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後日談百五十話 再びの離島
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僕は今、夜も明け切らぬ中、ウラノスに乗り離島を目指している。何故、転移で行かないかと言うと、距離が遠いっていう理由もあるけれど、今回は同行者が居るので転移だと魔力消費が激し過ぎるからだ。そうじゃなきゃ、こんな朝早くに起きない。
もうその日に何も作業をしないのなら転移でもよかったんだけど、今日はこの後オプスで地中の探索から水脈の浄化と、やる事があるので魔力はもしもの時の為に残しておかなきゃいけない。地下水脈の浄化に、どの程度の魔力を使うかも分からないしね。
そして、その移動に転移じゃなくウラノスを使った理由の同行者とは、僕の妻であるソフィア、マリア、マーニの三人と、別件で用事のあったアカネとルルちゃんだ。
「リハビリには手応えはないでしょうが、島を走り回って失った体力の回復にはなりそうですね」
「でも島にも魔物が居ない訳じゃないんですよね」
「確か虫系の魔物が多いと聞いてます」
ソフィア、マリア、マーニの三人が、産後のリハビリとして、魔物を討伐すると言って同行しているんだ。
離島の中には、ソフィア達にとって脅威となる魔物は存在しないけれど、とにかく体が動かしたいみたい。
本気でリハビリするなら、魔大陸のダンジョンが一番いいと思うけど、今回のソフィア達は半分観光気分みたい。何も無い島だけどね。
そしてアカネは島の人達の中で、光属性の素質がある人の訓練を指導する為に同行している。ルルちゃんは、勿論アカネの付き添いだ。
輸送機であるガルーダとは比べものにならない速度で離島を目指すウラノス。音の壁を容易く突き抜ける。
「タクミ様、聖域騎士団も撤収準備をしているのですよね?」
「うん。何度かガルーダで行き来して、人員を交代しながら援助してきたけど、いつまでも援助し続けるのも違うからね」
「それはそうよ。自立させなきゃ。その為にわざわざ私も行くんだから」
ソフィアが聖域騎士団が撤収作業について聞いてきた。島の各集落の開拓も援助したし、食べ物や木材や布なども提供してきた。それが、ようやく離島に残された人達だけで自立できる目処が立った。だから聖域騎士団も撤収準備をしているところだ。
そんな事をソフィアに応えると、アカネが自立させるなんて当然だと言う。今回、アカネが、自分でわざわざなんて言いながらも同行しているのは、島の光属性に適性のある人に魔法を教える為だ。
「少し触りだけでも指導してあるんだよね?」
「創世教の神官が少しね。でも私達と同じように考えちゃダメよ。本来、魔法を覚えるのは大変なんだから」
離島の人達を救済した後、光属性に適性がある人には、少し指導をしていた筈なので、それをアカネに聞くけれど、そう簡単なものじゃないって言われてしまった。僕達を基準に考えるなとね。
「そうですね。タクミ様やエトワールを見ていると勘違いしそうになりますが、魔力を感じ取り、それを自分の意思で動かすところまでが大変ですから」
「ソフィアさんは、エルフだから基準になりませんしね」
ソフィアも魔法を使えるようになるのは大変だと言うが、マリアがそう言うソフィア自身が、魔法に高い適性を持つエルフだから基準にならないと突っ込む。
「まあ、今日は少し丁寧に教えるわ。あの島で回復と浄化が使える魔法使いが居れば、この先やっていけるでしょうからね」
「頼むよ。まったく手を引く訳じゃないけれど、自分達の事は自分達で出来るようにならないとね」
僕達の周囲に居る人は、魔法の才能がある人が多いから勘違いしそうになるけど、世間の魔法使いの比率を見てもはっきりしているけど、普通の人にとって魔法へのハードルは高いんだ。
