不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百三十九話 準備

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 さあ準備だ。屋台は大きさは統一してあるが、売る物によって少しずつ違う。

 焼きそば用の屋台には、大きな鉄板とコンロの魔道具。農地の人達は大鍋のスープだから、屋台じゃなく大きな鍋と、その鍋に合わせたコンロの魔道具を渡してある。

 串焼き肉の屋台には、コンロの魔道具ではなく、炭焼きで調理できる屋台にした。




 森の拠点に戻り、工房で屋台を多めに作る。

 材料の木材はストックが売るほど有る。それを製材し、寸法にカットして組み立てるだけだ。

 コンロの魔道具なんかは、外の世界では値段が高くて貴族なんかのお金持ちしか買えないらしいが、俺の場合は自作だし、材料も魔石を含めて自分で調達しているから関係ない。

 俺が屋台や鉄板なんかを作っていると、視線を感じて振り返る。

「ミル、ララ、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、なに作ってるの?」
「まどうぐ?」

 覗いていたのは、ミルーラとララーナの双子の姉妹。俺が工房で作業をしているが気になったみたいだな。

「今日の分のお勉強は終わったのか?」
「う~ん、今は休憩の時間なの」
「そう、息抜きなの」
「そっか、ならいいか」

 ミルとララは、孤児院でも勉強を教えてもらう事もあるけれど、拠点でも母親のルノーラさんからだけじゃなく、セブールやリーファ、ブランやノワール達から色々と教わっている。

 読み書き計算は勿論、ルノーラさんやボルクスさんの故郷の話や、知っておくべき常識など、将来ここを出て行きたくなった時に、困らないようにと考えてだ。

 今日も勉強してたみたいだけど、飽きたんだな。まあ、遊ぶ方が楽しいし、仕方ないか。

「それで、なにを作ってるの?」
「今度の収穫祭用の屋台とか色々を作ってるんだよ」
「あっ! ミル知ってるよ!」
「ララも! ポーラちゃんが言ってた!」

 ミルとララも、孤児院で仲良しのポーラちゃんから教えてもらったらしい。

「そう。その収穫祭で使う屋台を作ってたんだよ」
「ポーラちゃん達孤児院のお友達も屋台するんでしょう?」
「ミルもお手伝いするんだ!」
「ララも!」

 孤児院の年長の子達で屋台を出すのを聞いてたみたいで、ミルとララも手伝う約束をしているようだ。ミルとララからすると、屋台も遊びの延長なんだろうな。

 そこにミルとララを呼ぶ声が聞こえる。

「ミルー! ララー!」
「あっ!? やばい!」
「ママに見つかっちゃう!」

 ミルとララを呼んでいるのは、二人の母親であるルノーラさんだ。ルノーラさんの声が聞こえたと思うと、二人は慌てて逃げて行った。

 やんちゃでノビノビ育っているミルとララに思わず笑顔になる。子供はこうじゃないとな。

 まぁ、かわいそうだけど捕まっちゃうんだけどな。

 ミルとララには、勿論パワーレベリングしてあるけど、それはルノーラさんも同じだ。いや、ミルやララは、頻繁に城塞都市へ行っては、孤児院の子供達と遊んでいるけれど、ルノーラさんは森で狩りをする機会が多い。

 クグノチやトム達が一緒なので万が一もないし、それ以上にルノーラさんは強くなっているしな。装備だって、ボルクスさんに渡した物とは比べ物にならないレベルのを使っている。

 そんな訳で、ミルとララが逃げたところで、必ず見つかるし捕まるだろう。



 ルノーラ親子の鬼ごっこはいいとして、小さな子供達が遊べるゲームだな。

 最初、孤児の救済で城塞都市を造り、教会と孤児院を造ったので、子供は孤児院にだけしか居なかったけれど、今は移民が増えたので、子供は増えている。

 孤児院の子供ほど狙われやすくない事と、きりがないので、パワーレベリングはしていないが、アスラとゴーレムによる巡回警備と、ヤタによる空からの警戒で、今のところ攫われたりする事件は起きていない。

 話が逸れたが、要するに孤児院以外の子供が増えたので、その子達が楽しめる催しを幾つか考えたい。

「手近なところだと輪投げだな。作るのも簡単だし。射的は、弓の的当てにするか。銃の無い世界に、オモチャとはいえ不味い気がする。オモチャの弓と矢なら危なくないだろうしな」

