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十話 黒兎と師匠、頭を抱える
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食事も終わって一息つき、移動を再開したい俺と師匠だけど、流石に助けた女の人三人と幼女一人を放置は無理だった。
兎に角、三人に事情を聞いて、この後どうしたいか希望は聞くべきだろうし、最低でも村や街までは送るべきだろう。
師匠も神職なので、困っている人に手を差し伸べるべきだと思っているだろうしね。
「お腹も膨れて少しは落ち着いただろう。一応自己紹介しておくと、私の名前はイーリス・グワルフ。教会の司祭だ。こっちのはシュート。私の弟子だ」
「こっちのって……」
師匠が自分の名前を言うと、三人共が驚いた表情を見せた。ひょっとして師匠って有名人なのか。いや、普通に考えてランク7が英雄クラスなら師匠が有名なのは当然か。
「放浪の聖女様でしたか。この度は助けて頂きありがとうございます」
「その呼び方はやめておくれ」
放浪の聖女って、そんな二つ名があったんだ。聖女の部分はピンとこないけど、放浪っていうのは師匠にピッタリだな。
三人の中で人族の女の人が代表してお礼を言って頭を下げると、エルフの女性と狐の獣人の女性も倣って頭を下げた。
それにしても、食事の時から見ないようにするのが大変だったけど、三人とも目のやり場に困る状態だ。
三人は、薄い布切れと言っても過言じゃないボロボロの貫頭衣を着せられているんだけど、三人が三人ともタイプの違った美女で、しかも出るところは出て引っ込む所は引っ込んだ、グラビアアイドルも裸足で逃げそうなスタイルをしている。
エルフはスレンダーな設定じゃなかったのか? エルフの女性なんか、一番凶悪なモノをお持ちだ。
動揺が顔に出ないよう、話し合いは師匠に任せて瞑想でもするか。
俺がややこしそうな話は師匠にぶん投げて、魔力とオーラを循環させていると、人族の女の人から自己紹介を始めた。
「私はフランソワーズ・オートギュールと申します。オートギュール伯爵家の三女です。この度は命を助けて頂きありがとうございます」
「ほぉ、オートギュール伯爵家と言えば、カーマイン王国の名門じゃないか」
「はい。イーリス様の教会の在るベルガドの街から五日程の距離ですからご存知だと思いますが、領都のバルクベルグで暮らしていました」
何と、フランソワーズさんは貴族令嬢だったのか。しかも師匠が拠点にしている教会がある街から近いらしい。
五日の距離を近いと言うのは、俺的にはまだ違和感があるんだけど、この世界の普通の馬車を基準にすると近いと言えるんだろうな。
フランソワーズさんは、今は汚れて燻んでいるが、腰まで伸ばしたブロンドの髪と上品な顔立ちが美しい美人さんだ。貴族令嬢だけある。
「次は私ですね。ユミル・ドゥ・ケスタ・ディアーナと申します。命はもとより、我らケスタ氏族の尊厳をもお護り頂きまして感謝致します」
「ふむ、どうしてエルフが拐われたのか、じっくりと聞かないといけないね」
そしてエルフのユミルさん。長く伸びた耳と明るいエメラルドグリーンの長い髪。そして芸術的に美しいその造形美は、世の金持ちや権力者が欲してやまないのも多少は理解できる。とはいえ拐うのは違うけどな。
「私はルルースです。姓はありません。そして彼に抱かれて眠っている子がリルです」
「狐人族も獣人族の中では数の少ない種族だな。あんた達が拐われた理由もだいたい分かった」
ルルースさんは、明るい金髪を長く伸ばし、金毛の狐耳と尻尾。おっとりとした雰囲気の美女。
この世界に来てから美女との遭遇率が高いな。師匠も年齢を考えなければ美人に間違いないし、しかも最近は何故か若返ってやがるしな。師匠曰く、オーラの運用と魔力循環の併用が原因らしい。細胞が活性化してるのか?
