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後日談百四十七話 ノームの鉱山で採掘
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僕は今、聖域の南に在る様々な金属が掘れるノームの鉱山に来ていた。
一人で……。
「はぁ、一人で採掘かぁ」
思わず愚痴が口から漏れる。
レーヴァは、疫病対策で通常業務が滞っていたので、今は大量のヒールポーションを作っている。まあ、レーヴァだから、仕事の合間に趣味の物作りは忘れていないみたいだけどね。
それで採掘は僕一人でとなる。エトワールや春香、フローラを誘ってみたけれど、弟達と遊ぶと断られたよ。
本当なら、鉱山での採掘に小さな子供達を誘うなんてあり得ないだろうけど、ここはノームの鉱山だ。危険な事はほぼない。
坑道が崩落なんてまずないし、危険な魔物も棲んでいないしね。
勿論、この場にはノームも居ない。いや、土の大精霊のノームは、自然そのものだから何処にでも居ると言うのが正しいのかもしれない。
「まあ、ノームは酒造所に籠りっぱなしだしな」
そんなノームは、サラマンダーとドワーフ達とお酒造りに夢中だからな。今もいつも造るお酒の品質向上と、新しいお酒の開発にと忙しい。もうお酒の精霊なんじゃないのかと言いたくなる。
アダマンタイトが採掘できる鉱床に向かい、ひたすら地道にコツコツと採掘する。ここでいつも思っている事だけど、土属性魔法を使って採掘すれば簡単なんじゃないかって話なんだけど、何故かそこはファンタジー。採掘スキルで掘った方が、採掘される量や質が良いんだよね。どういう仕組みなのかは分からない。
まあ、このノームの鉱山なんて、不思議な鉱山が存在する世界だから、そんなものと思うしかない。
「おっ、これは良さそうな石だな」
アダマンタイトを多く含有した石が出始めた。これを大量に確保しないといけない。
「この辺りまで来ると、ミスリルは無いんだな」
アダマンタイトの鉱脈からは、鉄や銅も採れるんだけど、何故かミスリルは一緒に採れる事はない。
そこからはひたすら肉体労働だ。ただ、レベルが無駄に高いお陰で延々と掘っていられる。
「キリがないな。今日はここまでにしようかな」
掘り出した鉱石をアイテムボックスに収納し、全身に浄化の魔法を使い綺麗にする。
「さて、帰ろう」
同じ聖域の中でも、南の鉱山と僕達が暮らす中央部は結構距離があるので転移で帰る。
玄関先に転移しリビングへと向かうと、真っ先に僕に駆け寄るのはフローラだ。
「パパー! おかえりなさーい!」
「ウグッ。た、ただいま」
幼児とは思えないスピードで、ダイビングして抱きついて来る。これ、僕じゃなかったら危ないんじゃないかな。
「わたしもー!」
「パパー!」
「お、おぅ」
フローラに先を越されたとばかりに、春香とエトワールもダイブして僕にしがみつく。
コアラのようにしがみつく子供達を抱えたまま、リビングのソファーに座ると、メリーベルがお茶を淹れてくれた。
「ねぇねぇパパ。わたしもコツコツしたい!」
「う~ん。付き添う人間が居ないからどうかな」
「フローラ、我儘言ってはいけませんよ」
「ブゥゥーー!」
今日、僕が一日何をしていたのか知っていたのか、フローラが自分も採掘に行きたいと言い出した。マーニが我儘はダメだと言うと、頬を膨らませるフローラ。
「連れて行けばいいじゃない。聖域の坑道なら魔物の心配はないし、ノームの鉱山なんだから崩落なんてあり得ないでしょう? 迷子にならないように付き添いは必要だけど、採掘を経験させるには丁度いいと思うわよ」
「確かに、そうなんだけどね」
