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しおりを挟む誰もいなかった。
女の子は安心して個室から出る。
(良かった、朝になったんだ……)
『あ、』
安心して震えた手が滑り、ノートが落ちる。
拾おうとして手を伸ばした先に、影が重なる。
『〇〇ちゃん みーつけたー』
逆さまの子どもの顔が、降って来た。
『き、きゃあああぁああぁああぁぁあああ!!!!!!!!!』
「きゃー!!!」
怪談を聞いていた女子が叫ぶ。
ここは彗星高校、一年A組。
昼休み。
教室では今この辺で有名な怪談話で盛り上がっていた。
「それからは、その学校では隠れ鬼が禁止されてて、夜の学校でやると、女の子の幽霊にあの世に連れてかれちゃうんだって」
「しかもこれ、この教室から見える廃校の旧南小の話だからな! 取り壊しも決まってるし、これはもう行くなら今しかなくね?!」
「廃校で肝試しとか映えるよなー! 動画上げて一攫千金めざ……」
話の中心にいた男子がウキウキしながら、はしゃいでいた時だった。
バンッ!!
それまで一番後ろの席で机に突っ伏していた1人の男子が思い切り机を叩く。
ワイワイと賑やかだった教室が水を打ったように静まりかえった。
「ぎゃーぎゃーうるせーんだよ……」
気怠げでそれでいて地を這うような迫力のある声の主は鬼塚龍之介だ。
真っ黒な髪から見える鋭い切長の目がギロリと睨む。
「な、なんだよ龍之介~そんな怒んなって~そ、そんなにうるさくしてないじゃん~」
「そ、そうだよ! しかも昼休みだしさ……
あ~もしかして怖い、とか?!」
「あぁ?!」
お調子者2名が怖がりつつも、明るく揶揄うと、龍之介がヅカヅカと近づいて来る。
「ヒッ」
胸倉を掴まれて顔を近づけ睨まれる。いわゆるメンチを切るというやつだ。
「じ、冗談です……!」
青くなった男子生徒が慌てて弁解する。
龍之介は舌打ちをして掴んでた手を離し、そのまま教室から出ていこうとして、ピタリと止まる。
「……あそこら辺は黒銀高校の奴らが屯ってる場所だから近づくな」
龍之介が振り返らず呟く。未だ静かな教室に大きくないが凄みのある彼の声がよく通る。
「あ、ああ~あのヤンキーが多くて有名な……じ、じゃあさ、龍之介も一緒に……」
ギロリ。
行こう、と、言いかけてる途中で凄い目つきで睨まれた。
「い、行かないですよネー……じゃあ俺らだけで……」
「……どうしても行きたいなら止めねー。何があっても知らねーからな……けど、絶対に女子は連れてくなよ、良いな?」
最後にもう一度凄んでから教室を出て行く。
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