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学院編…一年生
入学式……今後の展望
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「ユキト様、おはようございます」
サティスが起こしてくれるのにも慣れて来た。
「顔を洗って着替えて下さい」
ベッドから這い出て顔を洗いに向かう。
鍛錬用の服に着替え裏庭へ向かう。軽くストレッチをしてから木刀を取り出し素振りを始める。素振りから型稽古を済ませた頃に、ヴォルフさんが降りて来た。
「身体は温もったか?」
「ハイ、お願いします」
ヴォルフさんと一定の距離を取り組み手を始める。
組み手を終えると、汗と汚れを生活魔法のクリーンを使って落としてから、真新しい制服に袖を通して食堂へ行く。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「今日の入学式には、アタシ達も行くからね」
「大丈夫なの? 六英雄が揃うなんて目立たない?」
「大丈夫さ、ちょっとしたコネを使って貴賓席を用意させたから」
コネって、フィリッポスさんも大変だなぁ。
皆んなで一緒に馬車に乗って入学式に向かう。
学院に着いて、爺ちゃん達と別れて入学式の会場へ向かう。1クラス 30人で、AからDまでの4クラスと、それとは別に、15人定員のSクラスが1クラスある。
授業は選択制で、自分の好きな授業を選んで合計の単位数があれば進級出来る。僕は魔道具製作と魔法陣それと魔法薬学を学ぼうと思っている。
そんなことを考えてたら学院長先生の話が終わり、入学式が終わっていた。
入学式が終わって、クラス別けが貼り出されるのを見に行く。掲示板の周りに生徒が集まって一喜一憂している。何故なら特別クラスのSクラスから成績順にクラス分けしているからだ。
僕は掲示板の前が空くのを少し離れて待っていた。
マリア・フォン・ロアール side
クラス別けが貼り出された掲示板を、私にとって唯一の友達のヒルダ・フォン・モントローデと一緒に見に行った。私達は Sクラスから見て行くと「あっ!」思わず声を上げてしまった。
「マリアどうしたの?」ヒルダが聞いてきたけど私はそれどころじゃなかった。Sクラスの首席、受験番号286番 彼だ!私もSクラス次席だったけど、そんな事より彼と同じクラスになった事が嬉しかった。
「マリア、私も貴女もSクラスよ!マリア貴女次席じゃない、凄いじゃない!」
「ありがとうヒルダ」
「でもイオニア王国で、天才の名を欲しいままにして来たマリアを押し退けて首席を取った人は誰なんだろう? 受験番号286番ってマリアの前よね、どんな人だった?」
「私が天才なんて……彼を見た後にそんな事思えないよ」
「イオニア王国の姫騎士にそこまで言わせるなんて、相当凄かったんだね」
「止めてよね、その呼び方」
「だって剣も魔法も凄いんだから、皆んなそう言ってるよ」
「もう、早く教室へ行きましょう。オリエンテーションがあるはずよ」
そして教室に行こうと振り返った時、彼が少し離れた場所で立っているのをヒルダが見つけた。
「ねぇ、ねぇ、マリア、あそこ見て!凄くカッコ良い子がいるよ!」
「……286番、彼が首席の286番よ」
その時私の耳に聞き覚えのある嫌な声が聞こえた。
「此れはこれは、ロアール伯爵家のマリア様ではないですか」
あぁ、やっぱりフォルムバッハ家のゲルトだ。ロンバルド都市同盟まで来れば顔を見ずに済むと思ったのに。ゲルト・フォン・フォルムバッハ、同じイオニア王国の子爵の四男、以前から私に求婚して来て何度も断っているのに懲りない奴。選民意識の塊でプライドばかり高い嫌な奴だ。
「家名や爵位で呼ばないで下さいますか、学院内では貴族も平民もありませんから。校則をお読みになった方が宜しいかと思いますけど」
「貴族と平民を同等に扱うなど馬鹿げてる。そんな校則は廃止するべきですね。所でマリア様のクラスは? 私は Aクラスでした」
