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二百十六話 魔王国にも困った奴はいる
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大陸を巻き込む大きな戦争が終わり十年以上。落ち着きつつある魔王国と西方諸国だが、それを面白く思っていない者も当然存在する。
その筆頭は言うに及ばず、ジーラッド聖国だが、魔王国にも少数ながら平穏よりも混沌を望む輩が存在していた。
地下の暗い部屋には、魔物と人間を合成したキメラの失敗作が並んでいる。その光景は、ここの主人がまともな人間ではないと物語っている。
そこに一人の男が戻って来て、部屋の主人に声を掛ける。
「ジジイ。あれはヤバイ。無理。近付くのも無理だ」
「……やはりか。どうにか手に入らんかのぅ」
「ジジイ、諦めろ。アレはそんなレベルじゃない」
「ふむぅ……」
外から帰って来た男は、その身を隠していた外套を脱ぎさる。
現れたのは、細身の浅黒い肌の男。ただ、当然南方系の人族ではない。紛れもなく魔族だ。
「シャウト、少しも可能性は無いのか?」
「魔王陛下が羽虫に感じる相手だぞ。疑うならルバスのジジイがその目で見てくりゃいいだろう!」
「むぅ……」
シャウトがルバスと呼ぶ存在が考え込む。
その顔には皮膚は無く、目も妖しく光るのみ。
「ジジイがリッチだといっても、何も出来ずに消されるだけだと思うぞ」
「リッチではないわ! ワシはリッチロードじゃ!」
そう。ルバスは元魔族の魔法使いで、自らリッチロードとなった存在。
「いや、ジジイ。リッチロードって言う程強くないじゃねぇか」
「それは仕方ない。もともとが魔王どころか、アバドンやデモリスにも及ばぬワシが、リッチロードとなったとて、奴らからしたら誤差じゃからの」
「それ、リッチロードになる前に分かってりゃよかったのにな」
ルバスは自分を実験台に、ゴースト系魔物の最終形態リッチロードへと至った。
ところが、シグムンドのように最下級のゴーストから進化し続けてリッチロードに至ったのではなく、独自の術式を編み出し、魔族からリッチロードへと無理矢理変化した所為なのか、その力は元の魔族だった頃から多少強くなった程度だった。
その事にルバスは暫く落ち込んだものの、寿命から解き放たれたのだから良しとしようと切り替え、今は更なる力を模索していた。
「まだ諦めるのは早い。方法はあるはずじゃ」
「俺はもう草原地帯に近づくのは嫌だからな。俺に敵意が無かったから、たまたま見逃してくれたが、敵意を向けた瞬間終わるぞ。俺は神が創りし古竜よりも強大な存在なんて関わりたくないからな」
「シャウト、そこを何とかならんか?」
「なるか!」
ルバスが望んだのは、更なる力。
そう。ルバスは古竜の素材を欲していた。
魔物であるリッチロードとなったルバスだが、その性質や性格は魔族だった頃と変わらない。高位の魔物の中でも人間と変わらぬ理性と知性を持つリッチロードだが、それでも普通は人間に対して攻撃的だ。
それが魔族の時と変わらないルバスは、魔族だった頃から筋金入りの変人と言えるだろう。
古竜の素材で更なる力を得れるかもしれない。そう考えれば、もう諦めるのは難しい。
「なあ、血をちょっとだけでもいいんじゃ」
「だから無理だって言ってるだろ! あそこには、古竜なんかよりもっとヤベエのがいるんだよ!」
「むぅ……」
シャウトが言うヤベエのとは、勿論シグムンドの事だ。
魔族でも直接的な戦闘力よりも、諜報に向く能力に長けた種族であるシャウトは、ルバスの望む様々なモノを手に入れる為、魔王国はもとより大陸中を飛び回り活動していた。
当然、古竜が草原地帯に飛来した情報は直ぐに手に入れたし、ルバスがその素材を欲したので調査に向かったのは必然だっただろう。
だが、そこでシャウトはシグムンドに察知されてしまう。
シャウトに敵対する意思がなかった為見逃されたが、もし邪な事を考えれば、一瞬で消されただろう。