離島の住民で光属性に適性があったのは、ほとんど神官かその見習いだけど、島の生活の中で魔法の訓練に取れる時間ってなかなか無い。
神官や神官見習いも、教会の仕事以外にも畑を耕したりと忙しいからね。
それ程時間も掛からずウラノスは離島へと到着する。
「ガルーダ用の滑走路、残しておいた方がいいかな」
「何があるか分かりませんから、念の為残しておいた方がいいと思います」
「そうだよね。前は何も無い原野だったから、法撃から魔導具で滑走路を造成できたけど、今は色々と建物が在るしね」
着陸体制に入ったウラノスから地上を見て、滑走路をどうするか悩むも、ソフィアは残しておく方がいいと言う。確かに、前は近くに人も居なかったから大丈夫だったけど、倉庫とか現地の人がそのまま使うなら、そのまま残した方がよさそうだね。
それに滑走路近くには、島民を一時保護した場所は、まだ防壁に囲われたままで、中には倉庫や急遽用意した住居もある。将来的に、ここにもう一つ集落が出来そうだ。
滑走路の端の邪魔にならない場所に、垂直に降下するウラノス。ガルーダやサンダーボルト と違い、ウラノスは垂直離着陸できるから着陸場所を選ばない。
ウラノスから降りると撤収作業中の騎士に挨拶する。
「ご苦労様」
「これはイルマ殿に軍曹殿」
「いや、ソフィアは軍曹じゃないからね」
騎士団の初期メンバーは、いまだにソフィアの事を気を抜くと軍曹呼びするんだよね。
その後、ソフィアとマリア、マーニは島の魔物駆除に向かった。
一応、騎士団のグライドバイクを借りているらしいけど、この広さの島ならリハビリなので走って移動すると言って駆け出して行った。
僕は、東西南北の四ヶ所に在る集落を転移で見て周る。グライドバイクでもいいけど、僕はこの後オプスで地中行きだから時短だ。
農地は、僕や騎士団が協力して開拓し拡がっているし、土の状態も良い状態が続いているようだ。既に、一度収穫は済んでいるので、現在は次の種蒔きに向け、準備しているところみたいだ。
騎士団で建てた倉庫には、かなりの量の収穫物が備蓄されている。これだけ有れば飢える事はないだろう。
それに加えて冷蔵倉庫と冷凍倉庫を、聖域騎士団が駐屯していた近くに僕が造った。
そこには、聖域騎士団が訓練で狩った魔物の肉や、魔大陸のダンジョンから得た肉も保存してあるしね。
ただ、聖域騎士団が撤収した後、継続的に肉を獲るのが難しくなっている。
残った島民の中にも猟師は居るけれど、船でこの島から逃げ出した支配者階級の一族の方が、猟師を含めた戦える人間の数は多かった。
島にも食肉となる獲物もいるけれど、島民全員を満たせる程狩れるかというと無理だろう。
食べ物を得れるダンジョンでもあればいいんだけどな。牧畜は広いスペースが必要だし、魔物を呼び寄せそうで怖いし、狭いスペースでも飼育できる鶏に似た魔鳥を飼うか。それなら卵も食べれる。
今は騎士団が訓練で狩った魔物肉を大量に提供しているけど、これがピタリと無くなるのも問題か。
「これは騎士団の撤収前に、一度考える必要があるかもな」
この島に転移ゲートを設置するつもりはない。せいぜい通信の魔導具くらいだ。
あ、そう言えば、創世教の神官達はどうするつもりだろう。あれだけ援助してもらっておいて、このままサヨナラって訳にはいかないかもしれない。
やっぱり数ヶ月に一度程度、定期便を運行するべきかな。
水脈浄化の前に、色々と思案しながら確認の為に各集落を周っていると、可愛い声で呼び止められた。
「あっ! 使徒様!」
「おお! 使徒様、お久しぶりです」
「あ、ああ、コリーンちゃんとモルド神父様」
僕に声を掛けてきたのは、神官見習いのコリーンちゃんと、神父のモルドさん。
