20 / 316
2巻
2-4
しおりを挟む
ボルトンの町を三人でぶらぶらと歩きながら食材を買い、そのまま家に帰る。すぐにマリアが食事の用意を始め、僕はお風呂の準備に取りかかった。
僕の方はすぐに終わってしまったので、マリアに声をかける。
「マリア、手伝おうか?」
「はい、じゃあタクミ様はスープをお願いします」
「オーケー!」
「……すまない二人とも」
僕とマリアがキッチンに立つと、ソフィアが申し訳なさそうにうな垂れていた。
ソフィアはエルフだけあって僕達の中では一番の年上になるんだけど、じつはまともに料理をしたことがないらしい。
下級とはいえ貴族出身の女性が料理をするのかどうか僕にはわからない。ソフィアには、僕の護衛なんだから料理は僕達に任せてくれて良いよと言ってあるんだけど、それでも気にしちゃうみたい。
カエデを加えてみんなで楽しく夕食を食べたあとは、お楽しみのお風呂タイムだ。
「タクミ様、恥ずかしいからあまり見ないでくれ」
「そうです。真剣に見すぎです」
僕が先にお風呂に入って待っていると、ソフィアとマリアが全裸で入ってきた。
恥ずかしがっている二人は、手で身体を隠しながら僕に見すぎるなと言うけど、僕の答えは決まってる。
「無理!」
美をそのまま体現したような美しさに、僕は興奮を通り越して血が沸騰しそうだ!
二人のおかげで、盗賊の討伐で受けたショックなんてあっという間に乗り越えることができた。
関係ないか……僕がHなだけだね。
8 魔法金属の精錬
ボルトンに戻って二日が過ぎた。
ドガンボさんが朝一で来いとうるさく言ってきていたので、早朝からみんなでドガンボさんの工房へと出掛ける。
「遅い!」
「え~~! 朝一で来たじゃないですか!」
いつもより朝食を早めに済ませてきたのに!
ドガンボさんに乱暴に手を引かれて、工房の中へ連行される。
「ミスリルもアダマンタイトも俺の炉じゃ精錬は無理なんだ。俺だけでも鍛えるのはできるんだが、精錬は特殊な炉がなきゃ無理だ。そこでタクミ、鉱石は山分けで良いから精錬を頼むわ」
「まぁ、はい……」
ドガンボさんが採掘した量の方がずっと多かったからありがたいんだけど、朝一のテンションじゃないと思う。
ドガンボさんから指定された場所に、アイテムボックスからミスリル鉱石をどんどん出していく。すべてのミスリル鉱石を出し終えると、ちょっとした小山になっていた。
「さて、これを片っ端から精錬すれば良いんですね」
「おう、本命はアダマンタイトだが、ミスリルも防具やアクセサリーに使えるからな」
そしてドガンボさんが、ふんっと鼻息を出しながら一言。
「さあ、キリキリ張り切って精錬しやがれ!」
いや、その言い方って……精錬しますけどね。
今日のためにマナポーションを追加で作っておいたんだ。今日は気合い入れて頑張るぞ。
さっそく僕は作業に入る。
まず、ミスリル鉱石を「分解」「抽出」してミスリルを取り出し、「合成」していく。
ミスリル鉱石には、ミスリルの他にも少量のアルミやチタン、その他の物質が含まれているので、必要な金属は「抽出」「合成」して確保しておくのだ。残った不純物は土魔法で固めてブロックにする。
こんな感じで作業に集中する。時折マナポーションを飲みながら、ひたすら小山となったミスリル鉱石を精錬していった。
数時間経ったくらいで、僕を見守っていたソフィアから声がかかる。
「タクミ様、お昼休憩にされてはいかがですか?」
「……うん、お腹も空いたしね」
「じゃあ用意しますね」
お昼休憩にしようとすると、ドガンボさんは不満そうな顔を向けてきた。だけど、ご飯も食べずに作業なんてやってられない。
マリアが用意してくれたお昼ご飯を、カエデを亜空間から呼び出して四人で食べる。
ドガンボさんも一緒に誘ったんだけど――
「ミスリル鉱石を目の前に、ゆっくり飯なんて食えるか!」
って言って溜まっていた仕事をしはじめた……いや、仕事が溜まってるならそっちを先に片付けろよ。
食後は、マリアがカエデと裁縫している横でひたすら精錬し続け、何本もマナポーションを消費した。
その日は、小山の半分ほどのミスリル鉱石を精錬し終えた。
「おう! 明日も朝一だからな!」
「……はい」
これ、アダマンタイト鉱石まで精錬するのに、何日かかるんだろう。
「さぁ、キリキリ働け!」
「いや、その言い方って……もう何でも良いですけどね」
次の日も朝一からミスリル鉱石の精錬に取りかかり、昨日以上に集中して頑張った。
あらん限りの魔力を振り絞り、すべてのミスリル鉱石を精錬し終えたときには、とっぷりと日が暮れていた。
「じゃあ明日からはアダマンタイトじゃ」
「ぎゃ!」
思わず奇声を発してしまった。
「(生産職だけど、僕が望んでた生産職だけど…………こんなんじゃない!)」
楽しい物作りのはずが、すごくブラックな環境に叩き込まれている気がする。
あれ? 僕って騙されてる?