「私もヒルダもSクラスです」
「なんだ、モントローデ家のヒルダじゃないか君も居たのか、まあ良い。マリア様は流石ですね、私も魔法が使えれば首席は間違い無かったのですがね。試験の評価基準を改めた方がいいですね」
「これから教室へ行くところですのから、失礼します」
私はヒルダと逃げる様に教室の方へ急いだ。
「では、またお会いしましょう」
慌てて教室に入って黒髪の彼に話し掛けられなかった事に落ち込んだ。でも彼も直ぐに教室へ来るわよね同じクラス何だもの。
でもその日のうちに彼に会う事は出来なかった。
人混みが苦手なユキトが掲示板を遠巻きに見ていると、背後から近づく気配に気付き振り返ると。
「ユキトさんですね、学院長先生がお呼びです」
掲示板から離れた場所で立っている僕に声を掛けたのは高等学院の受付のお姉さんだった。学院長先生が呼んでるって、やっぱり弁償しろとか言わないよね。僕は仕方ないのでお姉さんの後ろに付いて行く。
コン、コン。 「ユキトさんをお連れしました」
「どうぞ、入って下さい」
学院長室に入ると、中に爺ちゃん達が待っていた。
「あれ、爺ちゃん達なんで居るの?」
「なに、ユキトと一緒に帰るのに此処で待っておったんじゃ」
「でも、僕まだ教室へ行かなきゃいけないよ」
「構わないですよ、オリエンテーションだけですから、早くこのジジイ達を連れて帰って下さい」
「テメェが一番歳食ってるクセに」
「私はエルフですよ尺度が違います」
「フィリッポス、他にも話があったんじゃないのか」
「分かりましたか、少し長くなりますが聞いて下さい。此処のところ大きな戦争も魔物の氾濫も無く、比較的平穏な日々が続いていましたが、ロンバルドの北西部にある魔物の領域が少しおかしくなって来ています。魔素の濃度が上がっている事実を突き止めました。30年前に、大陸全土で同じ様な兆候が現れた事がありました」
「大氾濫が起こるのか?」
「いえ、30年前の様に大陸全土ではありませんから。でもそうなるとここ、ロンバルド都市同盟が不味い事になりそうです。魔物の氾濫でロンバルド都市同盟の力が堕ちれば今の微妙なバランスで成り立っている大陸各国の軍事バランスが崩れるでしょう」
「あぁ、何処の国も物流の中心であるここの港を欲しいだろうからな」
「そう言う事です。ロンバルドだけが氾濫によって疲弊すると周りの国が待ってましたと攻め寄せて来るでしょうね」
「それで俺たちにまさか、ロンバルドを護ってくれって言うんじゃねぇだろうな」
ヴォルフさんの殺気が膨れあがる。
「まあ、お待ち私達をここに呼んだって事は、まだ話があるんだろ」
バーバラ婆ちゃんがヴォルフさんを押さえる。
「貴方達はユキト君の為なら、自重をする気はないですよね。ユキト君を見れば、どういうふうに育てられたのか分かります」
「当たり前じゃ、儂の孫じゃぞ。儂はサツキにユキトの事を託されたんじゃ、ユキトには自由に生きて貰いたいのじゃ。儂等と同じように隠れるように生きて欲しいわけないじゃろう。ユキトに要らんチョッカイを掛ける奴等からは儂が命を懸けて護ってやる!」
「当たり前じゃねぇか、俺たちの弟子だぞ。師匠より先に死なせる訳にはいかねぇんだよ!」
ヴォルフさんの言葉に皆んなが頷く。
「貴方達がユキト君に、自重する事を教えていれば良かったのですが、ユキト君は入学試験で目立ち過ぎました。実は既に、ユキト君は各国の諜報部にマークされています。ロンバルド高等学院に在学中は私が目を光らせているので大丈夫だと思うのですが」
あぁ、やっぱりかロンバルドに来て試験が終わった辺りからその手の視線を感じてたんだよなー。
「そこでいっその事、各国に貴方達も含め力を示せば良いんじゃないかと思いませんか?大陸を統一しろとは言いませんが、大きな力を持つ者にはそれに応じた責任があると私は今も思ってます」
「30年前アンタはそう言ってアタシ達と袂を分かったんだね」
「えぇ、私は貴族の居ないロンバルド都市同盟で教育者として優れた人材を育てる事で間接的に他国に対抗しようと思いました。けれど事態が動いてる今、このままではロンバルドは各国の戦場になってしまうでしょう」