前回の揚陸作戦の時、うっすらとした神託を受け取って、僕達のところに助けを求めて来た人達の中の二人だ。
コリーンちゃんは、貧困に喘ぐ島にあって、明るく元気に振る舞っていた。だから僕も顔と名前は覚えていたんだ。
この島に僕達と聖域騎士団が来ると、何となくでも神託を受けれた人達の顔は全員憶えているけど、その中でもコリーンちゃんは印象的だったからね。
「どう。魔法の練習は上手くいってる?」
「使徒様! わたし、魔力を感じるようになったんです!」
「おお、それは凄いね。じゃあ、あとは動かせるようになると、コリーンちゃんも魔法使いの仲間入りだね」
「はい!」
体内にある自身の魔力を感じる事が、魔法を使う事の第一歩だ。
何故か、僕の周囲には、簡単にそのハードルを超える人ばかりだから勘違いしそうになるけれど、魔力を感じて動かすのは難しいらしい。
僕の場合。この世界に降り立った瞬間、息を吸うように魔法が使えていたからチートだよね。
「あっ、そうだ! 使徒様、騎士の人達が帰っちゃうって本当ですか?」
「こ、これコリーン」
僕の顔を見つけて話し掛けてきたのは、それが聞きたかったんだね。コリーンちゃんの顔が不安と哀しみの表情になる。
「あ、ああ。その予定なんだけどね」
「え~、寂しいですぅ~! 騎士の人達が居るだけで、集落の皆んなが安心できたのにぃ」
「コリーン。騎士の方達にも帰る家が在るのだよ。わがままを言ってはいけない。もう十分過ぎる程助けて頂いたではないか」
「そうですけどぉ。それでも寂しいんです」
この島への派遣、結局長くなっちゃったからなぁ。コリーンちゃんが寂しがるのも分かる。
他の集落の人達は、騒動の後それぞれの集落に戻ったけれど、コリーンちゃんやモルド神父は、他のこの島の教会関係者と一緒に、この駐屯地で創世教の神官から教えを受けていたんだ。騎士団のメンバーは、定期的に交代していたけれど、それでも顔見知りになるくらいの期間だしね。
そのまま暫くコリーンちゃんに捕まり、色々と質問攻めにあった。島の外の世界が気になるのは仕方ない。一度、連れて行ってあげてもいいかもね。創世教の教会で修行してもいいかも。
コリーンちゃんと話していると、思ったより時間が経っていたみたいで、アカネに声をかけられハッとする。やばい。コリーンちゃんって、時間泥棒だ。
「あら、此処に居たのね。魔法の練習を始めるわよ」
「あ、アカネ。駐屯地に集めて練習するのかい?」
「その為に、わざわざ四ヶ所の集落に迎えに行ったんだから」
四輪のバギーカータイプのグライドバイク? いや、もうバイクじゃないか。グライドカーに乗ったアカネが、各集落から光属性魔法の素質がある人をピックアップして来ていたみたい。
「コリーンちゃんだっけ。行くわよ」
「は、はい! 使徒様、またお話してください!」
「うん。また後でね」
バタバタと慌ててアカネに着いて行くコリーンちゃん。その後をモルド神父も追う。
「……いっそダンジョンブートキャンプをした方がいいかもな」
ふと思い付きで口にしたけど、良い案かもしれない。
魔法を練習するには、魔力量が多い方が有利だ。何度も練習できるし、その分スキルレベルも上がる。一日に何度も練習できた方が上達が早いのは当然だ。
その為の基礎レベルを上げるのに、ダンジョンはもってこいなんじゃないか。
まぁ、それは後で考えよう。
「僕はオプスで潜らないといけないしね」
ノームは潜る直前に声を掛けろって言われている。取り敢えず、僕はみんなの邪魔にならない場所を探して島の中央側へと歩く。
垂直方向に掘り進もうと思えば可能だけど、結局斜めに掘る方が距離は長いけれど、進むスピードは速い。だから斜め方向へジグザグに掘り進む予定だ。
