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西国攻略拠点

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 永禄十一年(1568年)十月 摂津国  石山

 ここは石山本願寺の跡地、つい二月前までは国内の一向宗本願寺派の総本山だった場所。

 そこに巨大な城の基礎が出来つつあった。

 北に大和川、淀川、天満川、東に猫間川、平野川、大和川と天然の要害を活かし、史実で真田丸が造られた南側を重点的に固めた堅城が築城される予定だった。

 石山の人々は、僅か二月程で姿を見せた、外濠と内濠に含む巨大な城の基礎に、まるで神の御業と手を合わせた。
 濠には石垣が組まれているのが見える。いつ石が運び込まれたのか、天守台までが完成していた。

「殿、ここを平らにお願いします」

「あゝ」

「殿、木材はここにお願いします」

「分かった」

 源太郎は、半兵衛と十兵衛の指示で本丸の工事を手伝っていた。
 半兵衛(竹中重治)と十兵衛(明智光秀)は、源太郎が石山本願寺跡に、巨大な城の築城を決めると、大喜びで縄張りを描き始めた。
 源太郎の意見や、忍びから伊賀崎道順、百地丹波、藤林長門守、望月出雲守らの意見も取り入れ、忍び返しの城が築かれる。

「京の護りを考えても、西国の攻略を考えても、この城は重要な拠点となりますな」

 半兵衛が、着々と進む石山城の縄張りを広げて、十兵衛や道順と相談している。

「……それは良いんだけど、私の力で築城を手伝うのも、もう自重はないんだな」

「内濠の内側ですから、あまり人の目にもつかないと思いますよ」

「今更ですしね」

 十兵衛と道順にそう言われると、大人しく従うしかない。

「それに畿内の安定には、この城が重要になって来ます。軍事・物流でも重要な拠点となります」

「そうだな、この城が出来れば、三好も簡単に畿内へ手出し出来ないだろう」

 半兵衛の意見に源太郎も賛同する。

「そう言う訳ですから殿にお仕事です。瓦を大量に生産して下さい」

「えっ、いや、瓦町を造っただろう」

「全然足りませんから」

 仕方なく、半兵衛から見本を渡された瓦を黙々と作るはめになる。

 大規模な開発は町にも及び、西は、舟場、阿波座、南は天王寺にかけて開発する。北も京橋から京へ向かう街道と周辺を整備する。



「殿、石山城の城代は誰にします」

 十兵衛の問いに考え込む源太郎。

「……十兵衛してみる?」

「いえ、某は今の仕事が気に入っていますから」

 十兵衛が直ぐに断りを入れる。
 現在、十兵衛は坂本を治めているが、坂本城には城代を置き、自分は自由に飛び回っている。
 半兵衛も長浜を領地としているが、竹中家は弟に任せて、自分は源太郎の側に居る事が多い。
 その方が楽しいからという理由らしい。

「芝山出羽守殿ではどうでしょう。北畠家家老のお一人でもありますし、能力、忠義心共に問題ないかと」

 半兵衛が、芝山出羽守を推薦する。

「小次郎の親父殿でもあるしな、悪くない。
 小次郎は何時も私の側に居る事が多い。石山であれば、会う機会も増えるだろう。
 うん、一度父上に書状を出して相談してみよう」

 石山は重要な拠点となるので、北畠家四家老の一人である、芝山出羽守は良い選択かもしれない。本当は、源太郎の弟である次郎辺りに任せれれば良いのだが、本人が重要な拠点を任せられるのを嫌がるので仕方ない。
 次郎曰く、自分は北伊勢で千種家を護って行ければ良いらしい。父上は、次郎は自分の器を分かっているだけ優秀だと言っていた。それを分からず夢を見ると、悲惨な目に会うと。

『儂は伊勢一国を治めるのが精々よ。次郎も己を良く分かっている。
 それは源太郎という規格外を側で見れた幸運やもしれん。
 己の大きさを図る事が出来たからの』

 具教から、そう言われた事を思い出す。

「まぁ、城代はそれで良いか」

 源太郎はその後、半兵衛と十兵衛の指示で、自重を忘れた様に、築城にまい進する。
 阿波の三好や西国への圧力を掛ける為と、畿内の安定化の為に、難攻不落の巨大な城を築き上げる。
 それも、常識はずれなスピードで……。




 永禄十一年(1568年)十月 甲斐国  躑躅ヶ崎館

 山県昌景、小山田信茂、馬場信春、内藤昌豊、穴山信君、武田勝頼が一堂に会していた。

「来春、遠江を切り取る」

 一堂に対し、武田信玄が宣言する。

「足利義秋殿より、織田・北畠を討つよう要請があった。故に軍を動かす事にした……、と言うのは建て前じゃ。
 要は遠江を取りに行く。織田はここで一度叩いておかんといかんじゃろう」

「誰の入れ知恵か、岩村城も堅固に改築され、東美濃からの攻略が難しくなっていますからな」

 小山田信茂が、東美濃からの侵攻が難しくなっている事を言う。

「北畠左近衛中将具房か……、若いが傑物のようじゃな」

 信玄がボソリと呟く。

「遠江を攻める時に、左中将が出て来ると厄介ですな」

 山県昌景が、北畠家が援軍として来ると、戦況が読めないと言う。

「北畠左中将何するものぞ!左中将が出て来るなら、望むところよ!」

 武田勝頼が、強気な発言をする。勝頼にとって具房は一歳年下、ライバル心もある。
 自分が、巨大な父親の背を必死に追っているというのに、若くして当主となり、中伊勢の一勢力から、畿内を中心に広大な領地を持つに至った若武者。敵愾心を持つのも仕方のない事だった。

「北畠家の援軍も頭に入れて置かねばならんの。最低でも三万五千集めて進軍する事とする」

 熱くなる勝頼を無視して、信玄が大軍を持って遠江に侵攻する事を告げる。

「各自、戦の準備を怠る事ないよう」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 こうして、史実よりも早く信玄の西進が決まった。これにより、徳川家と織田家がどうなるのかは誰にも分からない。

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