です。どこかに寄付でもしてください」
「かしこまりました」
「駅に帰りたいんですが、どうすればいいでしょう」
「タクシーか馬車か、バスがございます」
「じゃあ、タクシーを呼んでください」
「帰りの電車の切符はございますか?」
「駅で買います」
「私どもがご用意致します」
「いや、いいです」
「タミ様にはお世話になりました」
「僕じゃなくて、リーチェにですよね」
「いえ、アル様がいてこそのリーチェ様です」
「……みんな魔法使いなんですか?」
「いいえ。全員じゃありません」彼女は微笑み、封筒を出してきた。「一等車でご用意致しました」
「きみは、そう?」
「はい」
「わからないことだらけだ。いまだにね」
僕は切符を受け取って、彼女に背を向けた。
「ありがとうございました」と彼女の声が聞こえた。
ほんの僅かだけ、自分の境遇に光が差した気がした。
タクシーで駅に着くと、例の商店が見えた。営業中のプレートがドアに下げられていた。
僕は店のドアを開けた。それが礼儀な気がした。
店には無精髭の男がいて、テレビを見ていた。すぐに僕に気がつき、笑顔を見せた。
「よう。帰るのかい?」
「はい」
「いいことだ。帰る場所があるのは」
「お世話になりました」
「いいってことよ。でも、本当にそう思うのであれば何か買っていってくれよ」
僕はそう言われて、周りを見渡した。飲み物、食べ物、お菓子、食器、文房具、あらゆるものがありそうだった。
「おすすめはあります?」と僕は聞いた。
「ないよ」
僕は呆れつつ、店内を見てまわった。高価な物を買わなければならない気がしたが、何となくそんなことをしたくはなかった。
「このお菓子をいくつかもらいます」
僕は白い箱に入った、コーヒーヌガーがチョコレートでコーティングされたお菓子を、何個か手に取った。
「全部お買い上げしてくれてもいいんだぜ?」
自分でもわかるくらいの苦笑いだった。でも、彼の言うとおりにした。
お菓子の入った箱ごと、彼のもとへ持っていくと、彼は頷いてお菓子を全て袋に入れた。
僕が財布を出すと、彼は「チップはどうする?」と聞いてきた。
「サービス料もとるの?」
「冗談だよ。菓子も全部やるよ、無料だ」
「いや、それは気持ちが悪い」と僕はお札を何枚か出した。
「本当にいいのに」と言いながら彼はお札を全て受け取った。「その代わりに、その箱もやるよ」
「箱?」
「そう。その菓子を入れていた箱」
僕は残されていた白い箱を手に取った。お菓子が入っていた、長細い箱。
「これは、何センチかな?」
「何センチ? 長さは知らないな」彼はそう言いながらも、どこからか巻尺を出した。「測ってみればいい」
僕は巻尺を受け取り、その白い箱の端から端まで測った。
「……39センチ」
「意外と長かったな」と彼は笑った。
「いや、ちょうどいい」と僕は言った。
僕は買ったお菓子をバラバラとカバンに入れて、代わりにお菓子ボックスを袋に入れた。赤ん坊を抱くようにして、落とさないように注意した。
店を出るとき、彼は「最後に」と声をかけてきた。
「都市に帰ってどうするんだ? また死に場所を探すのか?」
僕は首を横に振った。
「恋人が帰ってくるので、その場所をつくります」
「そいつはいい」と彼は返してきた。
「そうでしょう」と僕は応えた。
瞼に痛みを感じながら、僕は受付にいたスタッフに言った。
「まだご宿泊できますが」
「もう帰ります」
「かしこまりました。お代は全て頂いておりますが、他の方よりいただいていますので、後日、ご自宅まで送らせていただきます」
「結構です。どこかに寄付でもしてください」
「かしこまりました」
「駅に帰りたいんですが、どうすればいいでしょう」
「タクシーか馬車か、バスがございます」
「じゃあ、タクシーを呼んでください」
「帰りの電車の切符はございますか?」
「駅で買います」
「私どもがご用意致します」
「いや、いいです」
「タミ様にはお世話になりました」
「僕じゃなくて、リーチェにですよね」
「いえ、アル様がいてこそのリーチェ様です」
「……みんな魔法使いなんですか?」
「いいえ。全員じゃありません」彼女は微笑み、封筒を出してきた。「一等車でご用意致しました」
「きみは、そう?」
「はい」
「わからないことだらけだ。いまだにね」
僕は切符を受け取って、彼女に背を向けた。
「ありがとうございました」と彼女の声が聞こえた。
ほんの僅かだけ、自分の境遇に光が差した気がした。
タクシーで駅に着くと、例の商店が見えた。営業中のプレートがドアに下げられていた。
僕は店のドアを開けた。それが礼儀な気がした。
店には無精髭の男がいて、テレビを見ていた。すぐに僕に気がつき、笑顔を見せた。
「よう。帰るのかい?」
「はい」
「いいことだ。帰る場所があるのは」
「お世話になりました」
「いいってことよ。でも、本当にそう思うのであれば何か買っていってくれよ」
僕はそう言われて、周りを見渡した。飲み物、食べ物、お菓子、食器、文房具、あらゆるものがありそうだった。
「おすすめはあります?」と僕は聞いた。
「ないよ」
僕は呆れつつ、店内を見てまわった。高価な物を買わなければならない気がしたが、何となくそんなことをしたくはなかった。
「このお菓子をいくつかもらいます」
僕は白い箱に入った、コーヒーヌガーがチョコレートでコーティングされたお菓子を、何個か手に取った。
「全部お買い上げしてくれてもいいんだぜ?」
自分でもわかるくらいの苦笑いだった。でも、彼の言うとおりにした。
お菓子の入った箱ごと、彼のもとへ持っていくと、彼は頷いてお菓子を全て袋に入れた。
僕が財布を出すと、彼は「チップはどうする?」と聞いてきた。
「サービス料もとるの?」
「冗談だよ。菓子も全部やるよ、無料だ」
「いや、それは気持ちが悪い」と僕はお札を何枚か出した。
「本当にいいのに」と言いながら彼はお札を全て受け取った。「その代わりに、その箱もやるよ」
「箱?」
「そう。その菓子を入れていた箱」
僕は残されていた白い箱を手に取った。お菓子が入っていた、長細い箱。
「これは、何センチかな?」
「何センチ? 長さは知らないな」彼はそう言いながらも、どこからか巻尺を出した。「測ってみればいい」
僕は巻尺を受け取り、その白い箱の端から端まで測った。
「……39センチ」
「意外と長かったな」と彼は笑った。
「いや、ちょうどいい」と僕は言った。
僕は買ったお菓子をバラバラとカバンに入れて、代わりにお菓子ボックスを袋に入れた。赤ん坊を抱くようにして、落とさないように注意した。
店を出るとき、彼は「最後に」と声をかけてきた。
「都市に帰ってどうするんだ? また死に場所を探すのか?」
僕は首を横に振った。
「恋人が帰ってくるので、その場所をつくります」
「そいつはいい」と彼は返してきた。
「そうでしょう」と僕は応えた。
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