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十九話 黒兎、使い魔を召喚する
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その場に微妙な空気が流れる。
召喚の魔法陣を提供したバルカさんや師匠も光る魔法陣の中心に鎮座する大きな卵を見て、どうリアクションしていいのか戸惑っているみたいだ。もちろん俺も同じで、キョロキョロと周りを見渡すも、どうしていいか分からない。
羊皮紙から中庭の地面に飛び出して直径2メートル程の大きさになった魔法陣は、いまだにその光を失っていない。
戸惑う俺たちの視線の先で、卵からピキッと音が聴こえてきた。
やがてその卵が割れる音が続く。
「ピィーー!!」
勢いよく卵が割れて中から鳴き声と共に赤い鳥の雛が現れた。
「ピィ! ピィ!」
予想外の出来事に俺たちが呆然としていると、その雛がヨチヨチと俺の足元まで近付いて来た。
「わぁー! にぃにぃ! とりさんかわいいぃー!」
「……はっ、これは、召喚は成功したのか?」
一人通常運転だったリルが可愛いとはしゃぎ、固まっていた周囲も我に戻る。
俺の脚に身体を擦り付けるように甘えているのか? ただ、確かなのは、俺はこの雛と魔力の繋がりを感じていた。
俺は産毛でフカフカな赤い雛を抱き上げる。
雛だけあって、少しズングリとしているフォルムは確かに可愛い。
ただ、生まれたばかりのそのサイズは烏骨鶏の成鳥くらいある。
「わぁー、ふわふわっ!」
「うーん、バルカさん、これってどうなんだ?」
リルが嬉しそうに雛に抱きつき撫でまわす。
俺はバルカさんに召喚魔法が成功したのか聞く。
「……一応、成功と言えるのだろうね」
「はぁ、驚いたね。あいつら何処で手に入れたのやら。その雛はおそらく、フェニックスだね」
「フェニックスって、不死鳥か?」
バルカさんの顔が引き攣っている気がする。その理由を師匠が教えてくれる。
どうやらこの雛は、フェニックスの雛らしい。
この世界でフェニックスが、どういう立ち位置なのかは分からないが、バルカさんの表情と師匠の話し方から、尋常じゃない存在なんだろう。
「シュートの世界にもフェニックスが居たのかい?」
「いや、神話や御伽噺の類いの中の存在だな」
「まぁ、この世界でも似たようなものさ」
この世界でもフェニックスはとてつもなくレアな存在らしい。
「フェニックスのランクはね、7なんだよ」
「うわっ、それって大丈夫なの?」
バルカさんがフェニックスのランクを教えてくれた。フェニックスはランク7、場合によってはその不死性からランク8だとも言われている。上位の竜と同ランクというとんでもない魔物だった。
「驚くのはそれだけじゃないんだ。希少さで言えば、竜種よりも遥かにレアなんだよフェニックスは」
「……よく犯罪組織なんかが手に入れれたな」
「そんなの偶然に決まってるさ」
ランクは同じでも、竜種よりも遥かにレアなフェニックスの卵を、犯罪組織の末端がよくも手に入れれたと思ったんだが、それはフェニックス故の事らしい。
竜種の卵を手に入れるのは、竜の巣に入るしか方法はない。それはイコール死を意味する。
同じ理由で、ランクは落ちるが野生のワイバーンや飛竜の卵を入手するのも命がけだ。
だけどフェニックスは少し事情が異なるそうだ。
「フェニックスの卵は、孵化する条件が不明でね。誰も孵化させる事が出来ないから、偶然見つけてもワイバーンや飛竜の無精卵だと思われて捨てられる事が多いのさ」
「それに、フェニックスの卵は育ち始めるまで壊すことも破ることも出来ないらしいよ」
師匠やバルカさんは流石に年の功なのか、伝説級であるフェニックスについてもある程度知っていた。
巣に産むワイバーンや飛竜と違い、フェニックスは卵を魔力の豊富な場所に産みっぱなしらしい。そして孵化の時を何年も何千年も待つらしい。
「フェニックスは聖獣だからね。雌雄は関係ないらしいよ。一応、全ての個体は雌だと言われているね」
「だいたい、一度産まれてしまうと、不死鳥の名の通り不滅だからね。卵を産む間隔も数千年に一度あるかないか。今のこの世界にも五羽も居ないんじゃないかな」
師匠とバルカさんの知りうる範囲でも、この世界のフェニックスもとんでもない存在だった。俺の使い魔にしてもいいのか?
