幻獣使いの英雄譚

小狐丸

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学院編…三年生

忙しい日々

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 何時もの研究室で、この部屋の主であるフィリッポスが、書類の山と格闘していた。

 ガチャ、ドアを開けてユキトが研究室に入って来る。

「フィリッポス先生、忙しそうですね、研究どころじゃないんじゃないですか?」

 ユキトがフィリッポスに話しかけると、書類に落としていた顔を上げて、溜息をついた。

「ハァ~、まさか私が政務に追われるなんて……長生きするもんじゃないですね」

 貴方エルフなんだから、まだ何百年も寿命があるじゃないですか。そう、喉まで出てきそうになったが、面倒くさいので、ユキトもいちいち突っ込む事はせずスルーして、話を続ける。

「それで、準備は順調に進んでるんですか?」

 ユキトも主に土木作業を中心に色々手伝っているが、建国に向けての進捗状況を、フィリッポスに聞いてみた。

「ノブツナとヴォルフのおかげで、自警団を含めて戦力は、整ってきていますね。人員は、助けられて解放された様々な種族の元違法奴隷や、スラムの出身者や難民の中から、希望者を募っていますから人数は充分集まったと思いますよ。かなり厳しい訓練を課しているみたいですし、それでも脱落者は少ないようですよ。」

 最近、ノブツナとヴォルフを含めバーバラとアイザックも各街を飛び回り、自警団や魔法師団の訓練を監督していた。時折、ユキトも訓練に参加したり、ドノバンと自警団が使う装備関係の打ち合わせなど、余りアメリアと遊ぶ時間が取れない位には忙しかった。

 フィリッポスに至っては、建国の為の法整備や組織造りなど多岐に渡り、その忙しさはユキトも心配になるほどで、フィリッポスを補佐する文官の育成や雇用も、急務だと感じられた。

「国防は、大分形になってきましたね。ユキト君のゴーレム部隊も増強していますし、あとは水軍を増強して制海権を失わないようにすること位ですか。」

 フィリッポスが、そう言うとまた書類の山に取り掛かる。

(水軍か~、確かに制海権は重要だよな。でも船は分かんないな~、いっその事、空飛ぶ乗り物でも有ればいいのに)

 フィリッポスの話を聞いて、軍隊の移動に関して少し考えて見ようと思うユキトだった。



 ユキトは、家に帰ってサティスにお茶を淹れて貰い、昼間の移動手段について考えていた。

(騎馬部隊は、急に数を増やせないよな。馬の調達から調教に、時間がかかるもんね。)

「なんじゃ、今度は何を造るんじゃ」

 ユキトが思案していると、ドノバンが部屋に入るなり聞いてきた。

「あぁ、ドノバンさん。実は治安維持や魔物の討伐、他国からの侵略時に兵士を素早く動かす方法を考えていたんです」

 ドノバンは、リビングにあるソファーのユキトの対面にドカッと座ると腕を組んで考え込む。

「ユキトは、幾つか案があるのか」

 ドノバンが、ユキトに考えがあるのか聞く。

「幾つか考えていますが、先ずはバルクに造ってあげたゴーレム馬を素材や魔石を見直して、量産型のゴーレム馬を生産出来ないかと考えました。二つ目はアスカロンみたいな装甲ゴーレム馬車を、これも素材は安く手に入れやすい物で生産する方向になるでしょう。三つ目は、新たに兵士輸送用の乗物を造ることです。先ず一つ目のゴーレム馬について、これは問題になるのは、資金の調達をどうするかだけですね。二つ目は、アスカロンより性能が大分落ちるとはいえ、量産してしまうと戦争のかたちを変えかねない物を造って良いのかという事ですね。三つ目は、まだ考えついていないので置いておくとして」

「ふむ、ゴーレム馬は問題ないじゃろう。軍馬は育てるのに時間がかかるからの。ゴーレムのコアになる部分は、ユキトしか作れんが、まあ時間を掛ければ真似くらい出来るかもしれんがの。問題はアスカロンの様なゴーレム馬車かの、各都市に必要最低限の台数を配備するか」

 ドノバンが、皆に相談してから決めれば良いと言う。

「ゴーレム馬車で牽引する荷車を造って、補給に使うのも良いかもしれませんね」
「兵士の輸送にも使えるのう」

 ユキトの提案にドノバンも頷く。それならば、最低限の台数を揃えれば良い。街を結ぶ街道の整備も進み、進軍速度も上がり、即応性の向上に役立つだろうと二人で話し合う。

「それで、最後の新しい乗物は何か思いついたのか?」

 ドノバンがユキトに、新しいアイデアがあるのか聞いて来る。ドノバンにとっては、新しい物を作り出す事が一番やりがいのある仕事だ。期待を込めてユキトに尋ねる。

「いえ、完成形は頭の中に有るんですけど、そこまでの辿り着く方法が考えつきません」
「具体的には、何を造りたいんじゃ」

 ドノバンが、またユキトが新しい物を造ろうとしているのかと、期待に満ちた顔で聞く。

「最初は、船を改良してみるのも面白いかと思ったんですけど、もっと海沿いに街が出来て、港が増えてからでも良いかなぁとも思ったり……、船が空を飛べればいいんですけどね」

 ユキトが、そう言うとドノバンが考え込む。

「う~ん…………、古代魔法文明時代には空を飛ぶ船が有ったと言われとるがの。フィリッポスに聞いて文献を調べてみれば、良いんじゃないかの。エルフなら少しは伝承が残っておるかもしれんぞ」

 ドノバンの話に少し希望が出て来たと思い、空飛ぶ船は取り敢えずフィリッポスに聞いてみることにしたユキトは、ゴーレム馬とゴーレム馬車の仕様を詰めて行く。

「ゴーレム馬とゴーレム馬車の部品製作は、鍛治師ギルドと練金ギルドに発注するとしよう。組み立てと基幹部品の製作は、儂と儂の弟子でしよう。コアへの術式描き込みは、ユキトがすれば最低限秘密が護れるじゃろう」
「うん、その方向で良いと思うよ。造る台数はフィリッポス先生に話して、予算がどれくらい取れるかで決めましょう」

 ユキトは、ドノバンと打ち合わせを終えると図書館へ向かう。

「図書館行くけど、サティスはどうする」
「御供します」

 ユキトはフィリッポスには明日話をする事にして、今日は図書館で調べ物をしようとサティスと連れだって出掛ける。


 ユキトの横をサティスが嬉しそうに歩く。

「どうしたの、随分楽しそうだね」

 ユキトがサティスに聞く。

「ユキト様と二人で出掛けるのは、久しぶりですから。デートみたいで嬉しいです」

 サティスが嬉しそうにユキトの顔を見つめて言う。

「そっか、最近ずっと忙しかったからね。サティスには、寂しい思いさせたかもね。図書館でデートって感じじゃないけどね、今度ゆっくりデートしようか」

 ユキトはサティスの手を取り、手を繋いで歩き出す。その後は、サティスに手伝ってもらい、日が暮れるまで調べ物をして家に帰った。それでもサティスは、久しぶりにユキトの側を独占出来て満足したようだった。
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