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二百二十五話 リッチロードのお願い
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無駄だと分かりながら、男は気配を消しながら草原地帯へと戻って来た。
「はぁ、二度と来る気なんてなかったんだけどなぁ」
深い溜息を吐いた男の名はシャウト。そう、腐れ縁のリッチロード、ルバスに頼み込まれ、再びこの地へと戻って来ていた。
理由は簡単。ルバスが竜人の血を欲しがったからだ。竜人族ではなく、その始祖である竜人の血だ。
長い歴史の中、オオ爺サマが僅かに感じる程度まで薄まった竜人族の血と比べ、確かにギータ達の血は属性竜と同等だ。この大陸に属性竜が居ない事を考えると、ルバスの目の付け所は正しい。
それをギータ達が許容するかどうかは別にして。
それはルバスが竜人族から流れて来た噂を聞き、人を使い調べたところから始まる。
「シャウト! 竜人の始祖が現れたそうだぞ!」
「五月蝿いなガイコツジジイ! 大声出さなくても聞こえてる!」
「そんな事より、竜人だ!」
「分かった、分かった。竜人族なら魔王国の北に住んでるだろう」
「竜人族などという蜥蜴の魔族とは別物じゃ! 比べるのも烏滸がましい。本物の古竜の眷属が竜人なんじゃ!」
「分かった。分かった。唾を飛ばすな。いや、リッチのクセに唾を飛ばせるのか?」
「リッチじゃないわい! リッチロードじゃ!」
何時もの掛け合いをするルバスとシャウト。しかしシャウトの機嫌は良くない。何故なら、今回ルバスがシャウト以外の人間を使って情報を仕入れたからだ。
まあ、ルバスの言い分は分かる。シャウトなら確実に断っていただろうから。
シャウトは、最近古竜などよりずっと怖しい存在、シグムンドに会ったばかりなのだ。なのに、今度は草原地帯の城塞都市に居るらしい竜人をターゲットにしているルバス。シャウトが頭を抱えるのも仕方ない。
「という訳で、シャウト、城塞都市に行ってくれるな」
「あのなぁ……」
「なんじゃ、報酬ははずむぞ」
ルバスも勿論シャウトをタダ働きさせるつもりはない。自らアンデッドの魔物であるリッチロードになるくらい頭のおかしいルバスだが、資産は使いきれないくらいある大金持ちだったりする。だからシャウトに依頼を頼む度に、冒険者に依頼するよりも多めの依頼料は支払っていた。
とはいえ、シャウトに言わせれば、まったく報酬に見合わないヤバイ仕事だった。
邪神をも無慈悲に潰すシグムンドだが、基本的には穏やかな性質だという事をシャウトは知らない。シグムンドがその気なら、自分など逃げる事など出来ず、抗う事すら無意味にプチッ潰されると思っている。
「そんなのは当然だ。そうじゃなくて、深淵の森に棲むバケモノの怒りを買いたくないんだよ!」
「ああ、そんな事か。そのナントカというのは、セブールの主人なのじゃろう? セブールのジジイはワシも知らん顔じゃない。その辺は上手くやってくれ」
「ふざけんな!」
ルバスも自力でリッチロードに至る禁術を編み出すくらいなので頭は良い。少々斜め上方向にだが馬鹿じゃないのは確かだ。
だから当然、深淵の森と隣接する草原地帯を魔物の被害無く人の住む環境に変えた存在、シグムンドが尋常じゃない存在だという事くらい分かっている。
嘘か本当か、古竜が草原地帯に居着くきっかけも、古竜がシグムンドに助けを求めた事だと噂がある。それが本当ならとんでもない存在だ。リッチロードなど小指の指先で潰されるのではないか。
実際、ルバス程度なら触れるまでもなく滅してしまうかもしれない。
「ジジイ! お前が自分で何とかしろよ!」
「嫌じゃ! ワシなんぞ、プチッと殺されてしまうわ!」
「いや、ジジイ、お前はアンデッドだろう!」
「アンデッドでも怖いものは怖いんじゃー!」
「このっ、くそジジイ!!」
ルバスは、セブールならまだしも、シグムンドとは怖いから会いたくないと言う。死ぬのが怖いアンデッドとは如何に?