「……そう言えば、俺、生き物って飼った事ないぞ」
「心配いらないよ。使い魔にすると、基本的に主従で魔力のパスが繋がるからね。それで何も食べなくても大丈夫なのさ」
「良かった。こいつ、まだ雛だから、離乳食でもあげないとダメなのかと思ったよ」
鳥の雛にあげる餌なんて知らないからな。
そう思ってリルが抱くフェニックスの雛を見ると、つぶらな瞳で何かを訴えているように感じる。これは使い魔の感情や意志が伝わって来ているのか?
「ああ、因みにうちのミネルヴァは、嗜好品として肉でも果物でも野菜でも食べるよ」
師匠が食べ物の話をすると、フェニックスの雛からも食べたいという気持ちが伝わってきた。
「ひょっとして、お前も何か食べたいのか?」
俺が返事を期待せずに聴くと、フェニックスの雛がブンブンと首を縦に振った。
「なんだお前、生まれたばかりなのに賢いな」
「聖獣だと言ってるだろ? スタートからして普通の生物とは違うし成長も早いと思うよ」
「どのくらいデカくなるんだ?」
「そうだね……、確か、翼を広げれば10メートルくらいだったっけね」
「ああ、エルフの伝承ではそのくらいだったと思う」
「いや、大き過ぎるよ」
翼を広げると10メートルくらいって、もうゼロ戦じゃん。
「大丈夫だよ。フェニックスは精霊に近い聖獣だからね。多分、体のサイズは小さく出来る筈さ。まぁ、大きくは無理だろうけどね」
バルカさんがそう言うと、リルの腕の中でウンウンと頷く雛。本当に賢いな。人の話している事が理解できている。
「そうか、それなら成長しても大丈夫だな」
「シュート、名前を付けてあげな。それで使い魔との契約が完了する」
「名前か……」
俺は改めてフェニックスの雛を観察する。
フカフカの産毛に覆われた雛は、鮮やかな赤い色だけど、尾の先と翼の先だけが黒いのに気がついた。
「黒が混じってるのは普通なのか師匠?」
「うーん、おそらくシュートの魔力で孵化したから、シュートの魔力の影響を強く受けたんだろうね。多分、鳥系の魔物に共通する風属性に加え、フェニックス固有の火と光(神聖)属性、そこにシュートの闇属性を受け継いだんだと思うよ」
名前を付けろと言われて悩む。
人との接触なんて、ほぼジジイとだけだった俺には、自分がその辺のセンスがあるのかなんて分からない。
わかりやすく、赤い色から連想してみる。
スカーレット、ヴァーミリオン、ルージュ、クリムゾン、ガーネット、ルビー。
「よし! お前はルビーだ」
「ピィ!」
気に入ったようで、嬉しいという気持ちが伝わってくる。
「るびーちゃん! リルはリルなの!」
「ピィ!」
リルもだいぶ表情が豊かになってきた。ルビーの存在はリルにとってもいい刺激になりそうだ。
ただ、ミネルヴァと違い、ルビーじゃ即戦力にはならないんだよな。
「なあ師匠」
「なんだい?」
「ルビーじゃ諜報任務は無理だよな」
そう、先ず、まだ雛だから当然だけど、成鳥になったとしても、赤くどこか神々しい雰囲気さえあるルビーじゃ目立って仕方ないだろう。
「……まぁ、無理だね」
「シュート君、フェニックスなんかが街に現れたらパニックになるぞ。まあ雛の見た目でフェニックスとバレることはないだろうがね」
「だよなぁ」
ランク7のフェニックスが街に来たら、それはもうパニックどころの話じゃない。幸い、フェニックスがレア過ぎて、世間一般にはバレる確率は少ないだろう。
「まぁ、暫くはその心配はないけどな」
「ピィ?」
俺の呟きにルビーが首を傾げる。
「でもそうなると本来の目的、俺用の諜報、探索専門の使い魔が欲しくなるな」
「そうだね。方法は幾つかあるよ」
バルカさんが教えてくれたのは、実際に目的に沿った魔物を捕獲して、それを召喚魔法で使い魔にする方法。
これならある程度狙った魔物を使い魔に出来る。ただ、このベルガドの街周辺となると、魔物の種類が限られてしまう。師匠を拾った辺り、俺がこの世界に降り立った場所周辺なら、ランクも高く諜報向きの魔物も棲息していたらしい。
