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スズヱの過去
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今から千年以上も昔の話。
私はそのときはまだ、どこにでもいるフツウの生きた猫だった。
普通の庶民の家に住み着いた、ただの黒猫。
私には、飼われている、という意識はなくて、雨風をしのぐため、ご飯を食べるそのために、たまたまその家にいることが多いという認識だった。
その家には、五歳くらいになる男の子がいて、私のことを、むやみやたらに触った。
私はまだ生まれてから一年を過ぎたばかりだったから、当然私の方が生まれは遅いけれども、猫の一歳なんて言うのはもう大人で、人間の五歳なんていうのはまだまだ子供真っ盛りだった。
坊やは私のことを、それはそれは可愛がった。
坊やは朝起きて私を見つけると、私がまだ寝ていてもお構いなしにムンズとつかんで膝に乗せては撫で、率先して私の食事を用意し、夜も私を捕まえて一緒に眠った。
私はうざったいと思うと同時に、弟のように可愛いという気持ちまで、坊ちゃんに抱き始めていた。
でも千年も昔のこと、猫の寿命は今よりもっと短かった。
私はその日、いつもよりも早く目が覚めて、それが近いことを知った。
坊ちゃんを起こさないようにそおっと布団を抜け出て、そして家を出た。
陽が当たる、温かそうな岩を見つけると、そこに丸くなって、静かに目をとじた。
音がだんだんと遠くなり、やがて私は、永遠とも思える静けさに沈んだ。
「「スズヱ」」
私を呼ぶ声に目が覚めた時、そこは坊ちゃんの布団の中だった。
家には誰もおらず、しばらくすると坊ちゃんの母様と父様が帰ってきた。
二人は泣いていた。
近くにある祠には、動物たちは一匹として近づかなかった。
とんでもなく力の強い何かが在ることは分かっていたが、理が、私たちとまるきり違っていたからだ。
何かをそれに願ったとして、それが利となるか、害となるか、それは予測ができなかった。
人間たちも、それを大切に扱ってはいたが、それに何かを望むようなことはしなかった。
私は泣いている二人を見た時に、坊ちゃんが祠で何をしたのかを悟った。
私の生命と、坊ちゃんの生命は、きっとひっくり返ってしまったのだ。
私は猫の寿命をとっくに過ぎて、坊やの母様と父様を看取ったとき、自分がもう猫ではなくなっていることに気が付いた。
私はそのときはまだ、どこにでもいるフツウの生きた猫だった。
普通の庶民の家に住み着いた、ただの黒猫。
私には、飼われている、という意識はなくて、雨風をしのぐため、ご飯を食べるそのために、たまたまその家にいることが多いという認識だった。
その家には、五歳くらいになる男の子がいて、私のことを、むやみやたらに触った。
私はまだ生まれてから一年を過ぎたばかりだったから、当然私の方が生まれは遅いけれども、猫の一歳なんて言うのはもう大人で、人間の五歳なんていうのはまだまだ子供真っ盛りだった。
坊やは私のことを、それはそれは可愛がった。
坊やは朝起きて私を見つけると、私がまだ寝ていてもお構いなしにムンズとつかんで膝に乗せては撫で、率先して私の食事を用意し、夜も私を捕まえて一緒に眠った。
私はうざったいと思うと同時に、弟のように可愛いという気持ちまで、坊ちゃんに抱き始めていた。
でも千年も昔のこと、猫の寿命は今よりもっと短かった。
私はその日、いつもよりも早く目が覚めて、それが近いことを知った。
坊ちゃんを起こさないようにそおっと布団を抜け出て、そして家を出た。
陽が当たる、温かそうな岩を見つけると、そこに丸くなって、静かに目をとじた。
音がだんだんと遠くなり、やがて私は、永遠とも思える静けさに沈んだ。
「「スズヱ」」
私を呼ぶ声に目が覚めた時、そこは坊ちゃんの布団の中だった。
家には誰もおらず、しばらくすると坊ちゃんの母様と父様が帰ってきた。
二人は泣いていた。
近くにある祠には、動物たちは一匹として近づかなかった。
とんでもなく力の強い何かが在ることは分かっていたが、理が、私たちとまるきり違っていたからだ。
何かをそれに願ったとして、それが利となるか、害となるか、それは予測ができなかった。
人間たちも、それを大切に扱ってはいたが、それに何かを望むようなことはしなかった。
私は泣いている二人を見た時に、坊ちゃんが祠で何をしたのかを悟った。
私の生命と、坊ちゃんの生命は、きっとひっくり返ってしまったのだ。
私は猫の寿命をとっくに過ぎて、坊やの母様と父様を看取ったとき、自分がもう猫ではなくなっていることに気が付いた。
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