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後日談百三十七話 ピクニック? いえ薬草採取です
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今日は、エトワール達を連れてピクニック……兼、薬草採取だ。
「パパ、これであってる?」
「そう。それがヒルクク草だよ。エトワール、春香、フローラもよく見てごらん。この部分が成長点だから、そこの上から切るんだよ。成長点を傷付けないで採取すると、また生えてくるからね」
子供達と遊びを兼ねた薬草採取。僕は、ヒルクク草を根っこから一束抜くと、採取するコツを教えていく。
薬草の種類により、採取の仕方は変わるのだけど、薬草の中でもポピュラーなヒルクク草は、採取もそんなに難しくない。一点だけ、成長点よりも上から切り取るってだけだ。
「よぉーし! エトワールお姉ちゃん、フローラ、競争だよ!」
「面白そう! 負けないよ!」
「もう、競争はいいけど、丁寧に採取しないとダメだよ」
「じゃあ、よーい! ドンッ!」
「わぁー!」
「もう、春香もフローラも聞いてないんだから」
子供達が薬草の採取で競争を始めてしまった。まあ、何でも楽しんでやれるのはいい事だね。
「エトワールちゃん達、元気でありますな」
「ああ、特にフローラは元気が有り余ってるからね」
レーヴァがヒルクク草以外の薬草を採取しながら、元気に駆け回るエトワール達を見て微笑ましそうに言う。実際、エトワールや春香、フローラは凄く活発的だと思う。自分の子供の頃をはっきりとは憶えていないけれど、聖域の子供達は元気だと感じる。
まあ、身体能力がナチュラルに高いフローラのような獣人系は当たり前だけど、そうじゃない人族の春香やエルフのエトワールも、地球じゃ考えられない身体能力だしな。まあ、レベルやスキルが存在する世界だからと割り切るしかない。付き合う親は大変だけどね。
「そういえば、キュアイルニスポーション用の瓶の材料はパペックさんに発注した?」
「はいであります。出来合いの瓶は使えないでありますからな」
キュアイルニスポーションを容れる瓶は、ヒールポーションやマナポーションの瓶とは大きさも形も違う。
ヒールポーションなんかは、怪我の場所に掛けた後に飲んだりするから、ポーション瓶も大きく量が多めなんだけど、毒消しやキュアイルニスポーションの容れ物なんかは、少し短めの試験管をイメージすると分かりやすいと思う。
「そっち側は少ないわよ~」
「見える範囲で採取するのよ」
「ルルが見張ってるから大丈夫ニャ」
薬草の採取という事で、今日はドリュアスが付き合ってくれている。あとソフィアやマリア、マーニが家で子供の世話をしているので、アカネとルルちゃんが来てくれている。
基本的に聖域の中なので、危険なんてないんだけど、それでも川や池もあるし、聖域の外の常識と掛け離れ過ぎるのも、エトワール達が大きくなって外に出た時に危ないからね。
僕とレーヴァが、ヒルクク草以外の薬草なんかを採取していると、ドリュアスが話し掛けてきた。
「でもタクミちゃん。ヒルクク草を使ったレシピは、聖域とユグル王国でしか無理だからいいのよ。でも、それ通常のレシピ用に採取してるんでしょう~? 聖域の素材と外の素材じゃ、品質に差がでるわよ~」
「……そんなに違うかな」
「ええ、まあ、でもポーションの品質が上がるんだから~。いいっか」
「ドリュアス様、素材の品質の良し悪しくらい、外の薬師や錬金術師でも判断できると思うであります。レーヴァ達が気に掛ける必要はないと思うでありますよ」
「そうよね。うん、気にしちゃ負けよね」
ドリュアスが言うように、ヒルクク草一つとってみても、聖域と外ではその品質に大きな差があるのは事実だ。当然、素材の差はポーションの品質に影響する。聖域のヒルクク草で作った低級のヒールポーションは、それ以外のヒールポーションとは回復量が実感できる程の差があるんだ。
当然、キュアイルニスポーションの素材としてバーキラ王国やロマリア王国に売ろうとしている素材も、聖域産のものは品質が高く、出来上がったポーションの品質も高くなる。
「それに、この品質の差を分かる人間って、凄く少ないと思うわ~。タクミちゃんやレーヴァちゃんなら、僅かな品質の差も判断するでしょうけどぉ~。一般の薬師は、多分無理ねぇ~」
