異世界立志伝

小狐丸

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この世界のこと

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 ピョコピョコと白いうさ耳が、楽しそうに動いている。

 
 朝、宿で朝食を三人で食べたあと、ルキナの服と下着を買い揃え、ノトスに戻ることにした。
 馬車の定期便は三日後らしいので、歩いて戻ることにした。ルキナを連れては、護衛依頼は受けれないから仕方ない。少し頑張れば四日あればノトスに着くだろう。

 父親と死に別れ、ルキナ自身も死にかけていたが、俺達に助けられ、お腹いっぱいご飯が食べれる事に、ルキナは喜んでいた。父親の死は、まだ乗り越えてはいないが、俺のことは「カイトおにいちゃん」、エルのことは「エルおねえちゃん」と呼ぶようになった。


 それは朝起きたあと、ルキナに「俺達の妹かにならないか。子供でも良いよ」と持ち掛けた。

「ルキナのおにいちゃん?パパ?」

 ルキナが俺の顔を見て、首をかしげて聞く。

「あゝ、そうだよ。でもパパでも良いけど、呼び方はお兄ちゃんの方が違和感ないかな」
「ルキナのおねえちゃん?」

 こんどはエルの顔を見て聞く。

「ええ、そう。ルキナのお姉ちゃんにしてくれる?」

 ルキナはキョロキョロと俺とエルの顔を見た後、にぱぁーと笑うと抱きついて来た。

「ルキナにおにいちゃんとおねえちゃんが出来たの!」

 なんとか喜んで貰えたようでホッとした。

「私達のお家に帰りましょうね」

 その後、宿をチェックアウトして、必要な買い物を済ませた俺達は、ノトスの街へ出発した。




 ノトスへの道を、俺に抱かれて上機嫌のルキナを見ると、この世界の過酷さが今更ながら分かってくる。
 俺がこの世界で最初に出会ったのが、魔物だけど厳しくも優しいドルファレス師匠でラッキーだった。
 ルキナの母親は、ローラシア王国へ向かう最中に魔物に襲われた時、ルキナを逃す為にその場に残ったらしい。
 その時、ルキナと父親も怪我を負い、父親はルキナを庇って必死に逃げたそうだ。
 怪我を負っても手当の手段がない父親は、ルキナを助ける為に、死にものぐるいでマドゥークへ向かったのだろう。

 エルの話では、高レベルの回復魔法を使える人間は非常に少ないそうだ。それはそうだろう。魔物との戦闘無しに、回復魔法だけの訓練では、ジョブもスキルもレベルアップしづらいだろう。せいぜいハイヒールが使える迄になるのが精一杯だろう。


 ルキナ親子が、ローラシア王国に生まれた事も不運だった。あの国は人族以外に優しくない国だから。
 もともと獣人族は、小さな部族単位で固まり暮らしていた。
 ルキナ達親子も小さな村で暮らしていたそうだが、村が飢饉で食べ物が少なくなった時、ルキナの父親と母親は小さなルキナを連れて、サーメイヤ王国に行く事を決めたらしい。このままでは親子共々餓えてしまうと考えたのだろう。
 ようやくルキナと父親は、マドゥークの街にたどり着いたが、父親はそこで力尽きた。ルキナを遺して倒れた無念を考えると、この子は幸せになって欲しいと願う。


 時折出て来る魔物を、エルが魔法や魔導銃で倒して行くのをルキナが見て、キャアキャアとはしゃいでいる。
 魔物が出て来ても、抱いている俺が落ち着いているからか、ルキナは怖がる事なくはしゃいでるのかもしれない。


 焚き火にあたりながら、胡座をかくカイトの上で、毛布にくるまり丸まりながら寝ているルキナを眺めている。

「昼間ははしゃいでる様に見えて、不安なんでしょうね」

 エルがルキナを見てそう言う。ルキナは俺かエルと離れるのを嫌がる。片時もどちらかと離れず、身体が触れ合っていると安心するようだ。

「もう少し落ち着いたらマシになると思うけど、今はいっぱい甘えさせてあげよう」
「そうね、お母様と生き別れて、お父様も生きるのに必死で、ルキナを甘やかすどころではなかったでしょうしね」