◇
そんなふうに、僕がグチグチと言いたくなるくらいにはハードだった。
アダマンタイト鉱石は、錬金術で錬成するのに莫大な魔力が必要となる。
そのため今回は、無詠唱・錬成魔法陣なしの方法を諦め、「分解」「抽出」「合成」の三種類の錬成魔法陣を描いた金属板を用意して、そこに魔力を流して錬成するという方法を採ることにした。
だけどここからも一筋縄ではいかない。
硬く真っ黒なアダマンタイト鉱石の塊に「分解」をかけてみても、魔力の通りが上手くいかないのだ。うーん本当に思うようにいかない。
マナポーションをがぶ飲みしながら何度も挑戦したところで、ようやくコツみたいなものが掴めてきたんだけど、たぶんこれって僕がアダマンタイトという金属の性質を理解してきたから、魔力を通せるようになったんだと思う。
そこまでして、やっとすべてのアダマンタイト鉱石を精錬できたのは、まる二日後だった。
ドガンボさんが、疲れ果てて大の字になっている僕に告げる。
「タクミ、ミスリルとアダマンタイトのインゴットを半分持っていけ。次の作業は五日後から始めるぞ」
精錬の次の作業は合金だ。
ミスリルは、そのままでも魔力親和性は高いが、硬度と靭性は高くない。硬度と靭性を高めるために合金にするのだけど、その際に混ぜる金属と分量は鍛冶師それぞれの秘伝だったりする。
それはアダマンタイトも一緒なんだけど、そもそもアダマンタイトはそのままでも硬度・靭性ともに鋼鉄をはるかに凌ぎ、さらに魔力親和性も高い。アダマンタイトのままでも最終的に出来上がる武器は、鋼鉄の鎧を容易く切り裂くという。
そんな優れた素材を鍛冶師秘伝の合金にすることで、さらに能力が上がるという。そうしてできたアダマンタイトの武器は、国宝級の武器や防具になる。
ドガンボさんは、僕が鉱石を精錬した代わりに合金のレシピを僕に伝授してくれると言ってくれていた。
それを思うと、これまでの苦労くらいは当たり前なのかもしれない。おかげで職業レベルがずいぶん上がったし。
【名 前】 タクミ・イルマ
【種 族】 人族
【年 齢】 15歳
【職 種】 錬金術師64Lv 鍛冶師60Lv (魔法剣士12Lv 魔術師11Lv 付与魔法師32Lv 大工16Lv 裁縫職人40Lv)
【レベル】 68
【状 態】 健康
【生命力】 730 【魔 力】 920 【 力 】 372 【俊 敏】 332
【体 力】 430 【器 用】 350 【知 力】 432
【ユニーク スキル】 [鑑定EX][アイテムボックスEX(隠匿)]
【パッシブ スキル】 [怪力3Lv][直感3Lv][毒耐性2Lv][麻痺耐性2Lv][回避2Lv][身体制御2Lv][魔力回復速度上昇1Lv]
【アクティブスキル】 [槍術7Lv][斧術5Lv][剣術7Lv][投擲4Lv][体術5Lv][魔闘術5Lv][索敵3Lv][気配察知5Lv][隠密4Lv][テイム1Lv][身体能力強化5Lv][魔力感知7Lv][魔力操作9Lv][光属性魔法8Lv][火属性魔法5Lv][水属性魔法5Lv][風属性魔法6Lv][土属性魔法8Lv][氷属性魔法3Lv][雷属性魔法1Lv][時空間属性魔法3Lv][付与魔法5Lv][錬金術8Lv][鍛冶7Lv][木工細工6Lv][大工4Lv][採取5Lv][伐採5Lv][解体4Lv][採掘4Lv][金属細工5Lv][裁縫3Lv][料理2Lv]
【 加 護 】 [女神ノルンの加護(隠匿)]
【 従 魔 】 [アルケニー特異種(カエデ)]
【 称 号 】 [ジャイアントキリング]
9 鍛冶魔法
ミスリル鉱石とアダマンタイト鉱石の精錬作業から解放された僕は、家でゆっくりしたり、工房でエルダートレント材で何を作るか思案したりする日々を過ごした。
そうしているうちにドガンボさんに言われていた五日が過ぎたので、ミスリル製の防具やアダマンタイト製の武器の製作にチャレンジするために、ドガンボさんのところへ行くと――
「遅い!」
「いえ、朝一で来ましたよ」
ビア樽体型のヒゲおやじ、マイペースにもほどがある!