「それでも、最近は違いの分かる薬師や錬金術師が増えているらしいよ」
「そうであります。おそらく聖域やユグル王国からの素材が出回っているからでありますよ」
ドリュアスが、聖域産の品質が高い素材を売っても、その違いに気付く薬師や錬金術師は少ないんじゃないのか。と言うけれど、聖域が交易品として薬草類を売るようになり、ユグル王国も他国との交易量が増えた事で、高い品質の素材に触れる機会が増えた人の中で、当然その違いを認識できる人は増えている。
聖域産の素材で作るポーションが、高い品質になるのを分かっている薬師や錬金術師は、聖域産の薬草の取り合いをしているって、パペックさんから聞いているからね。
そろそろお昼かなと思った時、うちのメイド長のメリーベルが、数人のメイドを連れてやって来た。
「お嬢様方! お食事に致しましょう!」
「ごはん!」
「お腹すいたー!」
「フローラ、春香、ちょっと待って! 『ピュリフィケーション!』もう、慌てない!」
メリーベルがお昼ご飯を持って来たと分かると、フローラと春香が飛び上がって喜んだ。
エトワールが、今にも走り出しそうな二人を止めて、浄化の魔法で汚れを落としている。
「ほぉ、エトワールちゃん、凄いでありますな。もう一度に全員の浄化をしているであります。さすがタクミ様のお子様であります」
「エトワールは三人の中でも特に魔法への適性が高いみたいだからね。魔力のコントロールが上手いよね」
「私達、大精霊が祝福した子達だもの~。このくらい当たり前よぉ~」
レーヴァがエトワールの浄化魔法を褒めると、誇らしいけど何だか僕まで照れ臭い。ただ、ドリュアスは自分達が祝福したんだから、このくらい当然だと思っている。全ての大精霊の加護を持つなんて有り得ない事らしいからね。いや、有り得ないと言うより、ドリュアス達が過去に加護を与えた人間が居るのかすら分からないレベルでレアみたいだし。
「まぁ、タクミちゃんみたいに、ノルン様の加護よりレア度は下がるけどねぇ~」
「ノルン様の加護はタクミ様お一人でありますからな」
「ま、まぁ、それはいいじゃないか」
大精霊の加護が超希少なのは間違いないけれど、ノルン様の加護はもっとレアなんだ。ドリュアス曰く、過去にも一人も居ないらしい。
「私達の加護は、この先タクミちゃんの子や孫が生まれると増える可能性があるけどぉ~、ノルン様の加護はそうじゃないものねぇ~」
「やっぱりタクミ様は凄いんでありますな!」
「ほ、ほら、僕達も行くよ」
ドリュアスがノルン様の加護が、唯一無二なのを言うと、レーヴァにキラキラした目で見られる。さすがに照れ臭いので、僕達もメリーベルの所へ急ぐよう促す。
大きな敷物が拡げられ、その上にメリーベルがバスケットを置き、飲み物の準備をしている。当然、敷物もバスケットも飲み物類も、メリーベルが持つ小型のポーチ型マジックバッグから取り出したものだ。
うちのメイド達には、全員に小型のポーチ型マジックバッグを支給している。容量はそれ程大きくないけれど、重さを気にする事なく、尚且つ時間停止が付与されているので、熱いものは熱いままに、冷たいものは冷たいままに持ち運び出来る。メイドにとってとても便利なので、うちではメイド服と一緒に標準装備にしてある。
勿論、メイド服も普通じゃない。カエデの糸から織られた布で作られたメイド服は、そのままでも十分丈夫なんだけど、それに加えて付与できる余白が大きい。
ポールを立ててタープを張り、一応日陰を作る。陽の光を遮るくらい魔法でも可能だけど、せっかくの子供達との薬草採取兼ピクニックだからね。形は大事だと思うんだ。
「うわぁー! カツサンドだぁ!」
「あっ、お野菜一杯のハムサンドもある!」
「わたし、この肉一杯のヤツがいい!」
「フローラ様、ローストドラゴンのサンドイッチですよ」
メリーベルがバスケットを開けていくと、春香とエトワールが喜びの声をあげる。春香はカツサンドが大好きだからね。エトワールは、キュウリやレタス、トマトが入ったハムサンドが好物だ。そしてフローラは、肉一択。カツサンドも好きだけど、ローストして薄切りにしたお肉がパンパンに挟んであるサンドイッチにテンションが高い。メリーベルがローストドラゴンだと教えているけど、多分聞いちゃいないね。