そんなこんなで、結局仕方なくシャウトが再び草原地帯へと向かう事になったのだった。
草原地帯に関して、情報は簡単に手に入った。
先ず、竜人族が職人や資材を輸送しているので、草原地帯の集落建設は直ぐに分かった。竜人族や魔王国も隠している訳じゃないので当然だろう。
ダーヴィッドからの連絡で、魔王国としても資材や食料、人材で援助が決まっていたので、その輸送隊も大規模だったのもある。
それと冒険者ギルドと薬師ギルド、錬金術師ギルドが協力しているので、そこから城塞都市内に、深淵の森の素材を扱う合同買取所を設置する事が分かった。これは、もともと竜人族が主導で始まった案件らしい。
竜人族が、城塞都市の黄金竜詣でがしたい為、頻繁に草原地帯と行き来できる方法はないか? そこで考えたのが竜人族と言えば北限の超高級茶葉。これを交易の目玉にして交渉しよう。結果、あのシグムンドというバケモノも乗り気だという事で、そのついでに合同買取所の件が走りだしたと分かった。
その上で竜人族達は、自分達が信仰する黄金竜を相手に自重できる自信がない。とはいえ黄金竜に迷惑はかけられない。
そこで考えたのが、城塞都市から日帰り可能な草原地帯の入り口付近に集落を造り、そこを拠点に城塞都市へ黄金竜詣でをするようにしたそうだ。
「まぁ、古竜様の迷惑になるのを避けるっていうのは理解できるが、あそこはもっとおっかねえのが居るんだから、そっちを気にした方がいいんじゃないのか?」
「勿論、俺たちも森神様の怒りを買うような事はしないさ」
シャウトは、偶然草原地帯へ向かう竜人族達と遭遇し、同行させてもらっていた。
斥候系の能力が高く、種族として優れた魔族のシャウトなら一人でも、魔王国と草原地帯を行き来しても平気だが、それでも竜人族達と一緒の方が安全なのは間違いない。
竜人族の若者からサラッと森神様というワードが出る。その言葉には、確かな畏怖があるのをシャウトは感じ取った。
「それに森神様は、わざわざ俺達の為に集落を囲う防壁を造ってくださるらしい。これで森から魔物が近寄ることはないだろうしな。森神様には感謝しかない」
「そ、そうなんだ」
シャウトは、草原地帯の入り口付近に造る集落に、がっつりシグムンドが噛んでいるとは知らなかった。出来れば直接会うのは遠慮したい。
シグムンドが、ルバスなんかと比べるのも失礼なくらいまともな人? だとは知っているが、怖いものは怖いから仕方ない。
「でだ、その草原地帯の入り口付近に造る集落は、交易の拠点なんだな」
「ああ、勿論、古竜様方のお社も造るぞ。俺達も黄金竜様を直接詣でたい気持ちは強いが、どう考えたって迷惑だしな。気の遠くなるくらいの長い年月のお役目がやっと終わってゆっくりとされているんだ。ギータ様にも叱られちまう」
竜人族の若者からギータという名前が出て、シャウトがピクリと反応する。
「そのギータ様ってのは?」
「ああ、黄金竜様が生み出された眷属で、俺達竜人族の始祖と同じ竜人なんだ」
「ほ、ほう。竜人族と何が違うんだ?」
シャウトには竜人族と竜人の違いが判らず聞いてみた。シャウトからすれば、竜人族も竜の血を引く一族だという認識だったからだ。
前回、シャウトが城塞都市に行った時は、たまたまギータとは会えなかったので、情報収集だけに留めていたので、ギータがどのくらいの存在かは知らない。
ただ、竜人族としては、ギータ達竜人と一つに括られるなど畏れ多い。
「おいおい。何が違うって、何もかも違うに決まってるじゃないか。俺達竜人族は、長い歴史の中で、血が薄まっているが、ギータ様は始祖と同じ属性竜と同等の力をお持ちなんだ。人型の竜と思えば分かりやすいか」
「そ、それは、とんでもないな」
「ああ、竜人族の若い衆がこぞってギータ様に求婚したが、纏めて返り討ちにされたんだ」
「そ、それは、残念だったな。属性竜っていうのが、もうどれだけ凄いのかが俺には分からないけどな」
シャウトにも黄金竜の存在が、人の物差しでは測れない事くらいは分かる。実際、ルバスに言われて城塞都市で古竜の調査をした時、その姿を遠目に見て「ああ、これは人間がどうにか出来る存在じゃないな」と、心の底から感じたのだから。
ただ、高難度のダンジョンでもなければ、竜種の姿を見る事が出来ないこの大陸で暮らす者にとって、属性竜がどれくらい凄いのか判断出来ない。
「いや、属性竜クラスなら、前魔王陛下でも瞬殺されるレベルだって長老が言ってたぞ」
「そ、それはヤバイな」