「それで、俺たちにどうしろと言うんだ」
「私達で国を興しませんか、選民意識の塊の貴族は必要ありません。暴利をむさぼる商人も要りません。犯罪奴隷や借金で自らを売る奴隷は、簡単に無くならないでしょうが、攫われて売られる人達や、現状では、奴隷の子供も生まれた時から自動的に奴隷になりますが、自分に非のない理由で奴隷に堕ちた人達が解放されて平穏な暮らしの出来る国を種族間差別のない国を作ってみませんか」
「随分と大風呂敷を広げるじゃかいか。ちゃんとしたプランは、あるのかい?」
「ロンバルド都市同盟は、現在4の都市と幾つもの村で構成されているのは知っての通りだと思いますが、此処で北西部の魔物の領域が関わって来るんですけど、貴方達は以前あそこには小国が有ったのを覚えてるでしょうか」
「……ラスケスだっけな、確か」
「えぇ、元々魔物の領域に近かったせいもあり、前回の大氾濫で国は亡びましたが、あそこには大きな湖もありますし川もあります、近くには良い穀倉地帯に成りそうな土地もあります。ロンバルドにも近く街道の整備もしやすいのです。多分2~3年の内に起こる氾濫を鎮めれば一時的に魔素も薄くなります。その隙に魔物の領域を解放すれば街を作るには良い土地です」
「西のブランデン帝国と北のイオニア王国、中央のケディミナス教国に楔を打ち込む場所だな」
「その場所に魔法を使って力技で一気に堅固な城塞都市を作り上げるのです。そうすればロンバルドは他国の過剰な干渉を受けない共和国に出来るでしょう」
「国が安定するまでの間、俺たちが他所の国のチョッカイから護るんだな」
「あの、チョット良いですか?」
「なんだい、ユキト君」
「その新しい国はエルフも安心して暮らせますか?」
「どういうことだい」
ユキトはサティスの事を話した。ユキトが死んだらサティスまで死を選ぶしか無い、そう思わせる環境を変えたかった。
「成る程、多分直ぐには無理だと思いますが新しく作る街から徐々にエルフや兎人族が攫われて奴隷にされる事のない国にしていけると思いますよ」
「爺ちゃん、僕はサティスがフードを被らなくても普通に歩ける街が作りたい。解放させられるより僕に殉じることがマシな世の中なんで間違ってる」
サティスの眼に涙が溢れる。
「ハァ~、この歳になって国と喧嘩するとはねぇ」
「フィリッポスの思惑にハマったのは癪だけど確かに俺たち獣人を虐げる国は多いからな、その受け皿になるなら悪かねぇか」
「神の名の元に、好き勝手やってる生臭坊主の国もありますからね」
「今直ぐという話じゃありませんが、私も今から準備はしておきます。ユキト君にも色々と教えたい事もありますし」
「フィリッポス、ユキトに教えるのは授業中にしろよ。ユキトは忙しいんだからな!」
「それでフィリッポスは何を教える積もりなんですか?」
「魔道具と魔法陣を教えようと思ってます。ゴーレムを作れるようになれば防衛に力を発揮しますからね」
ゴーレムかぁー、楽しそうだな。
「さて話が長いから疲れたね、今日は帰るよ」
「えぇ、今日はこれで解散しましょう」
帰りの馬車でサティスが僕に聞いて来た。
「ユキト様は私が解放されて普通に街や村で暮らせるようになれば、もう私はお側に置いて頂けないのですか?」
「えっ!サティスは自由になりたくないの?」
「馬鹿だね、この子はサティスはアンタと一緒に生きて行きたいって言ってるのさ。その気持ちに応えるのが男ってもんだろ」
「……分かった、そうだね。僕はまだ子供だけどサティスの隣にいて恥ずかしくない男になるよ。僕と一緒に生きて行こう」
「明日から私も訓練を始めます。ユキト様と一緒に戦えるように」
「よし、よう言うた!それでは儂の出番じゃの、サティスの装備は任せておけ」
「俺たちの装備も更新してくれよ」
「そうだね僕のメイスも新調して欲しいかな」
「アタシは必要ないけどね」
「儂の太刀と槍はユキトの装備を作るときに作ったからの、防具を新調するかの」