膨れるフローラを見てなのか、そこで連れて行けばいいと言い出したのはアカネだった。確かに、初めて採掘を経験するなら聖域の鉱山が安全なのは確かだ。丁度いいと言うアカネの言葉は間違いじゃない。才能があれば採掘スキルを得れるだろう。言っている事はもっともなんだけど、その付き添いを誰に頼むかが問題なんだよ。
それに今朝だよ。僕がエトワール達を誘ったの。その時は、弟達と遊ぶから行かないって言ってたのに。
「今朝、誘った時は行かないって言ってたよね」
「明日は行くの!」
「そ、そう」
今日は今日。明日は明日みたいだ。子供らしくていいんだけどね。
「手の空いたドワーフを誘ったらいいじゃない」
「ダメだよ、ドワーフなんて誘ったら。子供達の事見てると思う?」
「ああ、自分の採掘に夢中になるわね」
「そうに決まってるよ」
「ああそうだ。ならお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに頼めばいいじゃない。どうせ毎日のように顔を見に来るんでしょう?」
「ああ、ダンテさんとフリージアさんか」
ダンテさんとフリージアさんは、エトワールのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだ。
ダンテ・フォン・シルフィードとフリージア・フォン・シルフィード。ソフィアの父親と母親。エルフだけあり、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんなんて呼べない見た目なんだ。
ソフィアの弟であるダーフィ君に、早々に家督を譲って、ユグル王国から聖域に移住して来た二人は、エトワールが生まれた時からほぼ毎日家には来ている。
ダンテさんもフリージアさんも、隠居の身だけど、聖域でも色々と仕事をしているけれど、セミリタイアみたいな感じだから、自由になる時間は多い。
「じゃあ、フローラ達のちっさなツルハシを作ろうか」
「ほんと! フローラは赤がいい!」
「えっ、色を付けるの?」
「春香は、ミドリがいい!」
「エトワールはアオがいい!」
「わ、分かったよ」
アダマンタイトの採掘で疲れて帰って来たら、子供達用のミニツルハシを作らないといけなくなっちゃったよ。しかも色を付けるって、柄の部分を塗るんじゃダメなんだろうな。
夕食を食べた後、工房へと向かう僕。
「一日採掘した後なのに、お疲れ様でありますな」
「まあ、子供達と一緒に採掘に行けると前向きに考えるよ」
「確かに、聖域の鉱山くらい安全に採掘できる場所はないでありますからな」
夕食を食べた後、僕よりも早く工房に戻っていたレーヴァから労いの声を掛けられる。レーヴァ的にも、聖域の鉱山で採掘を経験するのは賛成みたい。
「レーヴァもほどほどにして休まないとダメだよ」
「了解でありますよ。ああ、そうそう。明日、フローラちゃん達と採掘へ行くのなら、レーヴァもご一緒するであります」
一日ポーションを作っていた筈のレーヴァに、仕事もほどほどにと言うと、それに作業をしながら返事する。ただ、嬉しい事に、明日の子供達との採掘にレーヴァも参加してくれるようだ。
「え、いいの? 一応、ダンテさんとフリージアさんに、付き添いをお願いしたんだけど、レーヴァが一緒だと安心感が違うよ」
「申し訳ないでありますが、レーヴァは自分の欲しい金属の採掘で夢中になると思うでありますよ」
「あ、ああ、そう」
これがぬか喜びって言うんだね。レーヴァは、個人的に欲しい金属を採掘しに行きたかっただけみたいだ。ダンテさんとフリージアさんに、子供達の付き添いを頼んでいたけれど、レーヴァが居た方が断然安心感が違うと喜んだ途端に落とされた。
まあ、居ないよりもマシって思おう。
僕は、子供達のミニツルハシを造る為、鍛治場の炉へ向かい、適当な量のインゴッドをアイテムボックスから取り出す。
