いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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後日談百六話 砦とゴーレムと訓練

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 未開地の南西端開発をきっかけに起こるであろう魔物の移動及び増加。スタンピードまではいかないレベルだとしても、普通の商隊では被害がでる可能性もあるという事で、やって来ました未開地の中央から少し南へ下った場所。


 ウェッジフォートからもバロルからも二十キロ程度の距離なので、かなり街に近い位置になる。とはいえ、普段三ヶ国の騎士団は、定期的に街の近くの魔物を駆除しているけれど、ここまでは来ない。




 ソフィアとマリア、マーニが、魔物の群れを求めて南へと向かう。

「ではタクミ様。私達は、もう少し南へ向かいます」
「タクミ様、行ってきます!」
「旦那様。行ってまいります」
「うん。気を付けてね」

 砦を築く為に、ここに残る僕に声を掛けて出発するソフィア達。

「ソフィア殿達の事はお任せください」
「タクミ、サボんないでよ」
「行って来ますニャ」
「サボらないよ」

 ガラハットさんが僕に声を掛け、騎士団の部下を連れて陸戦艇サラマンダーに乗り込む。アカネも軽口を叩いてルルちゃんと乗り込み、みんなは二台のサラマンダーで行ってしまった。

 今回、大きなスタンピードはないだろうという事で、広範囲を移動できるよう陸戦艇サラマンダーを出動させた。

 初日の今日は、念の為二台一緒に行動するらしいけど、ベールクトやフルーナが参加して人数が増えれば、二手に分かれて魔物を間引くんだそうだ。



 残されたのは、僕とレーヴァ、それとタイタン。いつもの土木作業仲間だ。

「はぁ。さて、先に線を引こうか」
「早く砦を建てて、ゴーレムを造りに戻るでありますよ」
『マスター、ガンバリ、マショウ』

 図面を確認しながら地面に線を引いていく。今回は、レーヴァとタイタンと協力して四方の外壁を一度に造る予定なので、イメージ頼りにしないで、最初にきっちりと線でアタリを付けておく。

「じゃあ、僕がここから……この辺りまで、半分くらいを受け持つよ」
「では、レーヴァは、この辺りから全体の四分の一を受け持つであります」
『ワタシハ、ソノ、ノコリヲ』

 三人で分担を決め、タイミングを合わせて魔法を発動する。

 ズゴゴゴゴォォォォーー!!

 高さ十五メートル、幅五メートル、一辺の長さ八十メートル四方の外壁が出来上がった。

「ふぅ。上手くいったね」
「完璧であります」
『オツカレサマデス』
「じゃあ、僕は北と南に門を造って、外壁の強化をするよ」
「では、レーヴァは宿舎と食堂の建物を造るであります」
『ワタシハ、ソウコヲツクリマス』

 取り敢えず外壁は出来たけれど、これで完成ではない。門を設置するスペースを空け、そこに鋼鉄製の門を取り付けないといけない。それに加え、外壁と門を強化していく。

 レーヴァは、騎士団が寝泊まりする用の建物と食堂を、タイタンは倉庫を造ってくれる。



 僕はレーヴァとタイタンと離れ、外壁を内側から強化していく。因みに、砦の外壁の外側、周囲には空堀が出来ている。

 錬金術と土属性魔法を併用し、外壁の強化と門の設置を進めていく。

「ふぅ。こんなものかな」

 外壁を一周し、門を設置し終えて砦の中を振り返ると、丁度レーヴァとタイタンの作業も終わっていた。

「さて、あとは魔導具かな」
「手分けするであります」

 レーヴァと一緒に建物内へ魔導具を設置していく。

 照明の魔導具を狭い部屋には、一部屋に一つ。大きな部屋には複数取り付け、スイッチ一つで点灯、消灯するようにしておく。そうじゃないと不便だしね。

 井戸を掘ってもよかったんだけど、運良くいい水脈に当たるか分からなかったので、今回は湧水の魔導具頼りだ。大型のタンクを建物の上に設置。そこに湧水ほ魔導具を取り付け、使った分だけ水が湧き出すようにする。タンクからパイプを引き、水道として使用する。

