いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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15巻

15-2

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 気配を絶ち、姿を消し、存在を隠匿いんとくして道なき道を駆けていた。
 先導するように前を行くのは、僕とおそろいの外套を羽織ったカエデだ。
 今回、隠密おんみつ活動に特化したカエデと二人での行動になる。
 これから向かう街に潜伏する犯罪組織の人数ならカエデだけでも十分かもしれないけど、カエデは時々やりすぎるからね。僕は、ストッパーってわけだ。
 それに僕とカエデがチームを組んで行動していれば、手早くホーディアに関わる犯罪組織を壊滅させて、転移で王都に行ける。
 ヒュンと不意に風が強くほおに当たったかと思うと、街道を行く商人が首をひねっていた。

「あれ? 何だろう?」

 周囲を見渡しても何も変化はない。おだやかな日差しと風に変わりはない。
 犯人は退屈したカエデのイタズラだ。
 いくら姿や気配を消していても、僕とカエデが高速で移動すれば風が巻き起こる。だから街道を外れた道なき道を、時には樹々の間を跳び進んでいるんだけど、ただ駆ける事にきたカエデが時々街道を行く人達の側を駆け抜けているんだ。
 そんなに退屈なら亜空間の中で寝てればいいのにと思うが、久しぶりの僕と二人でのお出かけに、少しテンションが高いんだよね。


 それほど広くないユグル王国なので、翌日のお昼前には僕とカエデは目的の街へとたどり着いた。
 さて、アジトを特定したら、一度フランさん達と連絡をとらないとな。



 5 アジト


 僕とカエデは目的地に到着すると、シルフに先導され、犯罪組織のアジトとなっている街外れの古い屋敷近くに来ていた。

(マスター、いっぱいいるね)

 アジトらしき屋敷を近くの建物の屋根の上から監視する。カエデが念話で言うように、屋敷の中には予想以上に人数が集まっていた。

(本当だね。でもエルフ以外も結構いるもんなんだね)
(ユグル王国だって、鎖国さこくしてるわけじゃないもの。他種族も少しはいるのよ)

 シルフ曰く、それは何も不思議な事ではないらしい。
 確かにユグル王国は入国審査は厳しいが、他国からの入国が禁止されているわけじゃない。交易で商人が行き来しているし、その護衛の冒険者も当然入ってくる。
 まあ、移住は難しいみたいだから、他種族がユグル王国の国民になるのは、ハードルが高いらしいけどね。基本的に、最長数ヶ月の滞在許可を取って観光や商売に訪れるそうだ。
 それに最近は、三ヶ国同盟と未開地特需もあり、人の往来は活発だ。常に物資は行き来しているからね。
 人の行き来が活発になれば、こんなはみ出し者も当然増える。
 エルフと言っても、ホーディアを見れば分かるように、皆が精霊を敬い信仰し自然との調和を重んじる穏やかな人ばかりじゃない。
 今でもたまに聖域に侵入しようとしたり、結界を攻撃したりするバカなエルフもいるくらいだしね。
 そんな奴らは必ずと言っていい確率で、精霊の加護を失い、精霊の姿どころか声も聞けなくなる。
 その時点で自身のあやまちに気が付き、悔い改める人も少数はいるらしいけど、だいたいはそのまま堕ちていくそうだ。
 そんな堕ちたエルフの多くが、このアジトと王都に集まり始めている。
 勿論、これがこの国にいる犯罪組織や犯罪者の全てじゃないけど、ホーディアは今回だいぶ頑張ったみたいだね。思っていた以上に動員していた。

(マスター、少し減らしておく?)
(いや、それはやめとこう)

 カエデがアジトに集まってくる奴らを間引こうかと聞いてきたけど、その後警戒されてバラけられるのが面倒なので、今はじっとしておく。

(そのかわりに少し情報収集でもするか)
(うん! カエデが行ってくるね)

 よほど暇していたのか、僕がそう言うとカエデから嬉しそうな念話が伝わり、次の瞬間、その場から姿が消えていた。
 カエデは種族としても隠密行動に向いているんだけど、小さなキラースパイダーから短い期間で進化を繰り返してアラクネの最上位種となった、その過程での濃密な戦闘経験もある。こと隠密行動に関しては、僕でもまったくかなわない。
 まぁ、人族とアラクネという種族の違いが大きいんだけどね。
 これが精霊の加護を失っていないエルフが相手なら、察知される可能性もわずかにあるが、ここではそんな心配はいらないから、僕も安心してカエデを待っていられる。