少し歩くと、誰も来そうになさそうな場所を見つける。まぁ、掘った後から元通りに土属性魔法で埋めて固めるから事故はないだろうけど、一応念の為だね。
さぁ、面倒な事はサッサと済ませてしまおう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
もうその日に何も作業をしないのなら転移でもよかったんだけど、今日はこの後オプスで地中の探索から水脈の浄化と、やる事があるので魔力はもしもの時の為に残しておかなきゃいけない。地下水脈の浄化に、どの程度の魔力を使うかも分からないしね。
そして、その移動に転移じゃなくウラノスを使った理由の同行者とは、僕の妻であるソフィア、マリア、マーニの三人と、別件で用事のあったアカネとルルちゃんだ。
「リハビリには手応えはないでしょうが、島を走り回って失った体力の回復にはなりそうですね」
「でも島にも魔物が居ない訳じゃないんですよね」
「確か虫系の魔物が多いと聞いてます」
ソフィア、マリア、マーニの三人が、産後のリハビリとして、魔物を討伐すると言って同行しているんだ。
離島の中には、ソフィア達にとって脅威となる魔物は存在しないけれど、とにかく体が動かしたいみたい。
本気でリハビリするなら、魔大陸のダンジョンが一番いいと思うけど、今回のソフィア達は半分観光気分みたい。何も無い島だけどね。
そしてアカネは島の人達の中で、光属性の素質がある人の訓練を指導する為に同行している。ルルちゃんは、勿論アカネの付き添いだ。
輸送機であるガルーダとは比べものにならない速度で離島を目指すウラノス。音の壁を容易く突き抜ける。
「タクミ様、聖域騎士団も撤収準備をしているのですよね?」
「うん。何度かガルーダで行き来して、人員を交代しながら援助してきたけど、いつまでも援助し続けるのも違うからね」
「それはそうよ。自立させなきゃ。その為にわざわざ私も行くんだから」
ソフィアが聖域騎士団が撤収作業について聞いてきた。島の各集落の開拓も援助したし、食べ物や木材や布なども提供してきた。それが、ようやく離島に残された人達だけで自立できる目処が立った。だから聖域騎士団も撤収準備をしているところだ。
そんな事をソフィアに応えると、アカネが自立させるなんて当然だと言う。今回、アカネが、自分でわざわざなんて言いながらも同行しているのは、島の光属性に適性のある人に魔法を教える為だ。
「少し触りだけでも指導してあるんだよね?」
「創世教の神官が少しね。でも私達と同じように考えちゃダメよ。本来、魔法を覚えるのは大変なんだから」
離島の人達を救済した後、光属性に適性がある人には、少し指導をしていた筈なので、それをアカネに聞くけれど、そう簡単なものじゃないって言われてしまった。僕達を基準に考えるなとね。
「そうですね。タクミ様やエトワールを見ていると勘違いしそうになりますが、魔力を感じ取り、それを自分の意思で動かすところまでが大変ですから」
「ソフィアさんは、エルフだから基準になりませんしね」
ソフィアも魔法を使えるようになるのは大変だと言うが、マリアがそう言うソフィア自身が、魔法に高い適性を持つエルフだから基準にならないと突っ込む。
「まあ、今日は少し丁寧に教えるわ。あの島で回復と浄化が使える魔法使いが居れば、この先やっていけるでしょうからね」
「頼むよ。まったく手を引く訳じゃないけれど、自分達の事は自分達で出来るようにならないとね」
僕達の周囲に居る人は、魔法の才能がある人が多いから勘違いしそうになるけど、世間の魔法使いの比率を見てもはっきりしているけど、普通の人にとって魔法へのハードルは高いんだ。
離島の住民で光属性に適性があったのは、ほとんど神官かその見習いだけど、島の生活の中で魔法の訓練に取れる時間ってなかなか無い。
神官や神官見習いも、教会の仕事以外にも畑を耕したりと忙しいからね。