「ああ、飛び切りヤバイ。でも、今はその属性竜より遥か上の古竜様方や、更に上の森神様が居るからな。俺達は、いつかギータ様に勝てぬまでも、それなりに戦えるようになりたいんだよな~」
「イヤイヤ、無理だろう」
「おう。無理だろうけど、それを竜人族の若い衆の前では言うなよ。皆んな認めたくないんだから」
どうやら話に出てくるギータという竜人は、相当ヤバイらしい。城塞都市での噂では、竜人族の若者を蹴散らしたと聞くが、シャウトは既に、もっともっとヤバイ、シグムンドに会っているので、まだ落ち着いて話が聞けた。
竜人族のキャラバンは、途中の国で資材や食料を積む馬車と合流しながら草原地帯へと進む。
これは魔王国の第二王子であるダーヴィッドが手配したものだと分かる。
「ダーヴィッド殿下、仕事できるんだな」
「だろ。森神様との交易も繋いでくれているしな。古竜様方の要望を聞いたりと忙しくしているみたいだな」
「あんたは知ってるか? 古竜様は、黄金竜様を筆頭に、五柱いらっしゃるんだ」
「……俺はガキの頃、そこまで御伽話を聞かされてなかったからな」
シャウトは、古竜が五体居るっていうのも、その眷属の竜人が四人創造されたのも、直接城塞都市へ出向き調べているので知っていた。だが、そのまま知らないフリをする。竜人族の男から他の情報を得ようとしているから。
「まあ、それもそうか。俺たち竜人族の始祖は、黄金竜様の眷属だから、伝わる口伝も多いんだ。で、黄金竜様以外の古竜様方も、代わる代わる城塞都市に訪れているそうだ。で、その関係で、古竜様方のお世話の為に、新たな眷属を創造されたってわけだ」
「へぇ、竜人が増えたのか……」
「ギータ様と同じ女性の竜人が一人と、男の竜人が二人だそうだ。集落の女どもが目の色を変えそうだぜ」
「それは大変だな」
竜人の男女比を知れても、あまり影響はなさそうだ。ルバスが望むのは、竜人の血なのだ。男でも女でも関係なさそうだ。
(さて、これ以上目新しい情報もなさそうだな。このままこいつらと一緒に草原地帯へ行くか。それとも一人気配を消しながら城塞都市へ行くか……いや、無理だな)
自分如きが気配を消したとしても、シグムンドやセブールに通用しないと諦め、取り敢えずこのまま草原地帯まで竜人族と同行する事にしたシャウト。
草原地帯の入り口付近まで、あと少し。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
小狐丸
「はぁ、二度と来る気なんてなかったんだけどなぁ」
深い溜息を吐いた男の名はシャウト。そう、腐れ縁のリッチロード、ルバスに頼み込まれ、再びこの地へと戻って来ていた。
理由は簡単。ルバスが竜人の血を欲しがったからだ。竜人族ではなく、その始祖である竜人の血だ。
長い歴史の中、オオ爺サマが僅かに感じる程度まで薄まった竜人族の血と比べ、確かにギータ達の血は属性竜と同等だ。この大陸に属性竜が居ない事を考えると、ルバスの目の付け所は正しい。
それをギータ達が許容するかどうかは別にして。
それはルバスが竜人族から流れて来た噂を聞き、人を使い調べたところから始まる。
「シャウト! 竜人の始祖が現れたそうだぞ!」
「五月蝿いなガイコツジジイ! 大声出さなくても聞こえてる!」
「そんな事より、竜人だ!」
「分かった、分かった。竜人族なら魔王国の北に住んでるだろう」
「竜人族などという蜥蜴の魔族とは別物じゃ! 比べるのも烏滸がましい。本物の古竜の眷属が竜人なんじゃ!」
「分かった。分かった。唾を飛ばすな。いや、リッチのクセに唾を飛ばせるのか?」
「リッチじゃないわい! リッチロードじゃ!」
何時もの掛け合いをするルバスとシャウト。しかしシャウトの機嫌は良くない。何故なら、今回ルバスがシャウト以外の人間を使って情報を仕入れたからだ。
まあ、ルバスの言い分は分かる。シャウトなら確実に断っていただろうから。
シャウトは、最近古竜などよりずっと怖しい存在、シグムンドに会ったばかりなのだ。なのに、今度は草原地帯の城塞都市に居るらしい竜人をターゲットにしているルバス。シャウトが頭を抱えるのも仕方ない。
「という訳で、シャウト、城塞都市に行ってくれるな」
「あのなぁ……」
「なんじゃ、報酬ははずむぞ」
ルバスも勿論シャウトをタダ働きさせるつもりはない。自らアンデッドの魔物であるリッチロードになるくらい頭のおかしいルバスだが、資産は使いきれないくらいある大金持ちだったりする。だからシャウトに依頼を頼む度に、冒険者に依頼するよりも多めの依頼料は支払っていた。
