北畠の鬼神

小狐丸

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21 源四郎長柄武器を打つ

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 天文二十二年(1553年)十一月

 小氷河期のこの時代、米の収穫も終え、麦の種まきも終えて冬の準備と、安濃津城と城下町、湊の工事が周辺の領民や黒鍬衆と俺の直臣の専属兵達により進められている今日頃ごろ、俺は自分用の長柄武器を打とうとしていた。

 長野工藤家との戦さで、虎慶以外は大身槍を使っていたが、彦右衛門や小次郎は不満はなかったらしいが、俺や慶次郎には軽過ぎた。

 そこで新造しようという事になった。

 俺が思い付いたのは、クレセントアックス(三日月斧)。60センチ~80センチの三日月状の斧刃を付けた長柄武器。それともう一つ、パルチザン。70センチ~80センチの幅広大型の三角形の両刃剣のような穂先の槍。

 パルチザンの方が、日ノ本の槍と同じ感覚で使えるだろうが、クレセントアックスの破壊力も捨てがたい。

 取り敢えず色々造ってみる事にする。



 俺専用に建てられた鍛治小屋の中で、虎慶に向こう鎚を任せ、黙々と鎚を振るう。

 氣を全身に循環させ内功を練り込み、鎚にも氣を纏わせ鉄を打つ。

 クレセントアックスやパルチザンを日本風に打つのだが、太刀や大身槍以上に多くの鉄を使う事になるので鍛錬が大変なんだ。
 水車動力のトリップハンマーが無ければ、俺や虎慶の怪力と体力でも何日かかるか。考えただけでもうんざりする。



 暗い鍛治小屋に火花が踊る。

 折り返し鍛錬を経て、形作られる日本に無いパルチザンとクレセントアックス。

 最終的に、どちらも80センチの刃長になった。

 クレセントアックスの斧刃は、それだけでかなりの重量だ。それは幅広の両刃剣のようなパルチザンも同じだ。

 特にパルチザンは、そのなかごも長く、クレセントアックスに負けないくらい重い。

 焼入れを終えたパルチザンとクレセントアックスに、柄や太刀打ち、石突きを作り、研ぎを終えて完成させるのに二週間かかった。

 普通に考えれば早いと思うけど、もう暫くは鍛治はいいかな。



 出来上がったパルチザンとクレセントアックスを前に、慶次郎が目をキラキラさせていた。

「殿、俺はこれを貰っていいですか?」
「ああ、三日月斧槍だな。重いけど大丈夫か?」
「試させて下さい」

 慶次郎はクレセントアックスを取ると、少し離れた場所で感覚を掴もうと振り回す。

「ははははっ! こりゃ凄え! これなら鎧ごと叩き斬れるぜぇ!」

 慶次郎は嬉しそうに、振り回し、薙ぎ払い、刺突を繰り返す。

「使えそうだな」
「悔しいですが、慶次郎に合った武器ですね」

 怪力無双だが器用とは言えない虎慶が悔しそうに言う。

 俺が打ったクレセントアックスは、斧刃の重さを活かした斬撃に加え、刺突出来るよう三日月刃の形状を工夫してある。更に、斧刃の反対側にあるピックで、敵を引っ掛けて馬上から落としたり出来る。
 一つの武器で、複数の役割を持たせたような武器を、慶次郎は器用に使い熟していた。

「殿! この三日月斧槍で、次の戦さ場で活躍する事を約束しましょうぞ!」
「分かった、分かった。一応鞘を作ってあるから、小屋から取ってこい」
「承知!」

 慶次郎がクレセントアックスを肩に担いで小屋へと走って行った。

「くそっ、慶次郎の奴、はしゃぎやがって」
「まあまあ、武士なら刀槍に興奮するのは仕方ないさ」

 慶次郎は、クレセントアックスを三日月斧槍と呼んでいる。そのまんまじゃないか。
 実際、普通のクレセントアックスじゃなく、刺突用の槍と斧刃の反対側にピックがあるから、用途的にはハルバートに近い。

 自動的にパルチザンが俺のになったので、使い勝手を試してみる。

 ただ、パルチザンに関してはあまり心配していない。

 形状的に、大身槍と使い方に大差ないからだ。

 重さは今まで使っていた大身槍と比べると、かなり重くなったが、生まれ変わっても酒呑童子の残滓は人外の膂力を持つ俺にとって、まったく苦にならない。

 俺がパルチザンを横薙ぎに振るうと、八十センチの刀身が鋭く風を斬る。

 何か名前を付けた方がいいかな。流石にパルチザンより和名の方がしっくりとくると思う。

 槍の名では、日本号や御手杵、蜻蛉切が有名だからな。
 雷破(らいは)なんかどうだろう。


 俺が卜伝師匠から学んだ、鹿島新当流でも槍術はある。
 俺達も師匠である塚原卜伝から習っているし、奈良の宝蔵院流の槍術も学んでいる。

 出来れば新陰流の槍術も学んでみたい。

 それとダマスカス鋼を使った武器を打ちたいな。

 現代では遺失しているダマスカス鋼も、この時代なら手に入れる事が出来るかもしれない。
 本当は、その技術が手に入れば最高なんだけど、流石にその辺は秘匿技術だから無理だろうけど。

 いつか自分で再現したいな。


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