炉に火を入れると、程なく温度が上がる。精霊達で溢れる聖域なので、僕の工房の炉には火の精霊が棲みついているんだ。僕が少し魔力をあげると、喜んで炉の温度をその時々の適正な温度まで上げてくれる。
炉に入れたのは魔鉄。アダマンタイトでもよかったんだけど、最初のツルハシだからクセが無く扱いやすい魔鋼のツルハシにしようと思ってたんだ。
錬金術で錬成した魔鉄なので、不純物はほぼ無く、熱しながら浸炭しつつ魔力も込めていく。
金床に熱せられた浸炭により魔鉄から魔鋼へと変化したものを乗せ鎚を振るう。
ここでどれだけ魔力を込めれるかがキモになってくる。鍛治スキルのお陰で、鎚一本で思い通りに鍛えていく。何度か炉で熱し鍛錬を繰り返すと、ミニツルハシの形が出来上がる。
取り敢えず三本必要なので、同じ作業を二度繰り返し、三本のミニツルハシを打ち上げる。
ヤスリで微調整し、焼き入れと焼き戻しから研ぎへ。
「さて、フローラが赤で、春香がミドリ、エトワールがアオだったな」
「金属部分に色を付けるでありますか?」
「うん。魔物素材と錬成して色付きの金属を造るって方法もあったかもしれないけど、最初のツルハシだからね。塗装して強化すれば、そうそう剥がれる事もないだろうしね」
金属を錬成する時点で属性を付与したり、一部の魔物素材と錬成する事で、赤っぽくなったり青っぽくなったりするけれど、鉱石を採掘するのに属性付与は邪魔になる。だから魔鋼で強化系の付与だけしたんだ。
とはいえ、柄にはトレント材を使っているので手抜きはない。いや、本当はミニツルハシに使うような素材じゃないけどね。
レーヴァが「お疲れ様であります」と工房に僕一人になってから、バランスの調整を一つ一つ丁寧に行い、子供達用のヘルメットもサクッと錬成。軽くて丈夫、勿論、ライトの魔導具付きだ。
さて、僕も早く寝よう。
「掘っちゃうぞぉ!」
「いっぱい掘るぞぉー!」
「銀が掘れたら嬉しいな」
「ほら、エトワール、ジイジと手を繋ごう」
「バカね。手を繋いで掘れないでしょう」
次の日、朝からノームの鉱山に来ていた。フローラや春香は掘る気満々だし、エトワールは銀がターゲットみたいだな。銀ならすぐ採れるんじゃないかな。
そして付き添いをお願いしたダンテさんは、エトワールと手を繋ぎたいのか、さっきからしきりに手を差し出しているけれど、フリージアさんから冷たい目で見られている。
「ではタクミ様。レーヴァは、ミスリル狙いなのでありますから、ここでグッバイであります」
「う、うん。頑張って」
やっぱり、レーヴァは戦力外だった。目的地の坑道が違うんだから付き添いですらない。
「じゃあ、ダンテさんとフリージアさん、子供達の事お願いしますね」
「うむ。任せておけ」
「タクミちゃん、エトワール達はお祖母ちゃんに任せて自分のお仕事頑張ってね」
「はい。フローラ、春香、エトワール、ダンテさんとフリージアさんの言う事聞くんだぞ」
「「「はーい!」」」
子供達には、一応僕の目の届く範囲でとお願いしてあるので、僕は昨日の続きをと採掘を再開する。
「こっこぉ掘れっ、ワンワン!」
「もう。フローラは犬じゃなくてウサギでしょう」
「春香、ウサギじゃなくてウサギの獣人族よ。聖域の外で獣人族の事を、ウサギとか犬やネコとか言っちゃダメよ」
「はーい!」
フローラは、楽しいのかテンションがおかしな事になってるね。ワンワンと歌うフローラに、春香が犬じゃなくてウサギだと言うと、エトワールが犬やウサギとか猫とか言ってはダメだと注意している。確かに、聖域の外じゃアウトな表現だな。
聖域には様々な種族の人達が暮らしているけれど、そもそもの種族間差別がまったくない。だから春香だけじゃなくて、言われているフローラもウサギって言われても、何がダメなのかも分かっていない。聖域じゃそれでもOKだけど、これから先聖域の外に出る時に困らないようにしておかなきゃダメだな。それを分かっているエトワールが、少しませ過ぎかな。