「言っとくけど、あの黄金竜様も傷つけるなんて無理だからな。魔王陛下が小虫に感じるくらいなんだぞ。それであのバケモノはその遥か上なんだ。頼むから俺を巻き込むな」
「長い付き合いじゃろう。そう冷たい事を言わんでくれ」
「俺はまだ死にたくないんだよ!」
シャウトは視界に入れた存在の力量を測るユニークスキルを持っていた。その所為で、黄金竜とシグムンドを見てしまい、半ばトラウマになっていた。
「そうじゃ。竜人がいると言っておったな。一人都合できんか?」
「馬鹿かジジイ! 古竜様の眷属の竜人だぞ! 魔王国にいる竜人族とは別もんだ! 俺やジジイなんざ瞬殺されておしまいだ!」
「シャウトは頼りにならんのぅ」
「ふざけんなぁ! 魔族を辞めてリッチロードになったくせに、文官のアバドンにも勝てないマヌケに言われなくないわ!」
「ワシは頭脳労働専門じゃからええんじゃ」
「よかないわっ!」
ルバスは、自身のパワーアップの為に、実験する素体を欲していた。そこで、目をつけたのがシャウトから聞いた竜人なのだが、とてもじゃないが、シャウトやルバスの手には負えない。
「だいたいリッチロードのくせに、何でそんなに弱いんだよ」
「仕方なかろう。これでも強くなった方なんじゃ」
優れた魔法使いが未練を残して死に、その魂が澱んだ濃い魔力に曝されて発生するのがレイスやリッチだ。
レイスやリッチになった時点で、生ある者に対して攻撃的なる。そして長い月日を討伐される事なく、生者を葬り続けた個体がリッチロードに至る。
そうしてリッチロードに至った個体は非常に強力だ。
だがルバスは、レイスからスタートするわけにはいかなかった。レイスになった時点で、魔族だった頃と変わらぬ理性や思考、知識はなくなる。故に、独自に開発した禁術を編み出したのだ。
凸凹コンビの言い合いは続く。
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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
お手に取って頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
その筆頭は言うに及ばず、ジーラッド聖国だが、魔王国にも少数ながら平穏よりも混沌を望む輩が存在していた。
地下の暗い部屋には、魔物と人間を合成したキメラの失敗作が並んでいる。その光景は、ここの主人がまともな人間ではないと物語っている。
そこに一人の男が戻って来て、部屋の主人に声を掛ける。
「ジジイ。あれはヤバイ。無理。近付くのも無理だ」
「……やはりか。どうにか手に入らんかのぅ」
「ジジイ、諦めろ。アレはそんなレベルじゃない」
「ふむぅ……」
外から帰って来た男は、その身を隠していた外套を脱ぎさる。
現れたのは、細身の浅黒い肌の男。ただ、当然南方系の人族ではない。紛れもなく魔族だ。
「シャウト、少しも可能性は無いのか?」
「魔王陛下が羽虫に感じる相手だぞ。疑うならルバスのジジイがその目で見てくりゃいいだろう!」
「むぅ……」
シャウトがルバスと呼ぶ存在が考え込む。
その顔には皮膚は無く、目も妖しく光るのみ。
「ジジイがリッチだといっても、何も出来ずに消されるだけだと思うぞ」
「リッチではないわ! ワシはリッチロードじゃ!」
そう。ルバスは元魔族の魔法使いで、自らリッチロードとなった存在。
「いや、ジジイ。リッチロードって言う程強くないじゃねぇか」
「それは仕方ない。もともとが魔王どころか、アバドンやデモリスにも及ばぬワシが、リッチロードとなったとて、奴らからしたら誤差じゃからの」
「それ、リッチロードになる前に分かってりゃよかったのにな」
ルバスは自分を実験台に、ゴースト系魔物の最終形態リッチロードへと至った。
ところが、シグムンドのように最下級のゴーストから進化し続けてリッチロードに至ったのではなく、独自の術式を編み出し、魔族からリッチロードへと無理矢理変化した所為なのか、その力は元の魔族だった頃から多少強くなった程度だった。
