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英雄ルシエル
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リビングで皆んなと、お互いのことを話をしていると、ルシエルを寝かせている部屋からアンナさんが出てきた。
「カイト様、ルシエル様の意識が戻られました。カイト様に、ご挨拶がしたいと仰っていますので、お願い出来ますか?」
どうやらエルフの女性が目覚めたようだ。俺はアンナさんに、承諾の返事をする。
「分かった、直ぐ行くよ」
部屋に入ると、ベッドに上半身を起こし、こちらをうかがうエルフの美しい女性がいた。
「ご加減は、いかがですか?」
俺よりも遥かに年上なので、一応目上の人に対する礼儀だと思って、丁寧に対応してみる。
「フフフッ、そんなに丁寧に喋らなくても大丈夫ですよ。あなたは私のご主人様なのでしょう?」
「い、いえ、直ぐに解放しますから」
ルシエルさんに、微笑みながら話し掛けられると、自分の小物さ加減が良く分かる。
「それで、ルシエル様程の方が、森林火災で火傷を負うなどと、俄かに信じられないのですが。
しかも奴隷商に売られるなんて、エルフ氏族が許すなんて……」
アンナさんが、ルシエルさんの現状には、何か裏があるのではないかと疑っている。
「……アンナは同胞だから長老会議は知ってるわよね」
「はい、勿論。私も随分と長い間帰っていませんが、長老の顔は大体覚えています」
ルシエルさんは頷くと、俺の方を見ながら話し始める。
「カイト様、私達エルフ氏族は、6人の長老が話し合いで里を治めています。先ごろ、欠員が一人出来た長老会議の補充に、エルフの里の歴史上最年少で私が長老に選ばれる予定でした。
私は長老と言うには若いのですが……、でもあの火傷を負った火災の責任を取らされて売られたのです」
ルシエルが辛そうに自分の身の上を話す。
「同胞からの嫉妬ですか……、毒でも盛られましたか」
「なっ!まさか!」
俺の呟きに、アンナさんが愕然とするが、ルシエルさんは取り乱していない。ルシエルさんも心当たりがあるのだろう。
多分、精霊魔法の遣い手のルシエルさんなら、森林火災程度、直ぐに消してしまうだろう。
麻痺毒でも盛られたのかもしれない。
「エルフも色々あるのですね。
それで、ルシエルさん。解放は直ぐにしますが、エルフの里まで送った方が良いですか?」
「えっ?!」
俺が本気で解放しようとしていると気付き、ルシエルさんが驚いてる。
「カイト様は、私を買われたのですよね。何故、直ぐに解放してしまわれるのですか?」
意味がわからないという風に、ルシエルさんが聞いてくる。
「実は、この度男爵に陞爵されまして、未開地を賜ったのですが、開発するにも人手が居ない状態なので、先ずは戦力になる人材を奴隷商で求めたんです。
ルシエルさんに関しては、アンナさんに頼まれたのもありますが、正直に言うとついでです」
「カイト様!失礼です」
アンナさんが咎める。
「ホホホッ、アンナ良いのです。
カイト様、私が里へ帰っても混乱を呼ぶだけです。私はこのままカイト様に仕えさせて貰います」
ルシエルがベッドに座りながらも、頭を深く下げた。
「今は身体を労って下さい」
アンナさんと一緒に部屋を出て、ルシエルさんの事をもう少し詳しく聞こうと思った。
ソファーに座るとイリアがお茶を淹れてくれた。
「アンナさん、ルシエルさんってエルフの里で、どういう立ち位置だったの?」
「そうですね。ルシエル様は200歳という若さで、エルフ氏族一の精霊魔法の遣い手と言われ、里の危機を何度も救ってきた英雄です。
里の若いエルフからは、絶大なる信頼と憧憬を寄せられています」
「それで、長老達からはどうだったの?」
アンナさんは、少し思い出す様に考える。
「そうですね、今の長老達は穏健な方が多いので、ルシエル様とも良い関係を築いていました」
ふん、長老達でもないか……。
「だとすると……、長老に次ぐ実力者か」
「長老に次ぐ実力者ですか……、居ますね、長老に次ぐ実力者で、尚且つルシエル様よりも年長で、ルシエル様が居なければ、次代の長老に成れそうな人が」
アンナさんの顔が怖い。相当怒っているようだ。
「アンナさん駄目だよ。今のアンナさんがエルフの里で暴れたら、洒落にならないからね」
常にエルの側に付き従っていたアンナさんは、今やエルに次ぐ実力を持っている。エルフの里で暴れた日には、里が崩壊するかもしれない。
「分かっています。殺るなら人知れず殺りますから」
「いや、ヤルの意味が怖いから」
アンナさんが暴走しないように、気を付けないと駄目だな。
ホテルにランカス達の部屋を追加で取り、その日は早い目に寝む事にした。
明日は、ランカス達の服や日用品を買いに行く予定だ。
武器や防具も必要だけど、買うか俺が造るか考え中だ。