 湧水の魔導具を複数取り付ければ、こんな大掛かりな装置は必要ないんだけどね。僕は素材は自前だし、作るもの自分だから忘れがちだけど、魔導具って世間的にはとても高価なんだ。僕はそれを安価で大衆にって思うんだけどな。なかなか難しいのが現状なんだ。

「タクミ様、浄化の魔導具をプリーズであります」
「はい。半分お願い」
「了解であります」

 この規模の砦ならトイレの数なんてしれてるんだけど、僕が作るならそんなところで不自由したくないからね。寝泊まりする建物にも複数トイレを作るのは当然だし、公衆トイレみたいに独立した小さな建物としても用意した。

 レーヴァにアイテムボックスから浄化の魔導具付き便器を取り出し渡し、僕もトイレの設置をしていく。

 因みに、宿泊施設として建てた建物は、騎士団長や隊長格用に個室を造り、トイレとシャワーも設置してある。あとは申し訳ないけれど四人部屋と二人部屋で、共同トイレと共同シャワーだ。

 ひと通り設備を整えると、次は門番ゴーレムだ。

「タイタン。ソフィア達が戻って来るまで、ここの守りをお願い」
『リョウカイ、シマシタ』
「では、レッツ、ゴーレムクリエイトであります!」

 僕は、テンションの高いレーヴァを連れて、聖域の自宅工房へと転移する。




 一瞬で目の前の景色が変わり、いつもの自分達の工房に気分も落ち着く。

「さて、今回のゴーレムは、そんなに時間が掛けられないから、既存のゴーレムのアレンジでいこうと思ってるんだ」
「いいと思うであります。となると決めるのは、素材の金属と持たせる武器、あとはゴーレムのサイズでありますな」

 ソフィア達を迎えに行かないといけないので、ゴーレム四体に時間は掛けられない。

「やっぱり魔鋼かな」
「ミスリルを混ぜてもいいと思うでありますよ」
「ああ、ありだね。とにかく頑丈に造るとなゆと、ミスリルかアダマンタイトを混ぜてもいいだろうね」

 門番ゴーレムは、どうしても風雨に晒されるので、魔鋼よりは錆難いミスリルやアダマンタイトの合金の方がいい。勿論、腐食に対する付与はするけれど、素材自体の性質が丈夫で腐食し難い方がいいに決まっている。

 結局、魔法を操る魔物対策として、ミスリル合金製に決まった。とはいえ、合金のベースは魔鋼だけどね。

「魔晶石は、ゴーレムの核となるものと、魔力タンク用の二つでありますか?」
「うん。一応、他のゴーレムと同じく周辺の魔素を取り込んで魔力を補充するようにするけど、基本立っているだけならほとんど魔力は使わないから、それ程大きな石じゃなくても大丈夫だしね。二つ以上使うと、大きくない魔晶石でも、それを狙う人が出てきそうで怖いし」
「でもタクミ様。魔力の認証を行う魔導具を組み込むなら、魔晶石三つになるでありますよ」
「……ほんとだ。忘れてた。仕方ないか。誰も未開地の街から離れた辺鄙な場所にある砦まで、ゴーレムを盗みに来たりしないだろう。うん、そう思おう」
「まあ、大抵の輩は返り討ちでありますから」

 基本、僕が錬成する魔晶石は、大きさは様々だけどその純度も最高だと自負している。だからそんな魔晶石を複数使ったゴーレムと知られれば、それを盗もうと考える輩も出ないとは言えない。

 ただ、レーヴァに指摘されて思い出したけど、魔力の認証をする魔導具を組み込む事が前提のゴーレムなので、その時点で魔晶石が三つ使用するのは避けられない。まあ、レーヴァが言うように、僕らの仲間クラスじゃないと対処不可能なゴーレムだから、大丈夫だと割り切ろう。

「サイズはどうするでありますか? レーヴァとしては、大きい方がかっこいいと思うであります」
「そうだね。ただ、タイタン(三メートル五十センチ)になると魔晶石を大きなのにしないと燃費が悪いから、二メートル五十センチくらいにしようと思ってる」
「二メートル五十センチのゴーレムなら十分威圧感があるであります」
「じゃあ、サイズはそのくらいでいこう」