まず、ドガンボさんがミスリルでナイフを打つのを見せてもらうことになった。
ドガンボさんは炉に火を入れ、ミスリル合金を作る作業の説明をしてくれる。
「ただの銀なら、銅なんかを混ぜたりするんじゃが、ミスリルは元が銀でもその性質はもう別物なんじゃ。それは別名『神銀』と呼ばれることでもわかるじゃろう。そこで、ミスリルの場合はこれを混ぜる」
そう言ってドガンボさんが取り出したのは、金属の欠片と赤い石、それと何かの粉だった。
「一つは魔鉄じゃ。もう一つの赤い石は、サラマンダーの胆石。この粉は、魔石を砕いたものじゃ」
ミスリルに混ぜるのは魔鉄じゃなくても大丈夫なのだが、ミスリルと同じく魔力親和性が高い金属でないとダメらしい。魔力親和性の高いアダマンタイトを混ぜた方がナイフとしての性能が上がるけど、軽さを活かすためには魔鉄の方が良いというのが、ドガンボさんの判断のようだ。
サラマンダーの胆石はナイフに火属性を付与する素材。魔石の粉はサラマンダーの胆石や魔鉄との合成を助ける役目を果たすとのこと。
「ということは、そのミスリル合金でナイフを打つと、火属性のナイフになるんですね」
「そうじゃ。まあ付与魔術師がおったら、サラマンダーの胆石なぞ使わんでも火属性を付与できるんじゃが、こうしてナイフの素材自体にあらかじめ属性を付与しておけば、完成したナイフに付与できる余白が増えるんじゃ」
僕は付与魔法を使うからわかっているけど、武器や防具には付与できる数に制限がある。
よくゲームなんかで武器や防具に特殊効果を付与するためのスロットとかってあるように、そんなイメージだ。
だからこそ、こんなふうに素材に属性を付与しておくことができれば、完成したナイフのスロットを減らさずに属性が付与できるってわけだ。
ドガンボさんは材料を炉に入れて加熱していくと同時に、魔力を込めていった。
魔法金属を合金にするには魔力を込めなければならない。ただ加熱しただけでは、いくら高温になっても合金にできないのだ。
炉の炎のみが灯りの暗い工房は、ただじっとしているだけで汗が噴き出す。
ドガンボさんがまだ完全に混ざっていないミスリル合金を炉から取り出し、金床に載せた。ドガンボさんがそれを小槌でコンコンと叩き、僕が大槌で叩く。
なぜ僕が向こう槌を取ってるのかわからないけど、勉強だと思おう。
「もっと、槌に魔力を込めろ!」
「はい!」
カンッ! カンッ! カンッ!
何度も折り返して均一な合金になったところで、ドガンボさんが成形に入る。
ここまで作業してみて不思議に思ったんだけど、ドガンボさんは鍛冶魔法をほぼ使っていなかった。使うにしても少しの形の修正程度だ。
ドガンボさんが太い腕で、魔力を込めてハンマーで叩く。成形を終えてナイフの形になったものを、もう一度炉に入れて加熱する。
「焼き入れの温度はこの色を覚えとけ!」
ジュワァァァーー!!
オレンジ色に赤熱したナイフを、ドガンボさんが一気に水へと投入した。
焼き入れを終えたナイフに、荒砥ぎ、中砥ぎ、仕上げ砥ぎをしていくと、薄い赤味がかった銀色のナイフが出来上がった。
「あとは拵えを作って完成じゃ。さて次じゃ」
続いて僕が、何か作ることになった。
僕が作ろうと思っているのは、アダマンタイト合金の槍の穂先だ。
属性を付与できる魔物素材は持っていなかったんだけど、ドガンボさんからアドバイスされて、属性を持たせた魔石を代用とする方法を用いることになった。
「高位の魔物素材を使用すると属性付与以上の効果をもたらしてくれるんじゃ。例えば火竜の火袋を使えば火属性だけでなく攻撃力強化も付いてくる」
他にもそういうものはいろいろあって、サンダーバードという魔物の素材を使うと、雷属性と俊敏強化が付与された装備になるらしい。
ともかく今回はそうした素材はないので、魔石に魔法を込めて属性付与を行う。僕は錬金術が使えるので、ひとまず槍を完成させたあとに属性付与をしようかなと思っている。
さて、ドガンボさんは、少量のミスリルと魔鉄を混ぜると鍛錬しやすくなると言ってたけど、ここはいろいろ試してみよう。錬金術なら何度でもトライできるしね。
例のごとく、穂先の部分によって細かく調整を加えよう。芯の部分、周りの部分、刃の部分で混ぜ物の量を0・3%~0・8%の間で変化させていく。芯は柔らかく、周りは硬く、刃は周りよりも少しだけ柔らかくしようと思う。
鉄のように炭素量で硬度が変わるか検証してみたところ、アダマンタイトは鉄とは性質が全く違うことがわかった。次にチタンや炭化タングステン、コバルトで試してみる。
鑑定EXで詳細を調べながら、アダマンタイト合金のレシピを探っていくと、どうやら多少重くなるけどタングステンを混ぜるのが正解みたい。
最終的に、硬度が高く靭性はそこそこの周りの部分、硬度も靭性もそこそこよりは高い刃、硬度はそこそこだけど靭性が高い芯の部分を作り上げた。そこそこと表現したけど、それはアダマンタイト合金の中での話で、ミスリル合金や魔鋼とは次元が違う合金だ。
「よし!」
気合いを入れて三種類の合金を重ね、鍛冶魔法のクラフトで成形しながら土属性魔法と錬金術で三種類の合金をイメージ通りに融合させていった。
完成形のイメージは笹穂型の大身槍。ソフィアとマリアに作ってあげた槍を、アダマンタイト合金で作り直すのだ。
仕上げのステップでは、焼き入れ後をイメージして行った。
土置きして冷却速度の変化で焼き入れ度合いを変えるところまでイメージして、金属組織を変化させる。これにより鍛冶魔法のみで製作しているにもかかわらず、丁子乱れの刃紋が浮き上がった。
ここまでスムーズにできたのは、ドガンボさんがミスリル合金のナイフを作る様子をしっかり見ておいたおかげだと思う。