後は、マドゥークでも奴隷商に行くかどうかだけど、ある程度道を通してからでも良いかな、と思った。
「カイト様、ルシエル様の意識が戻られました。カイト様に、ご挨拶がしたいと仰っていますので、お願い出来ますか?」
どうやらエルフの女性が目覚めたようだ。俺はアンナさんに、承諾の返事をする。
「分かった、直ぐ行くよ」
部屋に入ると、ベッドに上半身を起こし、こちらをうかがうエルフの美しい女性がいた。
「ご加減は、いかがですか?」
俺よりも遥かに年上なので、一応目上の人に対する礼儀だと思って、丁寧に対応してみる。
「フフフッ、そんなに丁寧に喋らなくても大丈夫ですよ。あなたは私のご主人様なのでしょう?」
「い、いえ、直ぐに解放しますから」
ルシエルさんに、微笑みながら話し掛けられると、自分の小物さ加減が良く分かる。
「それで、ルシエル様程の方が、森林火災で火傷を負うなどと、俄かに信じられないのですが。
しかも奴隷商に売られるなんて、エルフ氏族が許すなんて……」
アンナさんが、ルシエルさんの現状には、何か裏があるのではないかと疑っている。
「……アンナは同胞だから長老会議は知ってるわよね」
「はい、勿論。私も随分と長い間帰っていませんが、長老の顔は大体覚えています」
ルシエルさんは頷くと、俺の方を見ながら話し始める。
「カイト様、私達エルフ氏族は、6人の長老が話し合いで里を治めています。先ごろ、欠員が一人出来た長老会議の補充に、エルフの里の歴史上最年少で私が長老に選ばれる予定でした。
私は長老と言うには若いのですが……、でもあの火傷を負った火災の責任を取らされて売られたのです」
ルシエルが辛そうに自分の身の上を話す。
「同胞からの嫉妬ですか……、毒でも盛られましたか」
「なっ!まさか!」
俺の呟きに、アンナさんが愕然とするが、ルシエルさんは取り乱していない。ルシエルさんも心当たりがあるのだろう。
多分、精霊魔法の遣い手のルシエルさんなら、森林火災程度、直ぐに消してしまうだろう。
麻痺毒でも盛られたのかもしれない。
「エルフも色々あるのですね。
それで、ルシエルさん。解放は直ぐにしますが、エルフの里まで送った方が良いですか?」
「えっ?!」
俺が本気で解放しようとしていると気付き、ルシエルさんが驚いてる。
「カイト様は、私を買われたのですよね。何故、直ぐに解放してしまわれるのですか?」
意味がわからないという風に、ルシエルさんが聞いてくる。
「実は、この度男爵に陞爵されまして、未開地を賜ったのですが、開発するにも人手が居ない状態なので、先ずは戦力になる人材を奴隷商で求めたんです。
ルシエルさんに関しては、アンナさんに頼まれたのもありますが、正直に言うとついでです」
「カイト様!失礼です」
アンナさんが咎める。
「ホホホッ、アンナ良いのです。
カイト様、私が里へ帰っても混乱を呼ぶだけです。私はこのままカイト様に仕えさせて貰います」
ルシエルがベッドに座りながらも、頭を深く下げた。
「今は身体を労って下さい」
アンナさんと一緒に部屋を出て、ルシエルさんの事をもう少し詳しく聞こうと思った。
ソファーに座るとイリアがお茶を淹れてくれた。
「アンナさん、ルシエルさんってエルフの里で、どういう立ち位置だったの?」
「そうですね。ルシエル様は200歳という若さで、エルフ氏族一の精霊魔法の遣い手と言われ、里の危機を何度も救ってきた英雄です。
里の若いエルフからは、絶大なる信頼と憧憬を寄せられています」
「それで、長老達からはどうだったの?」
アンナさんは、少し思い出す様に考える。
「そうですね、今の長老達は穏健な方が多いので、ルシエル様とも良い関係を築いていました」
ふん、長老達でもないか……。
「だとすると……、長老に次ぐ実力者か」
「長老に次ぐ実力者ですか……、居ますね、長老に次ぐ実力者で、尚且つルシエル様よりも年長で、ルシエル様が居なければ、次代の長老に成れそうな人が」
アンナさんの顔が怖い。相当怒っているようだ。
「アンナさん駄目だよ。今のアンナさんがエルフの里で暴れたら、洒落にならないからね」
常にエルの側に付き従っていたアンナさんは、今やエルに次ぐ実力を持っている。エルフの里で暴れた日には、里が崩壊するかもしれない。
「分かっています。殺るなら人知れず殺りますから」
「いや、ヤルの意味が怖いから」
アンナさんが暴走しないように、気を付けないと駄目だな。
ホテルにランカス達の部屋を追加で取り、その日は早い目に寝む事にした。
明日は、ランカス達の服や日用品を買いに行く予定だ。
武器や防具も必要だけど、買うか俺が造るか考え中だ。
後は、マドゥークでも奴隷商に行くかどうかだけど、ある程度道を通してからでも良いかな、と思った。
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