 一時間くらい経った頃、音もなくカエデが戻ってきた。
 僕は自分の従魔だから分かるけど、そうじゃなければ気付くのが難しいレベルの隠密性だ。

(おかえり)
(ただいまー)
(それで、何か分かった?)
(うん! 日が昇ったら行動開始だって言ってたよ)
(夜じゃないのか)

 意外な事に、日が昇り始めてから行動開始するらしい。どう考えても、普通なら暗い時間帯の方が移動しやすいと思うんだけど……

(どうしてだろうね。カエデやマスターみたいに、夜目よめかないのかな?)
(そうか、そういう理由か)

 エルフという種族は自然と共に生きるだけあり、普通は人族よりも夜目が利く。精霊の加護を持つエルフは暗闇をものともしないが、加護を失った奴らは夜の闇は味方じゃないんだ。
 そうとなれば、集まりきった今のタイミングでコッチから仕掛けるのもありだな。

(カエデ、逃げられないように、アジトの周りに糸の結界をお願い)
(分かったよ、マスター! やっつけに行くんだね!)

 やる気満々なのが念話からも分かる。
 カエデが再び僕の側から消える。
 それを確認した僕も外套のフードを被って立ち上がり、屋根の上から空へとダイブした。
 フワリと音を立てずに僕が降り立ったのは、奴らがアジトとして使う屋敷の屋根の上。
 直ぐにカエデが僕の横に戻ってきた。
 僕とカエデはうなずき合い、それぞれ行動を開始する。
 これからは時間との勝負だ。



 6 アジト襲撃


 屋敷の中で、街で暴れるために準備し始めた、ホーディアが集めた犯罪組織の男達。
 三階建ての屋敷の二階部分に侵入し、そんな男達に陰から静かに襲いかかる。
 音を立てずに一人、一人と意識をうばいとる。
 今回、必ずしも殺す事に重きを置いていない。
 犯罪組織なので、捕まればよくて犯罪奴隷はんざいどれい、最悪は死刑なんだけど、今回は手早く全員を無力化するのが第一だ。
 まぁ、街中でテロをくわだてるやからがどうなろうと知らないし、むしろユグル王国としては、主犯格以外は面倒なので始末してくれた方がいいとさえ思っているかもしれない。
 でも流石に街の中で大量殺戮さつりくするのははばかられるので、可能な限り捕縛する方向でカエデにも話してある。
 僕も人殺しに慣れたわけじゃない。たとえそれが相手が極悪人だとしてもだ。
 勿論、殺さない選択をするには、それだけの力が必要だ。僕とカエデは、その圧倒的な力がある。
 ゴロツキ程度、無力化するのなんて簡単だった。
 一つの部屋の前に立ち、外から強制的に眠りに誘う闇属性魔法「ヒュプノス」をかける。
 その後、扉を音もなく開けて素早く部屋の中へ侵入すると、立っていた者から無属性の念動で倒れるのを防ぐ。
 座っていた奴やソファーに寝転んでいた奴は、ヒュプノスの魔法で、その場で眠るだけだけど、立ってたら倒れちゃうからね。
 遮音しゃおんの結界を張るっていう手もあるけど、魔力消費の比較的多い結界系の魔法は、魔力感知スキルが高いと気付かれる可能性もあるから、可能なら使いたくない。
 僕は眠る犯罪組織の構成員を拘束こうそくしていく。
 こんな時、カエデは大活躍する。
 僕が一人をロープで拘束している間に、カエデは自前の糸でこの部屋にいた残る五人を縛っていた。

(流石、この手の仕事はカエデには敵わないな)
(やったー! マスターに褒められたぁー!)