完成した刃長60センチの大身槍をじっくりと検証する。
アダマンタイト合金特有の黒い刀身に、丁子乱れの刃紋が浮かんでいる。詳細鑑定をしてみたところ品質に問題はなさそうだ。
「な、なんじゃそれは!?」
「えっ? 槍の穂先ですよ」
集中していて気づかなかったけど、ドガンボさんが目を見開いて僕を見つめていた。
「タクミよ、鍛冶魔法というのは、形の微調整程度にしか使わんものなのじゃ。それを成形から焼き入れ、オマケに砥ぎまでに使うとは非常識にもほどがある。しかも打ったその穂先はなんじゃ! 刃に浮かぶ紋様は別にしても、見るからに業物とわかる」
困惑したままのドガンボさんに、僕はどうやってこの槍を作ったのか説明した。
アダマンタイトにタングステンやコバルト、極少量のチタンなどを合成し、靭性・硬度の異なる三種類の合金を作ったこと。そしてそれを重ねて一本の穂先を作りあげたこと。鍛冶魔法だけじゃなく、土属性魔法と錬金術も併用していたことなども含めてぜんぶ伝えた。
「正直な話、タングステンやコバルトが何のことか全くわからんが、芯と刃の硬度を変えたのは、切れ味を良くしつつも武器の強度を上げようとしたんだな」
ドガンボさんはまだブツブツ言っていたけど放っておこう。
一応の試作が成功だったので、続いてこの合金の素材自体に属性を付与してみようと思う。
アイテムボックスから魔石を一つ取り出し、手に握り氷属性の魔力を込める。魔石の色が濃い青色になったのを確認してから「粉砕」して魔石を粉にした。
「よし、これで錬成」
アダマンタイト合金製の黒い刀身が青味がかった黒色に変化する。黒色が薄い刃紋部分は、特に青色になっているのがよくわかった。
中心部分を握って魔力を込めると、穂全体を氷属性の魔力が覆う。
最後に「斬撃強化」「自動修復」「刺突強化」のエンチャントを施し、アダマンタイト合金製の穂先が完成した。
エルダートレント材で柄を作り、太刀打ちの部分はミスリル合金で作った白銀色に、石突きはアダマンタイト合金で作った。
[氷槍【氷魔槍】]
優れた魔法鍛冶師であり錬金術師である者が製作したアダマンタイト合金製の槍。魔力を通すことで穂先に氷属性魔法を纏う。
特殊効果:氷属性
エンチャント:氷属性強化・氷属性耐性・斬撃強化・自動修復・刺突強化
レアリティ:国宝級
鑑定EXで見ると、いつの間にか名前が付いていた。
「僕、もう帰って良いよね」
ドガンボさんの返事はない。
ブツブツと呟きながら、自分の世界に入り込んでいるようだった。
あとの作業は自分の工房でも大丈夫そうなので、今日はもう帰ることにした。
10 装備を強化
アダマンタイト合金製の槍が完成したので、そのついでに僕達全員の装備を新しく作り変えようと決めた。
「この際だから、防具も含めて全部強化しよう。ソフィアとマリアも何か要望があれば、遠慮なく教えてほしい」
僕がそう言うと、ソフィアとマリアが考え込む。
今僕達が使っているのは、鎧猪の革鎧とスパイダーシルクの鎧下だ。
スパイダーシルクの鎧下はこのままでも良いかなと思う。ソフィアとマリアが着ている鎧下は伸縮性のある糸を使った身体にフィットする優れものだし、機能面でも申し分ない。新しい鎧との兼ね合いで、形や色を変更するかもしれないけど。
「タクミ様は、ミスリルで鎧を作るのを考えているのですか?」
「うん、ミスリルの白銀色の鎧なんて、ソフィアやマリアに似合いそうじゃない。特にソフィアは騎士だったし」
「「…………タクミ様」」
そういう問題じゃないと呆れる二人は置いといて、彼女達の防具については少し考えがあった。
今、僕達が使っているヒュージアーマードボアの硬い甲殻は、悪い装備ではない。この素材は冒険者に人気が高く、比較的軽くてとても硬いので、ベテラン冒険者も欲しがる素材だ。
だけど問題がないわけじゃない。
ヒュージアーマードボア自体の魔物ランクがそこまで高くないからなのか、素材に特殊効果はないし、付与できる数も多くないのだ。
竜種や他の高ランクの魔物素材の中には、素材自体に特殊な効果を持つものも少なくない。それに高ランクの魔物素材で作られた装備は、付与できる数が多くなる。
そこで、ミスリル合金だけど、素材自体が魔法攻撃に高い耐性がある。物理的な耐性も鋼鉄に勝る強度を持ち、魔力を流すことで魔法攻撃耐性・物理攻撃耐性ともに強化できる。
それに加え、ミスリル自体がレアな金属だからなのか、付与できる魔法の数も多い。重いアダマンタイト合金に比べてみても、とても防具に向いた素材だということがわかる。
僕は、困ったような表情を浮かべる二人を前に、いろいろ思考を巡らせるのだった。
僕の方はすぐに終わってしまったので、マリアに声をかける。
「マリア、手伝おうか?」
「はい、じゃあタクミ様はスープをお願いします」
「オーケー!」
「……すまない二人とも」
僕とマリアがキッチンに立つと、ソフィアが申し訳なさそうにうな垂れていた。
ソフィアはエルフだけあって僕達の中では一番の年上になるんだけど、じつはまともに料理をしたことがないらしい。
下級とはいえ貴族出身の女性が料理をするのかどうか僕にはわからない。ソフィアには、僕の護衛なんだから料理は僕達に任せてくれて良いよと言ってあるんだけど、それでも気にしちゃうみたい。
カエデを加えてみんなで楽しく夕食を食べたあとは、お楽しみのお風呂タイムだ。
「タクミ様、恥ずかしいからあまり見ないでくれ」
「そうです。真剣に見すぎです」
僕が先にお風呂に入って待っていると、ソフィアとマリアが全裸で入ってきた。
恥ずかしがっている二人は、手で身体を隠しながら僕に見すぎるなと言うけど、僕の答えは決まってる。
「無理!」
美をそのまま体現したような美しさに、僕は興奮を通り越して血が沸騰しそうだ!