そんな事は置いといて。当然、ただの自己紹介で話が終わる訳もなく、俺と師匠が頭を抱えるのはこれからだった。
フランソワーズさんが拐われたのは、貴族同士の政争の末だ。
おそらく敵対派閥のとある伯爵家からの依頼で犯罪組織に拐わせる。その後、隣国で奴隷として売られているフランソワーズさんを、その敵対する伯爵が買う。そして助け出してオートギュール伯爵に大きな借りを作る。分かりやすいマッチポンプだけど、それでオートギュール家は面目を無くし、一度でも奴隷となったフランソワーズさんは、貴族令嬢としてまともな婚姻すら出来なくなる。勿論、敵対派閥の伯爵家が直接動く事なんてなく、寄子の貴族が犯罪組織を使ってって感じなんだろう。
話によるとフランソワーズさんには、侯爵家の嫡男と婚姻の話があったらしい。だけど、一度奴隷となった者を、幾ら何もなかったと言っても侯爵家との婚姻がそのまま進む訳もなく、オートギュール伯爵家としては、二重にダメージを受けた事になる。
まぁ、現在のところ、俺と師匠以外奴隷となった事を知る者はいないし、既に隷属魔法も解呪されたので、その敵対貴族の企みは失敗したんだが、逆に直ぐにフランソワーズさんをそのまま帰すのは危険だろう。
次に、ユミル・ドゥ・ケスタ・ディアーナというやたらと長い名を持つユミルさんは、なんとエルフのお偉いさんの娘だと言う。
エルフ自体に国という概念はなく、ユグドラシル(世界樹)を中心とした、ある種のコミュニティを形成している。
ユグドラシルは、この西の大陸に一本と、東の大陸に一本、そして北の大陸にも一本あるらしい。
人の住めない環境の北の大陸でも、ユグドラシルという樹は神様が授けてくれた特別な樹だとかで、今もこの星を北の大地で支えているんだと。
で、ユミルさんなんだけど、ケスタ氏族のお偉いさん。いわゆる族長の孫にあたるらしいのだが、そんな人がどうして奴隷なんかにされたのかと言うと、これもバカバカしいエルフの氏族間の権力争いが発端らしい。
現在、ユミルさんのお祖父さんが族長という立場なのだが、今のエルフには三つの派閥があるそうだ。
古い伝統を重視し、エルフこそ至高の種族だと言う伝統派。閉鎖的で、他種族を下に見る傾向があり、外との交流に否定的な派閥。
それとは反対に、外とも積極的に交流すべきという改革派。他種族とも対等に付き合うべきと考える。近年増えつつある派閥。経済の事を考えれば、悪くない考え方だけど、ほとんど自給自足が可能なエルフには、まだ早いと言う声も多いのも現状らしい。
そして族長であるユミルさんのお祖父さんの中庸派。伝統を軽んじる事はないが、外との交流もある程度必要だと考える派閥。
ユミルさんの話では、伝統派の中で力を持つ者に嵌められたらしい。
中庸派の族長の孫が、他種族に拐われ奴隷となれば、革新派を叩き伝統派の勢力を拡大できるんじゃないかと企んだのだろう。
どこの世界でも人は愚かだな。
あぁ、面倒な話ばかりだ。
人族の貴族もエルフの氏族も似たような腐った話ばっかりだ。寧ろ、犯罪組織が裏で煽っているんじゃないかとさえ思う。
「もしかして奴隷から解放されても、直ぐには戻り難いとかってやつ?」
「直ぐに戻るのは命の危険があるだろうね」
俺の疑問に師匠はユミルさんも直ぐに戻るのは危険だと言う。
拐われて奴隷にされた事を隠す為にも、暫くは身を隠した方がいいらしい。
「最後は私ですね。私はそれ程複雑な話ではありません。豪商の妾に求められて、それを断ったら……」
ルルースさんは、ハンターをしているそうだ。
ある商人の護衛依頼を受け、野営の時に薬を盛られたらしい。気が付いた時には檻に入れられていたそうだ。
「それってモロ犯罪じゃないのか? まあ、フランソワーズさんやユミルさんの場合もそうだけどさ」
「だからわざわざ離れた街で奴隷として売るのさ」
ようするに、拐って奴隷にするのはガチで犯罪だけど、奴隷商会で目的の奴隷を買う方はセーフって感じか。腐ってやがるな。と言うより、客からリクエストを受けて、目的の人間を攫って奴隷とする商売が成り立っているんじゃないか?