「エトワールは賢いなぁ。ソフィアの小さな頃を見ているようだ」
「何言ってるのよ。ソフィアは、エトワールちゃんみたいにしっかりしてなかったわよ。あなた、ソフィアやダーフィの世話なんてしなかったから憶えていないんでしょう」
ただ、二人のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは、全然違う話をしているけどね。
キャイキャイと楽しそうにはしゃぎながら採掘する子供達の声を、遠くに聞きながら僕は僕で採掘する。出来れば今日でアダマンタイトの量を確保したい。
ただ、これは精錬してみないと正確な量は分からない。だからまた後日追加で採掘しないとダメかもしれないな。
結局、子供達の事を気にしながらだったからなのか、昨日よりは採掘する量は少なかったよ。
「あー、楽しかった!」
「いろいろ採れた!」
「でも、魔物をエイッ! てやっつけたかったなぁ」
春香とエトワールは採掘が楽しかったのか、良い笑顔だ。ただフローラは魔物が出てこないのが不満みたい。鉱石の採掘なんだから、魔物は出ない方がいいんだけどな。
「ねぇねぇ、パパー! 聖域じゃない鉱山に行きたい!」
「あっ、春香も!」
「わたしも違う場所でも掘ってみたいかも」
「えっ、そ、それは、帰ってママ達に聞いてからね」
「「「えぇーー!!」」」
フローラが、安全な聖域の鉱山じゃなく、魔物も出没する普通の鉱山に行きたいと言い出し、春香も目を輝かせて行きたいと手を上げる。大人しめのエトワールまでが、聖域じゃない鉱山に興味があるみたいだ。
ソフィア達ならダメだと言ってくれると願い、家に帰ってからソフィア達に聞いてみてからだと逃げると、一斉に子供達からのブーイングだ。パパ哀しいよ。
全員に浄化の魔法をかけて家へと転移する。聖域内の転移なので距離もそれ程離れていないから、人数も多くないから魔力の消費もしれているからね。早く帰って、晩ご飯を食べて子供達を寝かさないといけない。一日はしゃいで疲れているだろうからね。
子供達をお風呂に入れて一息付く。リビングでお茶を飲みながら、ソフィア達に子供達が聖域の外の鉱山に行きたがっている事を、どうするか相談だ。
「いいのではないですか?」
「そうですよね。ダンテさんもフリージアさんも、付き添ってくれるんですよね」
「そうですね。特にフローラは飽きっぽいので、採掘だけじゃなく魔物の討伐もあった方がいいかと」
「へっ? えっ? いいの?」
三人の妻達から返って来たのは、僕としては想定外のOKの返事だった。
「ホルアスなら一度行った地ですから、タクミ様の転移で行けますし、あの坑道に出没する魔物といえば、ソニックバットかアイアンモールくらいのものです。今の子供達でも危険はないと思いますよ」
「わぁー、ホルアスの鉱山。懐かしいです!」
「私はホルアスを知りませんが、ソフィアさんとマリアさんが大丈夫と判断するなら問題ないのではないですか?」
「ホ、ホルアスかぁ。確かに、アダマンタイトも採れるんだよなぁ」
ソフィアからホルアスの街の名が出る。確かに、僕とソフィア、マリアの三人で、ドガンボさんを護衛しながら採掘に行った、あの街なら大丈夫な気もする。マリアなんて、懐かしいと楽しい思い出を振り返っている。マーニは、基本フローラにはスパルタ気味だから、ソフィアとマリアが問題ないと言えば、あえて反対はしないんだよな。
それにホルアスならアダマンタイトも採れる。ソフィアが言ったように、ソニックバットやアイアンモールくらいしか出没しない。はっきり言って雑魚もいいところだ。
結局、フローラのお願いされた聖域の外での採掘は、妻達三人がOKした事により決まっちゃったんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
