黒兎は月夜に跳ねる

小狐丸

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十四話 黒兎、魔銃を発注する

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 ガンツさんに、俺のグルカナイフを預け、今度こそ俺の装備の話をする。

 その前にガンツさんが師匠に確認する事があると言う。

「なぁイーリス」
「なんだいガンツ」
「シュートはお前の弟子とは言うが、ただの神官としての弟子なのか? それとも……」
「どっちかと言われると裏の方がメインだね」

 幼いリルも居るのでガンツさんは濁しているが、師匠の言う裏と言うのは、俺が日本でしてきた仕事と大差ない。

 虐げられた人たちの救済。

 腐った権力者への鉄槌。

 法で裁けない悪の断罪だ。

 まあ、身勝手な自己満足または偽善とも言う。

 ただ、この世界では偽善でも何でもそういう存在が必要なんだろう。国によっては、まともな司法制度なんて望めない世界だからな。


 師匠が司祭をしながら、そんな裏の仕事をしていると聞かされたのは、俺が日本で同じような事をしていたと話したからだ。

 師匠は、それも含めて俺を弟子にしたかったらしい。

 師匠本人が拠点でどっしりと構えている価値は大きい。

 教会本部への大きな牽制と抑止力となる。


 そして話を戻すと、俺が担う予定の仕事は多岐に渡る。

 暗殺や盗賊の殲滅なら、この身体とグルカナイフ一本有れば大丈夫だ。

「ならザーレとバルカも呼んだ方がいいな」
「そうだね……、その方がいいね」

 ガンツさんが他にも人を呼んだ方がいいと言い、師匠は少し考えて頷く。

「?」

 俺が話から置いてかれていると、師匠が説明してくれた。

 ザーレと言うのは、ガンツさんの職人仲間で人族とドワーフのハーフ。革の鎧や服、鞄や靴を作らせたらこの人の右に出る者は居ないらしい。

 バルカという人は、エルフの錬金術師で、腕の良い付与魔術師でもあるそうだ。

 二人とも師匠とガンツさんの共通の知り合いで、ガンツさんはザーレさんとバルカさんの三人でチームを組んで色々な物を作ってきたと言う。

 俺の装備の話が大袈裟になってきてる気がするが、錬金術師と付与魔術師は装備を作るのに関係があるのだろうか?

「革の職人は分かる気がするけど、錬金術師と付与魔術師? それは必要なのか?」
「ああ、シュートのナイフはマジックアイテムだっただろう。要するに、装備に魔法的な機能を付与するのが付与魔術師さ。付与するには素材が重要なんだが、その素材を生み出すのが錬金術師さ。そんな関係上、錬金術師と付与魔法師を兼ねる奴が多いな。バルカはそんな中でも一流だ」
「へぇ~、面白そうだな」

 ガンツさんは、俺のグルカナイフよりも明らかに性能が劣る装備は有り得ないと言い、今できる最高の装備を目指すらしい。

 ガンツさんが張り切れば張り切る程、だんだんと不安になっていく。

「なあ師匠」
「何だい?」
「俺、そんなにお金持ってないぞ」

 そう、狩った魔物素材の売却でそこそこお金は貰ったが、武器の値段なんて分からないし、この世界に疎い俺でも到底金額的に足りないのは分かる。

「心配するな。弟子の装備なんだ、イーリスが払うじゃろう」
「まぁ、何度も言うようだけど、私はこれでもランク7の英雄だからね。お金はたんまり持ってるさ」
「いや、それは師匠のお金だろ」
「なに、シュートには足りない素材集めも手伝ってもらう。これは儂も趣味がだいぶ入るからな。金の事は気にするな」
「はぁ」