その事にルバスは暫く落ち込んだものの、寿命から解き放たれたのだから良しとしようと切り替え、今は更なる力を模索していた。
「まだ諦めるのは早い。方法はあるはずじゃ」
「俺はもう草原地帯に近づくのは嫌だからな。俺に敵意が無かったから、たまたま見逃してくれたが、敵意を向けた瞬間終わるぞ。俺は神が創りし古竜よりも強大な存在なんて関わりたくないからな」
「シャウト、そこを何とかならんか?」
「なるか!」
ルバスが望んだのは、更なる力。
そう。ルバスは古竜の素材を欲していた。
魔物であるリッチロードとなったルバスだが、その性質や性格は魔族だった頃と変わらない。高位の魔物の中でも人間と変わらぬ理性と知性を持つリッチロードだが、それでも普通は人間に対して攻撃的だ。
それが魔族の時と変わらないルバスは、魔族だった頃から筋金入りの変人と言えるだろう。
古竜の素材で更なる力を得れるかもしれない。そう考えれば、もう諦めるのは難しい。
「なあ、血をちょっとだけでもいいんじゃ」
「だから無理だって言ってるだろ! あそこには、古竜なんかよりもっとヤベエのがいるんだよ!」
「むぅ……」
シャウトが言うヤベエのとは、勿論シグムンドの事だ。
魔族でも直接的な戦闘力よりも、諜報に向く能力に長けた種族であるシャウトは、ルバスの望む様々なモノを手に入れる為、魔王国はもとより大陸中を飛び回り活動していた。
当然、古竜が草原地帯に飛来した情報は直ぐに手に入れたし、ルバスがその素材を欲したので調査に向かったのは必然だっただろう。
だが、そこでシャウトはシグムンドに察知されてしまう。
シャウトに敵対する意思がなかった為見逃されたが、もし邪な事を考えれば、一瞬で消されただろう。
「言っとくけど、あの黄金竜様も傷つけるなんて無理だからな。魔王陛下が小虫に感じるくらいなんだぞ。それであのバケモノはその遥か上なんだ。頼むから俺を巻き込むな」
「長い付き合いじゃろう。そう冷たい事を言わんでくれ」
「俺はまだ死にたくないんだよ!」
シャウトは視界に入れた存在の力量を測るユニークスキルを持っていた。その所為で、黄金竜とシグムンドを見てしまい、半ばトラウマになっていた。
「そうじゃ。竜人がいると言っておったな。一人都合できんか?」
「馬鹿かジジイ! 古竜様の眷属の竜人だぞ! 魔王国にいる竜人族とは別もんだ! 俺やジジイなんざ瞬殺されておしまいだ!」
「シャウトは頼りにならんのぅ」
「ふざけんなぁ! 魔族を辞めてリッチロードになったくせに、文官のアバドンにも勝てないマヌケに言われなくないわ!」
「ワシは頭脳労働専門じゃからええんじゃ」
「よかないわっ!」
ルバスは、自身のパワーアップの為に、実験する素体を欲していた。そこで、目をつけたのがシャウトから聞いた竜人なのだが、とてもじゃないが、シャウトやルバスの手には負えない。
「だいたいリッチロードのくせに、何でそんなに弱いんだよ」
「仕方なかろう。これでも強くなった方なんじゃ」
優れた魔法使いが未練を残して死に、その魂が澱んだ濃い魔力に曝されて発生するのがレイスやリッチだ。
レイスやリッチになった時点で、生ある者に対して攻撃的なる。そして長い月日を討伐される事なく、生者を葬り続けた個体がリッチロードに至る。
そうしてリッチロードに至った個体は非常に強力だ。
だがルバスは、レイスからスタートするわけにはいかなかった。レイスになった時点で、魔族だった頃と変わらぬ理性や思考、知識はなくなる。故に、独自に開発した禁術を編み出したのだ。
凸凹コンビの言い合いは続く。
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『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
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