一人で……。
「はぁ、一人で採掘かぁ」
思わず愚痴が口から漏れる。
レーヴァは、疫病対策で通常業務が滞っていたので、今は大量のヒールポーションを作っている。まあ、レーヴァだから、仕事の合間に趣味の物作りは忘れていないみたいだけどね。
それで採掘は僕一人でとなる。エトワールや春香、フローラを誘ってみたけれど、弟達と遊ぶと断られたよ。
本当なら、鉱山での採掘に小さな子供達を誘うなんてあり得ないだろうけど、ここはノームの鉱山だ。危険な事はほぼない。
坑道が崩落なんてまずないし、危険な魔物も棲んでいないしね。
勿論、この場にはノームも居ない。いや、土の大精霊のノームは、自然そのものだから何処にでも居ると言うのが正しいのかもしれない。
「まあ、ノームは酒造所に籠りっぱなしだしな」
そんなノームは、サラマンダーとドワーフ達とお酒造りに夢中だからな。今もいつも造るお酒の品質向上と、新しいお酒の開発にと忙しい。もうお酒の精霊なんじゃないのかと言いたくなる。
アダマンタイトが採掘できる鉱床に向かい、ひたすら地道にコツコツと採掘する。ここでいつも思っている事だけど、土属性魔法を使って採掘すれば簡単なんじゃないかって話なんだけど、何故かそこはファンタジー。採掘スキルで掘った方が、採掘される量や質が良いんだよね。どういう仕組みなのかは分からない。
まあ、このノームの鉱山なんて、不思議な鉱山が存在する世界だから、そんなものと思うしかない。
「おっ、これは良さそうな石だな」
アダマンタイトを多く含有した石が出始めた。これを大量に確保しないといけない。
「この辺りまで来ると、ミスリルは無いんだな」
アダマンタイトの鉱脈からは、鉄や銅も採れるんだけど、何故かミスリルは一緒に採れる事はない。
そこからはひたすら肉体労働だ。ただ、レベルが無駄に高いお陰で延々と掘っていられる。
「キリがないな。今日はここまでにしようかな」
掘り出した鉱石をアイテムボックスに収納し、全身に浄化の魔法を使い綺麗にする。
「さて、帰ろう」
同じ聖域の中でも、南の鉱山と僕達が暮らす中央部は結構距離があるので転移で帰る。
玄関先に転移しリビングへと向かうと、真っ先に僕に駆け寄るのはフローラだ。
「パパー! おかえりなさーい!」
「ウグッ。た、ただいま」
幼児とは思えないスピードで、ダイビングして抱きついて来る。これ、僕じゃなかったら危ないんじゃないかな。
「わたしもー!」
「パパー!」
「お、おぅ」
フローラに先を越されたとばかりに、春香とエトワールもダイブして僕にしがみつく。
コアラのようにしがみつく子供達を抱えたまま、リビングのソファーに座ると、メリーベルがお茶を淹れてくれた。
「ねぇねぇパパ。わたしもコツコツしたい!」
「う~ん。付き添う人間が居ないからどうかな」
「フローラ、我儘言ってはいけませんよ」
「ブゥゥーー!」
今日、僕が一日何をしていたのか知っていたのか、フローラが自分も採掘に行きたいと言い出した。マーニが我儘はダメだと言うと、頬を膨らませるフローラ。
「連れて行けばいいじゃない。聖域の坑道なら魔物の心配はないし、ノームの鉱山なんだから崩落なんてあり得ないでしょう? 迷子にならないように付き添いは必要だけど、採掘を経験させるには丁度いいと思うわよ」
「確かに、そうなんだけどね」
膨れるフローラを見てなのか、そこで連れて行けばいいと言い出したのはアカネだった。確かに、初めて採掘を経験するなら聖域の鉱山が安全なのは確かだ。丁度いいと言うアカネの言葉は間違いじゃない。才能があれば採掘スキルを得れるだろう。言っている事はもっともなんだけど、その付き添いを誰に頼むかが問題なんだよ。
それに今朝だよ。僕がエトワール達を誘ったの。その時は、弟達と遊ぶから行かないって言ってたのに。
