33 / 163
兎人族のイリア
しおりを挟む
朦朧とする意識が、浮上しては沈み、寝ているのか、起きているのか、死んでいるのか、生きているのか、何もかも分からない。
あぁルキナ、私の可愛いルキナは……。
あれは、亜人排斥運動の激しいローラシア王国から、種族間差別を法律で禁じる、サーメイヤ王国への逃避行の途中だった。
私は兎人族のイリア。
獣人の中でも、狼や獅子などの戦闘種族と違い、兎人族は普通非戦闘種族だが、私は兎人族には珍しい、戦闘職を選択していた。
獣人の高い身体能力と兎人族特有のジャンプ力を活かし、近接戦闘を行う純粋なファイターだった。
異変に気付いたのは、サーメイヤ王国の国境付近だった。
魔物の臭いに気付き、ルキナを夫に任せ、私が魔物を惹きつけ、戦う決意を固めた。
現れたのはレッドウルフの群れだった。
レッドウルフ単体ではそんなに強い魔物ではないが、群れで行動するレッドウルフはそれだけで、脅威になる。
夫と娘を逃し、必死にレッドウルフを葬り続ける私は、気が付けば右手はなくなり、耳は千切れ、片目も潰れて見えなかった。片足も動かないまま這いつくばる私は意識を手放した。
朦朧とする意識の中、奴隷商に拾われ、何処かに連れて行かれ、暗い湿った部屋で死を待つのみだった。
ルキナのお母さんの状態を確認する為に、部屋に入るとルキナがルフトと遊んでいた。ルキナも大分落ち着いたみたいだ。
「あっ!カイトおにいちゃん!」
ルキナが飛びついて来るのを、受け止め抱き上げる。
「カイトおにいちゃん、ママ元気になるよね」
「あゝ、直ぐに目を覚ますよ」
ルキナのお母さんの顔色も良くなっている。呼吸も安定しているから、意識を取り戻すのも、もう直ぐだろう。
「ルキナねえ、ルキナがママを守ってあげるの。ママにルキナが強くなったの、教えてあげるの」
「そうだな、ルキナ強くなったもんな」
その後、ルキナがルフトに乗って、部屋の中を歩き回るのを眺めて過ごした。
ルキナの楽しそうな声が聞こえる。
誰かと一緒?パパに遊んで貰っているの?
あの人とは違う若い少年の声?
ここはどこ?
段々、意識がはっきりとして来る。
ゆっくりと目を開ける。
綺麗な天井が見える。
フカフカのベッドに寝ているの?
「あっ!ママが起きてる!ママーー!」
私の視界にルキナが飛び込んで来る。
「……ルキナ!ルキナなのね。無事だったのね」
自然と涙が溢れて、ルキナの顔が見たいのに、ぼやけてよく見えない。
「気がつきましたか?」
綺麗な銀髪の少年が笑顔で聞いてきた。
誰だろう。
そうだ、私は奴隷商に売られたんだ。
じゃあ、私を買った人?
じゃあルキナはどうしているの?
「もう大丈夫ですからね」
「ママ良かったね」
首を横に向けると視界に巨大な虎が入る。
「ッ!」
「あぁ大丈夫ですよ。あれはルキナを守る為に造った物ですから」
「ママ!ルフト凄いでしょう。ルキナのなんだよ」
ルキナの?造った?