 ゴーレムの大きさは、これまで造ったものと同じような感じだ。それ故、作り慣れているので、一体試しに錬成しつつ組み立てるのに、それ程時間は掛からない。

「認証の魔導具は、顔に配置したのでありますな。単眼みたいでいい感じであります」
「そ、そう。ならよかった」

 レーヴァからの感想にドキリとする。何故なら、ショルダーアーマーに草摺のような西洋甲冑の雰囲気に、深い緑の配色。そこにモノアイとくれば、そうアレだ。袖付きの主力量産M◯。アカネなら分かってくれるだろう。カエデの専用グライドバイクを造る時に、赤くて三倍速いなんてネタを教え込んでたぐらいだからな。

「と、取り敢えず、残りの三体を纏めて錬成するよ」
「お願いするであります。レーヴァは、手に持たせる武器を見繕うであります」

 心の動揺を抑えて、レーヴァに残りの三体を錬成すると言うと、レーヴァはゴーレムに装備させる武器を、ストックの中から見繕うと言って倉庫へと向かった。

 倉庫は、空間拡張され状態保存の魔法が掛けられ、僕とレーヴァの作品や素材のストックが大量に収納してある。それに加えて、種類毎にマジックバッグに整理してある物も多いので、僕やレーヴァもそろそろ把握するのが難しくなってきている。

 それはさておき、三体分の素材を取り出し、纏めて錬成してしまう。

「錬成!」

 一度、造ったものと同じものを錬成するのは難しくない。これも他の錬金術師を知らないから、世間の常識とは違う可能性も高いけどね。

 四体のゴーレムを並べていると、レーヴァが戻って来た。その手には大きな両刃の斧が持たれてある。

「これでいいでありますか?」
「ああ、斧ね。いいんじゃないかな。うちの騎士団でも使うのって、土精騎士団のドワーフか、元冒険者パーティー『獅子の牙』のヒースさんくらいだし、何よりそれはゴーレムサイズだしね」

 普通、騎士団で斧を使う人は少ない。騎士と言えば剣だからね。だけど聖域騎士団には、ドワーフを中心とした土精騎士団があるから、まだ需要はある方だ。ヒースさんも冒険者時代から戦斧を使っている。でもレーヴァが持って来たのは、以前造って余っていたゴーレム用の斧なので、人間が使うには少々大きい。

 レーヴァがマジックバッグから残りの斧を取り出し、一体一体に持たせていく。うん。ますます敵側の量産機だな。

「腰の後ろに取り付けれるようにしようか」
「そうでありますな。普段は手に待たず、腰裏に装備している方が、他国の騎士団を無駄に威圧しないで済むであります」

 レーヴァがゴーレムに斧の扱いをインストールしている間に、僕は腰裏に斧を留める金具を付けていく。

 因みに、レーヴァがしているインストールというのは、ゴーレム核に各武術の基本的な動きを追加で描き込む作業だ。最初から、様々な武術の動きを描き込めればいいのだけど、タイタンクラスの魔晶石じゃないと難しい。

 しかもタイタンのゴーレム核は、僕達が錬成して描き込んだものじゃなく、もともとは女神様の遺跡を護るガーディアンゴーレムだった頃のものだ。同じものを造れと言われれば可能だろうけれど、タイタンのように自我のあるゴーレムにはならない。

「オッケーであります。砦に運ぶでありますか?」
「ああ、タイタンも待っているし、そろそろソフィア達も戻って来る頃かもしれないからね」

 完成した四体の門番ゴーレムをアイテムボックスに収納し、僕とレーヴァは未開地の砦へと転移した。








 タクミとレーヴァとタイタンが、砦を築いている頃、そこから更に南へと向かった付近で、ソフィア、マリア、マーニ、アカネ、ルルを残し、もう一台のサラマンダーが離れて行く。

