異世界立志伝

小狐丸

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鋼鉄船建造

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 ドラーク領の海岸部で、造船ドックの建造が始まって二ヶ月が過ぎたが、まだ完成には至っていない。俺にしては遅い建築スピードだとは思うが、船の設計が進まないので慌ててはいない。

 船の設計が進まないのは、この国を含めて、この世界には大型船を建造する技術も職人もいなかった為、いきなり大型の鋼鉄船を建造しようとした俺が無謀だったのかもしれない。
 陸の上を走るんじゃなく、海の上で不具合があると取り返しのつかない事故になる可能性がある。
 そこで、スーラと何度も意見を交わしながら、手漕ぎボートサイズに縮尺した物から、実験を繰り返して設計を煮詰めていった。

「しかし鋼鉄の船でありますか。鉄の船が浮くのが不思議なものですな」

 スーラが試験用プールで浮かぶ手漕ぎボートサイズに縮尺された鋼鉄の船を見て言う。

「それでスーラには魔物避けの魔導具と、船体の強化の為のエンチャントをサポートして貰いたいんだけど」

「武器も造らせて欲しいであります」

「まぁそれも必要だから構わないけど、アイデアを出してくれたら相談にのるよ」

「了解であります!早速設計にかかるのであります!」

 スーラはそう言うと広げてあった図面を掴むと走り去って行った。いや、まだ話し合いが途中なんだが……、まぁいっか。

 スーラとの船の設計や装備についての話し合いが途中に終わったので、完成間近の造船ドック建造を手伝う事にする。





 あれから十日程で造船ドックが完成した。
 大変だったのは、大型のクレーンを魔導具で再現するのが難しかった。俺も日本で造船ドックなんか見た事もなかったし、この世界では魔法である程度の事は出来てしまうので、どういう施設にするのか手探りで建設していた。

 造船ドックが完成した翌日から、船体の建造にかかる。
 集められた錬金術師達と協力して、魔導錬成でミスリル合金の鋼板を作り続ける。ミスリル合金とは言えミスリルの含有量は多くない。大量の鋼板が必要になる為、俺達は暫くは鋼板の錬成ばかりをしていた。
 その間、スーラは内装や装備の設計に没頭していた。出来れば鋼板の錬成を手伝って欲しいんだけど…………。



 今回建造する船は、全長80メートル、全幅18メートルのミスリル合金製の魔導船になる。
 動力はスクリュープロペラを魔導タービンで動かすものと、風魔法と火魔法を使った推進装置を設計している。
 将来的には重力魔法を研究して、空を飛ぶ船を造れれば良いんだけど、取っ掛かりすら見つけれていないので、俺が生きている内に出来たら良いな。

 完成した鋼板を、設計図に沿って魔法で曲げていく。曲げた鋼板を錬成によって継ぎ目のないように接合していく。
 設計図通りになる様に、慎重に鋼板を組み立て錬成して接合していく。

 気の遠くなる様な作業をひたすら続け、船体が完成する頃には、スーラは内装の工事を指揮して、船の建造速度はグッと上がった。

「このスクリュープロペラを考えたカイト様は天才なのです」

「いや、まぁ……」

 スーラの尊敬の眼差しが痛くて、前世の知識だなんて言えなかった。
 慌てて話をそらす。

「船室の内装はどうなっている?」

「船室の内装は、ドワーフとエルフの職人が作業に入っているのであります。
 あと、操舵室関連はカイト様待ちであります」

 船の操船と兵装の操作は、全て操舵室からコントロール出来る様にするつもりだ。

「船内に工房を造っても良いですか?」

「船に乗ってまで開発するのか?って言うかスーラは船に乗るつもりなのか?」

「自分が携わった船に、乗らない選択肢はないのでありますな」

 まぁそれもそうか。俺も自分で造ったら自分で試すもんな。

「わかったよ。ただし、あまり大きく造るなよ」

「感謝でありますな」

 スーラと雑談しながらも、手を止めずにミスリル合金製の船を建造していく。

「あっ!塗料を忘れてたな」

「塗料でありますか?」

「あゝ、塩対策と錆対策だな」

「エンチャントで防げは良いのではないのですか?」

「色を塗った方がカッコイイじゃないか」

 錆や塩害対策ならエンチャントで構わないけど、やっぱり好きな色にしたいもんな。
 でもその辺はスーラには理解出来ないみたいだ。何言ってんだこいつって目で見られた。

 ミスリル合金製の船は、俺とスーラを中心に、多くの職人や錬金術師の技量を上げる事が出来た。




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