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覚醒編

36話 家族の元に

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 そこには

最愛の存在を失う事に恐怖する、リルの姿と


我が息子の死、それも、壮絶な死、その姿に
気が狂う程に悲鳴を上げる、蘭の姿があった・・・。


だが、遥か上空で笑いながら見ている、悪趣味な男、シオン


「おうおう、リルの奴、なかなか諦めないな
 すでに死んで1分って所か、蘇生までの、残り時間は2分かな?
 まぁ、あのボロボロ状態じゃあ、蘇生しても1分もたないだろうし
 あの状態の身体に戻るなんて、どれだけの痛みだよ
 両腕なしで生きて行けってか?断固断るよな
 蘭さんも、泣いてるじゃん、これはレアだ!激レアもんじゃね?
 あの蘭さんでも、取り乱す事があるんだな
 すげぇな

 ハッハッハッハ

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


誰にも聞かれることの無い、空回りする、笑い声
だが、シオンの両手の拳は、固く握られたいた


「・・・・すまんな、しおん
 蘭さん、鈴、あの2人は、しおんの家族だ
 挨拶もなく死んだ後悔があるんだろ
 言いたかった事や、伝えたい事、いっぱいあったんだろ

(うん、でも、鈴は助かった、僕の命は無くなったけど
 僕の気持ちは・・・
 2人を愛している事は伝わったと思う
 それだけ伝わってればいい)
 
 わるいな・・・
 しおんが死なない選択肢も有ったんだ
 だけど・・・・・

(わかっているよ、僕はシオンなんだから
 僕もこの結果が最善策だと思う)

 すまん・・・・・

(どうせ僕達は、又何処かで転生するんだしな
 シオンの世界か、僕の世界か、まぁ出来るなら、この世界がいいな
 そしてもう一度、やり直せるなら、蘭さんと鈴と又家族になりたい)

 あぁ、俺もな・・・・そう思うよ

(シオンこそ、いいのか?
 せっかく逢えた、リルの事は?)

 あぁ、いいんだよ、あれは
 すでに、前世で別れは済ませてる 
 それに、アレは俺に依存しすぎだ、自分自身で生きる目的を見出さないと
 今後が心配でな、その意味でも、蘭さんや、鈴と一緒に暮らせれば・・・
 3人が俺や紫音の居ない寂しさを、紛らわせればとなとな・・・

(そうだね・・・大丈夫さ、蘭さんは強い人だし
 鈴は、ああ見えて、しっかりしているからね、リルとも仲良くやれるさ)」


そして、誰も聞いていない、1人の会話は沈黙を迎える


その一方で、未だに、回復魔法を使い続ける、リルの姿があった
そして、いつの間にか、その周りには、たくさんの精霊の姿が集まっていた
その姿はこの世界の住人には見えない、シオンですら、その存在に気付くことはない
その存在を確認、視認できるのは、リルだけであり

リルの回復魔法、それは光属性の精霊魔法であり、その力の大きさは
込める魔力と、精霊の加護の大きさで決まる
そして、リルの呼びかけによって、リルの純粋な気持ち
【愛】【献身】【自己犠牲】そして助けたいと言う思いに応えて
リルの周りを覆うように、小さな妖精が集まってきていたのだ

それは、15cmほどの、リルより少し小さい人型の10cm程の光の精霊
背には、2対の大小の羽、計4枚の、トンボの様な、綺麗な虹色の羽があり
その中性的な体も羽も、透き通るほど、希薄な存在でもあった

その精霊達が今、リル思いに引き寄せられ
回復魔法の加護を上げるため集まってきたのだ
だが、物言わぬ、下級の光の妖精、それが100人集まろうが
多少の精霊の加護が増えようと、紫音の体には、何ら変化はなかった
それでも、諦めず回復魔法をかけるリル

未だ、魔核が振りまいた、高密度の魔素の中
どれだけ、魔法を使おうが、リルの魔力量は尽きることはなく溢れていた
それでも、リルの精神力と、心は、徐々に疲労を蓄積していき
限界を迎えようとしていた