「「「いただきます!」」」
フローラは特にだけど、春香やエトワールもよく食べる。肉が好きか、野菜が好きかの好みはあるけれど、僕の前世の子供の頃と比べてもよく食べると思う。
かと言って、肥っているかと言うと、全然そんな事はない。フローラは、獣人族だけあって運動量が特に多いし、春香とエトワールはそれに加えて魔法の訓練もしているからね。魔力を消費すると、肥り難いのはこの世界の常識らしい。確かに、魔法使いに太った人は見かけないからね。
「お嬢様方、お飲み物は如何いたしますか?」
「わたし、りんごジュース!」
「わたしもりんごジュース!」
「私はぶどうジュースがいいかな」
メリーベルがフローラ、春香、エトワールに飲み物を配り、僕にも紅茶を淹れてくれる。
「旦那様は紅茶でよろしいですね」
「うん」
「レーヴァも紅茶でいいであります」
「承知しました」
そこにアカネとルルちゃんも戻って来た。
「はぁ~、お腹空いた。メリーベル、私にも紅茶をちょうだい」
「ルルはりんごジュースがいいニャ」
「直ぐ用意いたしますね」
メリーベルに飲み物を頼み、アカネとルルちゃんも、バスケットの中のサンドイッチを美味しそうに食べ始める。
「暑くもなく、寒くもなく、一番好きな季節よね。ピクニックには最高だわ」
「風が気持ちいいニャ」
「いや、薬草採取だからね」
「分かってるわよ。でも私は春と秋が好きなのよ」
「まあ、分からないでもないけどね」
アカネは暑い夏や寒い冬は好きじゃない。前から春と秋が好きだと言っている。僕的には、夏でも日本のジメジメした夏とは違って、カラッとした聖域の夏も好きなんだけどね。冬だって、マイナス何十度なんて厳しい寒さじゃないからね。
「子供達のお守り助かるよ」
「ほんと……、あの子達元気一杯よね」
「子供は元気が一番ニャ」
アカネは、元気過ぎる子供達に疲れ気味みたいだけど、ルルちゃんは元気一杯だな。若さのなんて言ったらアカネが怒りそうだ。
少しお腹が落ち着くと、子供達がデザートを欲しがる。まだ食べるのかと感心してしまうけれど、いつもの事なので仕方ない。
「食後のデザートは?」
「メリーベル、デザート!」
「今日は何かな?」
「今日はフルーツを色々と持って来ましたよ」
「「「やったー!」」」
メリーベルが、色々なフルーツが容れられたタッパーを取り出し蓋を開けると、子供達がテンション高く手を上げ喜ぶ。
聖域は、ドリュアスのお陰で一年を通して大抵のフルーツが手に入るし、しかも旬の期間も長い傾向がある。今回、メリーベルが用意したのは、桃とぶどう、梨とりんごだ。
うちの子供達は、僕とアカネが居る所為で、この世界でも珍しい地球由来のデザートを普段から食べているけれど、加工しないフルーツそのままっていうのも大好きだ。聖域の果物は格別だからね。
最近ではぶどうはワイン用のものとは別に、そのまま食べて美味しい品種を育てている。これはドリュアスや果樹園のエルフ達のお陰だな。桃や梨、りんごもドリュアスが好き勝手に魔改造するものだから、聖域産のフルーツは貴族や豪商達の間では取り合いになっているらしい。
「パパ、今度はみんなで来たいね」
「本当だね。次はみんなで来ようか」
「赤ちゃんと一緒に遊びたい!」
「もう、フローラ、遊びじゃなくて、薬草の採取でしょう」
春香が、今日のピクニックを兼ねた薬草採取が楽しいのか、今度は弟や妹と一緒に来たいねと言う。確かに、今日はソフィアやマリア、マーニがお留守番だ。次回はみんなと一緒でもいいかな。
フローラも弟や妹と遊びたいと手を上げるけれど、エトワールに遊びじゃなくて薬草採取だと注意されている。だけどアレは聞いてないな。
「そうだな。今度はセルト達と一緒に来ようか」
「わたしたちが順番で面倒をみるの!」
「薬草の採り方を教えてあげる!」
「フローラ、さすがにセルト達に薬草採取は早いわよ」
春香は弟達や妹達の面倒をよくみてくれる。フローラは少し気が早い。エトワールに注意されているけど、さすがにまだ赤ちゃんに薬草採取は早過ぎる。
とはいえ、フローラはともかくエトワールと春香は、薬草採取を楽しんでくれたみたいでよかった。フローラは、競争が楽しかっただけみたいだけどね。
今度はみんなで来れたらいいな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