二人のおかげで、盗賊の討伐で受けたショックなんてあっという間に乗り越えることができた。
関係ないか……僕がHなだけだね。
8 魔法金属の精錬
ボルトンに戻って二日が過ぎた。
ドガンボさんが朝一で来いとうるさく言ってきていたので、早朝からみんなでドガンボさんの工房へと出掛ける。
「遅い!」
「え~~! 朝一で来たじゃないですか!」
いつもより朝食を早めに済ませてきたのに!
ドガンボさんに乱暴に手を引かれて、工房の中へ連行される。
「ミスリルもアダマンタイトも俺の炉じゃ精錬は無理なんだ。俺だけでも鍛えるのはできるんだが、精錬は特殊な炉がなきゃ無理だ。そこでタクミ、鉱石は山分けで良いから精錬を頼むわ」
「まぁ、はい……」
ドガンボさんが採掘した量の方がずっと多かったからありがたいんだけど、朝一のテンションじゃないと思う。
ドガンボさんから指定された場所に、アイテムボックスからミスリル鉱石をどんどん出していく。すべてのミスリル鉱石を出し終えると、ちょっとした小山になっていた。
「さて、これを片っ端から精錬すれば良いんですね」
「おう、本命はアダマンタイトだが、ミスリルも防具やアクセサリーに使えるからな」
そしてドガンボさんが、ふんっと鼻息を出しながら一言。
「さあ、キリキリ張り切って精錬しやがれ!」
いや、その言い方って……精錬しますけどね。
今日のためにマナポーションを追加で作っておいたんだ。今日は気合い入れて頑張るぞ。
さっそく僕は作業に入る。
まず、ミスリル鉱石を「分解」「抽出」してミスリルを取り出し、「合成」していく。
ミスリル鉱石には、ミスリルの他にも少量のアルミやチタン、その他の物質が含まれているので、必要な金属は「抽出」「合成」して確保しておくのだ。残った不純物は土魔法で固めてブロックにする。
こんな感じで作業に集中する。時折マナポーションを飲みながら、ひたすら小山となったミスリル鉱石を精錬していった。
数時間経ったくらいで、僕を見守っていたソフィアから声がかかる。
「タクミ様、お昼休憩にされてはいかがですか?」
「……うん、お腹も空いたしね」
「じゃあ用意しますね」
お昼休憩にしようとすると、ドガンボさんは不満そうな顔を向けてきた。だけど、ご飯も食べずに作業なんてやってられない。
マリアが用意してくれたお昼ご飯を、カエデを亜空間から呼び出して四人で食べる。
ドガンボさんも一緒に誘ったんだけど――
「ミスリル鉱石を目の前に、ゆっくり飯なんて食えるか!」
って言って溜まっていた仕事をしはじめた……いや、仕事が溜まってるならそっちを先に片付けろよ。
食後は、マリアがカエデと裁縫している横でひたすら精錬し続け、何本もマナポーションを消費した。
その日は、小山の半分ほどのミスリル鉱石を精錬し終えた。
「おう! 明日も朝一だからな!」
「……はい」
これ、アダマンタイト鉱石まで精錬するのに、何日かかるんだろう。
「さぁ、キリキリ働け!」
「いや、その言い方って……もう何でも良いですけどね」
次の日も朝一からミスリル鉱石の精錬に取りかかり、昨日以上に集中して頑張った。
あらん限りの魔力を振り絞り、すべてのミスリル鉱石を精錬し終えたときには、とっぷりと日が暮れていた。
「じゃあ明日からはアダマンタイトじゃ」
「ぎゃ!」
思わず奇声を発してしまった。
「(生産職だけど、僕が望んでた生産職だけど…………こんなんじゃない!)」
楽しい物作りのはずが、すごくブラックな環境に叩き込まれている気がする。
あれ? 僕って騙されてる?