 念話で褒めると、カエデは喜んでその場でピョンピョン飛び跳ねている。
 あんなに飛び跳ねているのに、音がしないのは流石、カエデだ。

(さて、次に行くよ)
(了解、マスター)

 侵入した二階部分から一つ一つ部屋を攻略していく。
 廊下を歩く者も勿論、意識をり取る。
 二階にいた構成員を全て捕縛した後、僕とカエデは一階へと下りた。
 この屋敷に地下室があることは分かっているので、一階が終われば地下室だ。そして最後に三階にいる、この街での暴動を指揮する立場の男を捕縛する。
 この男は、犯罪組織の構成員ではなく、ホーディアの部下だ。
 勿論、犯罪組織からも部下を統率する立場の人間は来ていて、同じ三階の一番豪華な部屋にいるのは確認済みだ。
 この手の情報は、シルフが精霊から仕入れてくれるので、僕とカエデは楽させてもらっている。
 一階を制圧し終えると、次に地下室へと下りる僕とカエデ。
 地下には僅かな見張りしかいないのは分かっていた。その見張りを手早く片付けると、目的の場所へと向かった。

「ひぃうっ……」
「しっ。助けるから静かにしてくれるかな」

 そう言って闇属性の鎮静ちんせい魔法「パシフィケーション」をかける。
 その部屋にいたのは、何処からか連れてこられていたエルフの女性。
 エルフが主体の犯罪組織でも、悪い事に手を染める奴らのする事は似たようなものだ。
 計画を実行するまでの間、なぐさみものにするためにさらったのだろう。
 怯えていた彼女が鎮静魔法で少し落ち着いたので、続けて「ピュリフィケーション」で浄化して全身の汚れを落とす。
 助けられた事を理解したのか、安心した彼女はそのまま眠ってしまった。

「マスター、この人どうする?」
「どうしようかな。転移で避難させてもいいんだけど……タイタン、頼めるかな」

 聖域に転移で連れていっても、説明に時間がかかりそうなので、ここはタイタンに護衛してもらおうと亜空間から呼び出した。

「リョウカイデス、マスター」

 出てきたのは三メートルを超える巨体のタイタンじゃなく、そのコアユニットである小タイタンの方だ。
 小タイタンとはいえ、アダマンタイト合金製のボディに、高性能で大きな魔晶石ましょうせきを内蔵している。
 相手がエルフといえど犯罪組織の構成員程度には負けない。
 目覚めて目の前にいきなりタイタンじゃパニックになるかもしれないので、一応女の人には「スリープ」の魔法を使う。
 スリープの魔法は、犯罪組織の構成員に使ったヒュプノスとは違い、数時間経てば自然に目覚めるし、外部からの刺激でも起きる事が出来る比較的対象者に優しい魔法なんだ。
 それに引き換え、ヒュプノスは少々の事では目覚めない。レジストされる心配はないと思うけど、奴らには多少の外的要因では目覚めないヒュプノスを使った。

「あとは三階だな。行こうかカエデ」
「うん、早く終わらせて、王都に行かないと始まっちゃうもんね」

 僕とカエデは、残るホーディアの部下を捕縛するために、三階の部屋へと急いだ。



 7 王都テロ勃発ぼっぱつ


 三階の目的の部屋の前に立ち、扉を開けると同時にヒュプノスをかける。
 ここが最後の部屋なので、普通にドアを開けて入る。
 それでも装備の影響で、部屋の中にいた奴らは何が起きたのか分からず意識を手放した。高度な隠密状態の僕とカエデには気付かなかったのだ。
 カエデが手早く糸で拘束していく。
 ただ糸で拘束するだけじゃなく、麻痺まひ系の状態異常を付与して、もし眠りの魔法をレジストして起きたとしても、魔法が使えないようにしている。
 その辺は、相手がエルフなので慎重すぎるくらいでいい。
 カエデと手分けして全員を拘束し終えると、この中で一人だけ雰囲気の違う人間を見つけた。
 こいつがホーディアの部下で、ここの指揮をとる責任者だろう。
 僕は早速、この男のヒュプノスを解除する。
 一応、僕とこの男の周辺に遮音結界を張るのを忘れない。
 隠密系のスキルをオフにし、外套のフードを外す。

「……グッ、はっ、誰だお前は!」
「僕が誰でもお前には関係ない。王都でのテロの詳細を話してもらおうか」
「っ!? お前はっ! どうして……」
「ヒュプノシス」
「ウッ…………」

 僕は騒ぐ男にもう一度闇属性魔法をかけた。
 これは相手を催眠さいみん状態にして操る事が出来る魔法。
 犯罪者に対して、闇属性持ちの尋問官じんもんかんがよく使う魔法だ。