それ程時間も掛からずウラノスは離島へと到着する。
「ガルーダ用の滑走路、残しておいた方がいいかな」
「何があるか分かりませんから、念の為残しておいた方がいいと思います」
「そうだよね。前は何も無い原野だったから、法撃から魔導具で滑走路を造成できたけど、今は色々と建物が在るしね」
着陸体制に入ったウラノスから地上を見て、滑走路をどうするか悩むも、ソフィアは残しておく方がいいと言う。確かに、前は近くに人も居なかったから大丈夫だったけど、倉庫とか現地の人がそのまま使うなら、そのまま残した方がよさそうだね。
それに滑走路近くには、島民を一時保護した場所は、まだ防壁に囲われたままで、中には倉庫や急遽用意した住居もある。将来的に、ここにもう一つ集落が出来そうだ。
滑走路の端の邪魔にならない場所に、垂直に降下するウラノス。ガルーダやサンダーボルト と違い、ウラノスは垂直離着陸できるから着陸場所を選ばない。
ウラノスから降りると撤収作業中の騎士に挨拶する。
「ご苦労様」
「これはイルマ殿に軍曹殿」
「いや、ソフィアは軍曹じゃないからね」
騎士団の初期メンバーは、いまだにソフィアの事を気を抜くと軍曹呼びするんだよね。
その後、ソフィアとマリア、マーニは島の魔物駆除に向かった。
一応、騎士団のグライドバイクを借りているらしいけど、この広さの島ならリハビリなので走って移動すると言って駆け出して行った。
僕は、東西南北の四ヶ所に在る集落を転移で見て周る。グライドバイクでもいいけど、僕はこの後オプスで地中行きだから時短だ。
農地は、僕や騎士団が協力して開拓し拡がっているし、土の状態も良い状態が続いているようだ。既に、一度収穫は済んでいるので、現在は次の種蒔きに向け、準備しているところみたいだ。
騎士団で建てた倉庫には、かなりの量の収穫物が備蓄されている。これだけ有れば飢える事はないだろう。
それに加えて冷蔵倉庫と冷凍倉庫を、聖域騎士団が駐屯していた近くに僕が造った。
そこには、聖域騎士団が訓練で狩った魔物の肉や、魔大陸のダンジョンから得た肉も保存してあるしね。
ただ、聖域騎士団が撤収した後、継続的に肉を獲るのが難しくなっている。
残った島民の中にも猟師は居るけれど、船でこの島から逃げ出した支配者階級の一族の方が、猟師を含めた戦える人間の数は多かった。
島にも食肉となる獲物もいるけれど、島民全員を満たせる程狩れるかというと無理だろう。
食べ物を得れるダンジョンでもあればいいんだけどな。牧畜は広いスペースが必要だし、魔物を呼び寄せそうで怖いし、狭いスペースでも飼育できる鶏に似た魔鳥を飼うか。それなら卵も食べれる。
今は騎士団が訓練で狩った魔物肉を大量に提供しているけど、これがピタリと無くなるのも問題か。
「これは騎士団の撤収前に、一度考える必要があるかもな」
この島に転移ゲートを設置するつもりはない。せいぜい通信の魔導具くらいだ。
あ、そう言えば、創世教の神官達はどうするつもりだろう。あれだけ援助してもらっておいて、このままサヨナラって訳にはいかないかもしれない。
やっぱり数ヶ月に一度程度、定期便を運行するべきかな。
水脈浄化の前に、色々と思案しながら確認の為に各集落を周っていると、可愛い声で呼び止められた。
「あっ! 使徒様!」
「おお! 使徒様、お久しぶりです」
「あ、ああ、コリーンちゃんとモルド神父様」
僕に声を掛けてきたのは、神官見習いのコリーンちゃんと、神父のモルドさん。
前回の揚陸作戦の時、うっすらとした神託を受け取って、僕達のところに助けを求めて来た人達の中の二人だ。
コリーンちゃんは、貧困に喘ぐ島にあって、明るく元気に振る舞っていた。だから僕も顔と名前は覚えていたんだ。