「パパ、これであってる?」
「そう。それがヒルクク草だよ。エトワール、春香、フローラもよく見てごらん。この部分が成長点だから、そこの上から切るんだよ。成長点を傷付けないで採取すると、また生えてくるからね」
子供達と遊びを兼ねた薬草採取。僕は、ヒルクク草を根っこから一束抜くと、採取するコツを教えていく。
薬草の種類により、採取の仕方は変わるのだけど、薬草の中でもポピュラーなヒルクク草は、採取もそんなに難しくない。一点だけ、成長点よりも上から切り取るってだけだ。
「よぉーし! エトワールお姉ちゃん、フローラ、競争だよ!」
「面白そう! 負けないよ!」
「もう、競争はいいけど、丁寧に採取しないとダメだよ」
「じゃあ、よーい! ドンッ!」
「わぁー!」
「もう、春香もフローラも聞いてないんだから」
子供達が薬草の採取で競争を始めてしまった。まあ、何でも楽しんでやれるのはいい事だね。
「エトワールちゃん達、元気でありますな」
「ああ、特にフローラは元気が有り余ってるからね」
レーヴァがヒルクク草以外の薬草を採取しながら、元気に駆け回るエトワール達を見て微笑ましそうに言う。実際、エトワールや春香、フローラは凄く活発的だと思う。自分の子供の頃をはっきりとは憶えていないけれど、聖域の子供達は元気だと感じる。
まあ、身体能力がナチュラルに高いフローラのような獣人系は当たり前だけど、そうじゃない人族の春香やエルフのエトワールも、地球じゃ考えられない身体能力だしな。まあ、レベルやスキルが存在する世界だからと割り切るしかない。付き合う親は大変だけどね。
「そういえば、キュアイルニスポーション用の瓶の材料はパペックさんに発注した?」
「はいであります。出来合いの瓶は使えないでありますからな」
キュアイルニスポーションを容れる瓶は、ヒールポーションやマナポーションの瓶とは大きさも形も違う。
ヒールポーションなんかは、怪我の場所に掛けた後に飲んだりするから、ポーション瓶も大きく量が多めなんだけど、毒消しやキュアイルニスポーションの容れ物なんかは、少し短めの試験管をイメージすると分かりやすいと思う。
「そっち側は少ないわよ~」
「見える範囲で採取するのよ」
「ルルが見張ってるから大丈夫ニャ」
薬草の採取という事で、今日はドリュアスが付き合ってくれている。あとソフィアやマリア、マーニが家で子供の世話をしているので、アカネとルルちゃんが来てくれている。
基本的に聖域の中なので、危険なんてないんだけど、それでも川や池もあるし、聖域の外の常識と掛け離れ過ぎるのも、エトワール達が大きくなって外に出た時に危ないからね。
僕とレーヴァが、ヒルクク草以外の薬草なんかを採取していると、ドリュアスが話し掛けてきた。
「でもタクミちゃん。ヒルクク草を使ったレシピは、聖域とユグル王国でしか無理だからいいのよ。でも、それ通常のレシピ用に採取してるんでしょう~? 聖域の素材と外の素材じゃ、品質に差がでるわよ~」
「……そんなに違うかな」
「ええ、まあ、でもポーションの品質が上がるんだから~。いいっか」
「ドリュアス様、素材の品質の良し悪しくらい、外の薬師や錬金術師でも判断できると思うであります。レーヴァ達が気に掛ける必要はないと思うでありますよ」
「そうよね。うん、気にしちゃ負けよね」
ドリュアスが言うように、ヒルクク草一つとってみても、聖域と外ではその品質に大きな差があるのは事実だ。当然、素材の差はポーションの品質に影響する。聖域のヒルクク草で作った低級のヒールポーションは、それ以外のヒールポーションとは回復量が実感できる程の差があるんだ。
当然、キュアイルニスポーションの素材としてバーキラ王国やロマリア王国に売ろうとしている素材も、聖域産のものは品質が高く、出来上がったポーションの品質も高くなる。
「それに、この品質の差を分かる人間って、凄く少ないと思うわ~。タクミちゃんやレーヴァちゃんなら、僅かな品質の差も判断するでしょうけどぉ~。一般の薬師は、多分無理ねぇ~」
「それでも、最近は違いの分かる薬師や錬金術師が増えているらしいよ」
「そうであります。おそらく聖域やユグル王国からの素材が出回っているからでありますよ」