「今朝、誘った時は行かないって言ってたよね」
「明日は行くの!」
「そ、そう」
今日は今日。明日は明日みたいだ。子供らしくていいんだけどね。
「手の空いたドワーフを誘ったらいいじゃない」
「ダメだよ、ドワーフなんて誘ったら。子供達の事見てると思う?」
「ああ、自分の採掘に夢中になるわね」
「そうに決まってるよ」
「ああそうだ。ならお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに頼めばいいじゃない。どうせ毎日のように顔を見に来るんでしょう?」
「ああ、ダンテさんとフリージアさんか」
ダンテさんとフリージアさんは、エトワールのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだ。
ダンテ・フォン・シルフィードとフリージア・フォン・シルフィード。ソフィアの父親と母親。エルフだけあり、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんなんて呼べない見た目なんだ。
ソフィアの弟であるダーフィ君に、早々に家督を譲って、ユグル王国から聖域に移住して来た二人は、エトワールが生まれた時からほぼ毎日家には来ている。
ダンテさんもフリージアさんも、隠居の身だけど、聖域でも色々と仕事をしているけれど、セミリタイアみたいな感じだから、自由になる時間は多い。
「じゃあ、フローラ達のちっさなツルハシを作ろうか」
「ほんと! フローラは赤がいい!」
「えっ、色を付けるの?」
「春香は、ミドリがいい!」
「エトワールはアオがいい!」
「わ、分かったよ」
アダマンタイトの採掘で疲れて帰って来たら、子供達用のミニツルハシを作らないといけなくなっちゃったよ。しかも色を付けるって、柄の部分を塗るんじゃダメなんだろうな。
夕食を食べた後、工房へと向かう僕。
「一日採掘した後なのに、お疲れ様でありますな」
「まあ、子供達と一緒に採掘に行けると前向きに考えるよ」
「確かに、聖域の鉱山くらい安全に採掘できる場所はないでありますからな」
夕食を食べた後、僕よりも早く工房に戻っていたレーヴァから労いの声を掛けられる。レーヴァ的にも、聖域の鉱山で採掘を経験するのは賛成みたい。
「レーヴァもほどほどにして休まないとダメだよ」
「了解でありますよ。ああ、そうそう。明日、フローラちゃん達と採掘へ行くのなら、レーヴァもご一緒するであります」
一日ポーションを作っていた筈のレーヴァに、仕事もほどほどにと言うと、それに作業をしながら返事する。ただ、嬉しい事に、明日の子供達との採掘にレーヴァも参加してくれるようだ。
「え、いいの? 一応、ダンテさんとフリージアさんに、付き添いをお願いしたんだけど、レーヴァが一緒だと安心感が違うよ」
「申し訳ないでありますが、レーヴァは自分の欲しい金属の採掘で夢中になると思うでありますよ」
「あ、ああ、そう」
これがぬか喜びって言うんだね。レーヴァは、個人的に欲しい金属を採掘しに行きたかっただけみたいだ。ダンテさんとフリージアさんに、子供達の付き添いを頼んでいたけれど、レーヴァが居た方が断然安心感が違うと喜んだ途端に落とされた。
まあ、居ないよりもマシって思おう。
僕は、子供達のミニツルハシを造る為、鍛治場の炉へ向かい、適当な量のインゴッドをアイテムボックスから取り出す。
炉に火を入れると、程なく温度が上がる。精霊達で溢れる聖域なので、僕の工房の炉には火の精霊が棲みついているんだ。僕が少し魔力をあげると、喜んで炉の温度をその時々の適正な温度まで上げてくれる。
炉に入れたのは魔鉄。アダマンタイトでもよかったんだけど、最初のツルハシだからクセが無く扱いやすい魔鋼のツルハシにしようと思ってたんだ。