◇
そんなふうに、僕がグチグチと言いたくなるくらいにはハードだった。
アダマンタイト鉱石は、錬金術で錬成するのに莫大な魔力が必要となる。
そのため今回は、無詠唱・錬成魔法陣なしの方法を諦め、「分解」「抽出」「合成」の三種類の錬成魔法陣を描いた金属板を用意して、そこに魔力を流して錬成するという方法を採ることにした。
だけどここからも一筋縄ではいかない。
硬く真っ黒なアダマンタイト鉱石の塊に「分解」をかけてみても、魔力の通りが上手くいかないのだ。うーん本当に思うようにいかない。
マナポーションをがぶ飲みしながら何度も挑戦したところで、ようやくコツみたいなものが掴めてきたんだけど、たぶんこれって僕がアダマンタイトという金属の性質を理解してきたから、魔力を通せるようになったんだと思う。
そこまでして、やっとすべてのアダマンタイト鉱石を精錬できたのは、まる二日後だった。
ドガンボさんが、疲れ果てて大の字になっている僕に告げる。
「タクミ、ミスリルとアダマンタイトのインゴットを半分持っていけ。次の作業は五日後から始めるぞ」
精錬の次の作業は合金だ。
ミスリルは、そのままでも魔力親和性は高いが、硬度と靭性は高くない。硬度と靭性を高めるために合金にするのだけど、その際に混ぜる金属と分量は鍛冶師それぞれの秘伝だったりする。
それはアダマンタイトも一緒なんだけど、そもそもアダマンタイトはそのままでも硬度・靭性ともに鋼鉄をはるかに凌ぎ、さらに魔力親和性も高い。アダマンタイトのままでも最終的に出来上がる武器は、鋼鉄の鎧を容易く切り裂くという。
そんな優れた素材を鍛冶師秘伝の合金にすることで、さらに能力が上がるという。そうしてできたアダマンタイトの武器は、国宝級の武器や防具になる。
ドガンボさんは、僕が鉱石を精錬した代わりに合金のレシピを僕に伝授してくれると言ってくれていた。
それを思うと、これまでの苦労くらいは当たり前なのかもしれない。おかげで職業レベルがずいぶん上がったし。
【名 前】 タクミ・イルマ
【種 族】 人族
【年 齢】 15歳
【職 種】 錬金術師64Lv 鍛冶師60Lv (魔法剣士12Lv 魔術師11Lv 付与魔法師32Lv 大工16Lv 裁縫職人40Lv)
【レベル】 68
【状 態】 健康
【生命力】 730 【魔 力】 920 【 力 】 372 【俊 敏】 332
【体 力】 430 【器 用】 350 【知 力】 432
【ユニーク スキル】 [鑑定EX][アイテムボックスEX(隠匿)]
【パッシブ スキル】 [怪力3Lv][直感3Lv][毒耐性2Lv][麻痺耐性2Lv][回避2Lv][身体制御2Lv][魔力回復速度上昇1Lv]
【アクティブスキル】 [槍術7Lv][斧術5Lv][剣術7Lv][投擲4Lv][体術5Lv][魔闘術5Lv][索敵3Lv][気配察知5Lv][隠密4Lv][テイム1Lv][身体能力強化5Lv][魔力感知7Lv][魔力操作9Lv][光属性魔法8Lv][火属性魔法5Lv][水属性魔法5Lv][風属性魔法6Lv][土属性魔法8Lv][氷属性魔法3Lv][雷属性魔法1Lv][時空間属性魔法3Lv][付与魔法5Lv][錬金術8Lv][鍛冶7Lv][木工細工6Lv][大工4Lv][採取5Lv][伐採5Lv][解体4Lv][採掘4Lv][金属細工5Lv][裁縫3Lv][料理2Lv]
【 加 護 】 [女神ノルンの加護(隠匿)]
【 従 魔 】 [アルケニー特異種(カエデ)]
【 称 号 】 [ジャイアントキリング]
9 鍛冶魔法
ミスリル鉱石とアダマンタイト鉱石の精錬作業から解放された僕は、家でゆっくりしたり、工房でエルダートレント材で何を作るか思案したりする日々を過ごした。
そうしているうちにドガンボさんに言われていた五日が過ぎたので、ミスリル製の防具やアダマンタイト製の武器の製作にチャレンジするために、ドガンボさんのところへ行くと――
「遅い!」
「いえ、朝一で来ましたよ」
ビア樽体型のヒゲおやじ、マイペースにもほどがある!
