不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百三十六話 聖国侵攻

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 シグムンドが、増加傾向にある城塞都市内の賊に、どうしようか考えていた頃、とうとう西方諸国の中の迷惑国家が動き出した。

 ジーラッド聖国の侵攻軍が、草原地帯の入り口付近に建設途中である竜人族の集落? へと行軍を開始したのだ。

 一応、嫌々ながら軍を率いるのは、ローデン将軍。

 何故、嫌々ながらなのかと言うと、ローデン将軍は草原地帯に軽いトラウマを植え付けられているからだ。主に、グレートタイラントアシュラベアのアスラによって。

 西方諸国だけでなく、魔王国も含めた大陸中で考えても、アスラの存在は厄災だから仕方ないとも言える。

 当然、ローデン将軍の表情は硬い。

「将軍、大丈夫でしょうか?」
「言うな。恨むなら聖王陛下を煽った商業ギルドの本部長モーガンを恨め」

 草原地帯への侵攻で、ジーラッド聖国の兵士に死者は少ない。アスラがその気なら当然全滅しただろうが、目的は撃退だったので追撃どころか、威嚇だけでまともな攻撃すらしていない。

 とはいえ、ほぼ手ぶらで逃げ帰ったローデン将軍を始めとする兵士達は生きた心地はしなかっただろう。実際、国へと辿り着けなかった者もそれなりに多かった。トラウマとなるに十分な出来事だった。

 二度目は、聖国が侵攻に失敗した草原地帯に、いつの間にか本格的な城塞都市が築かれたと聞き、少数精鋭による奪取を試みた。しかし、精鋭達はシグムンドに無力化され、命を取られる事はなかったが、縛られて木に吊るし放置された。

 一度目の侵攻で、大量の物資と奴隷兵を失い、二度の襲撃では精鋭の兵士が使い物にならなくなった。

 それを知っているローデン将軍の表情がいい訳がない。


 戦場では肉の盾となる奴隷兵を失い、その所為で傭兵を雇う事になってしまった。今回、その費用のほとんどを商業ギルドの本部長であるモーガンが援助してくれ、更に食料などの物資も格安で融通してもらっている。

 とはいえ費用は掛かる訳で、内務卿のメディスなども頭を痛めていたが、モーガンに乗せられ聖王バキャルは上機嫌だ。ローデンやメディスにバキャルへ諫言する勇気などなかった。



 ジーラッド聖国から出発した軍が、国境を超えてもう直ぐ草原地帯というところで、急に街道が整備されたのに気付く。

 因みに、ジーラッド聖国から草原地帯までは、他国を通り抜ける必要があるのだが、迷惑国家のジーラッド聖国に、面と向かって文句を言うのを面倒がって、監視は付くが通り抜けは拒否される事はまずない。

「急に街道が綺麗になったな」
「魔王国から草原地帯のルートは、もっと綺麗に整備されていると報告が上がってます」
「ふん。我がジーラッド聖国に断りもなく、交易で儲けるとは、許し難いな」

 西方諸国連合の中でも一番尊い筈のジーラッド聖国よりも、あきらかに綺麗に整った広い街道。それだけで面白くないローデン。

 今回の侵攻自体は乗り気ではないとしても、ジーラッド聖国に対する愛国心はあるようだ。ただ、その方向性は間違っているようだが。

 まるで迷惑な奴らがまた来たとばかりの視線を送ってくる監視の軍を、気にする様子を見せずに進むジーラッド聖国の兵士と傭兵達。迷惑がられているなんて気にしない。そんな態度が余計に嫌われるのを知ってか知らずか、ジーラッド聖国の人間は程度の差はあれど、他国の人間に対してこのようなものだ。






 総勢三千人に物資の輸送の人足を入れたとしても軍としては少ない。その少ない軍とはいえ行軍速度は遅い。歩兵が中心で、その上物資の運搬も必要なのだから当然である。ただ皮肉な事に、その行軍速度が街道が広く綺麗に整えられた区間に差し掛かった所為で速くなる筈なのだが、相変わらず行軍速度は遅いままだ。

 それは兵士の数を増やす為に雇った傭兵に原因があった。肉盾として使っていた奴隷兵の代わりにと雇った傭兵だが、常に監視しておかないと、草原地帯までの経路に在る村や町で略奪などの罪を犯しかねない。