錬金術で錬成した魔鉄なので、不純物はほぼ無く、熱しながら浸炭しつつ魔力も込めていく。
金床に熱せられた浸炭により魔鉄から魔鋼へと変化したものを乗せ鎚を振るう。
ここでどれだけ魔力を込めれるかがキモになってくる。鍛治スキルのお陰で、鎚一本で思い通りに鍛えていく。何度か炉で熱し鍛錬を繰り返すと、ミニツルハシの形が出来上がる。
取り敢えず三本必要なので、同じ作業を二度繰り返し、三本のミニツルハシを打ち上げる。
ヤスリで微調整し、焼き入れと焼き戻しから研ぎへ。
「さて、フローラが赤で、春香がミドリ、エトワールがアオだったな」
「金属部分に色を付けるでありますか?」
「うん。魔物素材と錬成して色付きの金属を造るって方法もあったかもしれないけど、最初のツルハシだからね。塗装して強化すれば、そうそう剥がれる事もないだろうしね」
金属を錬成する時点で属性を付与したり、一部の魔物素材と錬成する事で、赤っぽくなったり青っぽくなったりするけれど、鉱石を採掘するのに属性付与は邪魔になる。だから魔鋼で強化系の付与だけしたんだ。
とはいえ、柄にはトレント材を使っているので手抜きはない。いや、本当はミニツルハシに使うような素材じゃないけどね。
レーヴァが「お疲れ様であります」と工房に僕一人になってから、バランスの調整を一つ一つ丁寧に行い、子供達用のヘルメットもサクッと錬成。軽くて丈夫、勿論、ライトの魔導具付きだ。
さて、僕も早く寝よう。
「掘っちゃうぞぉ!」
「いっぱい掘るぞぉー!」
「銀が掘れたら嬉しいな」
「ほら、エトワール、ジイジと手を繋ごう」
「バカね。手を繋いで掘れないでしょう」
次の日、朝からノームの鉱山に来ていた。フローラや春香は掘る気満々だし、エトワールは銀がターゲットみたいだな。銀ならすぐ採れるんじゃないかな。
そして付き添いをお願いしたダンテさんは、エトワールと手を繋ぎたいのか、さっきからしきりに手を差し出しているけれど、フリージアさんから冷たい目で見られている。
「ではタクミ様。レーヴァは、ミスリル狙いなのでありますから、ここでグッバイであります」
「う、うん。頑張って」
やっぱり、レーヴァは戦力外だった。目的地の坑道が違うんだから付き添いですらない。
「じゃあ、ダンテさんとフリージアさん、子供達の事お願いしますね」
「うむ。任せておけ」
「タクミちゃん、エトワール達はお祖母ちゃんに任せて自分のお仕事頑張ってね」
「はい。フローラ、春香、エトワール、ダンテさんとフリージアさんの言う事聞くんだぞ」
「「「はーい!」」」
子供達には、一応僕の目の届く範囲でとお願いしてあるので、僕は昨日の続きをと採掘を再開する。
「こっこぉ掘れっ、ワンワン!」
「もう。フローラは犬じゃなくてウサギでしょう」
「春香、ウサギじゃなくてウサギの獣人族よ。聖域の外で獣人族の事を、ウサギとか犬やネコとか言っちゃダメよ」
「はーい!」
フローラは、楽しいのかテンションがおかしな事になってるね。ワンワンと歌うフローラに、春香が犬じゃなくてウサギだと言うと、エトワールが犬やウサギとか猫とか言ってはダメだと注意している。確かに、聖域の外じゃアウトな表現だな。
聖域には様々な種族の人達が暮らしているけれど、そもそもの種族間差別がまったくない。だから春香だけじゃなくて、言われているフローラもウサギって言われても、何がダメなのかも分かっていない。聖域じゃそれでもOKだけど、これから先聖域の外に出る時に困らないようにしておかなきゃダメだな。それを分かっているエトワールが、少しませ過ぎかな。
「エトワールは賢いなぁ。ソフィアの小さな頃を見ているようだ」
「何言ってるのよ。ソフィアは、エトワールちゃんみたいにしっかりしてなかったわよ。あなた、ソフィアやダーフィの世話なんてしなかったから憶えていないんでしょう」