「あれ、そうなるとフランソワーズさんを買うつもりの敵対派閥の貴族から俺たち敵視される?」
「心配いらないよ。余程の馬鹿じゃなきゃ、教会の司祭を敵にまわさないさ」
教会は国を跨ぎ一定の力を持つ組織なので、一国の一貴族が圧力をかけるのは難しいらしい。
「えっ、という事は、暫く全員師匠が預かるのか?」
「なに他人事のように言ってるんだい。シュートは私の弟子なんだから、普段は主にあんたが面倒みるんだよ」
「いやいやいやいや、男の俺よりも同性の師匠が責任持つんじゃないのか」
「教会に戻れば、私は忙しくなるんだよ」
この師匠の顔は、絶対俺に全部押し付ける気だ。
「私達、ご迷惑でしょうか?」
「い、いえ、そんな事ないですよ」
「じゃあ、決まりだね」
日本じゃ見れないレベルの絶世の美女ユミルさんに、うるうるとした目で聞かれたら、面倒ですなんて言えないじゃないか。俺だって若い? 男なんだから。
しかも胸の前で拝むように手を組むもんだから、豊か過ぎる胸が強調されて、もう……
もともと師匠はリルちゃんを含めた四人を助けた時点で、暫くは全員を教会で保護するつもりだったらしい。
その理由の一つとして、実は三人が拐われた時の手口に共通点があったそうなんだ。
ルルースさんから薬を盛られたと聞いたが、フランソワーズさんとユミルさんも同じく薬を盛られたらしい。
師匠はこの手の誘拐を専門にする組織なんじゃないかと推測した。
少し考えれば分かる事だ。同じ馬車で移送している時点で、他に考えようがないんだけどな。
そこでふと、気持ち良さそうに眠る兎耳幼女リルちゃんを見る。
「そう言えば、リルちゃんはどういった理由で奴隷なんかに?」
俺の感覚で言えば、どう考えても奴隷にするには幼過ぎる。労働力にするにも幼過ぎるしな。
「リルは、親から売られたみたいです」
「えっ!?」
ルルースさんが、リルちゃんの事情を教えてくれた。
リルちゃんは、黒い髪と耳をしている。それは兎人族としては珍しい毛色らしい。俺的には黒兎なんか珍しくないと思ってたんだが、この世界の兎人族の中では、黒い毛色は非常に珍しく、忌子として忌避されたらしい。
ルルースさんも、直接リルの親と会った訳じゃないので、推測も入っているみたいだが。
「それとね、シュート。何処の世にも変質者は居るんだよ。小さな子供を壊す事に快感を感じる変態性癖の金持ちがね」
「チッ、この世界に来ても、俺の仕事は無くならないんだな。クソッタレが」
「落ち着きな。漏れなく地獄へ堕とすには調査や準備に時間がかかるんだよ」
「……分かったよ」
師匠には、俺がジジイの指示で行っていた仕事は話てある。その上で少し待てと言うなら従った方がいいんだろう。
それに、俺もこの世界に来て日も浅い。ランクももっと上げないといけないし、魔法も学ぶ必要がある。
でも少しスッキリとしたのが本音だ。
この世界でも俺は俺で良いんだな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
お手に取って頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
兎に角、三人に事情を聞いて、この後どうしたいか希望は聞くべきだろうし、最低でも村や街までは送るべきだろう。
師匠も神職なので、困っている人に手を差し伸べるべきだと思っているだろうしね。
「お腹も膨れて少しは落ち着いただろう。一応自己紹介しておくと、私の名前はイーリス・グワルフ。教会の司祭だ。こっちのはシュート。私の弟子だ」
「こっちのって……」
師匠が自分の名前を言うと、三人共が驚いた表情を見せた。ひょっとして師匠って有名人なのか。いや、普通に考えてランク7が英雄クラスなら師匠が有名なのは当然か。
「放浪の聖女様でしたか。この度は助けて頂きありがとうございます」
「その呼び方はやめておくれ」
放浪の聖女って、そんな二つ名があったんだ。聖女の部分はピンとこないけど、放浪っていうのは師匠にピッタリだな。
三人の中で人族の女の人が代表してお礼を言って頭を下げると、エルフの女性と狐の獣人の女性も倣って頭を下げた。
それにしても、食事の時から見ないようにするのが大変だったけど、三人とも目のやり場に困る状態だ。
三人は、薄い布切れと言っても過言じゃないボロボロの貫頭衣を着せられているんだけど、三人が三人ともタイプの違った美女で、しかも出るところは出て引っ込む所は引っ込んだ、グラビアアイドルも裸足で逃げそうなスタイルをしている。