普通に召喚魔法を使うだけなら、使い魔として現れるのは、術者の力量や相性もあるが、何が出て来るかはランダムだから、狙って捕獲する分ある程度狙った魔物を使い魔できるのは利点だ。
俺とバルカさんが話していると、師匠が何を言っているのやらと呆れ気味に首を横に振る。
「シュート、お前は闇属性に高い適性があるんだよ。なら死霊魔法を使えばいいじゃないか」
「いや、師匠。死霊魔法って……」
「イーリス、私も教会の司祭がそれを言うのはどうかと思うぞ」
師匠の死霊魔法発言に、バルカさんからツッコミが入る。
光(神聖)属性や闇属性に善悪はない。それは本当なんだが、唯一俺でもこれはイメージが悪いと思う魔法が闇魔法にはある。
俺は師匠から様々な本を読まされ、且つ直接色々と教えて貰った。
その中には、闇魔法を悪用した魔法使いの事例も何件かあった。
死者を冒涜するネクロマンサーの存在。
奴隷を縛る隷属魔法。
人の精神に作用する魔法の悪用など……
教会が闇属性を忌避する原因だ。
師匠のように、属性に善悪はないと言う教会関係者は少ない。
「死霊魔法がダメなのは、実力がない術者が、力を補う為に触媒として人の死体や骨を使う奴が居るからさ。本来の魔力だけで召喚された死霊系の魔物は、無属性魔法で呼び出す魔物と何も変わらないよ」
「そう言うものか」
「いや、まあ、そうなんだけどね」
師匠の話では、死霊系の中でもゾンビやグール、スケルトンなどは、その見た目も悪いし、闇属性が忌避されるのも分かるが、ゴーストやレイスみたいなアストラル系の魔物なら、姿も気配も消す事が出来るので、諜報任務にはもってこいだと言う。
いや、確かにその通りだけどね。
「シュート君、闇魔法は私もイーリスも使えないからアドバイス程度しか出来ないが、確かに死霊系の魔物は諜報任務にピッタリなのは確かだよ」
「えっと、俺って教会で暮らしているけど、死霊系の使い魔が浄化されてしまうって事はないのか?」
バルカさんからも目的が諜報任務と決まっているなら、死霊系の魔物は有用だと言われる。
そこで俺は少し気になった事がある。実は教会の敷地の中は、不思議と清浄な空気や魔力に満ちているような気がするんだ。これは俺の気のせいとかじゃないと思う。
そんな場所に死霊系の魔物が耐えれるとは思えないんだけどな。
「確かに普通の死霊系の魔物が私の教会の敷地に一歩でも入ろうものなら、一瞬で天に召されるさ。だからシュート、死霊召喚の時に光属性の魔力を少し混ぜ込むんだよ」
「光と闇って、反発しないのか?」
「属性同士の相性もあるから混ざり難いのは確かだけど、無理ではないさ」
俺が死霊を召喚するだけで、俺との魔力の繋がりで、多少の光属性への耐性がつくらしい。それでもゴーストやレイスなんかは光属性が弱点なのは変わらない。そこで召喚時に少し光属性の魔力を混ぜる事で、多少はマシになるそうだ。
「教会の中に入れないと、教会の不正を探れないからね。それにシュートと魔力のパスで繋がるんだ。生半可な光魔法じゃ浄化されないさ」
「教会を調べる気かよ! いや、いいんだけど……」
確かに教会組織を調査する事も普通にあるだろう。それに召喚主である俺と魔力のパスが繋がると光魔法にも強くなるらしい。
兎に角、死霊を召喚する事を決めたが、それはリルを寝かしてからにする。
もし召喚された魔物の見た目が怖かったら困るからな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
お手に取って頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
召喚の魔法陣を提供したバルカさんや師匠も光る魔法陣の中心に鎮座する大きな卵を見て、どうリアクションしていいのか戸惑っているみたいだ。もちろん俺も同じで、キョロキョロと周りを見渡すも、どうしていいか分からない。