「王都でのテロの規模と人員の数、場所を教えろ」
「……王都での作戦は…………」

 ひと通り情報を引き出して男を眠らせると、ひと息ついた。

「ふぅ、こいつら世界樹を焼こうなんて、本当にエルフなのか」
「マスター、地下の女の人どうする?」
「ああ、それもあったね」

 ベストなのは、一旦聖域で保護する事だろうけど、今は一刻を争う。

「とにかく、タイタンを護衛に残して僕達は王都へ急ごう。世界樹を焼かせるわけにはいかない」
「了解、マスター」

 このアジトの後始末も後回しにして、僕とカエデはタイタンに念話であとを託し、王都へと転移した。


 到着すると、幸い王都はまだ平穏な様子で、少し安堵する。
 僕はカエデと世界樹の方向へ移動しながら、通信の魔導具でフランさんに連絡を入れる。

『フランさん、今大丈夫ですか?』
『ええ、平気よ』

 僕が話しかけると、フランさんがそう返してきた。

『予想通り、連中は王都に散らばり、一斉に行動を開始するつもりのようです』
『ど、どうするのよ。私達は、どうしたらいいの?』
『おそらくホーディアの目的は、ユグル王国からの脱出だと思います。そのために王都と近隣の街でテロを起こし、その騒乱の間に自分と少数の部下で逃げ出すつもりじゃないかと思ってます』
『くそ豚野郎! ぶち殺してやる!』
『先輩、落ち着いてください!』
『二人とも、声が大きいですよ』

 フランさんの激昂げきこうする声と、それをなだめるアネモネさんとリリィさんの声が聞こえる。


 いくらホーディアが馬鹿でも、ユグル王国を転覆てんぷく出来るなんて思わないだろう。なら何故わざわざ王都と近隣の街、複数箇所でテロ行為を行って、世界樹を焼くなんてエルフの風上にも置けない行為を計画しているのか? それは国外脱出以外にないと思う。
 ホーディアはこのままこの国に残っても、隠れて暮らすしかないが、あの男がいつまでもコソコソと隠れ住むなんて出来るわけがない。

『フランさん』
『あ、ああ、ごめんなさい。興奮しちゃったわ』
『僕とカエデは世界樹へのテロを防ぎます。フランさん達は、騎士団と協力して王城へのテロに対応してください』
『分かったわ。城下はどうするの?』
『騎士団の一部と冒険者に任せましょう。全てを僕達とフランさん達ではカバー出来ませんから』
『了解したわ!』

 フランさんとの通信を切り、世界樹へと急ぐ僕の探知範囲に、おかしな動きをする人の気配を感じた。
 その時、シルフが現れ詳しい敵の配置を教えてくれる。

「タクミ、三ヶ所から襲うつもりみたいよ」
「人数は?」
「フォーマンセルで三ヶ所だから十二人ね」
「街の中にいるのは?」
「全員で百人程度かしら」
「多いな。シルフ、騎士団とフランさん達を上手く誘導出来るかな?」
「分かったわ。少なくとも全員、王都から逃がさない」

 そう言うとシルフはその場で姿をき消す。
 僕とカエデが、顔を覆面で隠した男達に攻撃したのと、城下で魔法の爆発音が響いたのは、ほぼ同時だった。



 8 テロリスト捕縛


 僕とは別のグループへと急襲したカエデが、糸を音もなく高速で飛ばし、四人のうち二人を拘束する。
 世界樹に対してテロを企てる奴に、遠慮なんていらないと僕でさえ思うのだけど、世界樹の近くを血でけがしたくはなかった。
 だから僕とカエデは、面倒だけど無力化して捕縛する事を選んだんだ。
 カエデが次の二人に襲いかかるのを気配で確認しながら、僕は別の四人組に接近する。

「クソッ! 人族が邪魔じゃまするなぁ!」
「世界樹を焼こうとするエルフに、何を言われても知らないよ!」

 ドガッ!

「グッ……」

 無手むてで接近する僕に、短剣で斬りかかるエルフの男。だけど、魔法職だからなのか、短剣の扱いは上手くない。その上、レベルも低いようで、手加減に手加減を重ねて当て身を入れるのも難しくなかった。
 倒れるエルフを確認する事なく、僕は次の男に縮地を使って間合いを詰めると、脇腹わきばら掌底しょうていを打ち込む。
 ドガッ!