 輪投げは確定として、弓もこの世界ではポピュラーな武器だから馴染みもあるし、オモチャなら危険もない。作るのも楽だ。

 射的はなぁ、ライフルの形がこの世界には馴染まないと思う。まぁ、銃に似た魔道具はあるみたいだけど、低ランクの魔物にしか通用しないし、故障は多い上に定期的なメンテナンスが必要なので直ぐに廃れたらしい。

 武器全般に当て嵌まるのだが、こまめなメンテナンスは当たり前の事だ。ただ、複雑な機構の魔道具をメンテナンスするとなると、話は変わってくるんだろうな。しかも火薬じゃなく、魔法で何かを飛ばす仕組みなので魔石を使う。大変高価なオモチャらしい。セブールに言わせると、金持ちのコレクション程度の価値しかないそうだ。

 おっと、また盛大に話が逸れたな。輪投げ、的当てときて、あとは何があるかな。ギャンブル性の高い催しは避けたい。子供達には早過ぎる。

「もう一つか二つあった方がいいな」

 農地が拡がり移民も増えたので、子供の人数もそれなりに多い。それに、大人も喜んで遊ぶ気がする。この世界、貴族や一部の富裕層を除いて、娯楽は少ないからな。


 ルールが簡単で、誰でも楽しめるってなると難しいな。




 結局、輪投げと的当て、それにモルックみたいなゲームに決めた。木製の上に数字が描かれたピンを倒して、どちらが先にピッタリ50点にするか競うゲームだったような気がする。

 ペタンクとどっちにしようか悩んだんだが、金属製の重い球を投げるのは、色々と危ないと思ってやめた。パワーレベリング済みの孤児院の子供達にとって、凶器と変わらないからな。




 一応、催しものが決まった。

「さて、俺は何の屋台を出そうかな」

 屋台、やってみたかったんだよな。多分、前世では、そこそこオッサンだったと思う。あまり記憶は定かじゃないが、屋台で一杯ってワードが浮かんでくる。

 少しだけ日本酒も持って行こう。屋台で一杯って言ったら日本酒だよな。


 そこにリーファが様子を見に来てくれた。

「ご主人様、お茶は如何ですか?」
「おっ、ありがとう。もらうよ」

 リーファの淹れてくれたお茶を飲んで一息吐く。

「そうだ。リーファなら何の屋台がいい?」
「……ご主人様が、されるのですよね」
「うん。面白そうだからな」
「……以前、冬にご主人様が作っていただいた、オデンという煮込み料理はどうでしょう。少々手間が掛かりますが、凄く美味しかったです」
「おでんか。ありだな」

 リーファのリクエストは、おでんだった。

 おでんは、何度か冬に作った事があったからな。それを気に入ってくれたみたいだ。

 まあ、リーファが言ったように、少々手間暇が掛かるんだけどな。

 昆布やカツオじゃないけど、似たような魚から鰹ぶし擬きも大量に作ってあるから、出汁に関しては問題ない。同じように、醤油や味噌なんかも有る。

 具材を頭の中であげていく。

 大根は森の拠点で作っている。今は少し時期が違うけれど、時間停止した空間拡張された倉庫に一杯ある。

 竹輪やハンペンなんかの練り物系は、海に行って魚を獲って来ないとな。さつま揚げやゴボ天を入れると、それからも出汁が出る。出汁といえば、昆布が有るから結び昆布も入れないと。

 豆腐も作って、油揚げと厚揚げを作らないと。おでんの焼き豆腐は美味しいんだよな。厚揚げは、そのままおでん種になるが、薄揚げも餅巾着用に必要だからな。ああ、餅巾着を作るんなら、お餅もつかないといけないな。

 コンニャクはどうするか……今回は無しでいいか。

 ジャガイモもストックは十分ある。すじ肉は、牛系の魔物を狩ってくればいい。クジラとタコは、海での漁次第かな。

 あっ、ゆで卵は必須だな。これはセブールに頼んでおこう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。


 また「いずれ最強の錬金術師?」の16巻が、5月下旬に発売されました。

 あと、ササカマタロウ先生のコミック版「いずれ最強の錬金術師?」6巻も5月下旬に発売されました。

 あわせてよろしくお願いします。

 小狐丸


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