羊皮紙から中庭の地面に飛び出して直径2メートル程の大きさになった魔法陣は、いまだにその光を失っていない。
戸惑う俺たちの視線の先で、卵からピキッと音が聴こえてきた。
やがてその卵が割れる音が続く。
「ピィーー!!」
勢いよく卵が割れて中から鳴き声と共に赤い鳥の雛が現れた。
「ピィ! ピィ!」
予想外の出来事に俺たちが呆然としていると、その雛がヨチヨチと俺の足元まで近付いて来た。
「わぁー! にぃにぃ! とりさんかわいいぃー!」
「……はっ、これは、召喚は成功したのか?」
一人通常運転だったリルが可愛いとはしゃぎ、固まっていた周囲も我に戻る。
俺の脚に身体を擦り付けるように甘えているのか? ただ、確かなのは、俺はこの雛と魔力の繋がりを感じていた。
俺は産毛でフカフカな赤い雛を抱き上げる。
雛だけあって、少しズングリとしているフォルムは確かに可愛い。
ただ、生まれたばかりのそのサイズは烏骨鶏の成鳥くらいある。
「わぁー、ふわふわっ!」
「うーん、バルカさん、これってどうなんだ?」
リルが嬉しそうに雛に抱きつき撫でまわす。
俺はバルカさんに召喚魔法が成功したのか聞く。
「……一応、成功と言えるのだろうね」
「はぁ、驚いたね。あいつら何処で手に入れたのやら。その雛はおそらく、フェニックスだね」
「フェニックスって、不死鳥か?」
バルカさんの顔が引き攣っている気がする。その理由を師匠が教えてくれる。
どうやらこの雛は、フェニックスの雛らしい。
この世界でフェニックスが、どういう立ち位置なのかは分からないが、バルカさんの表情と師匠の話し方から、尋常じゃない存在なんだろう。
「シュートの世界にもフェニックスが居たのかい?」
「いや、神話や御伽噺の類いの中の存在だな」
「まぁ、この世界でも似たようなものさ」
この世界でもフェニックスはとてつもなくレアな存在らしい。
「フェニックスのランクはね、7なんだよ」
「うわっ、それって大丈夫なの?」
バルカさんがフェニックスのランクを教えてくれた。フェニックスはランク7、場合によってはその不死性からランク8だとも言われている。上位の竜と同ランクというとんでもない魔物だった。
「驚くのはそれだけじゃないんだ。希少さで言えば、竜種よりも遥かにレアなんだよフェニックスは」
「……よく犯罪組織なんかが手に入れれたな」
「そんなの偶然に決まってるさ」
ランクは同じでも、竜種よりも遥かにレアなフェニックスの卵を、犯罪組織の末端がよくも手に入れれたと思ったんだが、それはフェニックス故の事らしい。
竜種の卵を手に入れるのは、竜の巣に入るしか方法はない。それはイコール死を意味する。
同じ理由で、ランクは落ちるが野生のワイバーンや飛竜の卵を入手するのも命がけだ。
だけどフェニックスは少し事情が異なるそうだ。
「フェニックスの卵は、孵化する条件が不明でね。誰も孵化させる事が出来ないから、偶然見つけてもワイバーンや飛竜の無精卵だと思われて捨てられる事が多いのさ」
「それに、フェニックスの卵は育ち始めるまで壊すことも破ることも出来ないらしいよ」
師匠やバルカさんは流石に年の功なのか、伝説級であるフェニックスについてもある程度知っていた。
巣に産むワイバーンや飛竜と違い、フェニックスは卵を魔力の豊富な場所に産みっぱなしらしい。そして孵化の時を何年も何千年も待つらしい。
「フェニックスは聖獣だからね。雌雄は関係ないらしいよ。一応、全ての個体は雌だと言われているね」
「だいたい、一度産まれてしまうと、不死鳥の名の通り不滅だからね。卵を産む間隔も数千年に一度あるかないか。今のこの世界にも五羽も居ないんじゃないかな」
師匠とバルカさんの知りうる範囲でも、この世界のフェニックスもとんでもない存在だった。俺の使い魔にしてもいいのか?