 お父様にお母様ね、育ちの良さが時々出るんだよな。いつまで隠している気かな、俺が鑑定スキルを持ってること分かってるだろうに。




 朝、スライスしたパンに、チーズを炙って溶かした物をレタスとハムを一緒に挟む。

 ルキナの鼻がピクピクと動き、食べ物の匂いに気づいたのか、ガバッと起きあがる。

「カイトおにいちゃん。ご飯なの?」
「はい、ルキナのサンドイッチ。ゆっくり食べるんだよ」

 モソモソとエルも起きあがる。

「ふぁ~、カイト私にもご飯~」

 エルと自分の分もサンドイッチを作る。

「ルキナ、ミルクも飲みな」

 口の中一杯に、サンドイッチを頬張るルキナにミルクを渡す。

 朝食を食べ終え、後片付けを済ませると、ノトスへ再び歩きだす。




 歩き続けること四日目の昼頃、ノトスの街に戻ってきた。

「ルキナ、ここがノトスの街だよ」
「これから私達のお家に帰るからね」

 ノトスの街に入り、家に向かって歩く、



「うわ~~、大きなお家だ~!」

 ルキナが俺達の家を見て驚いている。

「今日からルキナのお家だよ」
「凄~い!ルキナのお家大き~い!」

 俺に抱かれたルキナは、興奮して両手をバンザイして喜んでいる。

 ルキナを抱いて家に入り、エルにルキナを預けると、お昼ご飯の準備に向かう。

 作り置きして、鍋ごとアイテムボックスに収納してあるポトフをだして温める。
 栄養状態があまり良くないルキナに、出来るだけバランスの良い食事をさせてあげたい。

「お昼だから、ポトフとパンで良いか」

 ダイニングテーブルにポトフの皿を並べ、真ん中に籠に盛ったパンを置く。

「さあ食べようか」

 ルキナがフォークでソーセージを刺して、大きな口を開けて頬張っている。

「おいひ~い!」

 ルキナは口の中に、これでもかと食べ物を詰め込んでいる。

「ほらほら、口に食べ物を入れたまま喋ったらダメだよ」

 夢中になって、美味しそうに食べるルキナを見ると、ホッコリとした気分になる。ふとエルの方を見ると、こちらも夢中で食べていた。それでも、さすがに上品な所作は育ちの良さがわかる。




 お昼ご飯を食べ終え、後片付けを済ませる。

「ルキナのベッドがいるね」

 俺がそう言うと、ルキナが俺の足にしがみつく。

「ルキナ、おにいちゃんとおねえちゃんと一緒が良いの!」

 俺とエルが、顔を見合わせる。

「ルキナが落ち着くまで、暫くは仕方ないと思うわよ」

 エルが俺にしがみつくルキナを見る。

「そうだな。でもルキナも部屋を欲しいだろ。家具とベッドは買っておこう」


 午後からルキナのベッドや家具を買い、服や下着を買い足す。




「なあエル。メイドとか雇った方が良いのかな」

 俺達がギルドの依頼を受けているあいだ、ルキナを独り家には置いておけない。

「そうね、王都ならメイドやバトラーを派遣する組織もあるけど、ノトスじゃあね」

 それはそうか、こんな辺境の街だもんな。

「お金に余裕はあるんだから、ゆっくり考えれば良いんじゃない」

 いつの間にか、俺に抱かれながら寝てしまったルキナを見る。

「そうだな。もう少し時間が必要か」

 ルキナが寝てしまったので、家に帰る事にする。

 そう言えば、学校や幼稚園なんてあるんだろうか?その辺も調べる必要があるかもな。

 そんな事を考えながら、ぶらぶらと三人で家路についた。

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