まず、ドガンボさんがミスリルでナイフを打つのを見せてもらうことになった。
ドガンボさんは炉に火を入れ、ミスリル合金を作る作業の説明をしてくれる。
「ただの銀なら、銅なんかを混ぜたりするんじゃが、ミスリルは元が銀でもその性質はもう別物なんじゃ。それは別名『神銀』と呼ばれることでもわかるじゃろう。そこで、ミスリルの場合はこれを混ぜる」
そう言ってドガンボさんが取り出したのは、金属の欠片と赤い石、それと何かの粉だった。
「一つは魔鉄じゃ。もう一つの赤い石は、サラマンダーの胆石。この粉は、魔石を砕いたものじゃ」
ミスリルに混ぜるのは魔鉄じゃなくても大丈夫なのだが、ミスリルと同じく魔力親和性が高い金属でないとダメらしい。魔力親和性の高いアダマンタイトを混ぜた方がナイフとしての性能が上がるけど、軽さを活かすためには魔鉄の方が良いというのが、ドガンボさんの判断のようだ。
サラマンダーの胆石はナイフに火属性を付与する素材。魔石の粉はサラマンダーの胆石や魔鉄との合成を助ける役目を果たすとのこと。
「ということは、そのミスリル合金でナイフを打つと、火属性のナイフになるんですね」
「そうじゃ。まあ付与魔術師がおったら、サラマンダーの胆石なぞ使わんでも火属性を付与できるんじゃが、こうしてナイフの素材自体にあらかじめ属性を付与しておけば、完成したナイフに付与できる余白が増えるんじゃ」
僕は付与魔法を使うからわかっているけど、武器や防具には付与できる数に制限がある。
よくゲームなんかで武器や防具に特殊効果を付与するためのスロットとかってあるように、そんなイメージだ。
だからこそ、こんなふうに素材に属性を付与しておくことができれば、完成したナイフのスロットを減らさずに属性が付与できるってわけだ。
ドガンボさんは材料を炉に入れて加熱していくと同時に、魔力を込めていった。
魔法金属を合金にするには魔力を込めなければならない。ただ加熱しただけでは、いくら高温になっても合金にできないのだ。
炉の炎のみが灯りの暗い工房は、ただじっとしているだけで汗が噴き出す。
ドガンボさんがまだ完全に混ざっていないミスリル合金を炉から取り出し、金床に載せた。ドガンボさんがそれを小槌でコンコンと叩き、僕が大槌で叩く。
なぜ僕が向こう槌を取ってるのかわからないけど、勉強だと思おう。
「もっと、槌に魔力を込めろ!」
「はい!」
カンッ! カンッ! カンッ!
何度も折り返して均一な合金になったところで、ドガンボさんが成形に入る。
ここまで作業してみて不思議に思ったんだけど、ドガンボさんは鍛冶魔法をほぼ使っていなかった。使うにしても少しの形の修正程度だ。
ドガンボさんが太い腕で、魔力を込めてハンマーで叩く。成形を終えてナイフの形になったものを、もう一度炉に入れて加熱する。
「焼き入れの温度はこの色を覚えとけ!」
ジュワァァァーー!!
オレンジ色に赤熱したナイフを、ドガンボさんが一気に水へと投入した。
焼き入れを終えたナイフに、荒砥ぎ、中砥ぎ、仕上げ砥ぎをしていくと、薄い赤味がかった銀色のナイフが出来上がった。
「あとは拵えを作って完成じゃ。さて次じゃ」
続いて僕が、何か作ることになった。
僕が作ろうと思っているのは、アダマンタイト合金の槍の穂先だ。
属性を付与できる魔物素材は持っていなかったんだけど、ドガンボさんからアドバイスされて、属性を持たせた魔石を代用とする方法を用いることになった。
「高位の魔物素材を使用すると属性付与以上の効果をもたらしてくれるんじゃ。例えば火竜の火袋を使えば火属性だけでなく攻撃力強化も付いてくる」
他にもそういうものはいろいろあって、サンダーバードという魔物の素材を使うと、雷属性と俊敏強化が付与された装備になるらしい。
ともかく今回はそうした素材はないので、魔石に魔法を込めて属性付与を行う。僕は錬金術が使えるので、ひとまず槍を完成させたあとに属性付与をしようかなと思っている。
さて、ドガンボさんは、少量のミスリルと魔鉄を混ぜると鍛錬しやすくなると言ってたけど、ここはいろいろ試してみよう。錬金術なら何度でもトライできるしね。
例のごとく、穂先の部分によって細かく調整を加えよう。芯の部分、周りの部分、刃の部分で混ぜ物の量を0・3%~0・8%の間で変化させていく。芯は柔らかく、周りは硬く、刃は周りよりも少しだけ柔らかくしようと思う。
鉄のように炭素量で硬度が変わるか検証してみたところ、アダマンタイトは鉄とは性質が全く違うことがわかった。次にチタンや炭化タングステン、コバルトで試してみる。
鑑定EXで詳細を調べながら、アダマンタイト合金のレシピを探っていくと、どうやら多少重くなるけどタングステンを混ぜるのが正解みたい。
最終的に、硬度が高く靭性はそこそこの周りの部分、硬度も靭性もそこそこよりは高い刃、硬度はそこそこだけど靭性が高い芯の部分を作り上げた。そこそこと表現したけど、それはアダマンタイト合金の中での話で、ミスリル合金や魔鋼とは次元が違う合金だ。
「よし!」
気合いを入れて三種類の合金を重ね、鍛冶魔法のクラフトで成形しながら土属性魔法と錬金術で三種類の合金をイメージ通りに融合させていった。
完成形のイメージは笹穂型の大身槍。ソフィアとマリアに作ってあげた槍を、アダマンタイト合金で作り直すのだ。