そして今、リルの全ての感覚が止まる
まるで、時間が停止したような感覚、目に映る全ての物が、モノクロとなり
体は動かない、精神だけが、時間から切り離された用に
何かに、何者かに支配されたような感覚の中
目の前に、一人の人物が現れる

リルとさほど変わらない大きさ、女性型の美しき姿の人物
その人物が、静かにリルに語りかける

「神の力を宿す少女よ
 何故、その少年を救おうとする
 その魂は、この世界の物ではなく
 その少年の持つ力は、この世界には必要ないものであり
 その存在自体が、悪で有り、害なす物である事は
 神の力を宿す少女も理解できるであろう」

「貴方が、誰であるかは知りません
 もし、貴方が神の使いであろうと、神であろうが
 シオン様を、その存在を否定することは、許しません
 そして貴方は何を持って、悪とみなします?
 神は正義であり、その行動は常に正しいのですか?
 有り得ない、あの世界の神々は、正義ではない
 自身の理想を押し付け、その神の使徒に強要する
 神々の争いに、巻き込み、大量殺害を意に介さない
 この世界の神々は、違うと?
 一部の使徒に力を与え、その思想を与え
 その理念に合わない物は壊し殺害し奪い、私利私欲をもさぼる
 数千年に渡り、今も尚、終わることのない宗教戦争
 その発端を作ったのは神であり、今もなお、見て見ぬ振りの神々が正義だと?
 それでも、神は神では、あるのでしょう
 だが私の知る神は、私が生まれたその都市に居た神は正義ではなかった
 一部の住人には、悠久の幸せを与えた
 その住人には正しき神であっても
 その・・・
 
 ・・・・・・

 そう、その、片隅で永遠の地獄を約束された者もいた
 その者にとって、神とは、正しくも正義でもない
 ただその意志を押し付ける、わがままな子供以下だった
 だが、それも今の私には関係ありません
 貴方達の神々が、真なる正義であったとしても
 目の前に居ない神、会ったことも無い神
 世界が滅びに向かって進んでいる事が分かっていても
 何も手を下さない様な神々に興味はありません
 もしも、神々にとって、シオン様が、悪であっても
 私にとって、神とはシオン様であり
 私にとって、シオン様が全てなのですから」

すこしの沈黙のあと

「それでは、その少年が悪ではないと?
 神が間違っていると?
 答えによっては、神の力を宿す少女よ
 その魂も、その少年の魂も無に還す事に事になりますよ?」

「その考えこそが、間違いだと何故気がつかないのです?
 完全なる正義も、完全なる悪も存在しない事を
 私にとって、シオン様が悪であろうと、神々が間違ってようと
 どうでもいいのです、ただ今はシオン様を助けたいだけですから
 それが、神々の意思にそぐわないと言うのなら、好きにすればいいのです
 私の魂も、シオン様の魂も、神々の意思通りになる事はありません
 無に還すなら、すればいい
 神ごときが、シオン様の魂を、消滅させることなど、出来はしないのですから
 そう、シオン様は魂は負けない、私達は負けない
 私達は、私達の意思を貫き通します」
 
「神の存在・・・
 考え方の違い・・・・
 そうなのかも知れません
 人間と私達が、その住む次元を分かち合ってから
 長い永い時間が立ちました、時間の願念が、あまりない私達には
 どれだけの時間を有しようと、自分では意識の改革はままならない
 ありがとう、神の力を宿す少女よ、私はこれで、一歩進めるのかもしれない
 神の力を宿す少女、その数奇な運命の中であっても、決して絶望せず
 その少年を思う【強い心】に、その【深い愛】に、応えて
 その力を開放してあげましょう、後はその翼に聞けばよいでしょう
 私の名前は【エリレス】また逢う事もありましょう
 有意義な時間を感謝いたします」

そう言い残し、彼女は消え、リルの止まっていた時間は動き出した
そして、【エリレス】の言った、力の開放が訪れる

リルの体が光りだし、ある力が流れ込む
それは、魔力でも、呪力でもない力、天力である
呪力それは、負の思念の力、それに相反する力こそ
天力であり、神を思う信仰心によって作り出される力であった