「あれは僕が造ったゴーレムみたいな物です」
私が不安に思ったのが分かったのか、説明してくれた。
「あの、ここは、私はどうなったのですか?」
「今説明しても身体は大丈夫ですか?」
「あっ!気がついたの!」
その時、部屋に眩しいほど美しい金髪の少女が入って来た。
「あぁ、これからルキナのお母さんが、どうしてここに居るのか説明するところだよ」
「お水飲みます?」
金髪の少女が、私の身体を起こして水を飲ませてくれた。
「……美味しい」
「じゃあ順番に説明しますね」
それからルキナがマドゥークで保護された経緯を聞いた。夫が亡くなっていた事も。
それは奇跡だと思った。
このカイトという銀髪の少年が、今にも消え入りそうなルキナの気配を感じたという、信じられない偶然。魔物に襲われ欠損していた怪我まで治してしまう奇跡の術。
それから私を奴隷商で見つけた経緯も教えてくれた。正直、魔力の波長がルキナの物と似ていたと、いう説明には理解出来なかったけど、この時になって初めて、私の無くなった右手がある事に気付いた。目も両方の目が見える。
あぁこの人だから私達親子は生きているんだ。
「助けて頂いてありがとうございます。カイト様の奴隷として、精一杯仕えますのでよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げると、カイト様とエルレイン様に笑われた。
「えっとイリアさんですね。イリアさんはもう奴隷じゃないですよ」
「えっ?」
慌てて身体を調べてもどこにも奴隷紋がない。
「ルキナのお母さんを、奴隷のままにしておけないでしょう」
「そうよね。それも違法奴隷だもの。解放するのが当然よね」
お二人は普通に言ってるけど、お金を払って私を買って解放すれば、カイト様に一つも特にならないのでは?と聞いてみた。
「特なんて一杯有りますよ。ほらルキナもあんなに喜んでる。それだけで十分です」
「そうよね。ルキナは私達の妹でもあるんだから」
この家で、ルキナが本当に大事にされているのが分かった。
「早く元気になって、それからゆっくり将来の事を考えましょう」
「そうね、じゃあ夕食の時間にまた来ますね」
そう言ってお二人は部屋を出て行った。
「ママ!大丈夫?」
ルキナもこんなに明るく笑う様になって。
「ルキナはカイト様やエルレイン様が好きなのね」
「そうなの!ルキナを妹にしてくれたの。美味しいご飯を一杯食べさせてくれるの。ルキナはプリンが好きなの!」
あぁ、神様、カイト様を遣わして頂いてありがとうございます。ルキナを救って頂いてありがとうございます。もう一度ルキナに会わせて頂いてありがとうございます。
あぁルキナ、私の可愛いルキナは……。
あれは、亜人排斥運動の激しいローラシア王国から、種族間差別を法律で禁じる、サーメイヤ王国への逃避行の途中だった。
私は兎人族のイリア。
獣人の中でも、狼や獅子などの戦闘種族と違い、兎人族は普通非戦闘種族だが、私は兎人族には珍しい、戦闘職を選択していた。
獣人の高い身体能力と兎人族特有のジャンプ力を活かし、近接戦闘を行う純粋なファイターだった。
異変に気付いたのは、サーメイヤ王国の国境付近だった。
魔物の臭いに気付き、ルキナを夫に任せ、私が魔物を惹きつけ、戦う決意を固めた。
現れたのはレッドウルフの群れだった。
レッドウルフ単体ではそんなに強い魔物ではないが、群れで行動するレッドウルフはそれだけで、脅威になる。
夫と娘を逃し、必死にレッドウルフを葬り続ける私は、気が付けば右手はなくなり、耳は千切れ、片目も潰れて見えなかった。片足も動かないまま這いつくばる私は意識を手放した。
朦朧とする意識の中、奴隷商に拾われ、何処かに連れて行かれ、暗い湿った部屋で死を待つのみだった。
ルキナのお母さんの状態を確認する為に、部屋に入るとルキナがルフトと遊んでいた。ルキナも大分落ち着いたみたいだ。
「あっ!カイトおにいちゃん!」
ルキナが飛びついて来るのを、受け止め抱き上げる。
「カイトおにいちゃん、ママ元気になるよね」
「あゝ、直ぐに目を覚ますよ」
ルキナのお母さんの顔色も良くなっている。呼吸も安定しているから、意識を取り戻すのも、もう直ぐだろう。
「ルキナねえ、ルキナがママを守ってあげるの。ママにルキナが強くなったの、教えてあげるの」
「そうだな、ルキナ強くなったもんな」
その後、ルキナがルフトに乗って、部屋の中を歩き回るのを眺めて過ごした。
ルキナの楽しそうな声が聞こえる。
誰かと一緒?パパに遊んで貰っているの?