馬車の揺れってもっとマシにならないかな?フィリッポス先生に聞いてみよう。
サティスが起こしてくれるのにも慣れて来た。
「顔を洗って着替えて下さい」
ベッドから這い出て顔を洗いに向かう。
鍛錬用の服に着替え裏庭へ向かう。軽くストレッチをしてから木刀を取り出し素振りを始める。素振りから型稽古を済ませた頃に、ヴォルフさんが降りて来た。
「身体は温もったか?」
「ハイ、お願いします」
ヴォルフさんと一定の距離を取り組み手を始める。
組み手を終えると、汗と汚れを生活魔法のクリーンを使って落としてから、真新しい制服に袖を通して食堂へ行く。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「今日の入学式には、アタシ達も行くからね」
「大丈夫なの? 六英雄が揃うなんて目立たない?」
「大丈夫さ、ちょっとしたコネを使って貴賓席を用意させたから」
コネって、フィリッポスさんも大変だなぁ。
皆んなで一緒に馬車に乗って入学式に向かう。
学院に着いて、爺ちゃん達と別れて入学式の会場へ向かう。1クラス 30人で、AからDまでの4クラスと、それとは別に、15人定員のSクラスが1クラスある。
授業は選択制で、自分の好きな授業を選んで合計の単位数があれば進級出来る。僕は魔道具製作と魔法陣それと魔法薬学を学ぼうと思っている。
そんなことを考えてたら学院長先生の話が終わり、入学式が終わっていた。
入学式が終わって、クラス別けが貼り出されるのを見に行く。掲示板の周りに生徒が集まって一喜一憂している。何故なら特別クラスのSクラスから成績順にクラス分けしているからだ。
僕は掲示板の前が空くのを少し離れて待っていた。
マリア・フォン・ロアール side
クラス別けが貼り出された掲示板を、私にとって唯一の友達のヒルダ・フォン・モントローデと一緒に見に行った。私達は Sクラスから見て行くと「あっ!」思わず声を上げてしまった。
「マリアどうしたの?」ヒルダが聞いてきたけど私はそれどころじゃなかった。Sクラスの首席、受験番号286番 彼だ!私もSクラス次席だったけど、そんな事より彼と同じクラスになった事が嬉しかった。
「マリア、私も貴女もSクラスよ!マリア貴女次席じゃない、凄いじゃない!」
「ありがとうヒルダ」
「でもイオニア王国で、天才の名を欲しいままにして来たマリアを押し退けて首席を取った人は誰なんだろう? 受験番号286番ってマリアの前よね、どんな人だった?」
「私が天才なんて……彼を見た後にそんな事思えないよ」
「イオニア王国の姫騎士にそこまで言わせるなんて、相当凄かったんだね」
「止めてよね、その呼び方」
「だって剣も魔法も凄いんだから、皆んなそう言ってるよ」
「もう、早く教室へ行きましょう。オリエンテーションがあるはずよ」
そして教室に行こうと振り返った時、彼が少し離れた場所で立っているのをヒルダが見つけた。
「ねぇ、ねぇ、マリア、あそこ見て!凄くカッコ良い子がいるよ!」
「……286番、彼が首席の286番よ」
その時私の耳に聞き覚えのある嫌な声が聞こえた。
「此れはこれは、ロアール伯爵家のマリア様ではないですか」
あぁ、やっぱりフォルムバッハ家のゲルトだ。ロンバルド都市同盟まで来れば顔を見ずに済むと思ったのに。ゲルト・フォン・フォルムバッハ、同じイオニア王国の子爵の四男、以前から私に求婚して来て何度も断っているのに懲りない奴。選民意識の塊でプライドばかり高い嫌な奴だ。
「家名や爵位で呼ばないで下さいますか、学院内では貴族も平民もありませんから。校則をお読みになった方が宜しいかと思いますけど」
「貴族と平民を同等に扱うなど馬鹿げてる。そんな校則は廃止するべきですね。所でマリア様のクラスは? 私は Aクラスでした」
「私もヒルダもSクラスです」
「なんだ、モントローデ家のヒルダじゃないか君も居たのか、まあ良い。マリア様は流石ですね、私も魔法が使えれば首席は間違い無かったのですがね。試験の評価基準を改めた方がいいですね」
