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十八話 懲りない奴等

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 ハヴァルセーの街からパルミナへ向かって馬車を走らせ始め、街から離れたのを確認してアグニ達を召喚する。
 ヴァルナは現れるなりセレネさんに話しかける。

「シグ様にご迷惑を掛けないように。分かってるわね」
「は、はい」
「ちょっと、ヴァルナ。威圧してどうするの」

 何故かヴァルナがセレネさんに厳しい。
 ルカは何時ものように僕の膝の上に陣取り、足をブラブラさせて過ぎ去る景色をご機嫌で眺めている。

 馬車も何とかしないとな。盗賊から奪った馬車も、乗り心地の点で言えば最悪だ。何処かに乗り心地の良い馬車を持ってる盗賊が居ないかな。






 副首都とも言えるハヴァルセーの街にあるハンター協会支部の建物は、その権威を誇るように建っていた。

「セレネとあの生意気な小僧はどうしている?」
「どうやら次の日には、ハヴァルセーを出発したようです」
「なに! まずい、まずいぞ!」

 酷く焦った様子を見せるのは、ハンター協会支部長。

「支部長、既にAランクハンター、セレネを嵌めて偽の指名依頼で誘き寄せ、60人以上の亜人狩りが襲ったものの、助太刀もあり返り討ちにあったと、正確な情報が衛兵経由で王都まで届いているようです」
「不味い、不味いぞ! ハンター協会に国はお互いに原則不介入だ。その独立した組織の協会が王家からの依頼とはいえ、Aランクハンターを嵌めて奴隷に堕とそうとしたのだ。これが本部に知られれば、マペット王子でも守ってはくれんぞ!」

 今回のAランクハンターに対する亜人狩りは、協会支部の関与が濃厚だと思われ、捜査が進んでいる。不幸中の幸いなのか、臨時パーティーを組んだバウンティハンター達はもの言わぬ死体となったので、王子から依頼された書類等の証拠を隠滅した今では、限りなく黒に近い灰色で通せる。しかし一度この街のハンター達に流れた噂は容易く消す事は出来ない。

「マペット王子は第八王子、王位継承権は第十二位です。あまりの失態が陛下の耳に入れば、良くて一生幽閉。その後、病没となりそうです」
「殿下もあのエルフなどに懸想しなければ……」
「支部長、彼の方のは子供が玩具を欲しがるのと同じですよ」

 今回の件で、何がまずいかと言えば、ハンター協会の支部長が亜人狩りを生業とする盗賊と接点があったと疑われた事だ。

「あの女に、これ以上噂を広められる訳にはいかんな……そうだ、牙狼三兄弟がいたな」
「……支部長、あのバウンティハンター崩れを使うのですか」

 職員の男が驚いた顔をする。牙狼三兄弟とは、以前バウンティハンターとして活躍していた獣人の兄弟。凄腕のバウンティハンターとして名を売った三兄弟だったが、長く仕事で人を殺すうちに、人を殺す事に愉悦を覚える快楽殺人者(シリアルキラー)になってしまう。当然ハンター資格は剥奪され、指名手配されているのだが、裏の世界では凄腕の暗殺者として知られるようになっている。

「奴等の剥奪される前のランクは単独でBランクだ。Aランクとはいえプランツハンターとして評価されているあの女程度、あの三人なら間違いないだろう」
「セレネ嬢はエルフですよ。神印も風と水のダブルです。弓の腕も確かで、亜人狩りの盗賊達を10人以上倒したと聞きます。落ち着いていれば魔法を有効に使い、一人でも逃げ切れた可能性もある腕を持っています」
「……ふむ、なら保険も必要か」

 そして男は最悪の手を打つ。
 セレネが今誰と一緒に居るのかという事を認識していながら、その少年のひと睨みの威圧で震えあがったのも忘れ、暴挙とも思える手段を選んでしまった。
 側で見ていた職員の男は協会を退職して逃げる事を考え始めていた。何故、支部長は、この愚かな男は、あの人の皮を被った恐ろしい少年と関わろうとするのだろう。
 支部長が、事もあろうか少年に対して恫喝した時、中性的で優しげな少年からは信じられないプレッシャーを感じた。高ランクのハンター達を常日頃から知っている自分が、ただただ震えるしかない威圧を放ったのだ。それも自分に向けられた威圧ではなく、支部長に向けられた威圧、その余波に過ぎないモノでアレなのだ。そんな少年と一緒に居るセレネ嬢に刺客を送る支部長が職員の男には考えれなかった。

(支部長は鳥頭なのか? もうあの少年から向けられた怖ろしい威圧を忘れたのか?)

 牙狼三兄弟に加え、ハンター資格を剥奪されるような半端者に連絡つけようとしている支部長を冷めた目で見ている職員の男。出来るだけ早くこの街から逃げ出そうと心に決めて。

 後日、支部長の行状に関する噂は問題となるのだが、関係する職員の失踪と合わせ、当事者のセレネが既にハヴァルセーの街から出て行った後だった事もあり、支部長の罪は表面上は問われる事はなかった。
 それから少し経って、ハヴァルセーのハンター協会支部長が病気療養を理由に辞職するのだが、その後元支部長の行方を知る者はいない。





 酒と血の匂いが篭る暗い地下の部屋で、獣人の男が三人で酒を飲んでいた。

「ドワジ、オバル、仕事の依頼だぜ」
「兄貴、今度は誰を殺るんだ?」
「ヘッヘッヘッ、楽しめて金まで貰えてたまんねぇな」

 ムンロ、ドワジ、オバルの狼獣人の三兄弟は、元はBランクのバウンティハンターだった。賞金首を狙う立場から、それが今では賞金首となっている。

「それで兄貴、今度のターゲットは?」
「ヘッヘッ、聞いて驚くな、なんと今回のターゲットはAランクハンターのセレネだ」
「おお! あのエルフか!」
「ヒャッハァー! 殺す前に楽しめるんだよなぁ!」

 ターゲットの名前を聞いて、雄叫びを上げる三兄弟。バルディア王国で活動するハンターの中では、美しいエルフのセレネは有名人だった。当然三兄弟もセレネの事は知っている。

「でもよ兄貴、セレネは対人戦は専門外だが、腐ってもAランクハンターだぜ」
「そうだな、しかも奴はダブルだと噂を聞いた事があるしな」
「心配するな。だから今回は人数を集める資金も前金で貰った」

 長男のムンロがそう言うと、ドワジとオバルの顔にはいやらしい笑みが浮かぶ。

「で、ハヴァルセーに居るのか?」
「いや、ハヴァルセーから西へと向かっているらしい。人族のガキと一緒だとよ」
「なら、途中で村でも襲いながら西へ行くか」
「ダメだ。この仕事は下手打つ訳にいかない。真っ直ぐエルフ女を追うぞ」
「チッ! 仕方ねえな」

 薄暗い部屋から牙狼三兄弟が出て行った後には、ボロ屑のように殺された娼婦が床に転がっていた。



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