ドリュアスが、聖域産の品質が高い素材を売っても、その違いに気付く薬師や錬金術師は少ないんじゃないのか。と言うけれど、聖域が交易品として薬草類を売るようになり、ユグル王国も他国との交易量が増えた事で、高い品質の素材に触れる機会が増えた人の中で、当然その違いを認識できる人は増えている。
聖域産の素材で作るポーションが、高い品質になるのを分かっている薬師や錬金術師は、聖域産の薬草の取り合いをしているって、パペックさんから聞いているからね。
そろそろお昼かなと思った時、うちのメイド長のメリーベルが、数人のメイドを連れてやって来た。
「お嬢様方! お食事に致しましょう!」
「ごはん!」
「お腹すいたー!」
「フローラ、春香、ちょっと待って! 『ピュリフィケーション!』もう、慌てない!」
メリーベルがお昼ご飯を持って来たと分かると、フローラと春香が飛び上がって喜んだ。
エトワールが、今にも走り出しそうな二人を止めて、浄化の魔法で汚れを落としている。
「ほぉ、エトワールちゃん、凄いでありますな。もう一度に全員の浄化をしているであります。さすがタクミ様のお子様であります」
「エトワールは三人の中でも特に魔法への適性が高いみたいだからね。魔力のコントロールが上手いよね」
「私達、大精霊が祝福した子達だもの~。このくらい当たり前よぉ~」
レーヴァがエトワールの浄化魔法を褒めると、誇らしいけど何だか僕まで照れ臭い。ただ、ドリュアスは自分達が祝福したんだから、このくらい当然だと思っている。全ての大精霊の加護を持つなんて有り得ない事らしいからね。いや、有り得ないと言うより、ドリュアス達が過去に加護を与えた人間が居るのかすら分からないレベルでレアみたいだし。
「まぁ、タクミちゃんみたいに、ノルン様の加護よりレア度は下がるけどねぇ~」
「ノルン様の加護はタクミ様お一人でありますからな」
「ま、まぁ、それはいいじゃないか」
大精霊の加護が超希少なのは間違いないけれど、ノルン様の加護はもっとレアなんだ。ドリュアス曰く、過去にも一人も居ないらしい。
「私達の加護は、この先タクミちゃんの子や孫が生まれると増える可能性があるけどぉ~、ノルン様の加護はそうじゃないものねぇ~」
「やっぱりタクミ様は凄いんでありますな!」
「ほ、ほら、僕達も行くよ」
ドリュアスがノルン様の加護が、唯一無二なのを言うと、レーヴァにキラキラした目で見られる。さすがに照れ臭いので、僕達もメリーベルの所へ急ぐよう促す。
大きな敷物が拡げられ、その上にメリーベルがバスケットを置き、飲み物の準備をしている。当然、敷物もバスケットも飲み物類も、メリーベルが持つ小型のポーチ型マジックバッグから取り出したものだ。
うちのメイド達には、全員に小型のポーチ型マジックバッグを支給している。容量はそれ程大きくないけれど、重さを気にする事なく、尚且つ時間停止が付与されているので、熱いものは熱いままに、冷たいものは冷たいままに持ち運び出来る。メイドにとってとても便利なので、うちではメイド服と一緒に標準装備にしてある。
勿論、メイド服も普通じゃない。カエデの糸から織られた布で作られたメイド服は、そのままでも十分丈夫なんだけど、それに加えて付与できる余白が大きい。
ポールを立ててタープを張り、一応日陰を作る。陽の光を遮るくらい魔法でも可能だけど、せっかくの子供達との薬草採取兼ピクニックだからね。形は大事だと思うんだ。
「うわぁー! カツサンドだぁ!」
「あっ、お野菜一杯のハムサンドもある!」
「わたし、この肉一杯のヤツがいい!」
「フローラ様、ローストドラゴンのサンドイッチですよ」
メリーベルがバスケットを開けていくと、春香とエトワールが喜びの声をあげる。春香はカツサンドが大好きだからね。エトワールは、キュウリやレタス、トマトが入ったハムサンドが好物だ。そしてフローラは、肉一択。カツサンドも好きだけど、ローストして薄切りにしたお肉がパンパンに挟んであるサンドイッチにテンションが高い。メリーベルがローストドラゴンだと教えているけど、多分聞いちゃいないね。
「「「いただきます!」」」
フローラは特にだけど、春香やエトワールもよく食べる。肉が好きか、野菜が好きかの好みはあるけれど、僕の前世の子供の頃と比べてもよく食べると思う。