「これから教室へ行くところですのから、失礼します」
私はヒルダと逃げる様に教室の方へ急いだ。
「では、またお会いしましょう」
慌てて教室に入って黒髪の彼に話し掛けられなかった事に落ち込んだ。でも彼も直ぐに教室へ来るわよね同じクラス何だもの。
でもその日のうちに彼に会う事は出来なかった。
人混みが苦手なユキトが掲示板を遠巻きに見ていると、背後から近づく気配に気付き振り返ると。
「ユキトさんですね、学院長先生がお呼びです」
掲示板から離れた場所で立っている僕に声を掛けたのは高等学院の受付のお姉さんだった。学院長先生が呼んでるって、やっぱり弁償しろとか言わないよね。僕は仕方ないのでお姉さんの後ろに付いて行く。
コン、コン。 「ユキトさんをお連れしました」
「どうぞ、入って下さい」
学院長室に入ると、中に爺ちゃん達が待っていた。
「あれ、爺ちゃん達なんで居るの?」
「なに、ユキトと一緒に帰るのに此処で待っておったんじゃ」
「でも、僕まだ教室へ行かなきゃいけないよ」
「構わないですよ、オリエンテーションだけですから、早くこのジジイ達を連れて帰って下さい」
「テメェが一番歳食ってるクセに」
「私はエルフですよ尺度が違います」
「フィリッポス、他にも話があったんじゃないのか」
「分かりましたか、少し長くなりますが聞いて下さい。此処のところ大きな戦争も魔物の氾濫も無く、比較的平穏な日々が続いていましたが、ロンバルドの北西部にある魔物の領域が少しおかしくなって来ています。魔素の濃度が上がっている事実を突き止めました。30年前に、大陸全土で同じ様な兆候が現れた事がありました」
「大氾濫が起こるのか?」
「いえ、30年前の様に大陸全土ではありませんから。でもそうなるとここ、ロンバルド都市同盟が不味い事になりそうです。魔物の氾濫でロンバルド都市同盟の力が堕ちれば今の微妙なバランスで成り立っている大陸各国の軍事バランスが崩れるでしょう」
「あぁ、何処の国も物流の中心であるここの港を欲しいだろうからな」
「そう言う事です。ロンバルドだけが氾濫によって疲弊すると周りの国が待ってましたと攻め寄せて来るでしょうね」
「それで俺たちにまさか、ロンバルドを護ってくれって言うんじゃねぇだろうな」
ヴォルフさんの殺気が膨れあがる。
「まあ、お待ち私達をここに呼んだって事は、まだ話があるんだろ」
バーバラ婆ちゃんがヴォルフさんを押さえる。
「貴方達はユキト君の為なら、自重をする気はないですよね。ユキト君を見れば、どういうふうに育てられたのか分かります」
「当たり前じゃ、儂の孫じゃぞ。儂はサツキにユキトの事を託されたんじゃ、ユキトには自由に生きて貰いたいのじゃ。儂等と同じように隠れるように生きて欲しいわけないじゃろう。ユキトに要らんチョッカイを掛ける奴等からは儂が命を懸けて護ってやる!」
「当たり前じゃねぇか、俺たちの弟子だぞ。師匠より先に死なせる訳にはいかねぇんだよ!」
ヴォルフさんの言葉に皆んなが頷く。
「貴方達がユキト君に、自重する事を教えていれば良かったのですが、ユキト君は入学試験で目立ち過ぎました。実は既に、ユキト君は各国の諜報部にマークされています。ロンバルド高等学院に在学中は私が目を光らせているので大丈夫だと思うのですが」
あぁ、やっぱりかロンバルドに来て試験が終わった辺りからその手の視線を感じてたんだよなー。
「そこでいっその事、各国に貴方達も含め力を示せば良いんじゃないかと思いませんか?大陸を統一しろとは言いませんが、大きな力を持つ者にはそれに応じた責任があると私は今も思ってます」
「30年前アンタはそう言ってアタシ達と袂を分かったんだね」
「えぇ、私は貴族の居ないロンバルド都市同盟で教育者として優れた人材を育てる事で間接的に他国に対抗しようと思いました。けれど事態が動いてる今、このままではロンバルドは各国の戦場になってしまうでしょう」
「それで、俺たちにどうしろと言うんだ」