 その為、ジーラッド聖国の正規兵と通行許可を得た国の軍が監視を行いながらの行軍となるので、どうしてもその速度は遅くなる。

 しかも略奪を行えない傭兵達の士気は低く、更にそんな盗賊まがいの傭兵を監視しなければならない正規兵の士気も最低だ。そんな状況で、行軍速度が上がる訳がない。



 途中、監視の兵士と多少のトラブルはあったものの、なんとか国境を越え草原地帯の入り口に近い付近まで進軍した。

「この速度なら、もう半日ほどで目的地に到着します」
「ふむ。では斥候を出すか。可能なら中の様子が知りたい。商人と護衛を装い調べさせろ」
「はっ!」

 斥候を出す事は、戦いにおいて当たり前の事だが、今のジーラッド聖国には、優れた斥候が居ない。人数も少ない為、どうしても調べるにあたり直接的な行動になる事が多い。




 行軍を止めず進むローデンの元に斥候が戻って来た。

「大変です! ローデン将軍!」
「落ち着け! 先ずは、正確な報告が先だ!」
「はっ、はい! 草原地帯の入り口付近、竜人族の集落ですが、アレはもう集落というレベルではありません! アレは、もう砦です!」
「なにっ!?」

 斥候の報告を聞き、ローデンもそうでなければいいと心の中で思っていた。あの城塞都市をあっという間に建設したのだ。竜人族の集落が、ただの集落である訳がない。

 それでも、魔王国に暮らす竜人族の集落だからという事で、僅かな希望を持っていた。

 だが、入り口付近とはいえ、あの草原地帯に集落を造るのだ。普通の集落の訳がなかった。

「詳しく!」
「は、はっ。集落の外壁は、堅牢で高く聳え立ち、周りを堀が囲っていました。東西にある門にはゴーレムの門番が立っています」
「グゥ、まさしく砦だな」

 斥候からの報告に、ローデンの眉間の皺が深くなる。外壁の高さを詳しく聞くと、城塞都市ほどではないが、それでも十分堅牢な砦と言えるレベルだ。

「たまたま遭遇した商人や、その護衛から話を聞けました」
「なに!」
「竜人族の人数は少ないらしく、集落の中の人間は多くありません。ですがアイアンゴーレムと、骨のゴーレムが警備しているそうです」
「んっ? 骨のゴーレムだと。それはスケルトンではないのか。魔族のネクロマンサーでも雇ったか?」

 集落に居る人数が少ないというのは想定通りだ。ただ、アイアンゴーレムがいるとはと顔を青くする。しかも骨のゴーレムとは意味が分からない。スケルトンならネクロマンサーが召喚すると聞いた事がある。魔族ならそんな下賤な輩も居るのだろうとローデンが問うと、報告していた斥候は首を横に振った。

「スケルトンどころの話ではないそうです。その巨体と威圧感は、アイアンゴーレムと同等かそれ以上だと、護衛の冒険者が言っていました」
「……むぅ、一筋縄ではいかんか。とはいえ人数は少ないのだな」
「はい。総勢三百人程度でしょうか」
「ふむ、十倍か。どうとでもなりそうだな」
「……」

 スパルトイをただのスケルトンだとの認識のローデンに、斥候の兵士は商人の護衛をしていた冒険者からの話として、尋常じゃない威圧感の存在だと聞き、半信半疑ながらも、それを想定に入れながらも、今回こそ成功するだろうと疑わない。

 実際、十倍の兵力があるのだ。普通なら城攻めだとしても負けるイメージを持てないローデンは悪くないだろう。数こそ力なのは、だいたいの場合は正しいのだから。ただ、数の暴力が通用しない理不尽を忘れている。

「それで、グレートタイラントアシュラベアの目撃情報は?」
「このところ見た者は居ないそうです」
「よし! あの厄災のバケモノが居なければ勝てる」

 ローデンのトラウマであるアスラの目撃情報を確認。このところ目撃されていないと聞き、安堵する。

 そもそもアスラは集落の近くを巡回はしても、時間帯を考慮し交易の商人を怖がらさないよう気を付けている。目撃情報が無いのも当然だった。

 まあ、今回に限って言えば、アスラは竜人族の集落近くには居ない。今回は、スパルトイやアイアンゴーレム、それと竜人族達で乗り切れるかのテストの意味合いがあるからだ。


 そんな事は知らないローデン将軍率いるジーラッド聖国軍。特にアスラを情報でしか知らない傭兵達は、厄災級のバケモノが出没しなければ略奪し放題とさえ考え浮かれている者までいる始末。

 実際、その目で竜人族の集落を目にし、この侵攻が簡単な作戦ではないと認識するまであと少し……




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 この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。


 また「いずれ最強の錬金術師?」の16巻が、5月下旬に発売されます。

 あと、ササカマタロウ先生のコミック版「いずれ最強の錬金術師?」6巻も5月下旬に発売されます。

 あわせてよろしくお願いします。

 小狐丸




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