不死王はスローライフを希望します

小狐丸

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二百二十八話 過剰戦力?

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 門番用のストーンゴーレム達のレベリングもひと通り終わったので、トムとクグノチに教育されたイモータルトレント達とキラープランツを連れて、草原地帯に建設中の竜人族の集落にやって来た。

 実は、ここの防備はある程度俺の方でするべきだと思ったんだ。

 ここは草原地帯の入り口付近。西方諸国から攻められるとなると、一番最初に被害に遭うのはここだ。

 だから紛れ込む賊なんかの対処だけでなく、本腰を入れて防衛を考えた方がいいんじゃないかと考えたんだ。

 とはいえ少しの間籠城できれば、俺達が駆け付けるから、現状でも多分大丈夫だと思うが、念の為だな。

「オオ爺サマ用の警備ゴーレムを少しまわした方がいいかもな」
「黄金竜様も城壁内で暮らしていますから、警備ゴーレムはもう必要ありませんしね」
「ああ、ギータ達も居るしな」

 俺が警備ゴーレムをこっちに配備した方がいいかもと言うと、セブールもそれに賛成してくれた。ギータ達竜人の眷属が四人も居るので、城塞都市は過剰戦力もいいところだからな。

「一応、某国が攻めて来ても大丈夫なように、外壁は頑丈にしたんだけど、よく考えれば、ここが草原地帯を攻略する上で最初のターゲットになっちゃったんだよな」
「集落内で悪さをしそうな賊対策に、イモータルトレント達やキラープランツを眷属に加えましたが、もう少し考える必要がありそうですな」

 ここの防衛を、俺達ありきで考えないようにするのが良いと思うが、だからといって竜人族をパワーレベリングする気はない。俺は孤児院の子供達には責任があるが、竜人族は違うからな。

「連弩でも造って竜人族に持たせるか。いや、連弩じゃ威力と射程が物足りないか」
「竜人族なら普通に弓を使った方がいいでしょうな。しかし連弩とは初めて耳にします」
「そうかもな。この世界じゃ中途半端な武器だと思う」

 連弩をどうかと考えたが、盗賊ならいざ知らず、何らかの付与が為されたフルプレートを着込む兵士には威力的にイマイチ、イマニだ。セブールが知らなかったのも、耐久力の高い魔物がいるこの世界では発明されたかどうかも分からない。

「なら、バリスタにするか。外壁の上に設置して、連射式にすれば少人数でも守りやすいだろう。因みにバリスタっていうのは、固定式で大型の連弩って感じかな」
「ほぉ、大きく強力なら問題はある程度解決しますな。固定式に関しても防衛に限ってはデメリットにはなりませんし」

 俺はセブールに、バリスタを説明する。

「そのサイズは、矢というより槍ですな。しかも連射式となると、そこそこ防衛戦でなら使えるでしょう」
「だろ。俺達や森の奥に棲む魔物には通用しないが、某国の軍程度なら十分通用するだろうしな」

 セブールも某国(ジーラッド聖国)相手なら有効だと言ってくれたので、取り敢えず工房に戻ってバリスタを作ろう。



 その前に、城塞都市に寄ってミルとララをピックアップしないといけない。今日もポーラちゃん達と遊んでいるからな。

「おっと、その前にオオ爺サマに護衛用ゴーレムを二体ほど持っていくのを言っておかないとな」
「そうですな。現状、他のゴーレムと巡回警備の任に就いていますから、一応声掛けしておけば大丈夫でしょう」

 ギータ達も居るし、そもそも古竜をどうにか出来る存在なんて、そうそう居ないが、あの警備用ゴーレムは、オオ爺サマの眠りを妨げる馬鹿を近寄せない事が目的だったからな。巡回警備となった今も、オオ爺サマの屋敷に不審者が近付かないようにとだ。



 そう思ってオオ爺サマに話をしたんだが、オオ爺サマは勿論認めてくれた。

「それは勿論構わんが、シグムンド殿は、闇属性の魔法も使えるじゃろう。ゾンビやグールは不衛生じゃが、スケルトン辺りを召喚すればいいのではないか?」
「……そう言えば使えたな。すっかり忘れてた」
「うっかりしていましたな。ただのスケルトンでは使いものにならないでしょうが、育て方次第では有用でしょうな」