その力は、リルの中で集約され、背中の小さな翼に流れ込む
リルは両の手を、その小さな胸に重ね
今、その身体に生まれようとしている力に集中する

そして、今リルの体は弾けるように大きく開かれる
それはサナギから、帰った蝶が、初めて大空を羽ばたくため
その美しい羽を大きく広げるように
リルの背中から、その身体を覆うほどの大きな左右3枚、計6枚の翼が開かれる
それは、見る物の心を魅了する美しさ
その美しさは
全ての者を魅了する、賢き女帝をイメージされた
【北狐亜種 (シルバーフォックス)】でさえ、一瞬その視線を奪われる
それは、【北狐亜種 (シルバーフォックス)】にある感情を大きく芽生えさせる

だが、リルは、自分自身がどうなろうと気にはしない
ただ、最愛の主を救える力を解放する

そして、リルの頭の中に、知識が流れ込む
それは、リルのシオンを救いたいと言う想いに
その力の象徴ともいえる、6枚の翼が応えたのだ

リルは、ボロボロとなった紫音の身体に両手をかざし
頭に浮かんだ魔法を使う

「天の加護をもって、全ての邪なる効果を打ち消し、その身を浄化せよ
 【エ・スペ・レ・ディ・フィ (浄化の風)】」

一瞬にして、紫音の身体を覆っていた、黒いモヤは吹き飛ぶ

そして、すぐに次の魔法を、詠唱する

「神の意思に従い、その者の身体を、完全なる状態にて召喚せよ
 【ウィ・ディ・ソコ・マ・ルオ (復元召喚)】」

紫音のボロボロの体がブレ
次の瞬間には、怪我1つ無い、裸の紫音の体が、そこに存在した
その姿に目も呉れず、最後の魔法を詠唱する

「神の力をもって、その魂を召喚し肉体に帰 (き)し、その命を吹き込め
 恩恵と感謝を持って、肉体・魂・命を今一つにし
 神の奇跡を借りて、今ここに、その存在を確立する
 【ウィ・ト・マ・ドゥ・ハ・カン (人体蘇生)】」


その、一部始終を見ていた、シオン

その目を丸くする

「マジか!あれは、あの力は、奴らの力か?
 解呪だと!そして肉体復元の完全回復だと
 本当にあれは、天力か?それよか、このままじゃァ、あれか?
 リルの奴、マジで、蘇生するつもりか?、嫌だ戻りたくない
 うわぁぁああああああああああああああああああああああ
 やめてぅれぇぇ~~~~
(嘘言うな、もどりたいんだろ?僕は戻りたいよ)」

シオンの魂は、有無を言わさず、肉体に戻された


・・・・・・・・・・・・・・・


シオンは、ため息混じりに、ゆっくりと目を開け、中に浮かぶ少女を見る

それに気づく少女は涙を流し、シオンの名を叫び
その場から、飛び出し、シオンに飛びつこうとするが

シオンは飛んでいる虫を叩くように、右手でリルを叩き落とした

「アホが!ここで死んで、家族を守った方が、カッコイイだろうが
 新しい力に目覚めて、俺を生き返らせるって
 どこぞの、しょぼい漫画か、ラノベかよ
 これじゃぁ、オチが無いだろ、オチが!」

それでも、リルは瞳に涙を溜めて嬉しそうに笑う

視線が合ったシオンは、舌打ちをしながら、照れくさそうに視線を外した

身体を起こし、【北狐亜種|(シルバーフォックス)】の背に座るように腰掛け
左手で【北狐亜種|(シルバーフォックス)】の首筋を軽く触りながら

「下まで降ろしてくれ」

【北狐亜種|(シルバーフォックス)】は声高々に嬉しそうに鳴く
それに共鳴してか、下に居た【西表山猫|(ヤマピカリャー)】も嬉しそうに鳴いた

【北狐亜種|(シルバーフォックス)】は、その場を蹴り
螺旋階段を下るように、ゆっくりと、空中を降りていく

そう、下で待つ家族の元に、シオンを乗せて降りていったのだった。


 
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