 ガラハット率いる聖域騎士団の新人は、もう少し東側で魔物の駆除をする。

「さて、久しぶりの戦闘になりますが、一度経験済みなので問題ないですね」
「そうですね。もう私達もベテラン冒険者ですから」
「フフッ」

 ソフィアが剣を抜き、何度か素振りして体の動きを確かめ頷く。出産は二度目という事もあり、産後のリハビリも二度目なので、自身のサビ付き具合も理解していた。

 それはマリアとマーニも同じで、どことなく余裕があるのもその所為だろう。

「即死以外なら治してみせるから心配要らないわよ」
「アカネ様、その言い方はないニャ」
「フフッ、お願いします」
「心強いです!」

 そこにアカネが腕を組み胸を張って言い放ったセリフに、流石にルルもツッコミを入れるも、そこはアカネともそれなりの付き合いになりつつあるソフィアとマリアが笑顔で礼を言う。

「私達を見つけたみたいですね」
「相手の強さが分からないのね。雑魚よ雑魚」
「じゃあルル行くニャ!」
「あ、ルルちゃん! 抜け駆けはダメです!」

 ソフィアが近付いて来る魔物の群れを察知した。ほぼ同時にアカネも察知しており、無謀にも襲って来る魔物に雑魚だと吐き捨てる。実際、ソフィア達からすれば、未開地に棲息する魔物はほぼ雑魚になる。

 その時、ルルが我慢しきれず魔物な向かって駆け出した。ルル的には、今日はストレス解消の運動だった。ソフィア達のリハビリが目的だと忘れている。

 飛び出したルルの後をマリアも追いかけ駆け出す。

「さて、私達も行きましょうか」
「はい。他の群れも集まって来たみたいですし」

 ソフィアが自分達も行こうと言うと、マーニも最初に察知した以外の群れが近付いて来るのを察知し両手に短剣を持ち駆け出し、ソフィアもその後を追う。

「みんな元気ねぇ。今日は私は楽をさせて貰おうかしらね」

 アカネはその場で討ち漏らしを始末するつもりのようだ。




 最初に飛び出したルルが短剣を振るう。

 ギャンッ! ドサッ!

 接敵したのは、三十頭以上の大きな狼の魔物の群れ。

 ルルが群れを縫うように駆け抜けると、すれ違う度に魔物の悲鳴が上がる。

「さすがルルちゃん。全部一撃だね! ハッ!」

 ドスッ! ドサッ!

 ルルの後を追ったマリアは、神速で繰り出した槍の一突きで狼の魔物、フォレストウルフの頭を貫き、断末魔の叫びも許さず斃していく。


 ソフィアとマーニが向かったのは、新たに現れたフォレストウルフの群れ。

「ハッ!」
「フッ!」

 ソフィアのロングソードとマーニの双剣が一閃する度に、フォレストウルフの命が消える。


 この日の訓練では、それぞれが一番慣れた武器を使おうと決めてあった。そのお陰もあり、全員が危なげなく魔物を斃していく。



 その後も、ソフィア達は広い範囲を駆け回り、文字通りサーチアンドデストロイで魔物を斃していき、陽がだいぶ斜めになった頃、タクミの待つ砦に戻った。






 そろそろ陽が落ちそうな時間、やっとソフィア達が戻って来た。

 二台のサラマンダーからソフィア達やガラハットさん達が降りて来る。

「おかえり」
「お疲れさまであります」
「ただいま帰りました」
「ただいまです」
「ただいま戻りました」

 ソフィア、マリア、マーニも流石に疲れているみたいだ。

「はぁ~、疲れたわぁ」
「楽しかったニャ」
「ハッハッハッ。ルル殿は元気ですな!」
「「「…………」」」

 もしもの時の回復役に来て貰っていたアカネも疲れた様子だけど、暴れ回ってただろうルルちゃんは、まだまだ元気一杯だな。

 聖域騎士団の方も、ガラハットさんは元気一杯で大きな声で笑っているけれど、新人さん達はヘトヘトみたいで声もない。


 まあ、そんな事より今はご飯だ。

「さあ、先ずは腹ごしらえしましょう」
「バーベキューでありますよ!」
「肉ニャ!」

 先程から肉の焼ける匂いに、ヨダレを垂らしそうにしていたルルちゃんが真っ先に飛びつき、ソフィア達もお腹が空いていたようで、僕が造った簡易のパーティー台に人が群がる。

 どうしよう。よく考えたらバーベキューなんて久しぶりだな。子供達も連れて来てもいいかもな。




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