 聞けば、ガンツさんもランク6だけあり、鍛治師としてではなく、戦争でも大暴れした過去もあり、お金には困っていないと言う。

「そうだガンツ、どうせならこれでシュートの魔銃を作れないかい?」

 ゴトッ

 師匠がマジックバッグから取り出した物に見覚えがある。

「あっ、それ「おい! そりゃ、まさか……」」

 師匠が取り出したバスケットボールよりも一回り大きな黒い球状の物体。それを見たガンツさんが顎が外れんばかりに口を開け驚愕の表情をする。

「……まさか、グラトニースライムのコアなのか? いや、それにしては大きい気がする」

 俺はガンツさんが一目でほぼ正解にたどり着いた事に驚いた。よく黒い球状の物が何なのか一目で看破できるな。そんなに特徴的なのかな。

「フッフッフッ、驚けガンツ、ただのグラトニースライムじゃないぞ、エンペラーグラトニースライムだ」
「なっ!? 魔王種が出たのか! い、いや、コアが此処にあるという事は、既に討伐されたんじゃな。信じられん……、しかしイーリス一人じゃ無理じゃろう」
「クックックッ、驚き過ぎて死ぬなよ。これはシュートが一人で討伐したものさ」
「な、なんと!? シュートの実力は、そこまでのものなのか……」

 師匠がニヤニヤしてガンツさんを見ている。イタズラが成功して喜ぶ子供みたいだ。

「なぁ師匠、それってあのスライムのコアだよな。それが何かに使えるのか?」
「ああ、使えるどころの話じゃないよ」
「これは、忙しくなるぞぉ!」

 俺の疑問を他所に、ガンツさんが突然大声で叫ぶと椅子を跳ね飛ばして立ち上がり、外へと駆け出して行った。

「……ガンツさん、何処行ったんだ?」
「ハンターギルドに手紙の配達を依頼しに行ったんだろう。直ぐに帰って来るよ」

 ガンツさんが、短い手足をものともせず、もの凄いスピードで走り去ってから二十分くらい待っただろうか、リルが飽きて俺の膝の上で眠った頃、ガンツさんが戻って来た。

 師匠の説明によると、グラトニースライムは悪食で有機物、無機物問わず食べてしまう暴食の厄災。そのコアは、オリハルコン並みの硬さと粘り、ミスリル以上の魔力親和性がある。武器にするにも防具にするにも最高の素材らしい。

 オリハルコンというファンタジーなワードに少し心躍る。そんなコアによくダメージが届いたと今更に思う。

 師匠の推測では、魔力とオーラ、振動による内部破壊の衝撃が、物理耐性、魔法耐性共に並外れたエンペラーグラトニースライムのコアに何とか届いたのだろうと。


 俺と師匠がガンツさんに静かにするようジェスチャーで伝えると、そろりと音を立てないように座った。

「ザーレとバルカに至急来るよう手紙を送った。早ければ十日もすれば来るじゃろう」
「ならそれまでに必要な素材を集め始めるかね」
「うむ、シュートにも手伝ってもらうぞ」
「それはいいけど、リルは連れてけないよな?」
「場所によっては大丈夫じゃないかい。私かマリアが一緒に行けば、ほぼ全ての障害は無きに等しいだろうね」
「やっぱり、マリアさんやパメラさんって強かったんだな」
「流石にシュートには分かるか」

 相手の強さを大まかにでも図るのは、俺にとって生き残るために必要なスキルだったからな。マリアさんやパメラさんが、只者じゃないのは何となく分かってた。

「儂も居るんじゃ、盗賊だろうが魔物だろうが蹴散らして終いじゃ」

 マリアさんは何と驚きのランク4、パメラさんは更に上のランク6らしい。

 マリアさんは人族であの年齢でランク4は、相当凄いんだろう。パメラさんには、四分の一エルフの血が入っているエルフのクォーターらしいので、見た目通りの年齢じゃないとは言うけど、それを差し引いてもランク6は凄い。