ただ、二人のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは、全然違う話をしているけどね。
キャイキャイと楽しそうにはしゃぎながら採掘する子供達の声を、遠くに聞きながら僕は僕で採掘する。出来れば今日でアダマンタイトの量を確保したい。
ただ、これは精錬してみないと正確な量は分からない。だからまた後日追加で採掘しないとダメかもしれないな。
結局、子供達の事を気にしながらだったからなのか、昨日よりは採掘する量は少なかったよ。
「あー、楽しかった!」
「いろいろ採れた!」
「でも、魔物をエイッ! てやっつけたかったなぁ」
春香とエトワールは採掘が楽しかったのか、良い笑顔だ。ただフローラは魔物が出てこないのが不満みたい。鉱石の採掘なんだから、魔物は出ない方がいいんだけどな。
「ねぇねぇ、パパー! 聖域じゃない鉱山に行きたい!」
「あっ、春香も!」
「わたしも違う場所でも掘ってみたいかも」
「えっ、そ、それは、帰ってママ達に聞いてからね」
「「「えぇーー!!」」」
フローラが、安全な聖域の鉱山じゃなく、魔物も出没する普通の鉱山に行きたいと言い出し、春香も目を輝かせて行きたいと手を上げる。大人しめのエトワールまでが、聖域じゃない鉱山に興味があるみたいだ。
ソフィア達ならダメだと言ってくれると願い、家に帰ってからソフィア達に聞いてみてからだと逃げると、一斉に子供達からのブーイングだ。パパ哀しいよ。
全員に浄化の魔法をかけて家へと転移する。聖域内の転移なので距離もそれ程離れていないから、人数も多くないから魔力の消費もしれているからね。早く帰って、晩ご飯を食べて子供達を寝かさないといけない。一日はしゃいで疲れているだろうからね。
子供達をお風呂に入れて一息付く。リビングでお茶を飲みながら、ソフィア達に子供達が聖域の外の鉱山に行きたがっている事を、どうするか相談だ。
「いいのではないですか?」
「そうですよね。ダンテさんもフリージアさんも、付き添ってくれるんですよね」
「そうですね。特にフローラは飽きっぽいので、採掘だけじゃなく魔物の討伐もあった方がいいかと」
「へっ? えっ? いいの?」
三人の妻達から返って来たのは、僕としては想定外のOKの返事だった。
「ホルアスなら一度行った地ですから、タクミ様の転移で行けますし、あの坑道に出没する魔物といえば、ソニックバットかアイアンモールくらいのものです。今の子供達でも危険はないと思いますよ」
「わぁー、ホルアスの鉱山。懐かしいです!」
「私はホルアスを知りませんが、ソフィアさんとマリアさんが大丈夫と判断するなら問題ないのではないですか?」
「ホ、ホルアスかぁ。確かに、アダマンタイトも採れるんだよなぁ」
ソフィアからホルアスの街の名が出る。確かに、僕とソフィア、マリアの三人で、ドガンボさんを護衛しながら採掘に行った、あの街なら大丈夫な気もする。マリアなんて、懐かしいと楽しい思い出を振り返っている。マーニは、基本フローラにはスパルタ気味だから、ソフィアとマリアが問題ないと言えば、あえて反対はしないんだよな。
それにホルアスならアダマンタイトも採れる。ソフィアが言ったように、ソニックバットやアイアンモールくらいしか出没しない。はっきり言って雑魚もいいところだ。
結局、フローラのお願いされた聖域の外での採掘は、妻達三人がOKした事により決まっちゃったんだ。
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この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
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