エルフはスレンダーな設定じゃなかったのか? エルフの女性なんか、一番凶悪なモノをお持ちだ。
動揺が顔に出ないよう、話し合いは師匠に任せて瞑想でもするか。
俺がややこしそうな話は師匠にぶん投げて、魔力とオーラを循環させていると、人族の女の人から自己紹介を始めた。
「私はフランソワーズ・オートギュールと申します。オートギュール伯爵家の三女です。この度は命を助けて頂きありがとうございます」
「ほぉ、オートギュール伯爵家と言えば、カーマイン王国の名門じゃないか」
「はい。イーリス様の教会の在るベルガドの街から五日程の距離ですからご存知だと思いますが、領都のバルクベルグで暮らしていました」
何と、フランソワーズさんは貴族令嬢だったのか。しかも師匠が拠点にしている教会がある街から近いらしい。
五日の距離を近いと言うのは、俺的にはまだ違和感があるんだけど、この世界の普通の馬車を基準にすると近いと言えるんだろうな。
フランソワーズさんは、今は汚れて燻んでいるが、腰まで伸ばしたブロンドの髪と上品な顔立ちが美しい美人さんだ。貴族令嬢だけある。
「次は私ですね。ユミル・ドゥ・ケスタ・ディアーナと申します。命はもとより、我らケスタ氏族の尊厳をもお護り頂きまして感謝致します」
「ふむ、どうしてエルフが拐われたのか、じっくりと聞かないといけないね」
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「私はルルースです。姓はありません。そして彼に抱かれて眠っている子がリルです」
「狐人族も獣人族の中では数の少ない種族だな。あんた達が拐われた理由もだいたい分かった」
ルルースさんは、明るい金髪を長く伸ばし、金毛の狐耳と尻尾。おっとりとした雰囲気の美女。
この世界に来てから美女との遭遇率が高いな。師匠も年齢を考えなければ美人に間違いないし、しかも最近は何故か若返ってやがるしな。師匠曰く、オーラの運用と魔力循環の併用が原因らしい。細胞が活性化してるのか?
そんな事は置いといて。当然、ただの自己紹介で話が終わる訳もなく、俺と師匠が頭を抱えるのはこれからだった。
フランソワーズさんが拐われたのは、貴族同士の政争の末だ。
おそらく敵対派閥のとある伯爵家からの依頼で犯罪組織に拐わせる。その後、隣国で奴隷として売られているフランソワーズさんを、その敵対する伯爵が買う。そして助け出してオートギュール伯爵に大きな借りを作る。分かりやすいマッチポンプだけど、それでオートギュール家は面目を無くし、一度でも奴隷となったフランソワーズさんは、貴族令嬢としてまともな婚姻すら出来なくなる。勿論、敵対派閥の伯爵家が直接動く事なんてなく、寄子の貴族が犯罪組織を使ってって感じなんだろう。
話によるとフランソワーズさんには、侯爵家の嫡男と婚姻の話があったらしい。だけど、一度奴隷となった者を、幾ら何もなかったと言っても侯爵家との婚姻がそのまま進む訳もなく、オートギュール伯爵家としては、二重にダメージを受けた事になる。
まぁ、現在のところ、俺と師匠以外奴隷となった事を知る者はいないし、既に隷属魔法も解呪されたので、その敵対貴族の企みは失敗したんだが、逆に直ぐにフランソワーズさんをそのまま帰すのは危険だろう。
次に、ユミル・ドゥ・ケスタ・ディアーナというやたらと長い名を持つユミルさんは、なんとエルフのお偉いさんの娘だと言う。
エルフ自体に国という概念はなく、ユグドラシル(世界樹)を中心とした、ある種のコミュニティを形成している。
ユグドラシルは、この西の大陸に一本と、東の大陸に一本、そして北の大陸にも一本あるらしい。
人の住めない環境の北の大陸でも、ユグドラシルという樹は神様が授けてくれた特別な樹だとかで、今もこの星を北の大地で支えているんだと。
で、ユミルさんなんだけど、ケスタ氏族のお偉いさん。いわゆる族長の孫にあたるらしいのだが、そんな人がどうして奴隷なんかにされたのかと言うと、これもバカバカしいエルフの氏族間の権力争いが発端らしい。
現在、ユミルさんのお祖父さんが族長という立場なのだが、今のエルフには三つの派閥があるそうだ。
古い伝統を重視し、エルフこそ至高の種族だと言う伝統派。閉鎖的で、他種族を下に見る傾向があり、外との交流に否定的な派閥。
それとは反対に、外とも積極的に交流すべきという改革派。他種族とも対等に付き合うべきと考える。近年増えつつある派閥。経済の事を考えれば、悪くない考え方だけど、ほとんど自給自足が可能なエルフには、まだ早いと言う声も多いのも現状らしい。