「……そう言えば、俺、生き物って飼った事ないぞ」
「心配いらないよ。使い魔にすると、基本的に主従で魔力のパスが繋がるからね。それで何も食べなくても大丈夫なのさ」
「良かった。こいつ、まだ雛だから、離乳食でもあげないとダメなのかと思ったよ」
鳥の雛にあげる餌なんて知らないからな。
そう思ってリルが抱くフェニックスの雛を見ると、つぶらな瞳で何かを訴えているように感じる。これは使い魔の感情や意志が伝わって来ているのか?
「ああ、因みにうちのミネルヴァは、嗜好品として肉でも果物でも野菜でも食べるよ」
師匠が食べ物の話をすると、フェニックスの雛からも食べたいという気持ちが伝わってきた。
「ひょっとして、お前も何か食べたいのか?」
俺が返事を期待せずに聴くと、フェニックスの雛がブンブンと首を縦に振った。
「なんだお前、生まれたばかりなのに賢いな」
「聖獣だと言ってるだろ? スタートからして普通の生物とは違うし成長も早いと思うよ」
「どのくらいデカくなるんだ?」
「そうだね……、確か、翼を広げれば10メートルくらいだったっけね」
「ああ、エルフの伝承ではそのくらいだったと思う」
「いや、大き過ぎるよ」
翼を広げると10メートルくらいって、もうゼロ戦じゃん。
「大丈夫だよ。フェニックスは精霊に近い聖獣だからね。多分、体のサイズは小さく出来る筈さ。まぁ、大きくは無理だろうけどね」
バルカさんがそう言うと、リルの腕の中でウンウンと頷く雛。本当に賢いな。人の話している事が理解できている。
「そうか、それなら成長しても大丈夫だな」
「シュート、名前を付けてあげな。それで使い魔との契約が完了する」
「名前か……」
俺は改めてフェニックスの雛を観察する。
フカフカの産毛に覆われた雛は、鮮やかな赤い色だけど、尾の先と翼の先だけが黒いのに気がついた。
「黒が混じってるのは普通なのか師匠?」
「うーん、おそらくシュートの魔力で孵化したから、シュートの魔力の影響を強く受けたんだろうね。多分、鳥系の魔物に共通する風属性に加え、フェニックス固有の火と光(神聖)属性、そこにシュートの闇属性を受け継いだんだと思うよ」
名前を付けろと言われて悩む。
人との接触なんて、ほぼジジイとだけだった俺には、自分がその辺のセンスがあるのかなんて分からない。
わかりやすく、赤い色から連想してみる。
スカーレット、ヴァーミリオン、ルージュ、クリムゾン、ガーネット、ルビー。
「よし! お前はルビーだ」
「ピィ!」
気に入ったようで、嬉しいという気持ちが伝わってくる。
「るびーちゃん! リルはリルなの!」
「ピィ!」
リルもだいぶ表情が豊かになってきた。ルビーの存在はリルにとってもいい刺激になりそうだ。
ただ、ミネルヴァと違い、ルビーじゃ即戦力にはならないんだよな。
「なあ師匠」
「なんだい?」
「ルビーじゃ諜報任務は無理だよな」
そう、先ず、まだ雛だから当然だけど、成鳥になったとしても、赤くどこか神々しい雰囲気さえあるルビーじゃ目立って仕方ないだろう。
「……まぁ、無理だね」
「シュート君、フェニックスなんかが街に現れたらパニックになるぞ。まあ雛の見た目でフェニックスとバレることはないだろうがね」
「だよなぁ」
ランク7のフェニックスが街に来たら、それはもうパニックどころの話じゃない。幸い、フェニックスがレア過ぎて、世間一般にはバレる確率は少ないだろう。
「まぁ、暫くはその心配はないけどな」
「ピィ?」
俺の呟きにルビーが首を傾げる。
「でもそうなると本来の目的、俺用の諜報、探索専門の使い魔が欲しくなるな」
「そうだね。方法は幾つかあるよ」
バルカさんが教えてくれたのは、実際に目的に沿った魔物を捕獲して、それを召喚魔法で使い魔にする方法。
これならある程度狙った魔物を使い魔に出来る。ただ、このベルガドの街周辺となると、魔物の種類が限られてしまう。師匠を拾った辺り、俺がこの世界に降り立った場所周辺なら、ランクも高く諜報向きの魔物も棲息していたらしい。