とはいえ、シャウトに言わせれば、まったく報酬に見合わないヤバイ仕事だった。
邪神をも無慈悲に潰すシグムンドだが、基本的には穏やかな性質だという事をシャウトは知らない。シグムンドがその気なら、自分など逃げる事など出来ず、抗う事すら無意味にプチッ潰されると思っている。
「そんなのは当然だ。そうじゃなくて、深淵の森に棲むバケモノの怒りを買いたくないんだよ!」
「ああ、そんな事か。そのナントカというのは、セブールの主人なのじゃろう? セブールのジジイはワシも知らん顔じゃない。その辺は上手くやってくれ」
「ふざけんな!」
ルバスも自力でリッチロードに至る禁術を編み出すくらいなので頭は良い。少々斜め上方向にだが馬鹿じゃないのは確かだ。
だから当然、深淵の森と隣接する草原地帯を魔物の被害無く人の住む環境に変えた存在、シグムンドが尋常じゃない存在だという事くらい分かっている。
嘘か本当か、古竜が草原地帯に居着くきっかけも、古竜がシグムンドに助けを求めた事だと噂がある。それが本当ならとんでもない存在だ。リッチロードなど小指の指先で潰されるのではないか。
実際、ルバス程度なら触れるまでもなく滅してしまうかもしれない。
「ジジイ! お前が自分で何とかしろよ!」
「嫌じゃ! ワシなんぞ、プチッと殺されてしまうわ!」
「いや、ジジイ、お前はアンデッドだろう!」
「アンデッドでも怖いものは怖いんじゃー!」
「このっ、くそジジイ!!」
ルバスは、セブールならまだしも、シグムンドとは怖いから会いたくないと言う。死ぬのが怖いアンデッドとは如何に?
そんなこんなで、結局仕方なくシャウトが再び草原地帯へと向かう事になったのだった。
草原地帯に関して、情報は簡単に手に入った。
先ず、竜人族が職人や資材を輸送しているので、草原地帯の集落建設は直ぐに分かった。竜人族や魔王国も隠している訳じゃないので当然だろう。
ダーヴィッドからの連絡で、魔王国としても資材や食料、人材で援助が決まっていたので、その輸送隊も大規模だったのもある。
それと冒険者ギルドと薬師ギルド、錬金術師ギルドが協力しているので、そこから城塞都市内に、深淵の森の素材を扱う合同買取所を設置する事が分かった。これは、もともと竜人族が主導で始まった案件らしい。
竜人族が、城塞都市の黄金竜詣でがしたい為、頻繁に草原地帯と行き来できる方法はないか? そこで考えたのが竜人族と言えば北限の超高級茶葉。これを交易の目玉にして交渉しよう。結果、あのシグムンドというバケモノも乗り気だという事で、そのついでに合同買取所の件が走りだしたと分かった。
その上で竜人族達は、自分達が信仰する黄金竜を相手に自重できる自信がない。とはいえ黄金竜に迷惑はかけられない。
そこで考えたのが、城塞都市から日帰り可能な草原地帯の入り口付近に集落を造り、そこを拠点に城塞都市へ黄金竜詣でをするようにしたそうだ。
「まぁ、古竜様の迷惑になるのを避けるっていうのは理解できるが、あそこはもっとおっかねえのが居るんだから、そっちを気にした方がいいんじゃないのか?」
「勿論、俺たちも森神様の怒りを買うような事はしないさ」
シャウトは、偶然草原地帯へ向かう竜人族達と遭遇し、同行させてもらっていた。
斥候系の能力が高く、種族として優れた魔族のシャウトなら一人でも、魔王国と草原地帯を行き来しても平気だが、それでも竜人族達と一緒の方が安全なのは間違いない。
竜人族の若者からサラッと森神様というワードが出る。その言葉には、確かな畏怖があるのをシャウトは感じ取った。
「それに森神様は、わざわざ俺達の為に集落を囲う防壁を造ってくださるらしい。これで森から魔物が近寄ることはないだろうしな。森神様には感謝しかない」
「そ、そうなんだ」
シャウトは、草原地帯の入り口付近に造る集落に、がっつりシグムンドが噛んでいるとは知らなかった。出来れば直接会うのは遠慮したい。
シグムンドが、ルバスなんかと比べるのも失礼なくらいまともな人? だとは知っているが、怖いものは怖いから仕方ない。
「でだ、その草原地帯の入り口付近に造る集落は、交易の拠点なんだな」
「ああ、勿論、古竜様方のお社も造るぞ。俺達も黄金竜様を直接詣でたい気持ちは強いが、どう考えたって迷惑だしな。気の遠くなるくらいの長い年月のお役目がやっと終わってゆっくりとされているんだ。ギータ様にも叱られちまう」