 パメラさんには、師匠の「放浪の聖女」のような二つ名があるらしく、パメラさんは「笑う鴉ラフイングレイブンと呼ばれ恐れられているそうだ。

 因みに、師匠には「放浪の聖女」という表の通り名の他に「血塗れ魔女」という裏の二つ名があるらしい。

 勿論、血塗れなのは返り血で真っ赤に染まるからだそうだ。



 それからガンツさん、師匠と俺の三人で、色々と作る装備の事を話しあった。

 俺は魔銃のデザインを紙に描いていく。

 イメージはトーラスレイジングブルカスタム。

 8インチ少しのごつい長方形のガンバレル。

 師匠が持つ白銀の美しい曲線的なフラガラッハとは対照的な角張ったデザイン。色もエンペラーグラトニースライムのコアが黒い事から漆黒の魔銃になりそうだ。

「ふむ、これは男心をくすぐるデザインじゃのう」
「おっ、ガンツさん、分かってるな」

 魔銃のデザインは、師匠は興味なさげだけど、ガンツさんには好評だった。

 シリンダーで属性を変える方式は師匠の魔銃と同じ。火属性、氷属性、土属性、光属性の四属性に加え無属性の五通りの攻撃が出来るようにする。

 俺は火属性の適性が低いが、魔銃の場合は、魔力さえ有ればシリンダーの切り替えで、火属性の攻撃が可能だ。

 火属性を除くと、同じ攻撃を普通に自前の魔法で行使可能だが、魔力と引き金(トリガー)を引くだけで攻撃できるという利点は大きい。銃の扱いに慣れた俺には尚更だ。

 それと魔銃は普通の魔法とは比べものにならない射程を誇る。その分、命中させるにはそれ相応の技術が必要だが、その点はあまり心配していない。俺は日本に居た頃に、リアルでガン=カタを使って幾つかの組織を殲滅した経験がある。時空間属性に全く適性はないが、空間把握能力には自信がある。しかもこの世界に来てから、魔力感知と増強されたオーラのお陰で精密な射撃が出来る筈だ。

 しかも同等の威力の攻撃をするとなると、普通に魔法を使うよりも遥かに魔力の消費が少ないそうだ。

 その分、魔法には多彩な効果と自由度があるし、魔銃を現状で造れるのはガンツさん一人。それも希少な素材が必要で恐ろしく高価なマジックアイテムを購入する事を考えれば、魔銃をメインの武器と出来るのが、ランク7の英雄である師匠くらいなのも納得だろう。

 魔銃のデザインがある程度固まると、ガンツさんが必要な素材のリストを書き出していく。

「先ず、魔銃じゃが、エンペラーグラトニースライムのコアに混ぜるのはアダマンタイトにするか。ミスリルの方が魔力親和性が上じゃが、それよりも頑丈な魔法合金を目指すべきじゃろ」
「ガンツ、それなら少量のオリハルコンを混ぜてはどうなのさ」
「ごく少量ならありじゃな。文献によると相性はアダマンタイトの方がいいみたいじゃからな。確かにオリハルコンを少量混ぜるのは魔法の威力アップになるじゃろう」
「なら、私の手持ちにほんの少しだけどオリハルコンが有るからそれを使えばいいさね」

 ガンツさんと師匠が話し合っているが、アダマンタイトやミスリルにオリハルコンって、ファンタジー感満載の金属がポンポンと口から飛び出したら、まだその辺りの知識のない俺じゃ話についていけない。

 これでもジジイのお陰で、人並み以上の知識はあると思っているんだが、流石にこの世界特有の知識は持ち合わせていないからな。

 魔銃で必要になる残りの金属素材については、他の装備に使う分もあるので、職人ギルドと商業ギルドを通して、鉱石を発注する事で落ち着いた。

「シュートはイーリスの弟子っちゅう事は、神官服を着るんじゃな」
「そうだね。でも教会の神官服の必要はないさ。この際だから色は黒にしてもらうけど、シュートの好きなデザインでいいんじゃないか」
「俺の好きなデザインと言われてもなぁ」

 好きなデザインをと言われるも、俺はこの世界の男物の神官服を知らないからな。

「まぁ、その辺はパメラとマリアと相談すればいいさね」
「なら、糸も必要じゃな」

 次に、鍛治師のガンツさんが服の話をしてきて驚いた。しかも、糸から布を織るって……

 俺の装備の話は、まだまだ終わらない。




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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。

お手に取って頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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