仕上げのステップでは、焼き入れ後をイメージして行った。
土置きして冷却速度の変化で焼き入れ度合いを変えるところまでイメージして、金属組織を変化させる。これにより鍛冶魔法のみで製作しているにもかかわらず、丁子乱れの刃紋が浮き上がった。
ここまでスムーズにできたのは、ドガンボさんがミスリル合金のナイフを作る様子をしっかり見ておいたおかげだと思う。
完成した刃長60センチの大身槍をじっくりと検証する。
アダマンタイト合金特有の黒い刀身に、丁子乱れの刃紋が浮かんでいる。詳細鑑定をしてみたところ品質に問題はなさそうだ。
「な、なんじゃそれは!?」
「えっ? 槍の穂先ですよ」
集中していて気づかなかったけど、ドガンボさんが目を見開いて僕を見つめていた。
「タクミよ、鍛冶魔法というのは、形の微調整程度にしか使わんものなのじゃ。それを成形から焼き入れ、オマケに砥ぎまでに使うとは非常識にもほどがある。しかも打ったその穂先はなんじゃ! 刃に浮かぶ紋様は別にしても、見るからに業物とわかる」
困惑したままのドガンボさんに、僕はどうやってこの槍を作ったのか説明した。
アダマンタイトにタングステンやコバルト、極少量のチタンなどを合成し、靭性・硬度の異なる三種類の合金を作ったこと。そしてそれを重ねて一本の穂先を作りあげたこと。鍛冶魔法だけじゃなく、土属性魔法と錬金術も併用していたことなども含めてぜんぶ伝えた。
「正直な話、タングステンやコバルトが何のことか全くわからんが、芯と刃の硬度を変えたのは、切れ味を良くしつつも武器の強度を上げようとしたんだな」
ドガンボさんはまだブツブツ言っていたけど放っておこう。
一応の試作が成功だったので、続いてこの合金の素材自体に属性を付与してみようと思う。
アイテムボックスから魔石を一つ取り出し、手に握り氷属性の魔力を込める。魔石の色が濃い青色になったのを確認してから「粉砕」して魔石を粉にした。
「よし、これで錬成」
アダマンタイト合金製の黒い刀身が青味がかった黒色に変化する。黒色が薄い刃紋部分は、特に青色になっているのがよくわかった。
中心部分を握って魔力を込めると、穂全体を氷属性の魔力が覆う。
最後に「斬撃強化」「自動修復」「刺突強化」のエンチャントを施し、アダマンタイト合金製の穂先が完成した。
エルダートレント材で柄を作り、太刀打ちの部分はミスリル合金で作った白銀色に、石突きはアダマンタイト合金で作った。
[氷槍【氷魔槍】]
優れた魔法鍛冶師であり錬金術師である者が製作したアダマンタイト合金製の槍。魔力を通すことで穂先に氷属性魔法を纏う。
特殊効果:氷属性
エンチャント:氷属性強化・氷属性耐性・斬撃強化・自動修復・刺突強化
レアリティ:国宝級
鑑定EXで見ると、いつの間にか名前が付いていた。
「僕、もう帰って良いよね」
ドガンボさんの返事はない。
ブツブツと呟きながら、自分の世界に入り込んでいるようだった。
あとの作業は自分の工房でも大丈夫そうなので、今日はもう帰ることにした。
10 装備を強化
アダマンタイト合金製の槍が完成したので、そのついでに僕達全員の装備を新しく作り変えようと決めた。
「この際だから、防具も含めて全部強化しよう。ソフィアとマリアも何か要望があれば、遠慮なく教えてほしい」
僕がそう言うと、ソフィアとマリアが考え込む。
今僕達が使っているのは、鎧猪の革鎧とスパイダーシルクの鎧下だ。
スパイダーシルクの鎧下はこのままでも良いかなと思う。ソフィアとマリアが着ている鎧下は伸縮性のある糸を使った身体にフィットする優れものだし、機能面でも申し分ない。新しい鎧との兼ね合いで、形や色を変更するかもしれないけど。
「タクミ様は、ミスリルで鎧を作るのを考えているのですか?」
「うん、ミスリルの白銀色の鎧なんて、ソフィアやマリアに似合いそうじゃない。特にソフィアは騎士だったし」
「「…………タクミ様」」
そういう問題じゃないと呆れる二人は置いといて、彼女達の防具については少し考えがあった。
今、僕達が使っているヒュージアーマードボアの硬い甲殻は、悪い装備ではない。この素材は冒険者に人気が高く、比較的軽くてとても硬いので、ベテラン冒険者も欲しがる素材だ。
だけど問題がないわけじゃない。
ヒュージアーマードボア自体の魔物ランクがそこまで高くないからなのか、素材に特殊効果はないし、付与できる数も多くないのだ。
竜種や他の高ランクの魔物素材の中には、素材自体に特殊な効果を持つものも少なくない。それに高ランクの魔物素材で作られた装備は、付与できる数が多くなる。
そこで、ミスリル合金だけど、素材自体が魔法攻撃に高い耐性がある。物理的な耐性も鋼鉄に勝る強度を持ち、魔力を流すことで魔法攻撃耐性・物理攻撃耐性ともに強化できる。
それに加え、ミスリル自体がレアな金属だからなのか、付与できる魔法の数も多い。重いアダマンタイト合金に比べてみても、とても防具に向いた素材だということがわかる。
僕は、困ったような表情を浮かべる二人を前に、いろいろ思考を巡らせるのだった。
1,090
お気に入りに追加
37,775
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。