黒兎は月夜に跳ねる

小狐丸

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二十七話 あとはお任せ

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 リルがルビーを抱いたまま、テトテトと駆け出す。

「ただいまぁー!」
「ピィ!」

 バルガドに戻った俺たちは、真っ直ぐに教会へと戻って来ていた。

 馬車が止まり、俺が抱いてリルを降してあげると、リルは教会の居住区の方に走って行く。

 パメラさんは優しいからな。リルはパメラさんによく懐いている。

 勿論、師匠を始めとして、この教会の人間はみな優しいけどね。

「お帰り。上手く集めたみたいだね」
「お帰りシュート君。ザーレの表情を見るに、なかなか期待できそうだね」
「ただいま。師匠、バルカさん。流石に火竜はないと思うけどな」

 リルがパメラさんに飛び付き抱っこされている。そこに師匠とバルカさんも出迎えてくれた。

 バルカさんの興味は、既に持って帰った素材に意識は向いてるけどな。

「ザーレ、早速ガンツの工房へ行くぞ」
「ちょっと待てバルカ。俺は今帰ったばかりなんだぞ。明日にしてくれ」
「ダメだ。先に必要な素材だけでも渡せ。その後ゆっくり休めばいい」
「チッ、こりゃ言っても聞かねえな」

 ガシガシと頭を掻いて渋い顔をするザーレさんだけど、こうなる事は分かってたっぽいね。

 諦めてバルカさんに引っ張られてガンツさんの工房に行ってしまった。

「はぁ、本当に忙しない奴らだね」
「流石にかわいそうに思うな。俺も手伝ったけど、解体はザーレさん任せだったからな」

 師匠がやれやれと呆れたように肩を竦める。

「ザーレは一流の職人だからね。解体をさせれば、私たちの中でも一番さ」
「いや、師匠は解体なんてしないだろ」

 仲間内でザーレさんが一番解体が上手いと言うが、師匠は絶対解体なんてしない人だ。

 俺がそうツッコミを入れても知らん顔している。

「はぁ、兎に角、暫くはゆっくりさせてもらうよ」
「ゆっくり出来たらいいねぇ」
「やめてくれよ。縁起でもない」

 ニヤニヤして師匠がそう言うも、俺もそんな気がしている。

 職人でもない俺に出来る仕事はなさそうに思うんだけどなぁ。



 案の定と言うが、俺はガンツさんに引っ張りだされ、工房に連れて来られた。

 ガンッ! カンッ! ガンッ! カンッ!

「ほれっ、しっかり打たんか!」
「クッ……」

 俺はガンツさんに向こう鎚を打たされていた。

 向こう鎚とは、主鍛治であるガンツさんと交互に鎚を振るう助手みたいなものだ。

 長い柄の大鎚を振るい、ガンツさんの指示通りに金属を打つ。

「魔力をもっと込めるんじゃ!」

 ガンツが大声で怒鳴る。

 必死な俺は、それに反応するのも面倒なので、ひたすら魔力を込めて大鎚を振るう。

 どうしてこうなったと思わないでもないが、自分の装備の為だからな。

 今、俺がガンツさんと鎚を振るっているのは、エンペラーグラトニースライムの核に、各種素材をバルカさんの錬金術により合成されたモノだ。

 何故、鎚で叩いているかというと、魔力を込めて変形させる為だった。この合成されたモノは、普通に手から魔力を込めても何も変わらない。

 それはそうだろう。普通に魔力を込めて変形するなら、魔銃を撃つ度に魔銃が歪んでしまう。

 この素材は、熱く熱し魔力を込めた鎚で叩く事で、少しずつ形を変える事が出来る。

 とは言え、それでは俺とガンツさんで相談しながらデザインしたトーラスレイジングブルカスタム擬きにはならない。

 この素材の面白いところは、素材に込めれる魔力がオーバーフローするまで魔力を込めて叩くと、そこからは土魔法で比較的自由に成形できるんだ。

 ただ、魔力はすぐに抜けてしまうので、結果、少し成形しては叩き、少し成形しては叩きを繰り返して完成を目指すらしい。

 うん、魔銃を頼んだ少し前の俺に文句を言ってやりたい。


 俺もガンツさんも、流石にこの作業を一日中は無理だ。それにあまり時間が取れないと、リルが拗ねてしまうからな。それにさすがのガンツさんも魔力がもたない。

 一日に八時間作業する為に工房へ通う日が十日経った頃、やっと全ての部品の成形を終えた。

 本当はもう少し早く出来たんだが、ガンツさんが魔銃の表面に細工を入れ始めて、完成が遅れた。

 この一見意味の無さそうな表面の飾り細工だが、実はちゃんと意味はあるらしい。魔銃の威力向上や耐久性の向上が望めるそうだ。とは言っても、元々の素材の性能とバルカさんの錬金術で、飾り細工なんて無くても大丈夫らしいが、そこは細かな部分まで手を抜かないガンツさんの拘りだろうな。

 俺としても見た目がカッコよくなるので大歓迎だ。

 