そして族長であるユミルさんのお祖父さんの中庸派。伝統を軽んじる事はないが、外との交流もある程度必要だと考える派閥。
ユミルさんの話では、伝統派の中で力を持つ者に嵌められたらしい。
中庸派の族長の孫が、他種族に拐われ奴隷となれば、革新派を叩き伝統派の勢力を拡大できるんじゃないかと企んだのだろう。
どこの世界でも人は愚かだな。
あぁ、面倒な話ばかりだ。
人族の貴族もエルフの氏族も似たような腐った話ばっかりだ。寧ろ、犯罪組織が裏で煽っているんじゃないかとさえ思う。
「もしかして奴隷から解放されても、直ぐには戻り難いとかってやつ?」
「直ぐに戻るのは命の危険があるだろうね」
俺の疑問に師匠はユミルさんも直ぐに戻るのは危険だと言う。
拐われて奴隷にされた事を隠す為にも、暫くは身を隠した方がいいらしい。
「最後は私ですね。私はそれ程複雑な話ではありません。豪商の妾に求められて、それを断ったら……」
ルルースさんは、ハンターをしているそうだ。
ある商人の護衛依頼を受け、野営の時に薬を盛られたらしい。気が付いた時には檻に入れられていたそうだ。
「それってモロ犯罪じゃないのか? まあ、フランソワーズさんやユミルさんの場合もそうだけどさ」
「だからわざわざ離れた街で奴隷として売るのさ」
ようするに、拐って奴隷にするのはガチで犯罪だけど、奴隷商会で目的の奴隷を買う方はセーフって感じか。腐ってやがるな。と言うより、客からリクエストを受けて、目的の人間を攫って奴隷とする商売が成り立っているんじゃないか?
「あれ、そうなるとフランソワーズさんを買うつもりの敵対派閥の貴族から俺たち敵視される?」
「心配いらないよ。余程の馬鹿じゃなきゃ、教会の司祭を敵にまわさないさ」
教会は国を跨ぎ一定の力を持つ組織なので、一国の一貴族が圧力をかけるのは難しいらしい。
「えっ、という事は、暫く全員師匠が預かるのか?」
「なに他人事のように言ってるんだい。シュートは私の弟子なんだから、普段は主にあんたが面倒みるんだよ」
「いやいやいやいや、男の俺よりも同性の師匠が責任持つんじゃないのか」
「教会に戻れば、私は忙しくなるんだよ」
この師匠の顔は、絶対俺に全部押し付ける気だ。
「私達、ご迷惑でしょうか?」
「い、いえ、そんな事ないですよ」
「じゃあ、決まりだね」
日本じゃ見れないレベルの絶世の美女ユミルさんに、うるうるとした目で聞かれたら、面倒ですなんて言えないじゃないか。俺だって若い? 男なんだから。
しかも胸の前で拝むように手を組むもんだから、豊か過ぎる胸が強調されて、もう……
もともと師匠はリルちゃんを含めた四人を助けた時点で、暫くは全員を教会で保護するつもりだったらしい。
その理由の一つとして、実は三人が拐われた時の手口に共通点があったそうなんだ。
ルルースさんから薬を盛られたと聞いたが、フランソワーズさんとユミルさんも同じく薬を盛られたらしい。
師匠はこの手の誘拐を専門にする組織なんじゃないかと推測した。
少し考えれば分かる事だ。同じ馬車で移送している時点で、他に考えようがないんだけどな。
そこでふと、気持ち良さそうに眠る兎耳幼女リルちゃんを見る。
「そう言えば、リルちゃんはどういった理由で奴隷なんかに?」
俺の感覚で言えば、どう考えても奴隷にするには幼過ぎる。労働力にするにも幼過ぎるしな。
「リルは、親から売られたみたいです」
「えっ!?」
ルルースさんが、リルちゃんの事情を教えてくれた。
リルちゃんは、黒い髪と耳をしている。それは兎人族としては珍しい毛色らしい。俺的には黒兎なんか珍しくないと思ってたんだが、この世界の兎人族の中では、黒い毛色は非常に珍しく、忌子として忌避されたらしい。
ルルースさんも、直接リルの親と会った訳じゃないので、推測も入っているみたいだが。
「それとね、シュート。何処の世にも変質者は居るんだよ。小さな子供を壊す事に快感を感じる変態性癖の金持ちがね」
「チッ、この世界に来ても、俺の仕事は無くならないんだな。クソッタレが」
「落ち着きな。漏れなく地獄へ堕とすには調査や準備に時間がかかるんだよ」
「……分かったよ」
師匠には、俺がジジイの指示で行っていた仕事は話てある。その上で少し待てと言うなら従った方がいいんだろう。
それに、俺もこの世界に来て日も浅い。ランクももっと上げないといけないし、魔法も学ぶ必要がある。
でも少しスッキリとしたのが本音だ。
この世界でも俺は俺で良いんだな。
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