あの人とは違う若い少年の声?
ここはどこ?
段々、意識がはっきりとして来る。
ゆっくりと目を開ける。
綺麗な天井が見える。
フカフカのベッドに寝ているの?
「あっ!ママが起きてる!ママーー!」
私の視界にルキナが飛び込んで来る。
「……ルキナ!ルキナなのね。無事だったのね」
自然と涙が溢れて、ルキナの顔が見たいのに、ぼやけてよく見えない。
「気がつきましたか?」
綺麗な銀髪の少年が笑顔で聞いてきた。
誰だろう。
そうだ、私は奴隷商に売られたんだ。
じゃあ、私を買った人?
じゃあルキナはどうしているの?
「もう大丈夫ですからね」
「ママ良かったね」
首を横に向けると視界に巨大な虎が入る。
「ッ!」
「あぁ大丈夫ですよ。あれはルキナを守る為に造った物ですから」
「ママ!ルフト凄いでしょう。ルキナのなんだよ」
ルキナの?造った?
「あれは僕が造ったゴーレムみたいな物です」
私が不安に思ったのが分かったのか、説明してくれた。
「あの、ここは、私はどうなったのですか?」
「今説明しても身体は大丈夫ですか?」
「あっ!気がついたの!」
その時、部屋に眩しいほど美しい金髪の少女が入って来た。
「あぁ、これからルキナのお母さんが、どうしてここに居るのか説明するところだよ」
「お水飲みます?」
金髪の少女が、私の身体を起こして水を飲ませてくれた。
「……美味しい」
「じゃあ順番に説明しますね」
それからルキナがマドゥークで保護された経緯を聞いた。夫が亡くなっていた事も。
それは奇跡だと思った。
このカイトという銀髪の少年が、今にも消え入りそうなルキナの気配を感じたという、信じられない偶然。魔物に襲われ欠損していた怪我まで治してしまう奇跡の術。
それから私を奴隷商で見つけた経緯も教えてくれた。正直、魔力の波長がルキナの物と似ていたと、いう説明には理解出来なかったけど、この時になって初めて、私の無くなった右手がある事に気付いた。目も両方の目が見える。
あぁこの人だから私達親子は生きているんだ。
「助けて頂いてありがとうございます。カイト様の奴隷として、精一杯仕えますのでよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げると、カイト様とエルレイン様に笑われた。
「えっとイリアさんですね。イリアさんはもう奴隷じゃないですよ」
「えっ?」
慌てて身体を調べてもどこにも奴隷紋がない。
「ルキナのお母さんを、奴隷のままにしておけないでしょう」
「そうよね。それも違法奴隷だもの。解放するのが当然よね」
お二人は普通に言ってるけど、お金を払って私を買って解放すれば、カイト様に一つも特にならないのでは?と聞いてみた。
「特なんて一杯有りますよ。ほらルキナもあんなに喜んでる。それだけで十分です」
「そうよね。ルキナは私達の妹でもあるんだから」
この家で、ルキナが本当に大事にされているのが分かった。
「早く元気になって、それからゆっくり将来の事を考えましょう」
「そうね、じゃあ夕食の時間にまた来ますね」
そう言ってお二人は部屋を出て行った。
「ママ!大丈夫?」
ルキナもこんなに明るく笑う様になって。
「ルキナはカイト様やエルレイン様が好きなのね」
「そうなの!ルキナを妹にしてくれたの。美味しいご飯を一杯食べさせてくれるの。ルキナはプリンが好きなの!」
あぁ、神様、カイト様を遣わして頂いてありがとうございます。ルキナを救って頂いてありがとうございます。もう一度ルキナに会わせて頂いてありがとうございます。
24
お気に入りに追加
11,336
あなたにおすすめの小説
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる