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後日談百九話 オーディション?
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アカネに丸め込まれた感じはあるけれど、この世界に新しい文化が生まれるのは良い事だと思おう。
「今度は何を頼まれたのでありますか?」
「……さすがレーヴァ。何も言わなくても分かってるね」
工房に入っただけで、何かを押し付けられたと、僕の表情だけで分かったのか。レーヴァとの付き合いも長くなったと感慨深い。イヤイヤ、浸っている暇はないね。ロザリー夫人やルーミア様が本気で動き出したら早いから。
「動画用のカメラがあっただろう。アカネが動画を編集する魔導具が欲しいと言ってきてね」
「ほぉほぉ、それは面白そうでありますな。なる程、それで最近アカネ様とルルちゃんは、動画を撮りまくってたのでありますな」
「僕もおかしいとは思ってたんだよ。回復魔法使いとして未開地に同行している筈なのに、グライドバイクに乗って動画を撮影しているんだもの」
「グライドバイクは、揺れが少ないので動画撮影にピッタリでありますからね」
そう、最近のアカネの動向をよく考えれば、この一連の流れは読めた筈なんだ。赤ちゃん達の世話が楽しくて気付かなかったよ。
「それで、どういう話になったのでありますか?」
「ああ、それが凄く大袈裟な話になってきちゃってさ」
僕は、アカネの王都に映画館を建てる計画から、ロザリー夫人やコーネリアさんが乗り気になり、サイモン様なんかを巻き込んで動き出しそうだという事。それに加え、赤ちゃんの顔を見に来たルーミア様とミーミル様が、その話に食い付き、ユグル王国の王都にも映画館をと、土地の確保もほぼ確実だという事を説明した。
「う~ん。仕方ないでありますな。全く新しい文化の発信者でありますから。ロザリー夫人やルーミア様の株も上がるというものでありますよ」
「そうだね。エルフは特に文化や芸術にはこだわるからね」
「そうであります。聖域の音楽団を知ったユグル王国在中のエルフは悔しがったと聞くであります」
僕とアカネが聖域にもたらした地球の楽器の数々は、文化と芸術はエルフが一番だと自負のあったユグル王国に大きなショックを与えた。
まあ、基本的に僕が発明した訳でも何でもないので、申し訳ない気持ちで一杯だけど、それ以来、この芸術方面ではユグル王国は神経質気味なんだよね。
「では、具体的に造るのは、動画編集の魔導具と大型の映写の魔導具でありますか?」
「それと撮影用の照明機材も頼まれたよ。あとカメラも貸し出し用が何台か要るだろうし、映画館は聖域に建てて色々とチェックしないとね」
「では、レーヴァは先ずは大型の映写の魔導具とスピーカーでありますな」
「うん、頼めるかな。僕は編集の魔導具を考えてみるよ」
「了解であります」
映画館を建てると決まったので、先ずは出来る事からとレーヴァには映写機とスピーカーをお願いした。その間に僕は編集機を造ろう。
「大きめの魔晶石をセンターの上側に配置できるようにしてっと、その下に動画用の魔晶石を配置できる場所を……三つ。あと音楽用が一つでいいか」
大きな魔晶石に編集した映像を記録する仕組みだ。
「モニターは流石に作れないから、映写機と同じにして画面は三つって感じかな」
8ミリや16ミリみたいに、フィルムを切ったり貼ったりして編集するんじゃなくて、前世の高校の実習で触った事のある、ビデオテープの編集機にイメージとしては近いかな。
ぶつぶつと独り言を呟きながらスケッチを何枚も描き、イメージが固まったら設計図を描く。
魔晶石のサイズを決めてレーヴァに伝えないとな。
◇
タクミとレーヴァが工房で作業に取り掛かった頃、リビングではアカネとルーミア王妃、ミーミル王女が話し合っていた。
そこにバーキラ王国の王都に連絡をとりに行ったロザリーとコーネリアの二人が、文官娘衆のリーダー的存在シャルロットの母親で聖域に移住しているエリザベスを連れて戻って来た。
「うちのに土地の確保を頼んでおいたわ。何ヶ所か候補は抑えてくれたみたい」
「息子にも連絡したから、陛下にも直ぐ話が上がると思うわ」
「もう。こんな面白そうな事してるなら教えてくださいまし」
ロザリーは夫でバーキラ王国の宰相であるサイモンに、王都で土地の確保を指示し、コーネリアはその話を息子で近衛騎士団長であるギルフォードに話したので、自然と国王の耳に入るだろうと満足気だ。エリザベスは、面白そうな話には加わりたいと頬を膨らませている。
「えっ!? もうですか。よく王都に余った土地がありましたね」
「フフッ。最近、貴族派の家が何軒か潰れたのよ。まあ、潰したのはうちのなんだけど。だからあとはその中から条件のいい場所を選ぶだけなの」
アカネは、ロザリーがサイモンに頼み、既に映画館の建設予定地を幾つかピックアップしたと聞き、その迅速さに若干引きつつ、よく余った土地が見つかったと驚いた。
バーキラ王国の王都は、湖の中央に聳える王城を中心に栄える大都市だが、映画館を建設できるような広い敷地は無かったとアカネは認識していた。そのアカネの感じた疑問にロザリーは、貴族派の何軒かが取り潰されたと言う。
賢王として知られるバーキラ王の代替わりもそろそろだ。王太子が跡を継ぐ前に、貴族派の力を削いでおきたいサイモンが、不正を働いていた貴族を取り潰したそうだ。
サイモンも早く隠居して、ロザリーが住む聖域に移住したい気持ちもあり、息子達の代が困らぬようにと色々暗躍しているのだとか。
「し、仕事が早いですね」
「それはもう。動画は何度も見せて貰っているけれど、それに音楽を付けたり、見やすいように編集するんでしょう? エトワールちゃんや春香ちゃん、フローラちゃんの可愛い姿をうちのにも見せてあげれるわ」
「私の方も、陛下はなかなか国を離れる事が出来ませんから。エトワールちゃんの姿絵や写真は持っていますが、動画は見た事がなくて拗ねてましたしね」
「お父様、国を抜け出して聖域に逃げて来そうでしたものね」
「ハ、ハハッ、そうなんですね」
まだ編集機も完成していないうちに、映画館を建てる場所が決まりそうなスピード感に、アカネが驚くも、ロザリーやルーミアは自分達の夫に見せたいと、もの凄く個人的な理由で王都の土地の確保が進んでいる。
アカネもその夫と言うのが、宰相と国王なので仕方ないかと思い、今後の話をする。
「それで、今は聖域の自然の美しさや聖域騎士団の武力の紹介をする映像を撮っているんですが、この後もう一本、物語りをエトワール達に演じて貰って撮ろうと思ってるんですよね」
「「「「まぁ! それは素敵ですね!」」」」
アカネが、今撮影している聖域のドキュメンタリー映画っぽいものに加え、物語りを一本撮影すると言うと、ロザリーやルーミア達が目を輝かせ興奮した声を上げる。
「そこでバーキラ王国やユグル王国にも、カメラ機材や編集の魔導具を貸し出すか、買い取って貰って、自分達でも映画を撮ればいいんじゃないかなって思ったんですけど、どう思います?」
「……誰に任せましょうか。これは一度王都に行った方がいいかしら」
「我が国には、芸術方面を支援する部署もありますから、その者達に指示しておきましょう」
「さすがエルフの国ですね。バーキラ王国にも宮廷画家や音楽隊はありますが、専任の大臣は居ませんわ」
「コーネリア様、うちの主人に掛け合ってみるわ」
「それがいいですわね」
アカネからの要望は、映画を聖域だけのものではなく、広く拡める事だった。それを聞いたロザリーは、これは一度自分が直接王都へ戻った方がいいと考え始める。ルーミア王妃は、ユグル王国には芸術方面を専門にする部門が王宮にあると言い、早速指示を出すと約束した。
それを聞いたロザリーも、サイモンに会う為に王都へ行く事を決めたようだ。
ユグル王国は、長寿種族なエルフらしく芸術方面では多種族よりよ優れていると言われている。長い時間を研鑽するのだから当然なのだが、そのお陰で今回もルーミア王妃の頭の中には、誰と誰に声を掛けようと直ぐに顔が浮かぶ。
それに対して、バーキラ王国はどうかと言うと、宮廷画家や音楽家は居るのだが、演劇を専門とする者をロザリーやコーネリアは知らなかった。ここ数年、聖域からの影響でオーケストラのようなものが出来たり、オペラ擬きのようなものが上演されたりしているが、演劇という文化はこれからだ。
そこでロザリーは、人任せではなかなか進まないと判断し、自身で動く事を決めた。
「アカネさん。物語りの撮影を見学させてくれないかしら。演者はともかく撮影や編集って魔導具を渡されても直ぐには無理でしょう?」
「ああ、そうですね。理想を言えば、演者は当然として、全てを統括する監督。絵を撮るカメラマン。物語りから脚本を書く脚本家。監督の指示のもと編集をする人も欲しいかな。あと色々な雑用をする人やセットを建てたり、衣装を用意したりする人も居ればいいですね」
「まぁ、それは大変そうね」
ロザリーがアカネにお願いしたのも当然だろう。カメラや編集の魔導具を渡されても、どうしていいのか分からない。
それに対してアカネも必要な人員を指折り数えて上げていく。
ただ実際には、撮影の為のセットなどは幻術などの魔法で補えるし、照明も魔法で可能なので、理解が進めば作品を撮り出すのは早いだろう。
「アカネさんは、どんな物語りを撮るの?」
「私の生まれた国にある昔話をアレンジしようかと思ってますよ」
「まぁ!」
ルーミア王妃は、アカネがどんな映画を作るのか気になったのか尋ねると、返ってきたのはアカネの祖国の昔話。ようするに日本の昔話だ。
それを聞いてルーミア王妃は喜びつつも申し訳ないと思う。
ここに居るメンバーは、当然アカネがシドニア神皇国がおこなった勇者召喚の犠牲者だと知っている。そしてタクミ経由で、創世の女神ノルンによって二度と次元の壁に穴を空けないよう施されている事も聞いていた。それイコールアカネが日本へと還る道が途立たれた事を示していた。
そんな事もあり、日本の文化を知れる喜びの感情と、二度と故郷の土を踏む事が出来ないアカネへの申し訳なさをルーミア王妃は感じていたのだ。
シドニア神皇国がしでかした事なので、ユグル王国の王妃になんの責任もないのだが、同じこの世界に暮らす人間としての申し訳なさだろう。
とはいえ、芸術好きのエルフの王妃、異なる世界の昔話と聞けば興味津々なのは仕方ない。
「なら私の国の昔話を映画にしましょうか」
「あら、それは面白そうですね」
「ええ、我が国にも昔話はありますものね」
アカネの話を聞いたルーミア王妃が、ユグル王国に伝わる昔話を映画にすると言うと、ロザリーとコーネリアもそれはいいと、バーキラ王国に伝わる昔話を最初の映画にしようと決めた。
「役者はオーディションなんかどうです? 王宮に出入りする楽士も協力してくれる人を探さないといけませんし」
「そうね。役者は、旅芸人や楽団の人間など身分を問わず探してみるわ。宮廷楽士もうちの主人が話せば協力するでしょうけど、イヤイヤ協力するような人は要らないわね」
「そう考えると、王都でオーディションしてみるのはいい考えね」
バーキラ王国やロマリア王国、ユグル王国の国内は、都市間の治安が比較的良いので、旅芸人やサーカスのような移動しながら興行をする者達も居る。演劇というより曲芸や舞踊なのだが、役者に向く者も居るかもしれない。
そして映画に欠かせない音楽については、やはり宮廷楽士がレベルが高いのだろうが、その分プライドも高いので、映画音楽という新しいものへ協力してくれる者がどれだけ居るのか分からない。なら大々的にオーディションするしかない。
「あと幻術の得意な人や土属性魔法の得意な人も裏方で集めた方がいいですよ。聖域ならその手の人材に困りませんけどね」
「それもあるわね。宮廷魔法師団が手伝ってくれないかしら」
「どうでしょう。以前は騎士団と反目しあってましたが、それも聖域のお陰でなくなりましたし、話の分かる者も増えていると思いますけどね」
役者や楽士のオーディションの話の後にアカネはセットの設営や特殊効果の人員確保も進言しておく。
これは人材豊富な聖域と一緒に考えていると後で確実に困る事になる。
先ず、タクミやアカネのように器用に魔法を使う人は、聖域の外では少ない。土属性魔法による建築や土木工事が、バーキラ王国などで行われるようになったのは最近の事だからだ。
それまでは、魔法と言えば魔物を討伐したり、戦争で戦う為のものだった。それがウェッジフォートでのタクミの土属性魔法の使い方に衝撃を受け、その有用性を高く評価し急激に普及している途中だ。
「その辺は私の方は大丈夫ね」
「お母様、そこは腐ってもエルフですもの」
ルーミア王妃とミーミル王女は、魔法関係は大丈夫だと言っているが、腐ってもはダメだとアカネは思った。ホーディアの一件があってから、ミーミル王女の同胞への目が厳しい。
その後、バーキラ王国でのオーディションと、ユグル王国でのオーディションに、アカネも審査員として参加をお願いされ、映画館の建設予定地の視察も兼ねて遠征する事が決まった。
「今度は何を頼まれたのでありますか?」
「……さすがレーヴァ。何も言わなくても分かってるね」
工房に入っただけで、何かを押し付けられたと、僕の表情だけで分かったのか。レーヴァとの付き合いも長くなったと感慨深い。イヤイヤ、浸っている暇はないね。ロザリー夫人やルーミア様が本気で動き出したら早いから。
「動画用のカメラがあっただろう。アカネが動画を編集する魔導具が欲しいと言ってきてね」
「ほぉほぉ、それは面白そうでありますな。なる程、それで最近アカネ様とルルちゃんは、動画を撮りまくってたのでありますな」
「僕もおかしいとは思ってたんだよ。回復魔法使いとして未開地に同行している筈なのに、グライドバイクに乗って動画を撮影しているんだもの」
「グライドバイクは、揺れが少ないので動画撮影にピッタリでありますからね」
そう、最近のアカネの動向をよく考えれば、この一連の流れは読めた筈なんだ。赤ちゃん達の世話が楽しくて気付かなかったよ。
「それで、どういう話になったのでありますか?」
「ああ、それが凄く大袈裟な話になってきちゃってさ」
僕は、アカネの王都に映画館を建てる計画から、ロザリー夫人やコーネリアさんが乗り気になり、サイモン様なんかを巻き込んで動き出しそうだという事。それに加え、赤ちゃんの顔を見に来たルーミア様とミーミル様が、その話に食い付き、ユグル王国の王都にも映画館をと、土地の確保もほぼ確実だという事を説明した。
「う~ん。仕方ないでありますな。全く新しい文化の発信者でありますから。ロザリー夫人やルーミア様の株も上がるというものでありますよ」
「そうだね。エルフは特に文化や芸術にはこだわるからね」
「そうであります。聖域の音楽団を知ったユグル王国在中のエルフは悔しがったと聞くであります」
僕とアカネが聖域にもたらした地球の楽器の数々は、文化と芸術はエルフが一番だと自負のあったユグル王国に大きなショックを与えた。
まあ、基本的に僕が発明した訳でも何でもないので、申し訳ない気持ちで一杯だけど、それ以来、この芸術方面ではユグル王国は神経質気味なんだよね。
「では、具体的に造るのは、動画編集の魔導具と大型の映写の魔導具でありますか?」
「それと撮影用の照明機材も頼まれたよ。あとカメラも貸し出し用が何台か要るだろうし、映画館は聖域に建てて色々とチェックしないとね」
「では、レーヴァは先ずは大型の映写の魔導具とスピーカーでありますな」
「うん、頼めるかな。僕は編集の魔導具を考えてみるよ」
「了解であります」
映画館を建てると決まったので、先ずは出来る事からとレーヴァには映写機とスピーカーをお願いした。その間に僕は編集機を造ろう。
「大きめの魔晶石をセンターの上側に配置できるようにしてっと、その下に動画用の魔晶石を配置できる場所を……三つ。あと音楽用が一つでいいか」
大きな魔晶石に編集した映像を記録する仕組みだ。
「モニターは流石に作れないから、映写機と同じにして画面は三つって感じかな」
8ミリや16ミリみたいに、フィルムを切ったり貼ったりして編集するんじゃなくて、前世の高校の実習で触った事のある、ビデオテープの編集機にイメージとしては近いかな。
ぶつぶつと独り言を呟きながらスケッチを何枚も描き、イメージが固まったら設計図を描く。
魔晶石のサイズを決めてレーヴァに伝えないとな。
◇
タクミとレーヴァが工房で作業に取り掛かった頃、リビングではアカネとルーミア王妃、ミーミル王女が話し合っていた。
そこにバーキラ王国の王都に連絡をとりに行ったロザリーとコーネリアの二人が、文官娘衆のリーダー的存在シャルロットの母親で聖域に移住しているエリザベスを連れて戻って来た。
「うちのに土地の確保を頼んでおいたわ。何ヶ所か候補は抑えてくれたみたい」
「息子にも連絡したから、陛下にも直ぐ話が上がると思うわ」
「もう。こんな面白そうな事してるなら教えてくださいまし」
ロザリーは夫でバーキラ王国の宰相であるサイモンに、王都で土地の確保を指示し、コーネリアはその話を息子で近衛騎士団長であるギルフォードに話したので、自然と国王の耳に入るだろうと満足気だ。エリザベスは、面白そうな話には加わりたいと頬を膨らませている。
「えっ!? もうですか。よく王都に余った土地がありましたね」
「フフッ。最近、貴族派の家が何軒か潰れたのよ。まあ、潰したのはうちのなんだけど。だからあとはその中から条件のいい場所を選ぶだけなの」
アカネは、ロザリーがサイモンに頼み、既に映画館の建設予定地を幾つかピックアップしたと聞き、その迅速さに若干引きつつ、よく余った土地が見つかったと驚いた。
バーキラ王国の王都は、湖の中央に聳える王城を中心に栄える大都市だが、映画館を建設できるような広い敷地は無かったとアカネは認識していた。そのアカネの感じた疑問にロザリーは、貴族派の何軒かが取り潰されたと言う。
賢王として知られるバーキラ王の代替わりもそろそろだ。王太子が跡を継ぐ前に、貴族派の力を削いでおきたいサイモンが、不正を働いていた貴族を取り潰したそうだ。
サイモンも早く隠居して、ロザリーが住む聖域に移住したい気持ちもあり、息子達の代が困らぬようにと色々暗躍しているのだとか。
「し、仕事が早いですね」
「それはもう。動画は何度も見せて貰っているけれど、それに音楽を付けたり、見やすいように編集するんでしょう? エトワールちゃんや春香ちゃん、フローラちゃんの可愛い姿をうちのにも見せてあげれるわ」
「私の方も、陛下はなかなか国を離れる事が出来ませんから。エトワールちゃんの姿絵や写真は持っていますが、動画は見た事がなくて拗ねてましたしね」
「お父様、国を抜け出して聖域に逃げて来そうでしたものね」
「ハ、ハハッ、そうなんですね」
まだ編集機も完成していないうちに、映画館を建てる場所が決まりそうなスピード感に、アカネが驚くも、ロザリーやルーミアは自分達の夫に見せたいと、もの凄く個人的な理由で王都の土地の確保が進んでいる。
アカネもその夫と言うのが、宰相と国王なので仕方ないかと思い、今後の話をする。
「それで、今は聖域の自然の美しさや聖域騎士団の武力の紹介をする映像を撮っているんですが、この後もう一本、物語りをエトワール達に演じて貰って撮ろうと思ってるんですよね」
「「「「まぁ! それは素敵ですね!」」」」
アカネが、今撮影している聖域のドキュメンタリー映画っぽいものに加え、物語りを一本撮影すると言うと、ロザリーやルーミア達が目を輝かせ興奮した声を上げる。
「そこでバーキラ王国やユグル王国にも、カメラ機材や編集の魔導具を貸し出すか、買い取って貰って、自分達でも映画を撮ればいいんじゃないかなって思ったんですけど、どう思います?」
「……誰に任せましょうか。これは一度王都に行った方がいいかしら」
「我が国には、芸術方面を支援する部署もありますから、その者達に指示しておきましょう」
「さすがエルフの国ですね。バーキラ王国にも宮廷画家や音楽隊はありますが、専任の大臣は居ませんわ」
「コーネリア様、うちの主人に掛け合ってみるわ」
「それがいいですわね」
アカネからの要望は、映画を聖域だけのものではなく、広く拡める事だった。それを聞いたロザリーは、これは一度自分が直接王都へ戻った方がいいと考え始める。ルーミア王妃は、ユグル王国には芸術方面を専門にする部門が王宮にあると言い、早速指示を出すと約束した。
それを聞いたロザリーも、サイモンに会う為に王都へ行く事を決めたようだ。
ユグル王国は、長寿種族なエルフらしく芸術方面では多種族よりよ優れていると言われている。長い時間を研鑽するのだから当然なのだが、そのお陰で今回もルーミア王妃の頭の中には、誰と誰に声を掛けようと直ぐに顔が浮かぶ。
それに対して、バーキラ王国はどうかと言うと、宮廷画家や音楽家は居るのだが、演劇を専門とする者をロザリーやコーネリアは知らなかった。ここ数年、聖域からの影響でオーケストラのようなものが出来たり、オペラ擬きのようなものが上演されたりしているが、演劇という文化はこれからだ。
そこでロザリーは、人任せではなかなか進まないと判断し、自身で動く事を決めた。
「アカネさん。物語りの撮影を見学させてくれないかしら。演者はともかく撮影や編集って魔導具を渡されても直ぐには無理でしょう?」
「ああ、そうですね。理想を言えば、演者は当然として、全てを統括する監督。絵を撮るカメラマン。物語りから脚本を書く脚本家。監督の指示のもと編集をする人も欲しいかな。あと色々な雑用をする人やセットを建てたり、衣装を用意したりする人も居ればいいですね」
「まぁ、それは大変そうね」
ロザリーがアカネにお願いしたのも当然だろう。カメラや編集の魔導具を渡されても、どうしていいのか分からない。
それに対してアカネも必要な人員を指折り数えて上げていく。
ただ実際には、撮影の為のセットなどは幻術などの魔法で補えるし、照明も魔法で可能なので、理解が進めば作品を撮り出すのは早いだろう。
「アカネさんは、どんな物語りを撮るの?」
「私の生まれた国にある昔話をアレンジしようかと思ってますよ」
「まぁ!」
ルーミア王妃は、アカネがどんな映画を作るのか気になったのか尋ねると、返ってきたのはアカネの祖国の昔話。ようするに日本の昔話だ。
それを聞いてルーミア王妃は喜びつつも申し訳ないと思う。
ここに居るメンバーは、当然アカネがシドニア神皇国がおこなった勇者召喚の犠牲者だと知っている。そしてタクミ経由で、創世の女神ノルンによって二度と次元の壁に穴を空けないよう施されている事も聞いていた。それイコールアカネが日本へと還る道が途立たれた事を示していた。
そんな事もあり、日本の文化を知れる喜びの感情と、二度と故郷の土を踏む事が出来ないアカネへの申し訳なさをルーミア王妃は感じていたのだ。
シドニア神皇国がしでかした事なので、ユグル王国の王妃になんの責任もないのだが、同じこの世界に暮らす人間としての申し訳なさだろう。
とはいえ、芸術好きのエルフの王妃、異なる世界の昔話と聞けば興味津々なのは仕方ない。
「なら私の国の昔話を映画にしましょうか」
「あら、それは面白そうですね」
「ええ、我が国にも昔話はありますものね」
アカネの話を聞いたルーミア王妃が、ユグル王国に伝わる昔話を映画にすると言うと、ロザリーとコーネリアもそれはいいと、バーキラ王国に伝わる昔話を最初の映画にしようと決めた。
「役者はオーディションなんかどうです? 王宮に出入りする楽士も協力してくれる人を探さないといけませんし」
「そうね。役者は、旅芸人や楽団の人間など身分を問わず探してみるわ。宮廷楽士もうちの主人が話せば協力するでしょうけど、イヤイヤ協力するような人は要らないわね」
「そう考えると、王都でオーディションしてみるのはいい考えね」
バーキラ王国やロマリア王国、ユグル王国の国内は、都市間の治安が比較的良いので、旅芸人やサーカスのような移動しながら興行をする者達も居る。演劇というより曲芸や舞踊なのだが、役者に向く者も居るかもしれない。
そして映画に欠かせない音楽については、やはり宮廷楽士がレベルが高いのだろうが、その分プライドも高いので、映画音楽という新しいものへ協力してくれる者がどれだけ居るのか分からない。なら大々的にオーディションするしかない。
「あと幻術の得意な人や土属性魔法の得意な人も裏方で集めた方がいいですよ。聖域ならその手の人材に困りませんけどね」
「それもあるわね。宮廷魔法師団が手伝ってくれないかしら」
「どうでしょう。以前は騎士団と反目しあってましたが、それも聖域のお陰でなくなりましたし、話の分かる者も増えていると思いますけどね」
役者や楽士のオーディションの話の後にアカネはセットの設営や特殊効果の人員確保も進言しておく。
これは人材豊富な聖域と一緒に考えていると後で確実に困る事になる。
先ず、タクミやアカネのように器用に魔法を使う人は、聖域の外では少ない。土属性魔法による建築や土木工事が、バーキラ王国などで行われるようになったのは最近の事だからだ。
それまでは、魔法と言えば魔物を討伐したり、戦争で戦う為のものだった。それがウェッジフォートでのタクミの土属性魔法の使い方に衝撃を受け、その有用性を高く評価し急激に普及している途中だ。
「その辺は私の方は大丈夫ね」
「お母様、そこは腐ってもエルフですもの」
ルーミア王妃とミーミル王女は、魔法関係は大丈夫だと言っているが、腐ってもはダメだとアカネは思った。ホーディアの一件があってから、ミーミル王女の同胞への目が厳しい。
その後、バーキラ王国でのオーディションと、ユグル王国でのオーディションに、アカネも審査員として参加をお願いされ、映画館の建設予定地の視察も兼ねて遠征する事が決まった。
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