かと言って、肥っているかと言うと、全然そんな事はない。フローラは、獣人族だけあって運動量が特に多いし、春香とエトワールはそれに加えて魔法の訓練もしているからね。魔力を消費すると、肥り難いのはこの世界の常識らしい。確かに、魔法使いに太った人は見かけないからね。
「お嬢様方、お飲み物は如何いたしますか?」
「わたし、りんごジュース!」
「わたしもりんごジュース!」
「私はぶどうジュースがいいかな」
メリーベルがフローラ、春香、エトワールに飲み物を配り、僕にも紅茶を淹れてくれる。
「旦那様は紅茶でよろしいですね」
「うん」
「レーヴァも紅茶でいいであります」
「承知しました」
そこにアカネとルルちゃんも戻って来た。
「はぁ~、お腹空いた。メリーベル、私にも紅茶をちょうだい」
「ルルはりんごジュースがいいニャ」
「直ぐ用意いたしますね」
メリーベルに飲み物を頼み、アカネとルルちゃんも、バスケットの中のサンドイッチを美味しそうに食べ始める。
「暑くもなく、寒くもなく、一番好きな季節よね。ピクニックには最高だわ」
「風が気持ちいいニャ」
「いや、薬草採取だからね」
「分かってるわよ。でも私は春と秋が好きなのよ」
「まあ、分からないでもないけどね」
アカネは暑い夏や寒い冬は好きじゃない。前から春と秋が好きだと言っている。僕的には、夏でも日本のジメジメした夏とは違って、カラッとした聖域の夏も好きなんだけどね。冬だって、マイナス何十度なんて厳しい寒さじゃないからね。
「子供達のお守り助かるよ」
「ほんと……、あの子達元気一杯よね」
「子供は元気が一番ニャ」
アカネは、元気過ぎる子供達に疲れ気味みたいだけど、ルルちゃんは元気一杯だな。若さのなんて言ったらアカネが怒りそうだ。
少しお腹が落ち着くと、子供達がデザートを欲しがる。まだ食べるのかと感心してしまうけれど、いつもの事なので仕方ない。
「食後のデザートは?」
「メリーベル、デザート!」
「今日は何かな?」
「今日はフルーツを色々と持って来ましたよ」
「「「やったー!」」」
メリーベルが、色々なフルーツが容れられたタッパーを取り出し蓋を開けると、子供達がテンション高く手を上げ喜ぶ。
聖域は、ドリュアスのお陰で一年を通して大抵のフルーツが手に入るし、しかも旬の期間も長い傾向がある。今回、メリーベルが用意したのは、桃とぶどう、梨とりんごだ。
うちの子供達は、僕とアカネが居る所為で、この世界でも珍しい地球由来のデザートを普段から食べているけれど、加工しないフルーツそのままっていうのも大好きだ。聖域の果物は格別だからね。
最近ではぶどうはワイン用のものとは別に、そのまま食べて美味しい品種を育てている。これはドリュアスや果樹園のエルフ達のお陰だな。桃や梨、りんごもドリュアスが好き勝手に魔改造するものだから、聖域産のフルーツは貴族や豪商達の間では取り合いになっているらしい。
「パパ、今度はみんなで来たいね」
「本当だね。次はみんなで来ようか」
「赤ちゃんと一緒に遊びたい!」
「もう、フローラ、遊びじゃなくて、薬草の採取でしょう」
春香が、今日のピクニックを兼ねた薬草採取が楽しいのか、今度は弟や妹と一緒に来たいねと言う。確かに、今日はソフィアやマリア、マーニがお留守番だ。次回はみんなと一緒でもいいかな。
フローラも弟や妹と遊びたいと手を上げるけれど、エトワールに遊びじゃなくて薬草採取だと注意されている。だけどアレは聞いてないな。
「そうだな。今度はセルト達と一緒に来ようか」
「わたしたちが順番で面倒をみるの!」
「薬草の採り方を教えてあげる!」
「フローラ、さすがにセルト達に薬草採取は早いわよ」
春香は弟達や妹達の面倒をよくみてくれる。フローラは少し気が早い。エトワールに注意されているけど、さすがにまだ赤ちゃんに薬草採取は早過ぎる。
とはいえ、フローラはともかくエトワールと春香は、薬草採取を楽しんでくれたみたいでよかった。フローラは、競争が楽しかっただけみたいだけどね。
今度はみんなで来れたらいいな。
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この度、「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
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