 闇魔法にアンデッドを召喚するものがあるのは知ってはいたが、ゴーレムで十分だったし、死霊召喚の場合、先ず材料となる死体が必要になる。スケルトンなら骨でいいので、だいぶハードルが下がるが、考えた事もなかったな。

 あと、造ったばかりの状態では、ゴーレムの方が強いので、良い素材を用意しないと死霊召喚は育てる手間が掛かるしな。

「死体、素材か。おお、そうじゃ。これを素材にしてはどうじゃ?」
「えっ!?」

 オオ爺サマが自身の空間収納から取り出したのは、巨大な骨や牙、爪など。その形から間違いない。

「竜の骨か」
「うむ。属性竜の骨じゃな。まぁ、ドラゴンオーブと比べると、ゴミみたいな物じゃが、ワシはどうにも捨てられん気質みたいでの。何でも貯め込む癖があるんじゃ。これもその中の一つじゃな。使い道もないから好きに使ってくれていいぞ」
「……竜の骨や牙に爪も有りますね。鍛治師や錬金術師は、喉から手が出る程欲しがるでしょうが、黄金竜様からすればゴミですか」
「これで二体分って感じか。取り敢えず一度試してみるか」

 そう。オオ爺サマが取り出したのは、竜の骨や牙に爪。一体丸ごとって訳じゃないが、二体分が混ざっているらしい。

 確かに、これでスケルトンを造れば、最初からそれなりに使えそうなのが召喚できるかもしれないな。



 取り敢えずものは試しだという事で、俺とセブール、オオ爺サマと竜人の眷属を代表してギータで、城塞都市から出て南の海岸付近まで来ていた。流石に、死霊召喚を街中では試し辛い。

「さて、材料はこれでOKかな?」
「シグムンド殿、これも使うといい」

 オオ爺サマが用意してくれた骨や牙、爪を一纏めにすると、オオ爺サマが追加で手渡してきた。

「魔石……竜の魔石か」
「うむ。確か、死霊召喚で呼び出されたスケルトンなどは、僅かじゃが術者の魔力を消費し続ける筈じゃ。シグムンド殿なら微々たる量で、自然回復する魔力量で気にもならんじゃろうが、スケルトンに自前の魔石を持たせれば、自前の魔力で活動するじゃろう」
「なる程、じゃあ使わせてもらうよ」

 野良スケルトンには魔石があるから、奴らは活動の限界なんてない。それに引き換え、死霊召喚で生み出されたアンデッドは、最初に込めた魔力が無くなれば、あとは術者から魔力の供給を受けなければ消滅する。

 普通、死霊召喚なんてする術者は、その場限りの戦力として死霊を使う。継続的な戦力や労働力として使う奴は居ないんじゃないかな。

「うむ。召喚する数も少数。後にシグムンド殿の眷属とするなら、自我も目覚めるじゃろう。優秀な心臓として魔石はあった方がいいじゃろう」
「旦那様が造り出すゴーレムも自我を獲得しますから、スケルトンも同じように考えた方がいいでしょう」
「了解。先ず、魔石に俺の魔力を込めた方がいいな」

 俺はオオ爺サマから受け取った魔石に、俺の魔力を込める。こうした方が召喚が上手くいくと俺の直感が告げている。

 魔石を骨などの素材の上に置き、死霊召喚を発動すると、暗い紫色に輝く魔法陣が浮かび上がり、竜の骨や牙、爪や魔石を呑み込み、その魔法陣から迫り上がるように、骨の戦士が現れた。

「成功か?」

 魔法陣が消え、骨の戦士が俺に片膝をつき頭を下げた。

「ふむ。確か竜牙兵スパルトイと呼ばれる魔物だったか。シグムンド殿、成功したようじゃな」
「ありがとう。オオ爺サマのお陰だよ」

 召喚された竜の素材から生まれたスケルトンは、スパルトイと呼ばれるらしい。

「取り敢えず名前か。……そうだな。お前はドンナーだ」
『吾は、ドンナー。マスターの剣となりイカズチの如く敵を討ち滅ぼすモノ也』

 死霊召喚した時点で、半ば眷属化しているのだが、名前を付け魔力のパスを強靭なものにするんだ。

 俺がドンナーに立つよう促し、その全身をチェックする。

 素材となった竜の素材が多かったからか、体高は角まで入れると二メートル五十センチはある。そう、ドンナーは人型のスケルトンだが、その頭には二本の角がある。そしてその体も厳密に人型とは言えない。

