3 / 3
薄い粘土のベール 02
しおりを挟む
「とりあえず、話だけでも聞いてよ」
あれから一週間経ってもまだ学食で前回と同じように履歴書とにらめっこしている俺を見れば、教授のコネクションをもってしてもどうにもならなかったことは一目瞭然であり、本当ならば俺の方から頭を下げて就職先を紹介してくれないかと伺いを立てるべき場面である。
それなのに、彼方のほうからやってきた。
俺は正直感動していた。
話を聞く前からわかる。彼だからバイトから正社員にしてもらえたのだ。
ポッと出の俺が、いくら彼の紹介だからと言って、ましてや彼が入社するような会社に、正社員で入れるわけがない。
それでもこれは幼馴染の彼がせっかくくれるチャンスなんだ。
どだい無理そうであっても、話だけでも聞かなくては。
それが恩に報いるということだ。
「どういう仕事なの?」
「時期によって結構違うんだけど、基本的には事務かな。でもうち従業員が少なくて、事務といっても色んな仕事をしてもらうことになるかもしれないんだけど」
なるほど雑用か。
だが雑用とはいえ新入社員のお友達でしかない俺を正社員として迎え入れてくれる(かも)なんて、なんとも懐の広い会社である。ますます申し訳がない。
「雑用とはいえ、そんな少数精鋭のチームに、やっぱ俺、必要ないんじゃないかな」
彼方には悪いけど、俺じゃなくてもいいはずだ。
むしろ、お祈りされまくっている俺じゃないほうがいいだろう。
彼方に、こんなにいいやつに、迷惑をかけたくない。
「でも美里、絶対この仕事向いてるよ」
「……事務ならもっと優秀な人がいるでしょうよ」
「俺が知る限り、美里に一番適性があると思うんだ。美里にしかできない」
「なんで? 俺に隠された事務員の才能があるとでも?」
「美里って、観察力と分析力に優れてるよ。昔から思ってた。美里の前で嘘はつけない」
彼方が俺のことをそんな風に評価していたとは驚きだ。
自分ではそんなこと、思ったこともない。
「うち、探偵事務所なんだ」
あれから一週間経ってもまだ学食で前回と同じように履歴書とにらめっこしている俺を見れば、教授のコネクションをもってしてもどうにもならなかったことは一目瞭然であり、本当ならば俺の方から頭を下げて就職先を紹介してくれないかと伺いを立てるべき場面である。
それなのに、彼方のほうからやってきた。
俺は正直感動していた。
話を聞く前からわかる。彼だからバイトから正社員にしてもらえたのだ。
ポッと出の俺が、いくら彼の紹介だからと言って、ましてや彼が入社するような会社に、正社員で入れるわけがない。
それでもこれは幼馴染の彼がせっかくくれるチャンスなんだ。
どだい無理そうであっても、話だけでも聞かなくては。
それが恩に報いるということだ。
「どういう仕事なの?」
「時期によって結構違うんだけど、基本的には事務かな。でもうち従業員が少なくて、事務といっても色んな仕事をしてもらうことになるかもしれないんだけど」
なるほど雑用か。
だが雑用とはいえ新入社員のお友達でしかない俺を正社員として迎え入れてくれる(かも)なんて、なんとも懐の広い会社である。ますます申し訳がない。
「雑用とはいえ、そんな少数精鋭のチームに、やっぱ俺、必要ないんじゃないかな」
彼方には悪いけど、俺じゃなくてもいいはずだ。
むしろ、お祈りされまくっている俺じゃないほうがいいだろう。
彼方に、こんなにいいやつに、迷惑をかけたくない。
「でも美里、絶対この仕事向いてるよ」
「……事務ならもっと優秀な人がいるでしょうよ」
「俺が知る限り、美里に一番適性があると思うんだ。美里にしかできない」
「なんで? 俺に隠された事務員の才能があるとでも?」
「美里って、観察力と分析力に優れてるよ。昔から思ってた。美里の前で嘘はつけない」
彼方が俺のことをそんな風に評価していたとは驚きだ。
自分ではそんなこと、思ったこともない。
「うち、探偵事務所なんだ」
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
青い桜 山梨県警捜査5課
ツタンカーメン
ミステリー
晴天の空に高くそびえたつ富士の山。多くの者を魅了する富士の山の麓には、美しくもありどこかたくましさを感じる河口湖。御坂の峠を越えれば、県民を見守る甲府盆地に囲まれた街々が顔をのぞかせる。自然・生命・感動の三拍子がそろっている甲斐の国山梨県。並行して進化を遂げているのが凶悪犯罪の数々。これは八十万人の平和と安心をまもる警察官の話である。
顔の見えない探偵・霜降
秋雨千尋(あきさめ ちひろ)
ミステリー
【第2回ホラー・ミステリー小説大賞】エントリー作品。
先天性の脳障害で、顔を見る事が出来ない霜降探偵(鎖骨フェチ)。美しい助手に支えられながら、様々な事件の見えない顔に挑む。
事実は小説より奇なり
DAO
ミステリー
女装をしながら探偵(なんでもや)の楠木 薫の所にある日、傷だらけの男がやってくる。
その男は唐突に「君は幽霊と言う存在を信じるかい?」と問いかけた。
貴方はこの問にどう答えますか?
ゴールドスカル(不完全な完全犯罪・瑞穂と叔父の事件簿)
四色美美
ミステリー
不完全な完全犯罪シリーズです。瑞穂と叔父の事件簿第三段です。
元警視庁の刑事だった叔父の探偵事務所で手伝いをしている瑞穂には小さな頃から霊感があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる