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二百二十四話 長老との会談

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 驚いた事に、お年寄りの竜人族の長老が、馬車ではなく騎獣に跨り城塞都市に現れた。

 元気なおじいちゃんだな。

 その日の会談は、俺とダーヴィッド君と竜人族の長老の三人だ。勿論、俺の背後にはセブールが立ち、長老やダーヴィッド君も側近が居るけどな。

「森神様。今日は、お時間をいただいて申し訳ありません」
「長老こそ、魔王国の北端から遠路はるばるご苦労だったな」

 長老や竜人族が俺のことを森神様と呼ぶのはもう諦めた。シグムンドと呼び捨てでいいと、何度言っても改めてくれなかったからな。

 まあ、竜人族にとって信仰対象であり、マジもんの神の使徒である古竜の長が、自身より力があり助けを乞うたのが俺だと知ると、名前を呼ぶなど恐れ多いとなるのも少しは理解できる。呼ばれて嬉しい名じゃないけどな。

「前置きはいい。なにか願いがあるのか?」
「はっ」

 要件は一応知ってはいるが、こういう形式は大事だからな。竜人族の長老が俺に望み許すっていうポーズは必要なんだ。草原地帯の主は俺らしいからな。

「黄金竜様を詣でたい竜人族は多く、されど一度に大勢で押し掛けるのは、永い御勤めを終え心安らかに休まれている黄金竜様のご迷惑になりますでしょう。そこで、この城塞都市の近くに集落を造らせていただき、そこを拠点に少人数で行き来すれば、まだ黄金竜様も煩わしさは少ないかと愚考した次第」
「うん。いいんじゃないかな。場所はそうだな……」

 長い前置きの後、想定通りのお願いに、俺は即OKを出すと、集落建設の場所選定に移る。

 セブールが準備していた草原地帯と周辺の地図を拡げる。長老は、あまりの話のスピードにおろおろしているけれど、長々と話していても仕方ない。俺達の中では最初から決まってた事だしな。

 そして俺は一つの場所を指差す。

「此処がいいんじゃないか」
「そうですな。その場所なら西方諸国からのキャラバンも助かるでしょう」
「あ、ああ、我らは森神様がお許しくださるなら、どんな場所でも構いませんが、このような良い土地を使わせて頂いてもいいのですか?」

 長老が本当にいいのかと不安そうに聞くが、俺とセブールは頷く。

 俺が指差したのは、草原地帯の入り口から少し城塞都市側の街道を含む土地。俺が造った街道を集落の中に通す感じかな。

「問題ないよな」
「はい。此処との交易路の最終休憩場所となれば、集落の維持にも困らないでしょう」
「それはいいですね。そこなら宿屋も流行りそうです。此処は宿泊施設が少ないですし、今後それ程増やせないと思うので」

 俺がセブールに確認すると、セブールも賛意を示し、ダーヴィッド君も此処から日帰り出来る距離なのは宿泊地にいいと賛成した。

 そのうち城塞都市の中にも宿泊施設は増えるかもしれないけれど、多分その運営は教会と魔王国が取り仕切るだろう。基本、俺は人に丸投げだからな。

 ダーヴィッド君が、個人経営の宿屋を誘致するならそれでもOKだし、まともに運営してくれるなら何処かの商会でもいい。

 まあ、それでも需要にみあう宿泊施設は無理だ。そうなると馬車で日帰り出来る距離に、竜人族が集落を造ってくれるのは俺達としてもありがたい。

 城塞都市に向かうのに、竜人族の集落を通り抜ける必要があるので、怪しい奴らへのチェックにもなるし、行き来する側からすると、水を始め補給物資の面でメリットは大きい。



 まあ、そんな事は今はいい。とにかく集落の建設場所の話だ。

「此処なら西方諸国からも資材を調達しやすいんじゃないか?」
「そうですね。今、此処でも合同買取所用の建築資材を発注していますから、それと合わせれば建材の調達も問題ないでしょう」

 草原地帯の入り口に近いと、西方諸国から色々と調達しやすいというメリットがある。ダーヴィッド君が言うように、今は丁度合同買取所の建設に使う建材を、西方諸国連合から購入しているので、それが少し増えても全く問題ない。

 商業ギルドと揉めたからか、多少調達に苦労しているみたいだけど、冒険者ギルドや薬師ギルド、錬金術師ギルドに、新たに鍛治師ギルドや木工ギルドも協力してくれてるらしい。

 木工ギルドはともかく、何故、こんな草原地帯に鍛治師ギルドがと思うかもしれないが、鍛治師ギルドと錬金術師ギルドは、切っても切れない仲なんだとか。それに、この世界では魔物素材の中には、鍛治に使う物も色々と有るそうで、高ランクの魔物素材の取り引きとなると、是非とも一口噛みたいんだとか。

 まあ、鍛治師の工房の一つくらいあってもいいと思うけどな。

 木工ギルドは分かりやすい。なんせ、深淵の森の木材は超高級木材らしいからな。

 深淵の森の樹々は、大陸で一番魔力の濃い場所に育つからか、もの凄く硬く魔力の通りもいい。高級な家具や調度品に、丈夫な建材に、その魔力の通りから魔法使いの杖や、槍などの柄としても最高みたい。

 基本、普通の鉄の斧なんかじゃ傷を付けるのも大変な木だから、調達するのは俺達くらいじゃないと難しいという難点はあるが、それを考慮しても木工ギルドとしては喉から手が出るくらい欲しいそうだ。

 竜人族が城塞都市に通う為だけの拠点というなら、それこそ何処でもいいんだが、この際色々と役立ってもらおうと思う。



 一通り話が纏まると、竜人族の長老がソワソワし始める。だから先に言っておかないといけない。

「あ、そうそう。オオ爺サマ、長老からすると黄金竜か。今は城塞都市の中に居て、ギータが世話をしているのは知ってると思うが、実はあれから眷属の竜人が三人増えてるからな」
「た、確かお三方増えたと聞いております」
「おっ、さすが耳が良いな」

 前回、ギータに対して求婚して挑んだ竜人族の若い衆達が熱狂したからな。更に女の竜人が一人と男の竜人が二人増えたと後から知ると大騒ぎどころじゃないからな。だけど、さすがにこの辺りの情報は既に手に入れていたみたいだ。

「ああ、ヴァイス、ロッソ、ブラウ、ジョーヌも人化の術を使えるようになったから、何時もじゃないが城塞都市に息抜きに来るから増やしたんだ」
「あ、あの、そのヴァイス様方とは?」
「ああ、ごめんごめん。ヴァイスが白の古竜。ロッソが赤の古竜。ブラウが青の古竜。ジョーヌが黄の古竜の事だ。滞在する古竜が増えたんで、その世話係りの眷属を増やしたって感じかな」
「なっ!?」

 オオ爺サマ以外の四古竜の名前までは知らなかったのか、長老とその背後に立つ竜人族が目を見開き言葉をなくしている。あれ、長老、息止まってないよな。

「……カハッ!! ハァ、ハァ、ハァ、も、森神様、あまり驚かせんでください。年寄りの心臓には少々堪えます。我らの口伝にも古竜様方のお名前はなかったですじゃ」
「悪い悪い。ヴァイス達の名前が決まったのは、ついこの間だから、長老が知らなくても仕方ないさ」
「そうですな。四古竜様方が人化の術を使えるようになってそんなに時間も経ってません。封印の番人としての役目がなくなったとはいえ、常に城塞都市に居る訳ではありませんから、名を決めたのは、たまたま四人が集まった時ですから、本当に最近ですから」
「セ、セブール殿、封印の番人とは……いや、聞かなかった事にします。これ以上はワシの心臓が保たん」
「それがいいでしょうな」

 竜人族の長老達には、ヴァイス達古竜四人全員が、交代で骨休めしに来ているのは分かっていたみたいだけど、それぞれに名前が付いてた事に驚いたようだ。勿論、黄金竜を頂点に四古竜が存在する事は竜人族の長老も知っているけれど、竜人族の古文書や口伝にも名前など伝わっていないので驚きは大きいんだろう。驚き過ぎて、もうゲイル、グラース、メールの増えた三人の竜人の名前を覚えているか怪しいな。

 セブールが邪神を封印した地の番人の話を出すが、長老は詳しく聞くのを拒否した。もう心のキャパが一杯一杯みたい。

「……しかし黄金竜様の眷属である竜人様方のお名前と性別が知れたとなると……」
「まぁ、また熱狂するだろうな。今度は男女共」
「そうですね。しかもゲイル殿とメール殿は男の竜人ですから、ギータ殿の時とは変わってくるのでわ?」
「な、なんと、それでは集落の女衆までが浮かれだすのは間違いない」
「だろうな~」

 一度ギータにボロボロにやられた若い衆も、ダメ元でもう一度グラースに挑むのは間違いないだろうしな。

 そこでふと疑問に思い長老に質問する。

「そう言えば、ギータの時は伴侶にって武力で挑んで返り討ちにされてたけどさ、竜人族の女の人もそんな感じ?」
「いえいえ、竜人族の女衆の場合は少し違います。男の場合は、力で伴侶を勝ち取りますが、女の場合は、強い男を望みます」
「ああ、そうなるとゲイルやメールは単純にモテるだろうけど、それはそれで問題あるな」
「はい。集落の若い男が……」

 必ずとは言わないが、竜人族は男も女も強さを重視するそうだ。その辺り、竜の気質なのかは分からない。

 そう言えば、ギータは竜人族の若い男衆を蜥蜴扱いだったな。そうなるとグラースも弱い竜人族の男衆なんて、結婚相手とは見ないんだろうな。

 ところが竜人族の女衆も強さを重視するけれど、それは相手に対してだ。こうなるとゲイルやメールと竜人族の女衆となら成り立ってしまう。

「メールは大丈夫だろう」
「はい。メール殿なら問題ないかと」
「ゲイルだよなぁ」
「ええ、ゲイル殿ですな」

 真面目なメールなら問題なさそうだけど、ゲイルはなぁ。

 神が使わした古竜であるオオ爺サマの眷属なので、竜人達は基本的に善性の存在なのは間違いない。それは、あの軽くてお喋りなゲイルも同じだ。

 ただ……、ゲイルって、フェミニストっぽいんだよなぁ。

「竜の常識ってどうなんだろう?」
「古竜様方は、生物の括りから外れた存在ですが、確か属性竜は番を持つと聞いた事があります」
「ハーレムを作るタイプの竜もいるのか?」
「劣化竜になりますが、ワイバーンなどは強いオスがハーレムを形成すると聞いた事があります」
「ゲイルの子供が爆発的に増える可能性もあるか」
「まあ、それはそれで竜人族にはメリットが多そうなので、一概に非難出来なさそうですな」
「それもそうだな」

 俺は、あのゲイルが好き放題ナンパして子孫を増やす心配をしてしまったけど、よく考えたらたいした問題じゃないな。それに、ゲイルがナンパしなくても、竜人族の女性たちが猛烈にアタックするだろうから、それを受け入れる分には俺が口出しする事じゃなさそうだ。

 セブールが言うように、竜人族にもメリットは大きい。始祖の竜人と同じ存在の子を得るのだ。長い時間の中で限りなく薄くなった竜の血が濃くなるんだからな。


 そこまで考えて、馬鹿馬鹿しくなって考えるのを止めた。

「俺の眷属でもなし、俺や家族に迷惑がかかる訳でもなし、どうでもいいか」
「それもそうですな。一応、黄金竜様には話しておきます」
「うん。どっちでもいいや」

 ゲイルの話は、取り敢えず関係ないのでここまでだ。

「で、長老が現場に着いたタイミングで、集落の外壁だけは俺が用意するよ。建設予定地辺りなら余裕で察知範囲だからな。竜人族の気配を感じたら行くから」
「さ、察知範囲なのですか。は、ははっ、外壁は大変ありがたいです」
「うん。あと、俺の眷属でグレートタイラントアシュラベアのアスラが近くを巡回するけど、怖がらなくても大丈夫だから」
「グ、グレートタイラントアシュラベアが眷属なのですな」

 長老にアスラの事を話すと、顔を引き攣らせているけれど、これは慣れてもらわないとな。何せ、アスラは定期的に草原地帯を巡回し、深淵の森から魔物が出てこないようにしているので、竜人族が草原地帯に集落を造るなら、避けては通れないからな。


「僕の方でも魔王国に連絡して、資材の運搬と追加の職人の手配をしておきます」
「ダーヴィッド君に任せておけば大丈夫かな。とはいえ、ダーヴィッド君が忙し過ぎるな。魔王国からもう少し人を置いてもらったらどうだ?」
「旦那様、今はダーヴィッド殿下の頑張りどころですから」
「ああ、なる程。それなら仕方ないか」
「ハ、ハハッ……」

 ダーヴィッド君が竜人族の集落用に、資材なんかや職人の手配を請け負う。そんなダーヴィッド君に、俺は少し働き過ぎなので、もう少し人を置いてもらえればどうかと提案するも、セブールが今はダーヴィッド君が頑張らないといけない理由があると言う。

 そうなんだよな。魔王国は血で王を決めないらしいが、それでも現魔王の子供が継ぐ事がここ数代続いた。それで長男のバーグが勘違いしたからな。

 で、ダーヴィッド君は、この城塞都市と魔王国を行き来し、交易の責任者を立派に務めているし、移民の選定も頑張ってくれている。これ、ダーヴィッド君の実績作りなんだよな。

 あのバーグが魔王を継ぐより、ダーヴィッド君の方が百倍魔王国の為になるだろうからな。




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