普通に召喚魔法を使うだけなら、使い魔として現れるのは、術者の力量や相性もあるが、何が出て来るかはランダムだから、狙って捕獲する分ある程度狙った魔物を使い魔できるのは利点だ。
俺とバルカさんが話していると、師匠が何を言っているのやらと呆れ気味に首を横に振る。
「シュート、お前は闇属性に高い適性があるんだよ。なら死霊魔法を使えばいいじゃないか」
「いや、師匠。死霊魔法って……」
「イーリス、私も教会の司祭がそれを言うのはどうかと思うぞ」
師匠の死霊魔法発言に、バルカさんからツッコミが入る。
光(神聖)属性や闇属性に善悪はない。それは本当なんだが、唯一俺でもこれはイメージが悪いと思う魔法が闇魔法にはある。
俺は師匠から様々な本を読まされ、且つ直接色々と教えて貰った。
その中には、闇魔法を悪用した魔法使いの事例も何件かあった。
死者を冒涜するネクロマンサーの存在。
奴隷を縛る隷属魔法。
人の精神に作用する魔法の悪用など……
教会が闇属性を忌避する原因だ。
師匠のように、属性に善悪はないと言う教会関係者は少ない。
「死霊魔法がダメなのは、実力がない術者が、力を補う為に触媒として人の死体や骨を使う奴が居るからさ。本来の魔力だけで召喚された死霊系の魔物は、無属性魔法で呼び出す魔物と何も変わらないよ」
「そう言うものか」
「いや、まあ、そうなんだけどね」
師匠の話では、死霊系の中でもゾンビやグール、スケルトンなどは、その見た目も悪いし、闇属性が忌避されるのも分かるが、ゴーストやレイスみたいなアストラル系の魔物なら、姿も気配も消す事が出来るので、諜報任務にはもってこいだと言う。
いや、確かにその通りだけどね。
「シュート君、闇魔法は私もイーリスも使えないからアドバイス程度しか出来ないが、確かに死霊系の魔物は諜報任務にピッタリなのは確かだよ」
「えっと、俺って教会で暮らしているけど、死霊系の使い魔が浄化されてしまうって事はないのか?」
バルカさんからも目的が諜報任務と決まっているなら、死霊系の魔物は有用だと言われる。
そこで俺は少し気になった事がある。実は教会の敷地の中は、不思議と清浄な空気や魔力に満ちているような気がするんだ。これは俺の気のせいとかじゃないと思う。
そんな場所に死霊系の魔物が耐えれるとは思えないんだけどな。
「確かに普通の死霊系の魔物が私の教会の敷地に一歩でも入ろうものなら、一瞬で天に召されるさ。だからシュート、死霊召喚の時に光属性の魔力を少し混ぜ込むんだよ」
「光と闇って、反発しないのか?」
「属性同士の相性もあるから混ざり難いのは確かだけど、無理ではないさ」
俺が死霊を召喚するだけで、俺との魔力の繋がりで、多少の光属性への耐性がつくらしい。それでもゴーストやレイスなんかは光属性が弱点なのは変わらない。そこで召喚時に少し光属性の魔力を混ぜる事で、多少はマシになるそうだ。
「教会の中に入れないと、教会の不正を探れないからね。それにシュートと魔力のパスで繋がるんだ。生半可な光魔法じゃ浄化されないさ」
「教会を調べる気かよ! いや、いいんだけど……」
確かに教会組織を調査する事も普通にあるだろう。それに召喚主である俺と魔力のパスが繋がると光魔法にも強くなるらしい。
兎に角、死霊を召喚する事を決めたが、それはリルを寝かしてからにする。
もし召喚された魔物の見た目が怖かったら困るからな。
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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
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