「私達で国を興しませんか、選民意識の塊の貴族は必要ありません。暴利をむさぼる商人も要りません。犯罪奴隷や借金で自らを売る奴隷は、簡単に無くならないでしょうが、攫われて売られる人達や、現状では、奴隷の子供も生まれた時から自動的に奴隷になりますが、自分に非のない理由で奴隷に堕ちた人達が解放されて平穏な暮らしの出来る国を種族間差別のない国を作ってみませんか」
「随分と大風呂敷を広げるじゃかいか。ちゃんとしたプランは、あるのかい?」
「ロンバルド都市同盟は、現在4の都市と幾つもの村で構成されているのは知っての通りだと思いますが、此処で北西部の魔物の領域が関わって来るんですけど、貴方達は以前あそこには小国が有ったのを覚えてるでしょうか」
「……ラスケスだっけな、確か」
「えぇ、元々魔物の領域に近かったせいもあり、前回の大氾濫で国は亡びましたが、あそこには大きな湖もありますし川もあります、近くには良い穀倉地帯に成りそうな土地もあります。ロンバルドにも近く街道の整備もしやすいのです。多分2~3年の内に起こる氾濫を鎮めれば一時的に魔素も薄くなります。その隙に魔物の領域を解放すれば街を作るには良い土地です」
「西のブランデン帝国と北のイオニア王国、中央のケディミナス教国に楔を打ち込む場所だな」
「その場所に魔法を使って力技で一気に堅固な城塞都市を作り上げるのです。そうすればロンバルドは他国の過剰な干渉を受けない共和国に出来るでしょう」
「国が安定するまでの間、俺たちが他所の国のチョッカイから護るんだな」
「あの、チョット良いですか?」
「なんだい、ユキト君」
「その新しい国はエルフも安心して暮らせますか?」
「どういうことだい」
ユキトはサティスの事を話した。ユキトが死んだらサティスまで死を選ぶしか無い、そう思わせる環境を変えたかった。
「成る程、多分直ぐには無理だと思いますが新しく作る街から徐々にエルフや兎人族が攫われて奴隷にされる事のない国にしていけると思いますよ」
「爺ちゃん、僕はサティスがフードを被らなくても普通に歩ける街が作りたい。解放させられるより僕に殉じることがマシな世の中なんで間違ってる」
サティスの眼に涙が溢れる。
「ハァ~、この歳になって国と喧嘩するとはねぇ」
「フィリッポスの思惑にハマったのは癪だけど確かに俺たち獣人を虐げる国は多いからな、その受け皿になるなら悪かねぇか」
「神の名の元に、好き勝手やってる生臭坊主の国もありますからね」
「今直ぐという話じゃありませんが、私も今から準備はしておきます。ユキト君にも色々と教えたい事もありますし」
「フィリッポス、ユキトに教えるのは授業中にしろよ。ユキトは忙しいんだからな!」
「それでフィリッポスは何を教える積もりなんですか?」
「魔道具と魔法陣を教えようと思ってます。ゴーレムを作れるようになれば防衛に力を発揮しますからね」
ゴーレムかぁー、楽しそうだな。
「さて話が長いから疲れたね、今日は帰るよ」
「えぇ、今日はこれで解散しましょう」
帰りの馬車でサティスが僕に聞いて来た。
「ユキト様は私が解放されて普通に街や村で暮らせるようになれば、もう私はお側に置いて頂けないのですか?」
「えっ!サティスは自由になりたくないの?」
「馬鹿だね、この子はサティスはアンタと一緒に生きて行きたいって言ってるのさ。その気持ちに応えるのが男ってもんだろ」
「……分かった、そうだね。僕はまだ子供だけどサティスの隣にいて恥ずかしくない男になるよ。僕と一緒に生きて行こう」
「明日から私も訓練を始めます。ユキト様と一緒に戦えるように」
「よし、よう言うた!それでは儂の出番じゃの、サティスの装備は任せておけ」
「俺たちの装備も更新してくれよ」
「そうだね僕のメイスも新調して欲しいかな」
「アタシは必要ないけどね」
「儂の太刀と槍はユキトの装備を作るときに作ったからの、防具を新調するかの」
馬車の揺れってもっとマシにならないかな?フィリッポス先生に聞いてみよう。
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