 バルカさんは、魔銃の素材を錬金した後、ザーレさんから火竜の爪と牙、タイラントシザーフィッシュの剃刀の様な鱗を受け取ると、俺が火竜の首を斬った大剣へ合成強化していた。

 もともとガンツさん製の魔法金属製大剣が、さらにパワーアップして、文字通り魔剣となった。

 斬れ味は格段に上昇し、頑丈さも比べものにならないほど上がった。

 そして魔力を流すと炎の追加ダメージを与え、さらに炎の斬撃を飛ばす事も可能な魔法剣。

 バルカさん曰く、国宝でもこのクラスの剣はそう無いらしい。

「シュート君、これは私からのプレゼントだ」
「えっと、ブレスレットですか?」

 そんな大剣を魔改造してくれたバルカさんから、銀色のシンプルなデザインの腕輪を渡された。

「これはマジックバッグみたいな物だよ」
「えっ、これに物を収納できるんですか?」

 思わず丁寧な話し方になってしまう。

 それくらいコレは俺にとって嬉しい物だ。

 俺は悲しいかな、時空間属性にこれっぽっちも適性がない。闇魔法の影収納を習得できる可能性は高いが、武器のクイックチェンジには向かない。

 だからザーレさんの使ってたマジックバッグも羨ましくて仕方なかったんだ。

「容量はマジックバッグに比べると小さいけどね。それでも今回、色々と素材を持って来てくれたからね。なかなか自慢の品になったと思うよ」
「バルカさん、ありがとうございます!」

 このタイプの物をアイテムボックスと呼ぶらしい。師匠が持っている物より性能はいいらしい。

「これでシチュエーションによって武器を替えて戦える」
「多才なシュート君には必須だろ?」
「ああ、流石に普段から大剣を背中に担ぐのは目立つし動きが阻害されるからな」

 それもまた威圧感があって、俺に喧嘩を売る者が減っていいかもしれないが。

「魔銃は仕上げにもう少し掛かるから、明後日来てくれるかな」
「了解。楽しみにしてるよ」

 俺は左の手首に腕輪を嵌めると、自動的に俺の手首にフィットした。

 こういう所がファンタジーだよな。

 俺は巨大な魔剣を収納してみる。

 スムーズに出し入れ出来るか、何度か試してみたが何も問題ない。

 バルカさんの話では、鞄に小さな魔石を加工して嵌め込んであるマジックバッグと同じで、この腕輪にも小さな魔石が嵌め込まれてある。

 これは収納空間と出し入れする際に僅かに魔力を使うのだが、この魔石はそれ用らしい。

 同時にこの魔石に俺の魔力を登録して、他の人間に出し入れ出来ないようになってある。





 本当は教会でゆっくりと休むつもりだったんだがね。

 何故か必死でガンツさんの向こう鎚打ってるし、めちゃハードな日々だったよ。

 それでも時間をみつけては、リルとルビーとコミュニケーションを取っていたので、リルが拗ねる事もなかったし、ルビーはルビーで俺の魔力を吸収して少し大きくなった。

 この間、一番働いていたのはタナトスだろうけどな。

 フランソワーズさん関連で、ルトール伯爵関連やブガッティ男爵関連の調査と証拠集めを頼んでたからな。

 お陰でルトール伯爵は無理そうだが、ブガッティ男爵は潰しても問題なさそうだ。

 それなりに証拠も集まり、隠し財産も幾つか見つけてある。

 ブガッティ男爵の跡取りや家族も腐ってたら、遠慮なくいただく予定だ。

 腐った貴族の奴らと犯罪組織ヒュドラの奴らは、本当に大勢の罪もない人達を食い物にしている。

 因みに、誘拐の片棒を担いだように見えるバッツ伯爵家だが、これは完全に敵対派閥間の対立を煽る役目を知らぬ間に押し付けられたというのが真相らしい。お茶会に同行した護衛や侍女が無事に戻っているのも、バッツ伯爵家でフランソワーズさんが拐われたと知らせる為のようだ。実際、オートギュール伯爵家とバッツ伯爵家は、あと少し師匠からのフランソワーズさん保護の一報が遅ければ、内乱に発展していたかもしれない。

 色々と証拠が集まる中、師匠もめちゃ怒ってたからな。

 ひょっとすると、今回は俺だけじゃなく師匠も参戦するかもしれないな。


 フランソワーズさんが片付いたら、次はユミルさんなんだよな。

 閉鎖的な種族って大丈夫かね。

 エルフ種族全部相手取って戦争なんてなりかねないんだよな。

 うちには変わり者のエルフ、バルカさんと、エルフの血が入った師匠がいる。パメラさんにもエルフの血が四分の一以上入っているそうだしな。

 うちはエルフに縁があると言えるが、嫌がるんだよな。

 エルフの頭の硬い奴らは、純血主義だそうで、師匠やパメラさんを下に見るらしい。

 と言うか、エルフ以外の他の種族全てを下に見ているらしい。エルフであるバルカさんが言うんだから間違いない。

 まあ、先ずは糞貴族に鉄槌を下してからだな。



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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。

お手に取って頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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