 スケルトンは、基本人間の骨格そのものだが、俺が召喚したスパルトイは、骨の鎧でも着ているようだ。所々、スパイクのように突き出すとは、牙や爪が変化したのだろうか。

 そして不思議なんだが、ドンナーは剣と丸盾を装備した状態で召喚された。これが普通なのか、特別なのかは分からない。

 剣は、竜の爪が変化したのかな。勿論、素材は竜の爪や牙、骨だから、下手な金属製武器や防具より優れ物なのは見ただけで判る。

 俺がドンナーを確認していると、オオ爺サマが次だと言わんばかりに素材をドサドサと放っている。少々扱いがぞんざいじゃないだろうか。まあ、古竜からすれば竜の素材なんて珍しくもないんだろう。

「さて、次はこの骨と牙、爪と魔石じゃ。どんなスパルトイが召喚されるか楽しみじゃな」
「了解。ちゃっちゃと召喚を済ませてしまおう」

 ドンナーでコツは掴んだので、二度目の死霊召喚はスムーズに出来た。

 召喚の魔法陣から出て来たのは、ドンナーよりも少しゴツイ感じの竜牙兵スパルトイ。もしかして地竜の骨が素材だったのかな。

「そうだな。……お前は、ベルクだ」
『吾は、ベルク。マスターの盾となり山脈の如く敵を跳ね返すモノ也』

 ベルクと名付けたスパルトイは、ドンナーよりも大きな盾とスパイクの付いたメイスを持っている。

 ドンナーが騎士なら、ベルクは重騎士って感じかな。

「……シグムンド殿、これってけっこう強くないですか」
「元の素材が良いし、俺が召喚して眷属にしたからな。とはいえ当たり前だけど、ギータ達と比べるとだいぶ落ちるな」

 ギータが、ドンナーとベルクを見て驚いたように言うが、属性竜に近い力を持つギータ達とは比べちゃダメだな。とはいえ、進化前のゴーレムと比べるとけっこう強い。

「そうですな。それに魔石を使ったとはいえ、草原地帯が活動限界ですかな」
「だな。西の魔力が薄い地域じゃ一日活動すれば、半日休んで魔力を回復しないとダメだろう」

 竜の魔石を使ったお陰で、草原地帯なら魔力の回復を考えずに活動可能だろうが、西方諸国では難しいだろうな。強力な個体として召喚した分、燃費が少し悪い。

 ただ、これもパワーレベリングすれば、魔石が成長して多少改善されるだろう。



 ドンナーとベルクは、セブールが森へと連れて行った。森の魔物を相手に、戦いの経験を積ませるのと、手加減の練習だ。

 某国……面倒くさいので、もうジーラッド聖国でいいや。その聖国が攻めて来たなら、手加減なんて必要ないが、竜人族の集落に殺すまでもないハンパ者が悪さをしようとした時、即処分はやり過ぎだと思うんだよな。その為の手加減だ。

 多分、セブールやリーファ、ダーヴィッド君でも犯罪者には慈悲は不要だって言うだろう。その辺、日本人だった頃の感覚が僅かに残っている俺は甘いと思われているんだろうな。



 森へと向かうセブールとスパルトイを見送る。

「……シグムンド殿、どう考えても過剰戦力では?」
「う~ん。まぁ、誤差だよ、誤差」
「まあ、シグムンド殿からすれば、みんな誤差の範囲でしょうけど……」

 ギータが複雑そうな表情で、アレ(スパルトイ)は過剰戦力では? と言うが、見た目の威圧感はあるけれど、生まれたばかりの眷属だ。今なら城塞都市を巡回警備しているアイアンゴーレムの方が強い。

「たた、あの見た目は役に立ちそうだな。ドンナーとベルクが竜人族の集落に居るだけで、不埒な事を企む奴らは減るだろう」
「いえ、居なくなるのでは?」
「甘いぞギータ。人間の愚かさを舐めると後悔する事になる。だから、やるときは自重せずだ」
「は、はぁ……」

 いまいち納得していないギータだけど、面白い眷属が出来たんだから良しとしよう。




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 この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。

 2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。


 また「いずれ最強の錬金術師?」の16巻が、5月下旬に発売されます。

 あと、ササカマタロウ先生のコミック版「いずれ最強の錬金術師?」6巻も5月下旬に発売されます。

 あわせてよろしくお願いします。

 小狐丸




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