異世界立志伝

小狐丸

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大人買いにも程がある1

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 結局、最初の部屋の五人と、その家族の妻や娘の六人をまとめて買う事にした。

「次は獣人族の奴隷ですな。
 伯爵様のお陰で、奴隷狩りも随分少なくなりましたから、違法奴隷も少なくはなったのですが、残念ながらこの部屋に居るのは、借金奴隷ではなく違法奴隷です」

 次にハヌックに連れて行かれた部屋には、三人のボロボロの獣人族がいた。
 一応、清潔にしてはいるが、捕まる時に無茶な扱いを受けたのだろう。ところどころ欠損が見られる。

「この三人は奴隷狩りの被害者で、欠損の為にウチじゃないと引き取らなかったでしょう」

「俺が買うと思ったのか?」

 ランカスやルシエルを買って、回復して活躍している事くらいは当然のように知っているよな。

「伯爵様ならばこの者達を救える事はわかっていましたから」

 改めて獣人族の三人を見てみる。

 片腕の無い狼人族の青年。

 膝下からを失った猫人族の少年。

 彼も片腕が肘から先が欠損している、まるでミノタウルスのような巨体と角を持つ牛人族の男。

「彼等にも直接話を聞いて大丈夫?」

「勿論でございます」

 ハヌックに許可を得て、部屋の中で横になっている三人に近付く。

 三人は俺が近付くと警戒するが、獣人族の野生の勘なのか、俺との実力差が肌で分かるのか、緊張しているようだけど大人しくしていた。

「君達はもしも身体が治ったら、俺の領地で働いてく事に問題ないか?」

「……欠損した身体が元に戻るなら、俺はあんたに買われても良い」

 俺が三人に話しかけると、狼人族の青年が口を開いた。

「俺はガブ、狼人族の戦士だった。
 右腕が無くなったお陰で剣が握れなくなった。
 狼人族の集落でいっぱしの戦士だったが、戦えない狼人族は死んだも同然だ。右腕が治るなら喜んであんたの元へ行こう」

 ウチの領地の狼人族もそうだけど、狼人族は基本的に戦闘民族だからな。
 忠誠心が高く武人というのが俺の狼人族への印象だ。

「僕はジーンと言います。僕も足が治るなら喜んで御主人様にお仕えします」

 ジーンと名乗った猫人族の少年も足が治るなら俺に買われる事に問題ないらしい。

「儂はモーグ、儂も兵士でも農業でも大工でも、何でもさせてくれ」

 牛人族の男は他の二人より少し年上みたいだけど、俺の示す条件に喜んで従うので買って欲しいと言った。

「あなた達の家族は、この商館に居るか?」

 俺がそう聞くと三人は首を横に振った。

「伯爵様、今ここに居る違法奴隷の獣人族で家族は居ません。残念ながら、戦闘種族である狼人族や猫人族などは苛烈に抵抗しますので、家族揃って奴隷狩りに捕まる事はないのです。
 ここに居る三人は、自分達の家族や集落の仲間を逃す為に戦って捕まったのです」

「分かった、ここの三人は全員買おう」

「「「ありがとうございます」」」

 三人が揃って俺に礼を言って来る。





「次は獣人族の女です。
 今、私どもの所には一人しか居ません。
 しかも、この子も奴隷狩りとボロボロになるまで戦ったもので、状態がルシエル様やコレット様と同じ位酷く……」

 確かに、その部屋のベッドに寝かされた獣人族の女はルシエルやコレットの時と同じ位酷い状態だった。

「……これは酷いな」

「逆にそのお陰で彼女の尊厳は守られましたが」

 その獣人族の女は顔も酷い傷だらけで、片腕と片脚に欠損がある。獣人族の特徴である耳や尻尾も判別出来ない状態で、彼女を性奴隷にするには無理があっただろう。

「しかし、ルシエルやコレットの時も思ったんだけど、良くこの状態の奴隷を保護したな。ハヌックの商売的には得はないだろう?」

 俺が前から疑問に思った事を聞いてみた。

「傷が少ない獣人族の奴隷は、どこの奴隷商でも高値で買い取るでしょうが、欠損がある商品にならない獣人族奴隷を買い取るのは私どもの商館だけでしょうから、自然と集まって来るのです」

「欠損がないまともな獣人族奴隷は売れ残らないか」

「そういうことです。
 私も違法奴隷で売られて来た獣人族は、商売抜きで対応すると決めていますから」

 獣人族は魔法適正に難はあるが、身体能力に優れている為に、欲しがる貴族や豪商が多い。
 女の獣人族も兎人族や羊人族は、性奴隷として人気があるそうだけど、欠損のある奴隷は誰も買わないらしい。
 ランカスやルシエルは、ハヌックが保護していた側面があるらしい。
 奴隷商としては異端なんだろうな。

「どちらにしても引き取るよ」

「ありがとうございます。これで彼女も人並みの生活に戻れるでしょう」

「くれぐれも俺が欠損した身体を、治せるなんて広めるなよ」

 この大陸に部位欠損を治療出来る魔法が使える神官や治癒士は五人もいない。ランカスやルシエル達を治しているから今更だけど、あまりおおっぴらにする情報でもない。

「勿論でございます。
 その代わりと言っては何ですが、またこの子の様な奴隷を引き取った際には……」

「分かった。俺に連絡してくれ」

 俺がそう言うとハヌックは深々と頭を下げた。

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