異世界立志伝

小狐丸

文字の大きさ
上 下
125 / 163

フォランバード王の落日

しおりを挟む
 大陸の北東部に位置する豊かな森に囲まれた国サーリット王国。

 そのサーリット王国の今代の王がフォランバード王だった。サーリット王国には王以外に六長老という六人の重鎮が政を司る。その事がフォランバード王が愚王であっても国が何とか成り立っていた理由だが、愚王でも王座に居続ける事が出来る、この仕組みが今回は裏目に出た。

 前回、絶対の自信を持っていた結界を簡単に壊されたにもかかわらず。



 その日、フォランバード王のもとに諜報部隊【影】がルシエルの娘奪還に失敗したとの報告が入った。
 ドラーク伯爵の屋敷を襲撃した三十人の他に、街の中にサポートの人員が配置されていたのだ。そのサポート要員が作戦の失敗を慌てて本国へと連絡して来た。

「なっ!!ス、スーロベルデ!ど、どうする!」

 サーリット王国騎士団長スーロベルデは溜息しか出なかった。あれ程ドラーク伯爵への干渉を控えるよう進言していたにも関わらず、もうこの国の体制は駄目かもしれないと思った。

 暗愚な王を六長老も止めれない時点で、六長老と言うシステムも破錠していると思って良いだろう。

「陛下、何故私に無断で影を動かしたのですか。我が国の影程度がドラーク卿に通じるとでも思ったのですか」

「何とかしろスーロベルデ!」

「陛下、何とかしろと言われましても……」

 スーロベルデがフォランバード王からの無茶振りに言葉に詰まっていると、フォランバード王は癇癪を起こす。

「それでもお前はサーリット王国の騎士団長か!」

 唾を飛ばして錯乱気味のフォランバード王に、冷たい目を向けるスーロベルデ。

「……防衛準備は致しますが、落とし所を考えて置いて下さい」

 そう言うとスーロベルデは出て行った。




「影の者は居るか」

 王城の廊下を歩きながら、スーロベルデは小さな声で何処へともなく話し掛ける。

「……ここに」

 すると姿は見えずとも声だけが返ってきた。

「話は聞いていたな。このまま何もなしではドラーク卿も収まらんだろう。そこで出来れば王城へ乗り込まれる前に、ドラーク卿へ繋ぎを付けて貰いたい。出来ればルシエル様に口添え頂けるとありがたい。ルシエル様も罪なき同胞の命は取らんだろう」

「……御意」

 了解する声の後、影の気配が消える。

「ドラーク卿の理性に賭けるしかないか……」







 俺達はサーリット王国が有る森の手前までやって来ていた。

 メンバーは俺、ルシエル、イリア、ランカス、バルデス、ユーファン、フーガの七人。
 それぞれが一騎当千の仲間達だから自分だけに集中できる。

「さて、ちゃっちゃとやろうか」

 バリィンーーーン!!呆気なく結界が壊れる音がする。

 例の如く巨大な結界を破壊して森の中へと進む。

 今回はその後にマナポーションで魔力を回復させてから俺が結界を張り直す。こうして置けば魔物が国の中に入って来る事もないだろう。一般の国民に被害を出したい訳じゃない。

 少し魔力の回復を待ってからルシエルの案内でサーリット王国の王都へ向かった。
 真っ直ぐ王都へ最短距離で進む。俺達もそんなに暇じゃない。バカの相手はちゃっちゃと済ませたい。




 やがて俺達の索敵に反応がある。

「案内?ですかね。殺気も無いし、こちらを窺うような感じでもないですね」

 ランカスが言う様に、敵対したい雰囲気じゃないと思う。

「サーリット王国にも真面な人間は居ますから」

 ルシエルにとっては祖国が心底腐っていないのが嬉しいみたいだ。

 暫くすると向こうから接触をはかってきた。

「ルシエル様、スーロベルデ様よりお話を聞いて頂けないか、との言伝をお届けに参りました」

 目の前に現れて片膝をついた黒装束のエルフ。俺の屋敷を襲撃した部隊の仲間だろう。

「ルシエル、スーロベルデって知ってる奴なのか?」

「ええ、サーリット王国の騎士団長です。彼は実直な武人で部下の信頼も厚い人物だったと思います。

 それでスーロベルデ殿が私達に何と?」

「はっ、王都手前のルプル村で内密にお会い出来ないかとの事です」

 ルシエルが俺のほうを見るので俺は頷く。

「分かりました。滅多なことはないでしょうが、その時は覚悟して下さい」

「……それでは」

 黒装束のエルフが走り去った。



「ルプル村って分かるの?」

 ルシエルにルプル村の場所を知ってるのか確認しておくと、知ってるどころじゃなかった。

「私の生まれ故郷ですから。父は亡くなりましたが、母もまだ暮らして居ますし……」

 ルシエルが少し寂しそうに言った。

「なぁルシエル。うちの屋敷でお母さんと一緒に住めないか?孫も生まれた事だし」

「よろしいよですか?」

 嬉しそうな顔のルシエルの目に涙が溜まる。

「そうと決まれば早いとこルプル村へ行こう」

 俺達は進む速度を上げてルプル村を目指した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...