異世界立志伝

小狐丸

文字の大きさ
上 下
109 / 163

新たな住人

しおりを挟む
 カイトと名乗った人族の男と、その側に付き随う兎人族の女、ホビットの男の三人は、全員が私達よりも遥かに強者だと感じたわ。中でもあのカイトという男は、この危険な森を気軽に散歩する様に歩ける隔絶した力を持っている事を理解したの。

 彼は私達を自分の街で受け入れると言った。

 そして初めて見る私を、嫌悪感の無く普通に接してくれた。

 私の一存では決められない。

 私は皆んなと相談する為に一旦彼から離れたの。




「エピル!無事だった!」

 私を心配して近くに潜んでいた皆んなの元に帰ると、直ぐに私は皆んなに囲まれた。

「えっ、ええ、大丈夫よ」

「でもまだ近くに居るんでしょう」

「ラヴィン、フィーネも話があるの」

 私はカイトと名乗った人族が、たまたまこの森で魔物を狩っていた時に、自分達の存在を見つけた事を言った。そしてその後の彼からの提案と、彼を間近で見た印象を伝えた。

「エピル、その人族は信用出来るの?私達は人族達にとっては討伐対象なんだよ。
 
 私達だって人間なのに……」

「ラヴィンが心配するのも良く分かるわ。私だってそうだもの。でもあの人族程の力が有れば、私達なんて一瞬で殲滅する事だって簡単なのよ。それをわざわざ対話しようとしてくれるだけでも考えても良いんじゃないかしら」

 エピルの周りに集まって来た集落の仲間達が、不安そうな顔で私を見て来る。

 それも当然だと思う。

 この危険な森を、魔物素材の調達場所位にしか考えていないあの人族。一緒に居た兎人族の美しい女性とホビットの青年も、相当な実力者だと分かった。
 そんな存在に、初めて会って信用しろなんて出来ないのも仕方ないでしょう。

 でも、私達も後がないのも事実。

「でも私達もこの場所では先がないわ。
 先ず生きて行くのが精一杯で、子孫を残す事も出来ないんだから」

 そう、偶然にも集落で暮らす私や彼女達は、全員が女しか居ない種族。
 男が生まれない種族だから、外から他の種族の男から種を貰わなければならない。
 私達の親達は、外から他種族の男を拐って種族を維持していたそうだけど、以前住んでいた場所からこの森に逃げて来てからは、近隣に他種族の男を探す事も出来なかった。

「そうね……、一度私達全員で会ってみましょう」

「どうせ逃げも隠れも出来ないんでしょう。なら会うしかないんじゃない。

 それに、妹達もここじゃ可哀想だもの」

 ラヴィンとフィーネが、他の皆んなを代表してそう言った。
 フィーネには二人の妹が居る。
 母親は魔物との戦いで命を落としている。フィーネは何としても妹達を護りたいのね。

 結局私達は全員で先程の人族の元へ戻った。








 俺達が森の中で暫く時間を潰していた時、さっき会ったアラクネの女性の気配が近付いて来るのに気付いた。

「カイトのあんちゃん、何か全員で来たみたいだな」

「まぁ、全員に一度に話ししたほうが良いだろう。面倒な説明も一度で済むし」

「カイト様、来られたみたいです」

 俺とサンクが話していると、イリアが先程のアラクネの女性が戻った事を告げる。

「全員女性か…………、良く今まで無事だったな」

「いや、カイトのあんちゃん、そこじゃないから」

 サンクから突っ込みが入るが、俺もそれは分かっている。
 俺達の前に姿を見せたのは、先程会ったアラクネの女性。
 六人の金髪の美女達、でもその下半身は蛇のモノだった。いわゆるラミアと呼ばれる種族らしい。
 残りの七人は、赤い髪の美女とまだ小学生位の子供も混じっている。彼女達は腕が翼、足に猛禽類の鉤爪を持つハーピーと呼ばれる種族だと言う。


「私達に安全な棲み家を与えてくれるのですね」

 俺が少しぼうっとしていると、アラクネの女性がそう切り出して来た。

「あゝ勿論、君達を俺の領地で保護するよ。
 暫くゆっくりと身体を休めて、何か出来る仕事を探しても良い。

 でも、先ずは森を出る前に服を着て貰わないといけないな……、いや、このまま屋敷に転移するか」

 そう、彼女達は全員が全裸だった。

 アラクネは上半身が人間の女性。
 ラミアも上半身が人間の女性。
 ハーピーは腕と膝下以外が人間の女性。

 全員が揃いも揃って美女なので、目のやり場に困る。

 そこから魔物素材の調達を切り上げ、全員を屋敷へ直接転移して帰った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...