竜人族の若者からギータという名前が出て、シャウトがピクリと反応する。
「そのギータ様ってのは?」
「ああ、黄金竜様が生み出された眷属で、俺達竜人族の始祖と同じ竜人なんだ」
「ほ、ほう。竜人族と何が違うんだ?」
シャウトには竜人族と竜人の違いが判らず聞いてみた。シャウトからすれば、竜人族も竜の血を引く一族だという認識だったからだ。
前回、シャウトが城塞都市に行った時は、たまたまギータとは会えなかったので、情報収集だけに留めていたので、ギータがどのくらいの存在かは知らない。
ただ、竜人族としては、ギータ達竜人と一つに括られるなど畏れ多い。
「おいおい。何が違うって、何もかも違うに決まってるじゃないか。俺達竜人族は、長い歴史の中で、血が薄まっているが、ギータ様は始祖と同じ属性竜と同等の力をお持ちなんだ。人型の竜と思えば分かりやすいか」
「そ、それは、とんでもないな」
「ああ、竜人族の若い衆がこぞってギータ様に求婚したが、纏めて返り討ちにされたんだ」
「そ、それは、残念だったな。属性竜っていうのが、もうどれだけ凄いのかが俺には分からないけどな」
シャウトにも黄金竜の存在が、人の物差しでは測れない事くらいは分かる。実際、ルバスに言われて城塞都市で古竜の調査をした時、その姿を遠目に見て「ああ、これは人間がどうにか出来る存在じゃないな」と、心の底から感じたのだから。
ただ、高難度のダンジョンでもなければ、竜種の姿を見る事が出来ないこの大陸で暮らす者にとって、属性竜がどれくらい凄いのか判断出来ない。
「いや、属性竜クラスなら、前魔王陛下でも瞬殺されるレベルだって長老が言ってたぞ」
「そ、それはヤバイな」
「ああ、飛び切りヤバイ。でも、今はその属性竜より遥か上の古竜様方や、更に上の森神様が居るからな。俺達は、いつかギータ様に勝てぬまでも、それなりに戦えるようになりたいんだよな~」
「イヤイヤ、無理だろう」
「おう。無理だろうけど、それを竜人族の若い衆の前では言うなよ。皆んな認めたくないんだから」
どうやら話に出てくるギータという竜人は、相当ヤバイらしい。城塞都市での噂では、竜人族の若者を蹴散らしたと聞くが、シャウトは既に、もっともっとヤバイ、シグムンドに会っているので、まだ落ち着いて話が聞けた。
竜人族のキャラバンは、途中の国で資材や食料を積む馬車と合流しながら草原地帯へと進む。
これは魔王国の第二王子であるダーヴィッドが手配したものだと分かる。
「ダーヴィッド殿下、仕事できるんだな」
「だろ。森神様との交易も繋いでくれているしな。古竜様方の要望を聞いたりと忙しくしているみたいだな」
「あんたは知ってるか? 古竜様は、黄金竜様を筆頭に、五柱いらっしゃるんだ」
「……俺はガキの頃、そこまで御伽話を聞かされてなかったからな」
シャウトは、古竜が五体居るっていうのも、その眷属の竜人が四人創造されたのも、直接城塞都市へ出向き調べているので知っていた。だが、そのまま知らないフリをする。竜人族の男から他の情報を得ようとしているから。
「まあ、それもそうか。俺たち竜人族の始祖は、黄金竜様の眷属だから、伝わる口伝も多いんだ。で、黄金竜様以外の古竜様方も、代わる代わる城塞都市に訪れているそうだ。で、その関係で、古竜様方のお世話の為に、新たな眷属を創造されたってわけだ」
「へぇ、竜人が増えたのか……」
「ギータ様と同じ女性の竜人が一人と、男の竜人が二人だそうだ。集落の女どもが目の色を変えそうだぜ」
「それは大変だな」
竜人の男女比を知れても、あまり影響はなさそうだ。ルバスが望むのは、竜人の血なのだ。男でも女でも関係なさそうだ。
(さて、これ以上目新しい情報もなさそうだな。このままこいつらと一緒に草原地帯へ行くか。それとも一人気配を消しながら城塞都市へ行くか……いや、無理だな)
自分如きが気配を消したとしても、シグムンドやセブールに通用しないと諦め、取り敢えずこのまま草原地帯まで竜人族と同行する事にしたシャウト。
草原地帯の入り口付近まで、あと少し。
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2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
小狐丸
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