「グッフッ!?」

 手加減はしているけど、エルフの男は真横に吹き飛んだ。それを見て、横の男が今ならいけるとでも思ったのか腰の短剣を抜き打ってきた。
 シュン!
 基礎能力の違いだけじゃなく、スキルの数やレベルがかけ離れている僕に、そんな攻撃が通用するわけがない。短剣をかわしてふところに入ると、掌底で下からあごをかち上げる。

「ゴフッ!」

 意識を刈り取られた男は、糸の切れたマリオネットのように、その場にクニャリと倒れた。

「ダルク! クソッ!」

 残るもう一人のエルフの男が、自分だけでも世界樹に魔法を撃ち込もうと離脱を試みる。

「させるか!」

 地力が天と地ほど開いているので、エルフの男が全力で離脱しようとしても一秒と経たず追いつき、首筋に手刀を入れる。

「グッ!」

 ドサッ……
 倒れたエルフをアイテムボックスから取り出したロープで手早く拘束する。
 併せて、魔力の流れを阻害する魔導具を取りつけ、魔法を使えないようにしておくのも忘れない。
 相手は精霊魔法を使えなくなったとはいえ、腐ってもエルフだからね。
 僕が三つ目のグループへと駆け出したのとほぼ同時に、カエデも麻痺の糸でテロ犯を拘束して同じ目標へと高速で接近し始めていた。

「チッ! ファイヤーアロー!」
「ウィンドカッター!」

 振り切れないと判断した四人のテロリストの内の二人が、僕とカエデに魔法を放った。
 僕達は魔法を避けもせず、そのまま突撃する。

「「なあっ!」」

 撃ち出された魔法をものともせず、猛スピードで近づく僕とカエデに、二人のエルフが驚愕きょうがくの声を上げた。
 ドラゴンとゴブリンほど戦闘力に差があるのに、わざわざちゃちな魔法を避けはしない。
 あの程度の魔法なら、軽く障壁を張っただけで防げてしまう。
 いや、あのくらいであれば障壁がなくても大丈夫かもしれないな。やらないけど。
 パニックに陥った二人のエルフは、がむしゃらに魔法を乱発し始める。

「くっ、来るなぁ! 来るなぁ!」
「バ、バケモノがぁ!」

 足を止めて魔法をめちゃくちゃに撃つ相手に、僕とカエデはわざわざ障壁で防ぐ必要もなくなり、ユラユラと法撃を回避しながら間合いを詰める。

「ヒィィッ!!」

 ドスッ! バキッ!
 僕とカエデから、ほぼ同時に繰り出された、最大限に手加減された一撃は、簡単に二人の意識を刈り取った。
 二人を拘束する間も惜しみ、最後の二人へと駆け出す。
 そいつらは、世界樹の元にたどり着いていた。

「一歩遅かったなぁ!」
「俺達をしいたげた王家もこれで終わりだぁ!」

 二人がかざした手から、あいつらの最大の火属性魔法だろう法撃が世界樹に向け放たれた。

「「ハッハッハッハッハッ…………ハァ?」」

 高笑いしていた二人の表情が見る見る青くなる。
 それを冷めた目で見つつ、僕とカエデは歩いて彼らに近づく。

「その程度の魔法が数発当たったくらいで、世界樹の結界が破れるわけがない」
「マスター、この人達おバカさんだね」
「だな。エルフの誇りもないバカ達だよ」
「クソッ! 死ねぇー!」

 結界が破れないと判断した二人が、今度は僕達に牙をく。
 世界樹はエルフにとって、どれだけ大切なものなのか、エルフじゃない僕でも知っているのに……
 ゆっくり近づく僕達に向け放たれた魔法を、僕とカエデはハエでも払うように片手を振り、叩き落とす。

「なっ! バカな!」
「お、俺の魔法を手で払うだとぉ!」

 いつまでも付き合っている時間はないので、カエデと一人ずつ一撃で意識を奪う。
 カエデが倒れた二人を拘束してくれる。
 僕がロープで縛るよりも早いからね。

「さて、フランさん達の援軍に向かうよ」
「了解だよ、マスター!」

 騎士団とフランさん達がいるとはいえ、王都のあちこちで暴れる奴ら全てを事前に防ぐのは無理だ。
 今も魔法の炸裂音さくれつおんが聞こえる。
 僕とカエデは、拘束した犯人達をその場に放置すると、気配を感じる方向へと急いだ。


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