この島に僕達と聖域騎士団が来ると、何となくでも神託を受けれた人達の顔は全員憶えているけど、その中でもコリーンちゃんは印象的だったからね。
「どう。魔法の練習は上手くいってる?」
「使徒様! わたし、魔力を感じるようになったんです!」
「おお、それは凄いね。じゃあ、あとは動かせるようになると、コリーンちゃんも魔法使いの仲間入りだね」
「はい!」
体内にある自身の魔力を感じる事が、魔法を使う事の第一歩だ。
何故か、僕の周囲には、簡単にそのハードルを超える人ばかりだから勘違いしそうになるけれど、魔力を感じて動かすのは難しいらしい。
僕の場合。この世界に降り立った瞬間、息を吸うように魔法が使えていたからチートだよね。
「あっ、そうだ! 使徒様、騎士の人達が帰っちゃうって本当ですか?」
「こ、これコリーン」
僕の顔を見つけて話し掛けてきたのは、それが聞きたかったんだね。コリーンちゃんの顔が不安と哀しみの表情になる。
「あ、ああ。その予定なんだけどね」
「え~、寂しいですぅ~! 騎士の人達が居るだけで、集落の皆んなが安心できたのにぃ」
「コリーン。騎士の方達にも帰る家が在るのだよ。わがままを言ってはいけない。もう十分過ぎる程助けて頂いたではないか」
「そうですけどぉ。それでも寂しいんです」
この島への派遣、結局長くなっちゃったからなぁ。コリーンちゃんが寂しがるのも分かる。
他の集落の人達は、騒動の後それぞれの集落に戻ったけれど、コリーンちゃんやモルド神父は、他のこの島の教会関係者と一緒に、この駐屯地で創世教の神官から教えを受けていたんだ。騎士団のメンバーは、定期的に交代していたけれど、それでも顔見知りになるくらいの期間だしね。
そのまま暫くコリーンちゃんに捕まり、色々と質問攻めにあった。島の外の世界が気になるのは仕方ない。一度、連れて行ってあげてもいいかもね。創世教の教会で修行してもいいかも。
コリーンちゃんと話していると、思ったより時間が経っていたみたいで、アカネに声をかけられハッとする。やばい。コリーンちゃんって、時間泥棒だ。
「あら、此処に居たのね。魔法の練習を始めるわよ」
「あ、アカネ。駐屯地に集めて練習するのかい?」
「その為に、わざわざ四ヶ所の集落に迎えに行ったんだから」
四輪のバギーカータイプのグライドバイク? いや、もうバイクじゃないか。グライドカーに乗ったアカネが、各集落から光属性魔法の素質がある人をピックアップして来ていたみたい。
「コリーンちゃんだっけ。行くわよ」
「は、はい! 使徒様、またお話してください!」
「うん。また後でね」
バタバタと慌ててアカネに着いて行くコリーンちゃん。その後をモルド神父も追う。
「……いっそダンジョンブートキャンプをした方がいいかもな」
ふと思い付きで口にしたけど、良い案かもしれない。
魔法を練習するには、魔力量が多い方が有利だ。何度も練習できるし、その分スキルレベルも上がる。一日に何度も練習できた方が上達が早いのは当然だ。
その為の基礎レベルを上げるのに、ダンジョンはもってこいなんじゃないか。
まぁ、それは後で考えよう。
「僕はオプスで潜らないといけないしね」
ノームは潜る直前に声を掛けろって言われている。取り敢えず、僕はみんなの邪魔にならない場所を探して島の中央側へと歩く。
垂直方向に掘り進もうと思えば可能だけど、結局斜めに掘る方が距離は長いけれど、進むスピードは速い。だから斜め方向へジグザグに掘り進む予定だ。
少し歩くと、誰も来そうになさそうな場所を見つける。まぁ、掘った後から元通りに土属性魔法で埋めて固めるから事故はないだろうけど、一応念の為だね。
さぁ、面倒な事はサッサと済ませてしまおう。
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